九月の夜想曲 ~ブルームーン<九十九の涙に彩られた刻の雫>~

行間に綴られた言葉を、共に知る方へのメッセージ

『糸の切れたマリオネット』結

2023年01月03日 | 日記

【結】『道化師の夜想曲』

 

 

☆☆☆

 

聖なる夜。

 

暖炉の前に置かれた大きな箱。

光沢のある緑の包装紙に包まれています。

ご馳走を食べながらも、中が気になって

しかたがない女の子。

最後のケーキを口に押し込むと、

一目散に駆け寄ります。

包装紙を剥がすのももどかしく、大きな蓋を開けると、

中から見つめる大きな瞳。

 

「わあ~、くまさんだ!」

 

クリスマス限定のテディベアが、

愛らしい瞳で見つめています。

 

「今夜は、くまさんと一緒におねんねしたら?」

 

「うん、そうする。ありがとう!」

 

☆☆☆

 

いつもと同じ夜。

 

スーパーの紙袋が少し膨らんでいます。

いつもより少しだけ贅沢な夕食。

食後には1カットのショートケーキが出てきました。

 

「もうお腹いっぱい。」

 

「遠慮しないで、食べていいのよ。」

 

苦いケーキを口に押し込むと、見ないように

していた紙袋がちゃぶ台に乗ります。

 

「開けてごらん。」

 

恐る恐る中を見ると・・・

以前から欲しかったくまのぬいぐるみ。

さっちゃんが、スーパーに行くたびに見つめていた、

茶色のくまのぬいぐるみ。

 

・・・高かったろうな・・・

 

「こんなの、ほしくない・・・」

 

・・・ほしいものがあるから、いけないんだ・・・

 

 茶色のくまのぬいぐるみが、

哀しい瞳で見つめています。

 

 「ごめんね、来年はさっちゃんのほしいものを

  買ってあげるからね。」

 

☆☆☆

 

 特別な日を、楽しみに待つ子どもたち。

 特別な日が、無くなればいいと願う子どもたち。

 

「ありがとう」と言う子どもに、喜んでくれて

「ありがとう」と思う親たち。

「ごめんね」と言う親に、「ありがとう」と言えなくて

「ごめんね」と思う子どもたち。

 

☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆

 

聖なる夜。

街を彩るイルミネーション。

 

いつもと同じ夜。

おどけて踊るピエロ。

 

誰もいない公園の片隅に、糸の切れた

マリオネットが埋もれています。

粉雪が降り積もり、微かに聴こえていた

メロディも静かに止まります。

静けさだけの世界。時が止まる刻。

 

誰かが、雪の中からマリオネットを拾います。

小さな手で抱き上げられたマリオネットは、

茶色のくまのぬいぐるみでした。

擦り切れた蒼いセーターに包まれた、

くまのぬいぐるみでした。

 

哀しい瞳が、ぬいぐるみに問いかけます。

 

「願い事はありますか?」

 

ぬいぐるみは答えます。

 

「糸を・・・糸を繋いでほしいの・・・」

 

やさしい手が、蒼いセーターを解いて、

ぬいぐるみと糸を結びました。

 

ぬいぐるみは、ゆっくりと起き上がり、

踊り始めました。

 

ぬいぐるみの蒼い瞳に、走馬灯のように

笑顔が映し出されました。

 

誰もいない公園の片隅で、古い蓄音機が奏でます。

 

どこからか、音楽に合わせて唄う

子守唄が聴こえてきます。

 

誰もいない冬の公園で、誰にも知られず

踊り続けるマリオネット。

 

ただその子守唄を届けるために、

幾度も幾度も旅を繰り返すマリオネット。

 

それは、古い蓄音機に込められた

子守唄のようです。

 

その子守唄は、『道化師の夜想曲』でした。

 

 

                  Written by 九月のZ


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