多摩爺の「時のつれづれ(霜月の2)」
兵(つわもの)どもが夢の後 (2020年 大阪市廃止・特別区設置住民投票)
11月1日の深夜、記者会見を行った大阪市長は「敗因は僕の力不足」と述べ、
政治家として、けじめをつけるため、
任期となる2023年4月をもって、政治家として引退を表明した。
また、大阪府知事は「僕が政治家を続けるなかで、都構想に挑戦することはありません。」と述べ、
自らの進退は、任期がくる2023年4月の前には判断すると表明した。
さらに今回、協力関係にあった公明党大阪府本部の代表は、
「党の力不足、真摯(しんし)に反省をしている。」と述べたうえで、
「市民を分断する拮抗した結果になってしまった、
大事なことは、しこりを残さないこと。」と・・・ 続けた。
2010年に誕生した地域政党・大阪維新の会が「1丁目1番地」に掲げた悲願は、
またしても叶わなかった。
有権者は約220万人、投票率は62.35%、
5年前と比べて4.48ポイント減となった投票結果は、
大阪都構想への反対が692,996票、賛成が675,820票となり、
約17,000票の差を持って、大阪市民は大阪都構想の実施に反対し・・・ 現状維持を選択した。
人の心というものは・・・ こうも簡単に揺れ動き、
あっという間に心変わりを許してしまうものだろうか?
それとも、算盤勘定に長けた商都・大阪の民は、
「あれはあれ、これはこれ」を巧みに使い分ける・・・ 達人集団なんだろうか?
1年半前に、大阪都構想の実現を掲げて行われた、
知事と市長を選ぶダブル選挙では圧倒的な支持があったのに、
いったい・・・ どうしたことなんだろう?
ある評論家は、コロナ禍と云う乱世に、不安というバイアスがかかり、
大きな変化を求めたくないという結果ではと云った。
確かに一理はあると思うが、最後の1週間で、拮抗から反対へ潮目が変わったという分析もある。
それは・・・ 大阪市の内部から、大手新聞社を通して、
「行政コストが218億円増える。」という記事がでたことにあり、
この記事が、ここ数カ月の間あった都構想議論の中で、
最も有権者の耳目を集めた可能性が高いということだった。
すぐさま、この数字を算定した大阪市の幹部が会見し、
前提条件があり、根拠が曖昧だったと釈明したが、
時すでに遅く、後の祭りで・・・ この釈明が浸透することはなかった。
さらには・・・ 大手新聞社のみならず、メディア各社も食いついたことから、
投票意欲が高く、ネットの関心が薄い層の大半が、
この報道によって、反対の意思を固めてしまった可能性が高いという分析だった。
誤報と云えば誤報だが、前提条件を付け加えれば、あながち間違いでもなく、
言葉足らずということになってしまうが、
数字だけが独り歩きを始め、頭の中にこびり付いてしまった。
そもそも、こうした報道は、住民投票で準用される公職選挙法に定められた
「表現の自由を濫用して、選挙の公正を害してはならない。」に
違反している可能性があるとされている。
ただ・・・ 法廷で争ったとしても、投票結果が変わるわけではないこともあり、
争う予定はないようである。
一方で、気にかけなければならないのは、
曖昧な形のまま、幹部の承認を得ず、大手新聞社に数字をリークした職員の処遇ではなかろうか。
こういった処遇は、けっして表にでることはないが、
一般論では、内規により懲罰委員会に付議されて、相応の処分が出ることになるだろう。
おそらく組織のトップは、事が事だけに監督不行き届きで、進退伺を求められる可能性もあり、
漏えいに関与した職員には、かなり重たい処分がでても・・・ なんら不思議ではない。
ただ・・・ 要らぬ心配かもしれないが、気にかかるのは、処分が出た後のことである。
現在、その職員の立場は、庁内では針の筵(むしろ)であり、
周囲の視線を常に気にしながら、仕事をしているのではなかろうか?
おそらく確信犯だと思うので、職員が自ら命を絶った、森友問題のようなことにはならないと思うが、
内規に違反をしていることだけは、おそらく間違いないだろうから、
もしものことが・・・ ちょっと気にかかる。
反対派はノーサイドを宣言したものの、
いろんな後処理があり・・・ すんなり、ノーサイドとはいかない。
政党間の信頼関係を修復するには、一定の期間が必要だと思うし、
大阪市や大阪府では、このために作った組織の見直しもある。
さらに、けっして表面にはでてこない、様々なごたごたを沈静化させるために、
想定外の人事異動もあるだろう。
そして、最も気がかりなのは、いまの大阪には、居なくてはならない政治家二人が、
あと2年と半年で、居なくなるかもしれないという不幸を、
大阪の府民や市民は・・・ いったい、どうやって穴埋めするつもりなんだろうか?
代わりは何人も居ると云うだろうが、彼らほどリーダーシップを持ったトップが、
そう簡単に見つかるとは思えない。
仮に大阪市長の引退とともに、大阪府知事の進退が併せて発表されれば、
万博関連の環境整備や、IR関連の誘致に、影響がでてもなんら不思議ではないし、
府と市を併せての、不幸せ(ふしあわせ)が再来する可能性だって・・・ 十分にあり得るだろう。
個人的には、全国的な課題であり、
喫緊の課題でもある、少子高齢化が避けられない現状を踏まえれば、
大阪都構想を経て、道州制の起爆剤になればと思っていただけに、今回の結果は残念だが、
いずれ、こういった議論が避けて通れないタイミングもあることから、
1日も早く、落ち着きを取り戻してほしいと願ってやまない。
遡ること約450年、元禄2年(1689年)の夏、
江戸を立って凡(およ)そ1か月半、奥州平泉に辿り着いた芭蕉は、
高館(たかだち)に立つと・・・ 夏草が生い茂る風景を目の当たりにして、
藤原氏の栄華の儚(はかな)さを憂い「 夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡 」と詠んだ。
そんなに長い先ではないと思うが、
団塊の世代の多くが逝ってしまう20年から30年後の商都・大阪は、
いったい、どういった都市を目指して、どのような変貌を遂げているのだろうか?
反対派は、今回の結果から、将来の大阪について、どういったビジョンを語るのだろうか?
期待はしたいものの・・・ 雲散霧消してしまった、やる気のない大阪会議が、
再び活性化するとも思えない。
そう捉えれば・・・ 「兵(つわもの)どもが夢の後(跡じゃなく、後である。)」から、
いましばらく、目を離すことが出来なくなってしまった。
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