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心の四季 吉野弘の詩

2014-07-26 17:30:55 | Weblog

風が

風が桜の花びらを散らす
春がそれだけ弱まってくる
ひとひらひとひら舞い落ちるたびに
---人は 見えない時間に吹かれている

光が葡萄の丸い頬をみがく
夏がそれだけ輝きを増す
内に床しい味わいを湛え(たたえ)
---人は 見えない時間にみがかれている

雨が銀杏の金の葉を落とす
秋がそれだけ透き通ってくる
うすいレースの糸を抜かれて
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雪がすべてを真白に包む
冬がそれだけ汚れやすくなる
汚れを包もうと また雪が降る
---私は 見えない時間に包まれている

みずすまし     

一滴の水銀のような みずすまし
やや重く 水の面(おもて)を凹ませて(くぼませて)
浮いている 泳いでいる
そして 時折 水にもぐる

あれは 暗示的なこと
浮くだけでなく もぐること

わたしたちは
日常という名の 水の面(おもて)に生きている
浮いている だが もぐらない
もぐれない ----日常は分厚い

水にもぐった みずすまし
その深さは わずかでも
水の阻み(はばみ)に出会う筈
身体を締めつけ 押し返す
水の力に出会う筈

生きる力を さりげなく
水の中から持ち帰る
つぶらな可憐な みずすまし
水の面(おもて)に したためる
不思議な文字は 何と読むのか?

みずすまし----
あなたが死ぬと
水はその力をゆるめ
むくろを黙って抱きとってくれる
静かな静かな 水底へ
それは 水のやさしさ
みずすましには知らせない
水の やさしさ

流 れ     

岩が しぶきを あげていた
深みを渡る 馬のよう
青い流れを噛みながら
ひとつところに 阻(はば)まれて

魚(うお)が ひっそり 遡(さかのぼ)る
岩のほとりを 川上へ
強靭(きょうじん)な尾で 水を蹴り
速い流れを 貫いて

岩が しぶきを あげていた
あきらめ知らぬ 馬のよう
魚が するどく 遡る
強靭な尾で 水を蹴り

逆らうにしても それぞれに
精一杯な仕方がある
凛々(りり)しい魚は 遡る
無骨な岩は 水を噛む

魚は岩を いやしめず
岩は魚を おとしめず
青い流れを送り迎え
それがいかにも爽やかだ

流れは 豊かに 大らかに
むしろ卑屈なものたちを
押し流していた 川下へ
押し流していた 川下へ

山 が     

山が 遠くから
人の心を とりこにする
                   
人が その心を
さがしにゆく

それで
身体ごと とりこになる

愛そして風

愛の疾風(はやて)に吹かれたひとは
愛が遙かに遠のいたあとも
ざわめいている
揺れている

風に吹かれて 枯葦がそよぐ
風が去れば 素直に静まる

ひとだけが
過ぎた昔の 愛の疾風に
いくたびとなく 吹かれざわめき
歌いやめない----思い出を

雪の日に     

雪がはげしく ふりつづける
雪の白さを こらえながら

欺き(あざむき)やすい 雪の白さ
誰もが信じる 雪の白さ
信じられている雪は せつない

どこに 純白な心など あろう
どこに 汚れぬ雪など あろう
               
雪がはげしく ふりつづける
うわべの白さで 輝きながら
うわべの白さを こらえながら
雪は 汚れぬものとして
いつまでも白いものとして
空の高みに生まれたのだ
その悲しみを どうふらそう

雪はひとたび ふりはじめると
あとからあとから ふりつづく
雪の汚れを かくすため

純白を 花びらのように かさねていって
あとからあとから かさねていって
雪の汚れを かくすのだ

雪がはげしく ふりつづける
雪はおのれを どうしたら
欺かないで 生きられるだろう
それが もはや
みずからの手に負えなくなってしまったかのように
雪ははげしく ふりつづける

雪の上に 雪が
その上から 雪が
たとえようのない 重さで
音もなく かさなってゆく
かさねられてゆく
かさなってゆく かさねられてゆく

真昼の星     

ひかえめな 素朴な星は
真昼の空の 遥かな奥に
きらめいている
目立たぬように--------

はにかみがちな 綺麗な心が
ほのかな光を見せまいとして
明るい日向を(ひなたを)
歩むように---------

かがやきを包もうとする星たちは
真昼の空の 遥かな奥に
きらめいている
ひそやかに 静かに---------



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