パパね、中身が女の人らしい💁🏻‍♀️

性同一性障害MtF
恋愛対象は女性
強烈な男性拒絶でさらに複雑

恋の終わり。

2020年07月25日 | 日々のこと🍀
横須賀、荒崎の海を見てきた。

助手席に乗り込んだ彼女は、キラキラ輝いていた。
高速を降りてからガストで夕食をとった。
美味しそうに食べる顔が可愛くて、見ているだけで幸せだった。

最初に行った海は暗すぎた。
とっておきの場所、荒崎公園へ行った。
一番奥の洞窟横の岩場がある展望へ行って、夜の海を眺めた。
雲が出ているのに、月が水面にムーンロードを描いていた。
煌めきが美しかった。
波が打ち付ける岩場は荒々しく、どこか情緒的で美しかった。
二人とも黙ったまま、海を見ていた。
居心地の良い無言の空間。それは彼女とだけに生まれる空間だった。
彼女はこんなところがあったんだと喜び、感動してくれた。

暗い公園の道を、他の誰かとなら手を繋いで歩くのに、彼女とは距離をとって声をかけながら歩いた。
手さえ、一度も触れなかった。

今度は昼間に来てみたいと言う。
じゃあ次は昼間に来ようと言った。
他にも連れて行きたいところいっぱいあるんだよなと言った。
私も一緒に行きたいところいっぱいあるからこれから楽しみだね、と返してきた。
そうだねと、顔を見合わせて微笑んだ。

先の予定を当たり前のことのように決めていく。
友達と恋人の違いはそこだ。
二人の時を、心から幸せに感じた。
咄嗟に、できない約束になるかもしれないと、我に返った。

帰りの車の中、彼氏の話を出した。
彼のところへ戻りなさいと話した。
突然切り出した私に、彼女は「もう終わったことなのに」と言ったきり、返事をしなくなった。

ここで話すべきだと思った。
なぜ私が誰とも付き合わないか、なぜ大切な人と一緒にいることが残酷だというのか。

病気のこと、来週からの治療のこと、全て話した。
この話をしたらもう二度と逢わない、発病してから今まで俺を愛してくれた全ての人へそうしてきたように、君とも今日が最後だと伝えた。

同じ病気で亡くなった彼女との最後のシーンを話した。
意識がない彼女の目から、涙が一筋流れたことも話した。
何度も言ってきた、「その時、そこに、傍にいることの大切さ」を最後にもう一度話した。
それができない俺は、一番大切な人の傍にいてあげられなくなるから残酷なんだよ、と言った。
涙が流れた。構わず話した。
冷静に、優しく話すことができた。

助手席で泣いている。ずっと泣いている。
返事はしてくれたけど、ずっと泣いていた。
嫌だとは言わなかった。言えなかったと思う。
嫌だと言っても、俺の気持ちが変わらないことを悟ったのだと思う。

運転しながら繋いだ俺の左手を、彼女はずっと離さなかった。
手を離しても、また手繰り寄せて握ってきた。
すがるようではなく、力強く握りしめてきた。

「なんで私なんかに優しくしてくれるの?、なんでそんなに優しくなれるの?」
と言われた。
前を向いたまま、「たぶん愛してるから」と言った。
一度も口に出さなかった言葉、愛。
初めて自分の気持ちを明かした。

最後がこんな話じゃ重すぎるよなと言って、無邪気な話をした。
彼女は笑ってくれた。でも泣いていた。

必ず戻ってこられるよと、彼女は言う。
それはわからない、できる限りのことはしてくる、と返した。
「もう二度と逢わないことは変わらない。ごめんね」と言った。
涙を湛えたまま、運転してる俺の横顔をずっと見てた。
手を握ったまま、ルームミラー越しに視線を合わせようとする彼女が愛おしかった。
急に嫌だと声を上げた。
感情を顕に泣き出した彼女を、左手ひとつで宥めることしかできなかった。

家へ着いた。
このまま帰ると決めていた。
気がついたら抱きしめていた。
一番残酷なことなのに、初めて手を握ったその温もりが残るまま、心に逆らうこともせず抱き合った。
抱きしめたまま、愛してると言った。
彼女は泣きながら、何度も声を上げて、何度も肯いて、何度も愛してると言ってくれた。

帰り際、これが本当に最後だからと、抱きしめた。
全身で、自分の愛を全て彼女に残そうと、強く、激しく抱きしめた。
耳元で、愛してると囁いた。
目を見て伝えたいと思ったけれど、あいつの瞳にそのまま応えてあげたかったけれど、最後は俺ができなかった。
お互いの熱を感じる距離で、全ての愛を伝えられたと信じるしかない。
あいつは顔を胸に押し付けて、泣きじゃくっていた。

車に乗り、窓の外に立つ彼女を見た。
窓を開け、握った彼女の手に口づけすると、屈み込んで唇を重ねてきた。
最後にもう一度、「心から愛してる」と伝えた。
彼女は、
「私はずっと前から愛していたし、これからもずっと愛してるからね。待ってるからね」
と言ってくれた。
「馬鹿なこと言うな、とっとと忘れろ」と精一杯強がって、微笑んだ。
それが俺にできる最後の優しさになってほしいと願うしかなかった。

ルームミラーに映る彼女の姿が遠くなるよう、スピードを上げて走り去った。



駄目だね、ありのままに書いたけど、辛い。
あいつへの愛、あいつからの愛が本物だったと全身全霊で感じ取ったのに、こんな結末しか残してあげられなかった。

最悪で最高の終わり方。
彼女が二人の記憶を仕舞い込むまでには時間がかかると思う。
でも、やっぱり俺には約束なんてできやしない。
果たせない約束なんてできない。
これで良かったと思う。

たった数ヶ月の短い時間、あっという間に走り抜けた恋、愛だったけど、人をまっすぐ愛することができた。
彼女には愛と感謝しかない。

未練がないと言ったら嘘になる。
でも、もし無事に戻ってこられたとしても、22歳も歳が離れているし、彼女にとって先々を考えればやっぱりこれで良かったんだ。本当にそう思う。

逢う前は今日を別れの日にするつもりなんてなかった。
彼女と先の予定をたくさん決めて、それが生きて戻る気持ちを揺るぎないものにする糧にしようと思っていたのかもしれない。
彼女を利用しているように思えて、そう感じた瞬間、我に返った。

マップに登録した彼女の家、待ち合わせ場所、二人で行ったところ、次に行こうと約束したところ、全て消去した。
でも、LINEだけはどうしても消せない。
情けないけど、非表示にしただけで苦しくてたまらない。
でも、自分で決めて、自分から切り出して、自分から別れを告げてきたから、これでもう揺らがないようにする。
友達は戻ればいい、戻らなきゃ駄目だって言う。
でも、やっぱり果たせない約束はできないから。

がんばって生きるよ。



治療、嘘、そして愛

2020年07月01日 | 日々のこと🍀
治療といってもGIDとは全く関係なく、長年患っているちょっと面倒な病気の治療。
一度は寛解したものの、ここ数年体調が悪く、先日の検査で再発が確認された。

以前の治療で出来ることはやってきたが、10年以上も経って再発するとは思っていなかったので、少し心の準備に時間がかかった。

投薬は気休め、症状を緩和させる程度にしかならない。
最後の手段として大掛かりな治療に入るわけだ。
とはいっても、入院はしないでもできるので、息子の生活には最小限の影響で進められる。
来週から週に一度、計三回でプロセスは完了する。
効果はやってみなければわからない。

主治医はしっかり最高の結果と最悪の結果を教えてくれた。
自分では噛み砕いて受け入れたと思っているが、いざその時が近づいてくると身体は正直なもので、症状が強く出始めてしまい、なかなか思うように動くことができなくなっている。

最初に病気が発覚した時、まだ結婚していた頃だったが、妻にも他の家族にも一切打ち明けずに一人で病院へ通い、治療を続けた。
その時、今を最後に二度と口にはしない、心の一番奥深いところへしまっておこうと思った。

数年後、離婚をした時、二度と恋はしないと誓った。
息子が母親の元から家出をして私のところへ逃げてきた時、この子のために人生と命をかけることを再び誓った。
それ以外の誰かを交えることはしないと決めた。
これ以上、自分の人生に誰かの人生を重ね合わせることはしない、と誓った。

半年ほど前、一人の女性と出逢った。
まだ若い女性。
友人として、GIDである私の良き理解者として、頻繁ではなかったが、連絡を取り合ってきた。
彼女は私を歳の離れた女友達として受け入れてくれていた。

彼女もこれまでの人生で様々な辛い経験をしていた。
いつも話を聞いては、私にできる限りの言葉をかけ、彼女にとっても良き理解者でありたいと思っていた。

春、ちょっと距離のあるドライブをした。
途中、助手席で居眠りをしていた彼女。
ふと寝顔を見た。
安心しきった寝顔を見て、微笑ましく思った。
高速に乗る直前、目を覚ました。
照れ臭そうに誤魔化すわけでもなく、私に気を使うわけでもなく、信号待ちでルームミラー越しに私と目が合うと、微笑んだ。私も微笑んだ。

何を話すわけでもなく、気まずいこともなく、ただ居心地の良い無言の時間が流れる。
時折、他愛ない話をして、また無言が流れていく。
そんな時間を一緒に過ごせる彼女が、人として好きだった。

私は自ら立てた誓いを守った。
それで良かった。
何も知らない彼女も、不思議に思っていなかっただろう。
それで良かった。

彼女には彼氏がいた。
二人の関係を微笑ましく見守っていた。
彼女が心の内を話してくれた。
無理してるな、と思った。
決していい恋愛ではない、そんな印象だった。

「もし彼と別れたら寂しくなるんだろうな」と彼女が呟いた。
私は“次の人と巡り合うまで私が傍にいるから安心してね”と言った。
嬉しいと言って、彼女はこれまでとは違う話をしてくれるようになった。
もっともっと心の奥深くにある、彼女が抱えている苦しみ、自分への蔑み、昔の恋や愛、いろいろなことを話してくれた。
少し私に似てるな、と思った。

一週間後、治療が始まる。
彼女には何も言っていない。
寂しい思いはさせないと言った私の言葉を、彼女は信じてくれている。
おそらく私はその通りにできるよう、いつもと変わらず連絡を取り合い、馬鹿話をして笑って過ごすだろう。

もし、治療が失敗したら。
成功しか考えていなかったのに、今になって脳裏を過ぎる。

息子に嘘をつくことになる。
「お前が立派な大人になるまで、命をかけて守り抜くから、心配しなくていいよ」
その言葉が嘘になる。

彼女に嘘をつくことになる。
「寂しい思いはさせないから安心してね」
その言葉が嘘になる。

恐怖心はない。
この二人に嘘をつくことになるのが嫌なだけだ。
成功すれば何も問題はない、そのためのことをしようと心を定めていっても、一旦揺れ動いた心が治まらない。

息子への愛。
いつしか同じ愛を彼女にも向けてしまっていたのだろうか。
それは正しいことなのだろうか。
自ら立てた誓いが崩れてしまったような気がしてならない。
そんな自分が不甲斐無く、許せずにいる。

私も普通の人なんだなと思う。
まだまだ弱すぎる。
あと一週間。
強くなれるのだろうか。
越えられるのだろうか。
越えなければならない。
なんとしても。

嘘にならないよう、二人の元へ帰り、今までと変わらず二人を見守ってあげたい。
その気持ちをここに残しておこうと思う。

最愛なる二人へ。