よろず戯言

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歯根嚢胞 手術・入院

2016-08-23 01:26:16 | 日記・エッセイ・コラム

ことのはじまりは今年の冬。

2月の終わり頃。

帰宅途中にスーパーへ立ち寄った。

昼食用のカップ麺やら、自分用の飲料水やらお菓子やら買い、

小腹が空いていたので、家に帰るまでにかじろうと、マンハッタンをひとつ購入した。

マンハッタンとは福岡にあるパン会社、リョーユーパンから販売されている、

以前、このブログでも紹介した、固いドーナツのような菓子パンだ。

いや、ドーナツか。

九州以外にお住まいの方には馴染みのないものだ。

 

車を運転しながら、マンハッタンにかぶりつく。

ゴリッ・・・!!

「あ痛っ!!」

腹が減っていて慌ててかぶりついたのか?

マンハッタンをひと噛みして奥歯をやってしまう。

ズキズキと痛む歯茎。

「アイタタタ・・・。」

まあ、そのうち痛みは収まるだろう・・・。

 

事の始まりは、このマンハッタン(クランチ)。

 

だが、歯茎の疼きは夜になっても収まらず、だんだんと強くなる。

そして、翌朝には、やった方のほっぺたが腫れあがって、

顔の形が左右非対称に変形していた。。

よく虫歯の絵本や、小児歯科などのポスターに描かれている、

大袈裟にほっぺの腫れた状態、まさにあんな感じ。

痛みはもう麻痺した感じでよく判らない。

その日は出荷担当で早番だったので、そのまま6時前に出勤したが、

尋常じゃない腫れをみた上司から病院に行くよう言われて、午前で退社。

予約2週間待ちの行きつけの歯医者に無理矢理 診察を依頼して、夕方その病院へ--。

 

患部を診た先生、すぐにレントゲンを撮り、その写真も見て、

「うちでは対応できないので、口腔外科の病院に紹介状を書きます。」

「たぶん数日間、点滴を受けて、最終的に抜歯になると思います・・・。」

どうやら歯医者さんは、その症状は判ったらしい。

だが、一般の歯科医の設備では、これは治療できないという。

 

翌日、仕事を休み、歯医者からの紹介状を携えて、大きな総合病院の口腔外科へと足を運んだ。 

その大きな総合病院の口腔外科で、患部とレントゲンを見た先生、すぐに点滴の手配をする。

大きな注射器のようなもので患部の洗浄をしてもらい、中央処置室へ行くように言われる。

そこで病原菌を洗い流すという点滴を受ける。

自分の記憶も曖昧だけど、その時のざっとした説明によると、

歯根が外部からのショック(マンハッタン)で歯肉に傷を付け、

歯根に付着していたのであろう、歯周病菌に歯肉が侵され、

その際に生じた膿(うみ)で内部が腫れあがっているということらしい。

 

通常、歯は歯茎に直接埋まっているわけではない。

あごの骨の上部表面にある、歯槽骨(しそうこつ)という骨に包まれ、

さらに歯茎に包まれている状態で固定されている。

だが、自分のこのマンハッタンでやってしまった奥歯は、

重度の歯周病によって歯槽骨は溶けて喪失しており、

歯茎に直接埋まった状態になっていた。

その状態で固いものを噛んだ拍子に、尖った歯根が歯肉にダメージを与えてしまい、

かねてより歯周病菌が付着していた歯根から、歯肉内部に菌がうつってしまったというわけだ。

 

せんべいやらクラッカーやら、スルメにナッツ、

これまでも固いものを食べなかったわけじゃないが、

患部は奥から二番目に位置する歯、奥歯の真ん中に位置する。

これまでは両隣の奥歯とともに咀嚼していたのが、

この日、たまたま、ちょうどそのくらいの大きさに割れたマンハッタンの破片を、

この歯単独で噛んでしまったのだろう。

 

安静にしておかなければならず、4日ほど仕事を休み、毎日歯茎の洗浄と点滴に通った。

菌を殺す抗生物質の飲み薬も処方され、朝昼晩飲むことに。

腫れもすっかりなくなり、痛みも消えた。

だが、レントゲンを見た口腔外科の先生は、違う病気の可能性を示唆した。

"歯根嚢胞(しこんのうほう)"。

聴き慣れない病名だが、"嚢胞”の漢字はすぐに頭に浮かんだ。

その字は的中していた。

その歯根嚢胞の疑いがあるので、後日あらためてCTを撮りましょうと言われた。

もし歯根嚢胞であったならば、手術の必要があるという。

 

それから半月後、同じ総合病院で患部のCT撮影。

MRI室ってとこに案内されたので、ひょっとしたらMRIだったかもしれないけれど、

自分にゃ、その違いがよく解らない。

まあ、とりあえず、より鮮明な患部の連続的な断面の写真が撮影された。

それを見て口腔外科の先生、

「やっぱり、歯根嚢胞ですね。」

歯茎のなか、歯根からあごの骨のあたりまで、気泡のような丸い物体が確認できた。

これが歯根嚢胞という物体。

歯根の先にできた膿を溜める袋。

歯茎の自衛機能で、菌の浸食を避けるため袋を作りだし、

そこへ膿を溜めて外部に放出しようとしてできてしまう。

 

放っておくと、また肥大して顎の骨の神経を圧迫したり、

定期的に膿が歯茎の外に出され、腫れものができる。

なによりも、この歯自体、既に神経が死んでいて、

土台となる歯槽骨も溶けてないため、歯茎に直接乗っかっているだけ。

もはや歯として機能していないので、ついでに抜歯してしまった方がいいとのこと。

でなければ、またマンハッタンのような固いものを噛んでしまって、

また同じように腫れあがって、同じように患部を洗浄し点滴を受ける羽目になる。

死ぬまで体にメスは入れん!

・・・そう決めていたが、放っておくわけにはいかないらしいので、手術することにした。

 

先日やった手術前の精密検査。

そのなかの、肺機能検査の結果。

なんと肺年齢がマイナス9歳!

妥協せずに咳き込むまでやってたら、20代いってたやも。

 

当初4月頃にその手術を予定していたのだが、

ちょうどこの頃、ばね指の疾患で長期に仕事を休む羽目となった。

そっちの治療の方が優先だと思い、歯根嚢胞の手術を先送りにした。

けっきょく一ヶ月以上、仕事を休んで安静治療に臨んだものの、

ばね指は完治しなかったため、しびれ切らして仕事復帰。

そうして、歯根嚢胞の手術が夏に、盆過ぎにとずれ込んだ。

 

8月17日、先週の水曜日。

手術を翌日に控え、前日のこの日から入院。

昼、最後の晩餐じゃあないけれど、

しばらく食べられないだろうと、カレーの大盛を食べた。

事前の説明によると、歯を抜歯し歯茎自体も切開して嚢胞を切除する手術。

その後、入院期間中、食事は全粥とのことだ。

刺激の強いカレーなんて当分食べられそうにない。

 

 

事前にもらった、"入院のしおり"を見ながら準備をする。

着替えにタオルに、ハミガキやクシ、ヒゲ剃りにシャンプー,ボディソープ、

それに退屈だろうから、携帯ゲーム機にソフト、そして小説。

息子に借りた"ルドルフとイッパイアッテナ"の本も全冊持っていく。

あとは手術当日は食事が一切出ないということなので、

前日にドラッグストアで買いこんでいた、

ウィダーインゼリーや、カロリーメイトのゼリー、蒟蒻畑のゼリ―などをしこたま持っていく。

ペットボトルのでかいお茶に、ふつうのフルーツゼリーもどっさり。

もちろん、たらみ。

お母んが用意してくれた、紙袋と合わせると、バック4つにもなる大荷物に!

こういうとき、でかいリュックやボストンバッグを持ってればいいのだが・・・。

これだけのために新たに買うのもなんだし。

 

午後、病院へ着き、入院の手続き。

小松菜々似の口腔外科の受付のおネエちゃん、相変わらず可愛いな。

いろんな用紙を読まされ、サインさせられる。

入院病棟へ移動し、そこで担当看護師が自己紹介してくれて病室を案内される。

大沢あかね、いや加護亜依似のハキハキしていてチャーミングな娘だ。

この娘に左腕の手首にバンドを付けられる。

生年月日と氏名、それにIDが刻印された外すことができないバンドだ。

退院までこれを付けたままだという。

 

 

自分が入院した個室部屋。

 

病室は希望どおり個室がとれた。

いびきが大きいから、他の入院患者の迷惑になるため、

予算は度外視で、できるだけ個室で希望していた。

一日5,000円の個室。

冷房完備で冷蔵庫もテレビもあり、トイレもシャワーも付いていた。

数千円違うだけなら、いびき云々なくても個室がいい。

テレビの視聴はプリペイドカードが必要で有料だけど、

ビジネスホテルだと思えば妥当なところ。

今週の真田丸とガンダムユニコーンは諦めよう。

 

夕方5時頃、やや年配の女性看護師?がやってきた。

「お茶どうしますか~?」

台車にでっかい、ヤカンがいくつか積まれてある。

「お茶?」

「お茶要りますか?」

どうやらお茶のサービスらしい。

そんなの知らずに、でっかい2リットルのペットボトルの綾鷹 持ってきてしまったがな。

「いや・・・入れ物もないし・・・。」

そう自分が言いかけると、その看護師?さん、

テーブルの上にあった、飲み終えたカフェオレのペットボトルを見つけて、

「これに入れましょ。」

それを洗い、そのなかにヤカンからお茶を注いでくれた。

こんなサービスあるのなら、重たいお茶なんか持って来なくてもよかった。

ところが、このお茶が薄いこと!

出がらしよりも薄い!

 

病室からは母校(高校)が見える。

プールがきれいに見えるので、どうれ女子高生の水着姿でも・・・なんて思っていたが、

夏休み中だし、母校には水泳部なんてないし・・・。

無駄にきれいな無人のプールの水のゆらめきが眩しかった・・・。

 

夕方6時過ぎ、最初の入院食。

まだ手術前なので、お粥ではなく通常のご飯。

ただし、これがビックリするくらいの素食。

成人男性が・・・これで腹いっぱいになるとでも・・・?

付属していた紙切れにメニューとカロリーが表示されていた。

それを見るとカロリー、500ちょい。

この量で一食あたりの妥当なカロリーってことか・・・。

ふだんどんだけ過剰摂取なのかと。

 

入院日初日の夕飯。

雑穀ごはんがおいしかった。

おかずに おきゅうとなんかがあって、実に福岡らしい。

 

この日の夜9時から絶飲食。

翌日は手術で丸一日、食事が出ない。

そう考えると、やっぱり病院から出された夕飯だけだと心もとない。

手術に耐えられるよう、もうちょっと食べとこう・・・。

閉店間際の売店に駆け込み、

菓子パンにカップ麺、せんべいやらコーヒー牛乳を買いこんだ。

病棟の給湯室のお湯がしこたま温くて、

本来シャキシャキに戻るはずの、エースコックのわかめラーメンのワカメがダルダルで美味しくなかった・・・。

 

入院2日目。

ベッドに慣れないし枕が合わないわで、

なんとも寝心地が悪かったけれど、思いのほかぐっすりと眠れた。

前日21時半の消灯から、途中、一度も目覚めずに朝6時まで眠っていた。

歯磨きして洗顔し、ヒゲを剃り、身支度を整える。

いよいよ手術当日を迎えた。

6時半くらいに、早くも男性の看護師がやって来た。

丸坊主でメガネをかけた、華奢でえらく腰が低い若い男性の看護師さん。

前日の夕方から、担当看護師が、加護亜依似のおネエちゃんから、

この華奢で坊主の若い男性にバトンタッチしていた。

体温と血圧を計り、左腕の静脈に大きな点滴をされる。

「手術までに、同じのをもうひとつ点滴します、それしたまま手術になります、ンフフッ。」

「柔らかい針なので、動いても大丈夫ですよ~ンフフッ。」

そうは言うが、長い針が血管にブッ刺さったまま動くのはあまりいい気分じゃあない。

 

手術日に昼間ずっとされていた点滴。

  

「お茶どうしますか?」

昨日と同じ年配の女性看護師?さんが、台車にヤカンを乗っけてやってきた。

「いや・・・もらいたいのは山々ですが・・・。」

そう言いかけたところで、自分が本日手術だと気付き、

「あ、今日手術でしたね、絶飲でしたね、すみません。」

そう言って、去ってしまった。

お茶飲みてえ・・・薄くてもいいから飲みてえ。

 

しばらくしてまた別の看護師さんがやってきて、青色の病衣を渡される。

「手術までに、これに着替えてください。」とのこと。

しばらくして自分で着替えようとしたら、そうだ点滴していた!

これ、どうやって着替えんだよ!?

とりあえず頭と右腕は脱ぐ。

問題は点滴している左腕。

Tシャツの袖を、点滴の管を通し点滴のパックを通して、ようやっと脱いだ・・・。

病衣は袖がベビー服みたくボタンで開閉できるようになっていたので、簡単に着ることができた。

また別の看護師がやってきて、手術前の最後の体温と血圧の計測。

そして、「マーキングしますね~。」と、今回手術する場所の外側、

左のアゴのふちにシールのようなものを貼られた。

 

次いで、トレーにタオルを乗せて看護師?がやって来た。

「タオルどうされますか~?」

「タオル?」

「体を拭くタオルですよ、要りますか?」

ああ、手術前だから身を清めろってことなのかな?

そう思って、タオルを受け取った。

おしぼりみたくロール状に巻かれたタオル、アツアツに蒸されていた。

「背中は拭きますね~。」

そういって、背中は拭いてくれた。

残ったタオルで、上半身の前部と、下半身を拭くのだとか。

 

いろんな書類にサインさせられる。

 

手術は午後1時からの予定。

当然朝飯も出ない。

空腹に、それよりも喉の渇きに耐えながら、

小説を読みながら、静かに手術の時を待つ。

そんなとき、妹が甥姪を連れてやってきた。

今回の手術、全身麻酔で行われるため、誰か家族が来てなきゃいけなかった。

平日だったし、誰も呼べないと病院側には言っていたが、

ちょうど育児休暇中だった妹が夏休み中の甥姪を引き連れて来てくれた。

空腹で喉の乾いた自分の目の前で、パンやお菓子をほおばる甥姪。

ぶどうパン、美味そうじゃのう。

チョコあーんぱん、美味そうじゃのう・・!

ビックル、美味そうじゃのう・・・!!!

しばらくして、お母んも駆けつけた。

同僚に言われて仕事を午前中で切り上げたのだという。

 

ベッドの枕元にデカデカと貼り出されていた、絶飲食の紙。

 

午後2時前。

前の手術が長引いたようだ。

予定より1時間近く遅れて、車いすを持って看護師が部屋にやって来た。

いや、歯茎の病気ですけえ、全然 自分で歩けるんですが・・・。

この病院では(他もそうかも?)手術室へは問答無用で車いすで移動させられるらしい。

家族に見送られながら、点滴をぶら下げ車いすに乗って、いざ手術室へ--。

 

病棟にあるエレベーターに、祖母と孫と思しき おバアちゃんと中学生くらいの女の子が乗りこんでいた。

車いすを押していた看護師が、「ああっと、間にあうかな!?」なんて加速したら、

女の子がエレベーターの「開」ボタンを押したまま待っていてくれた。

そして手術室のある1階に到着。

一緒だった おばあちゃんと女の子も1階で降りる。

その時も、その女の子は、自分らを先に降ろし、

自身は最後に降りようと、ボタンを押しっぱなしで立っていてくれた。

中学生くらいだと思うのだけど、エレベーターでの作法がきちんとした子だなあと感心した。

高層マンション住まいとかかな?

自分なんかエレベーターと無縁な生活だったから、

そんな作法が身に付いたのは20代半ばになってからだったわ・・・。 

そんなことを考えながら、看護師に車いすを押され、手術室へのスロープを下っていく。 

下り坂なので、看護師は反転し、車いすは後ろ向きに進む。

そうすると、さっきのエレベーターで一緒だった おばあちゃんと女の子が見えた。

メガネをはずしているので、その表情まで見えるわけじゃないけれど、

手術室へと降りて行く自分を、なんとなく憐れんだ雰囲気で じっと見ていた。

 

 

手術を受ける患者向けの看護師さん?手描きイラスト入りの解説書。

 

手術室の手前に到着。

地下室に位置するのだろうか?

なんだか、うす暗く(けっして暗いわけじゃない)、ジメジメした(けっしてジメジメしてはいない)雰囲気。

車いすでここまで連れてきてくれた看護師が、その入口で何か越しに喋る。

「口腔外科**さんお連れしました。」

ここで名前と生年月日で本人確認。

マーキングの確認。

そうしてやっと手術室の扉が開く。

といっても、その先は広い通路。

その通路の両側にいくつか手術室があり、ここはまだその通路の手前。

「帽子をかぶせますね~。」

なんかナイロン地?の帽子を被せられる。

「ここからは、歩いて向かってもらいますね。」

車いすを降り、案内されるまま通路を通って手術室へ向かう。

 

通路のような場所を進んで、三っつめくらいの部屋だったろうか。

入るなり、「**さん、こんにちは、お待たせしましたね。昨夜は眠れましたか?」

口腔外科で診てくれる、いつもの先生だ。

その先生の声と顔を見たらどっと安心感。

他に、もうひとりの口腔外科の先生と、

先日打ち合わせした女性の麻酔医師、それと看護師が数名。

全部でゆうに10人くらい居たように思う。

 

「こちら頭に、十字の中央に頭が来るように仰向けに寝てください。」 

履物を脱ぎ、自ら手術代に寝そべり、言われたように頭の位置を合わせて仰向けに。

寝そべった台の左右に、すぐにまた別の台が取り付けられ、

それに左右の腕が固定されていくと同時に、足も固定され、

胸をはだけられて、心電図の端子がペタペタ貼り付けられていく。

ピットに入ったマシンのよう。

看護師さんらの手際のいい作業で、ほんの数秒で手術の準備が整えられていく。

手術室の物々しい天井や周りの医療器具がはっきりと見えない。

自分を見降ろすスタッフの表情も見えない。

こういうとき近眼でよかったと思う。

 

「スポーツか何かやってます?」

裾をまくり腕を固定していた女性看護師におもむろに問いかけられ、

「いえ、なにも。」と答える。

「へえ、腕の筋肉凄いから、何かやってるかと思ったあ。」

ええ!?

普通の男よりも細腕なのをコンプレックスに感じているくらいなのに?

すかさず向いの男性看護師が、「日焼けが凄いからかと思った。」とひと言。

そうだよな、男から見りゃ、やっぱり細腕だよな・・・。

患者をリラックスさせようとしてか?

スタッフ同士でそんな雑談を繰り広げてくれる。

 

「**さん、39歳、男性、血液O型。これより歯根嚢胞、抜歯および切除術をおこないます!」

自分の頭の方から、先生の大きな声。

メガネをはずしているし、台の上で色んなものに繋がれ固定されているから、

その光景を見ることはできないが、よく医療モノのドラマなんかで見る、

執刀医が中央に立ち、その両脇を助手や看護師たちが囲み、

手袋を装着した両手を甲の方を向けて立て、執刀前に行う、あの光景が頭に浮かんだ。

この後の第一声が、「メス!」なんだよな。

で、「汗!」って続くんだ。

 

しかしやっぱりそれはドラマ。

予想を反して手術は始まる。

「**さん、麻酔医のXXです、よろしくお願いしま~す。」

「これから点滴に麻酔足しますよ~、少しチクチクというかヒリヒリしてきま~す。」

なんだか、左腕に刺さっている点滴の針辺りがひんやりしてきた。

すぐに左肩、そして左胸と、そのひんやり感が広がってくる。

なかにメントールでも注入されているかのように、どんどんスーッとしてきた・・・。

・・・・・。

・・・。

 

  

・・・。

・・・・・。

「・・・さん!」

「**さん、・・ましたよ~!」

気付いて目が開くと、看護師だか先生だか、自分に呼び掛けている。

「**さん、手術終わりましたよ~気付きましたか~!」

「・・・はい?」

自分が弱々しく返事をすると、

「はい、台を移動しますよ~左上げてくださ~い!」

「次、右~!」

朦朧とするなか、言われるがまま、体を向けると背中の下に別の台車が滑り込まれる。

手術台からストレッチャーに移されたのだろう。 

 

顔には呼吸器が当てがわれている。

揺れているので、移動しているのが判る。

しばらくして、病室に到着し、そのままベッドへ移された。

待機していた家族に話しかけられて、ようやく意識がはっきりとし始めた。

口のなかに何かがたくさん溜まっていたので、

ティッシュを口元に添えて脇に置いてあった容器にそれを吐きだす。

ドロッとした血の塊。

そういったものが、とめどなく口に滞留する。

麻酔がまだ効いているのか?

痛みはまったくなくて、普通に呼吸もできる。

家族との会話に邪魔なので、酸素の吸引マスクは自ら外した。

手術の最中は、喉にパイプを装着するらしいのだが、

喉にその名残の痛みも感じず、スムーズに会話ができた。

麻酔が切れだすと、強い吐き気が生じることがあるらしいが、そいうのも全くない。

ただ、不愉快な頭痛がひどい。

乗り物酔いや3D酔いのときに起こる頭痛によく似た、不快な頭痛だ。

 

手術後に部屋に戻ると、手術前にはなかった、物々しい装置が部屋にあった。

 

看護師から色々と説明され、執刀した担当医師も来られた。

今後の経緯などざっと説明されるが、こんな状態なのであまり頭に入らない。

まあ、医師の説目は家族に聞かせているようなもんだろう。

先生達が去って少しして、尿意を感じたので起き上がって一人で行こうとして家族に止められる。

「麻酔でひとりで立って歩けんかもしれんき、最初に動くときは呼べって言いよったやろ!」

そうやったっけ・・・?

あんな意識朦朧とした状態で色々説明されても頭に入らんわ。

ナースコールして、看護師さんを呼ぶ。

ふつうにベッドから降り、ふつうに歩くことができた。

よかった、尿瓶や看護師の介護で小便とか嫌だった。

 

時計を見ると、午後4時過ぎ。

1時頃から来てくれていた妹も甥姪もさすがに退屈していたみたいだし、

一番下の甥っ子はソファですっかり眠っていた。 

「もう大丈夫じゃけえ、帰ってええよ。」

術後の自分が思ったよりも元気だったのをみて、

妹たちも、お母んも病室を後にした。

 

・・・。 

さて、飲み物じゃ!

食いものじゃ!!

昨夜の9時から、なんも口にしていない!

とにかく喉が渇いた。

洗面所でうがいして、妹に買っといてもらったカフェオレを飲む。

ああ、うめえ・・・!!

医師から今日はまだ固形のものは食べるなと、

プリンやゼリーのようなものならOKだと言われていたので、

買い込んでいた、カロリーメイトのゼリーとウィダーインゼリーを吸う。

ああ、うめえ・・・!!!

 

しこたま買い込んでたゼリーなど。

固形物が食べられなかったのは手術日当日だけで、

けっきょく、ほとんど食べずに持って帰った。

 

点滴が終わったが、明日以降もまだ点滴があるということで、

針はそのままで、テーピングとネットで固定。

この刺さった針の違和感が嫌なのに、このまま寝れってか・・・。

明日の朝からはお粥の食事が出るし、シャワーだけなら明日からOKとのこと。

とにかく今日は、このままベッドで安静にしていろとのこと。

頭痛が酷いので、本を読む気にもゲームをする気にもならない。

ぐったりとしたまま、消灯前に眠った。

 

翌朝、入院3日目。

まだ頭痛が残っているものの、ふつうに起きられた。

口からは溜まっていた血の塊。

まだ施術箇所から出血があるようだ。

舌でおそるおそる患部をなぞってみた。

きれいにぽっかりと、歯も歯茎もなくなっていた!

頭のなかで、スマブラのソニックのステージ、グリーンヒルズゾーンが思い浮かんだ。

鏡で口を開けて見てみた。

やはり、ぽっかりとその部分が喪失していた。

ふだんはよく観察できなかった、一番奥の親知らずがきれいに見えた。

先生からの事前の説明で、嚢胞が肥大化していて、

ひょっとしたら、この一番奥も抜歯するかもしれないとのことだったが、

それは避けられたようだ。

 

グリーンヒルズゾーン。

こんな感じで、ぽっかりとその部分の歯と歯茎がなくなっている。

くぼみはもっと深いかな。

 

朝7時過ぎ、ヤカンを台車に乗せて、お茶配りにやってきた。

お母んが用意してくれていたポットがあったので、これにお茶を入れてもらった。

この病院では朝昼晩、食事の前にお茶のサービスがあるようで、毎回来てくれる。

この日の朝はほうじ茶だったが、これまた薄い。

ひょっとして、薬の効果に影響を及ぼさないようにわざと薄く出しているのか?

お茶にはカフェインとか、タンニンとか含まれている。

当然、薬を服用するときは、水やぬるま湯で飲まなきゃならないのだろうが、

それ以外にも、濃いお茶なんかを摂取し過ぎると、よくないとかあるのかもしれない。

そんな理由でもなきゃ、このお茶の薄さはあんまりだ。

薄いのが嫌なら、もらわないで自分の用意した綾鷹飲めばいいじゃんって思うだろうが、

せっかく「いかがですか~?」って持ってきてくれたのを、

「けっこうです。」って断るのもなんだかアレで・・・。

 

朝7時半過ぎ、朝食が運ばれてきた。

ようやっと、飯が食える!

数値的には食事相当のカロリーが補充できたとしても、やっぱりゼリーじゃ腹の足しにならない。

お粥だけかと思ったら、ふつうにおかずやデザートも付いてきた。

だったら、お粥じゃなくてもいんじゃ?

そんなことを考えながら、塩気のないお粥の朝ごはんを完食。

 

ちょっとすると、「タオルどうしますか~?」と、

また蒸しタオルを持ってお茶と同じ年配の看護師?さんが。

あれ?今日は手術じゃないけどな?

この病院、入院患者へ、毎日蒸しタオルのサービスがあるようだ。

昨夜はシャワーも浴びれなかったのでありがたくタオルをもらう。

その看護師?さんに背中を拭いてもらう。

 

そうして口腔外科へ。

小松菜々似の受付のおネエちゃんに会うと安心する。

この子の笑顔に本当に癒されるし、モニタ見ながらの真剣な表情も素敵だ。

術後の経過を診られる。

頭痛がひどいのと、下唇あたりにしびれが残っていることを言う。

「麻酔の影響でしょう。」

そう言われ、新たに薬を処方される。

 

病室に戻り、読書とゲームを交互にやるが、

頭痛が残っているので、どちらも集中できない。

横になっても、頭痛がやわらぐわけじゃないので、とにかくしんどい。

いっそ寝てしまえばいいのだろうが、なかなか寝付けない。

定時的に看護師がやってきては、体温や血圧を測ったり、点滴を付け変えたりしてくれる。

この日は、米倉涼子似のスレンダーな看護師さんでウホウホだった。

 

シャワーの許可が出たので、夜はとにかくメントール入りのシャンプーで頭を洗いまくった、

ただ、点滴の針が刺さったままの左腕はナイロン袋でカバーして使えない。

ばね指をわずらっている右手だけで頭を洗うのは至難の業だったし、

片手だけでは背中も充分に洗うことができず、けっきょく不完全燃焼気味にシャワーを終える。

 

入院4日目の土曜日。

この日も担当看護師は、華奢坊主メガネくん。

まだ20そこそこくらいだろうか、いや、若く見えるだけかもしれない。

受け答えの最後に必ず、「ンフフッ!」って笑うクセがある。

「・・・の影響があるかもしれませんね~ンフフッ!」

「・・・終わったらまた呼んでくださいね~ンフフッ!」

雑談とか世間話なら解るが、ちょっとした質問の応答にでも最後にそれを入れてくる。

なかなか面白い看護師さんだな~と思った。

深刻な会話でもそれやるのだろうか?

 

お昼前、口腔外科でまた診察を受ける。

経過は順調とのことで、このままいけば週明けの月曜には退院ができるとのこと。

入院費がかさむから、さっさと退院したい。

 

昼過ぎ、自分の病室の外、真ん前の駐車場の一角で、

テントが張られ、ちょうちんがぶら下げられ、パイプイスが並べられ、

中央に屋台が作られて、なにやら夏祭りの会場設営が行われていた。

まだ暗くもならないうちから、そこへ人が集まりだし、

焼鳥だか焼きそばだか、香ばしい(嗅げないけれど)白煙がもうもうと上がり、

行きたくて行きたくてうずうずしながら、その光景を眺めていた。

ああ、焼きとうもろこし食いてえ・・・リンゴ飴食いてえ・・・。

外出には担当医の許可が要るし、

この日は土曜で、もう担当医は居ないし、

そもそも夜祭に行きたいなんて理由で外出許可が降りるわけがないし、

すぐ近くだからこっそり行こうにも、氏名やら刻印されたバンド付けて、

点滴の針と管付けたまま、そんな場所になんて行けやしない。

浴衣姿のおネエちゃんみながら、うっひょーとするしかなかった。

 

もっと暮れると、さらに人が増えていった。

極々小規模なイベントみたいだったけれど、なかなかどうして人って集まるものなのね。

 

夕方、売店へ出かけようと財布を持って病室を出ると、

「**さあん!!」と呼びとめられる。

声のした方を見ると、若い女性の看護師さんが手を上げて可愛らしく振っている。

初日に担当してくれた、加護亜依似の看護師さんだ。

「どこへ行かれるんですかあ?点滴なんですけどお!」

見ると、ワゴンを押していて、そのうえに点滴のパックやらが乗っかっていた。

自分に午後の点滴をしに、ちょうどナースステーションを出たところだったようだ。

「ちょっと売店行こうと思って・・・じゃ点滴終わってからにしま・・・。」

・・・と、言いかけていたのだけど、

その看護師さんから、「じゃあ、後にしますねえ。」と、

ナースステーションの方へ引き返していった。 

売店から病室へ戻ると、すぐにノックして看護師さんが入って来た。

加護亜依ちゃ・・・じゃなく、あの華奢坊主メガネ君だ・・・。

入って来た瞬間、心のなかで「お前かい!」と突っ込んでしまった。

ああ・・・あの時、売店に行かなきゃ、加護ちゃんにやってもらえたものを。

  

手術後、朝晩やられた点滴。

 

この日の夕飯にチキンカツが出た。

そのカツの付け合わせに、パセリとミニトマト。

ふたをはぐって、一気にげんなりする。

パセリ、どうみても黄ばんでいて傷んでいる。

こんなん普通使わないで、はねるやろ・・・。

さては、つまものはどうせ食わないだろうからって、こんな傷んだの入れやがったな。

よくみると、葉の一部は溶けたようにして腐ってる・・・。

自分はつまものでも残さずに食べる主義。

だが、さすがにこれは食べたくない。

とはいえ、これを食わずに残してしまうと、

それこそ、「つまものはどうせ食わないだろう」と思った料理人の思うつぼ。

悔しいので、食ってやった。

 

こんな黄ばんだパセリ使う?

 

その日の消灯後、22時前くらい。

寝付けないでいると、カツカツと廊下を足早に歩く音が聞こえた。

大きな総合病院、まだ看護師さんが忙しく働いている。

夜中でも廊下は足音のみならず、台車が行き交う音など絶えず聞こえる。

どこかナースコールでもあって、その部屋へと駆けつけているのだろう。

ところが、その足音、自分の部屋の前で止まり、

ノックもなしで、おもむろにドアが開けられ、カーテンまで開けられる。

懐中電灯で照らされる自分のベッド。

そして、また無言で去っていく看護師。

!?

なに今の?

なんで俺の部屋に?

脱走したとでも思われた?

冷房切ってたから不審に思われた? 

 

怖くって気持ち悪くって、さらに寝付けなくなっていた。

そうして迎えた、深夜0時前。

またカツカツと足音。

そのリズムでさっき自分の部屋に入って来た看護師のものだと判る。 

それがまた、自分の部屋の前で止まり、

またおもむろにドアを開け、カーテンを開けて自分を確認してから出ていく。

いったい何なのよ!?

怖ぇよ!!

 

これが、午前2時前、そして4時前と、合計4回あった。

一晩ほぼ眠れなくって、全て覚えている。

巡回して患者の様子を見回っているのか?

にしては、自分の部屋の両隣なんかを覗いている気配はなかった。

遠くからピンポイントで自分の部屋だけを目指して来ているような感じだった。

見回るのは手術直後の要注意の患者の部屋だけとか?

 

入院5日目、日曜日。

前日の夜から、テレビを観るためのプリペイドカードを買おうか買うまいか迷っていた。

日曜の朝7時から、ガンダムユニコーン。

夜8時からは真田丸。

しかし、テレビカードは1,000円。

1,000円で48時間テレビの視聴ができる。

ガンダム30分、真田丸45分。

真田丸は土曜に再放送あるし、ユニコーンはこれまでもそこまで熱心に観てはいない。

やっぱり、ふたつとも諦めた。

 

「おはようございます、お茶どおされますかあ?」

いつもは、やや年配の看護師?さんがお茶を持ってくるのに、

この日は若い女の子がやってきた。

しかも、なんだかのんびりおっとりした口調の子。

いつもの人なら、手渡すポットの半分くらいまで注いでくれるのだけど、

この子は自分のとこは初めてだから分かんないだろう。

「これに半分くらいでいいです。」と手渡したら、

「はあい、どおぞお。」と、ポットにたっぷり注いでくれた。

昼も夕方もこの子がやって来た。

やっぱりせっかく来てくれたのに、「結構です。」って言えなくて、

まだ前にもらったの余っているのに、「これに付け足しで・・・。」ってもらってしまう。

「はあい、どおぞお。」と、その都度たっぷり注いでくれる女の子。

あの年配の方もそうだけど、看護師さんじゃない・・よね?

 

昼過ぎに手術のときに来てくれたのとは別の妹が甥姪を連れてやってきた。

手術のときに来てくれた妹が上で、この日来てくれたのは下の妹。

お見舞いの手土産に佐賀銘菓 さが錦を持ってきやがった。

ペットボトルのキリン生茶を添えて。

自分が和菓子好きなので、よかれと思い、近所のデパート行って買って来たとか・・・。

いや、歯茎の手術した直後で、お粥食ってるわけよ。

水ようかんとか、くずきりをチョイスするのなら分かるけれど・・・。

さが錦て・・・この下の妹の方はちょっと変わったところがある。

 

実は自分の妹は二人とも看護師だったりする。

二人とも自分が入院している病院よりも大きな総合病院。

入院・手術初体験で、色々と妹に聞く。

この日の夜、2時間おきに看護師が無言で部屋に来たことを訊くと、

「うちの病院も見回りするよ、大体2時間おきやね。」

やっぱりあれは見回りだったのか・・・あんなカツカツと怖いわ。

 

小学一年生の甥っ子が手紙を渡してくれた。

たどたどしいひらがなで、

たあいんしたら かぶとむしを とりにいこうね。

・・・と書かれていた。

その下には色鉛筆で、カブトムシとクワガタムシ、それと幼虫が上手に描かれていた。

カブトムシかあ・・・甥っ子と遊べる8月中の自分の休みは、もう28日しかない。

スケジュール的に厳しくて希望に添えられるかどうか・・・。

 

小学一年生の甥っ子がお見舞いでくれたおてがみ。

 

午後、最後の点滴がセットされる。

この日の午後の担当看護師は、華奢坊主ンフフッメガネ君。

これが終わると、4日間腕に刺さりっぱなしだった針がようやく抜かれる。

あの血管に刺さったままの不快な異物感ともおさらば。

自由になった左腕で、思いっきり頭が洗える。

両手使えるようになって、かゆい背中の真ん中もこすることができる。

 

そうしてラストの点滴が終わったら、それを取りに看護師さんがやって来た。

針を固定するのに、ビニールのテープを貼られていたが、

これを剥がすのが痛いのなんの!

ガムテープをすねや前腕部に貼って、一気に引っぺがすような罰ゲームがあるけれど、

じわじわと剥がされるこれも、なかなかのもの。

しかもこの粘着力、ガムテープやらクラフトテープとは比較にならないぞ。

ただ剥ぎ終わった後みてみたら、不思議と毛が抜けているわけでもない。

あのじわじわとした剥ぎ方だと、毛は抜けないのかしら?

 

病室から見た日没。

 

夕飯を食べながら、外の景色を見る。

西の山にかかった夕焼けを見る。

日の入りが早くなったなあ。

この窓からこの景色の夕焼けを見るのも、今日が最後か・・・。

いよいよ明日は退院。

一日も早く退院したくてたまらなかったけれど、なんとなく寂しくなってしまう。

 

入院6日目、月曜日。

いよいよ退院の日。

朝からヒゲを剃り、身支度を整える。

シャワー室で抜け毛などを取り除き、シーツも目を凝らして毛などを取り除く。

どうせシーツもまるごととっ変えられるし、浴室だって業者さんが掃除する。

だが、やっぱり6日間、自分がお世話になったんだから、

汚したまま、おっち散らかしたまま去ることはできない。

紳士たる者、己の縮れ毛などを置いて去るなどもってのほかである。 

・・・そんな大仰なことじゃないけれど、掃除でいちばん嫌なのは他人の体毛。

やっぱり、そういうのはきちんと無くしてから去りたい。

ましてや、ホテルや旅館などの宿泊施設じゃなくて、ここは病院。

それなりの金は払ってら!って考えじゃなく、

お世話になったんだと思って最低限の後始末はしてから去りたい。

実際、ここの看護師さんやスタッフさん達には、

心づけをあげたいくらいお世話になったと思っているし。

  

「おはようございます、お茶どうされますかあ?」 

昨日と同じ、おっとりした看護師さん?なのかよく判らない女の子がヤカンを持ってやってきた。

今日はもう退院の日、さすがにポットいっぱいにお茶を注がれちゃたまらない。

「今日は結構です。」そう、きっぱりとお断りした。

「はあい、失礼しまあす。」

なんとなく女の子の後ろ姿が寂しそうに見えた。

 

今日は若く真面目な男性看護師が担当。

おそらくまだ20代、医師と間違うくらい真剣で真面目、

そして女性なら色めきだってしまいそうな、すごい好青年のイケメンだ。

2日目だったか3日目にもこの方が担当になったことがあった。 

「まだ血は出てますか?」

「唇のしびれはどうですか?」

他の看護師さんとは異なり、口を開けさせてしっかり患部も観察するし、

細かく症状などを訊いてくる。

体温と血圧を測って、この後の最後の診察と退院までの流れを説明してくれた。

 

ラストの入院食。

 

朝8時前、病院での最後の食事。

このお粥とも、この薄い牛乳とも今日でお別れか。

食事を終えて、部屋の片づけ。

あらかた昨日のうちに荷物はまとめ終え、

余分な着替えやタオル、読み終えた本、妹の持ってきた さが錦など、

不要なものは、お母んに持って帰ってもらっていた。

シャワー室の健康タオルやシャンプー、ボディソープとか、

洗面所のヒゲ剃りや歯ブラシやらをまとめ、いつでも帰れるように支度する。

スリッパから靴に履き替えて、口腔外科に呼ばれるのを待つ。

 

口腔外科で最後の診察。

小松菜々似の受付のおネエちゃんは、既に自分の顔と名前を覚えてくれて、

自分が待合室のフロアに来ただけで、すぐに医師に伝えてくれる。

経過は良好ということで、無事、本日退院できることになった。

そういえば抜歯したあの歯はどうなったのかしら?

もしかしたら もらえるかもしれない。

おそるおそる先生に訊いてみたら・・・

「ああ、もう処分されていると思いますが・・・要りましたか?」

なんで処分するんだよ・・・せめて歯科大のサンプルとかにしてくれよ。

30年(たぶん)連れ添った俺の歯が・・・。

 

新しい薬の処方と、抜糸の日時を伝えられて、また病室へと戻る。

「お大事に~。」

小松菜々ちゃんが、笑顔で見送ってくれた。

この子、いや、この子に限らず、

この病院の受付のおネエちゃんら、いつも笑顔を絶やさない。

個人病院とかだと、ムスッとしたオバハンがだるそうに対応するもんだけど、

なかなかどうして、大きい病院じゃ、そういう指導もしっかりしているんだろうな。

 

病室で待機していると、自分の入院病棟の受付のおネエちゃんが紙切れを持ってやってきた。

「**さん、今回の手術と入院の費用が出たので・・・。」

手渡された紙切れを見て驚く。

¥ 125,320-

うわああぁぁぁ!!

思っていたよりも全然、高けぇ!!

「この紙を持って一階の会計窓口で清算されて、ナースステーションまで戻ってきてください。」

簡単に言う!

 

一階に降り、会計で担当のおネエちゃんに紙切れを渡す。

すると、おネエちゃんじゃなくて、スーツ姿の男性スタッフから呼ばれる。

会計窓口の脇に招かれて、その男性スタッフが申し訳なさそうに

自分を見ながら、とても言い難そうに小声で切りだす。

「**さん、今回費用が高額ですが・・・もしお支払いが厳しいようでしたら・・・。」

その男性スタッフの言葉を途中で遮り、バシッとカードで翌月一括払いで清算したった。

 

高額医療費負担で、高額療養費の払い戻しを請求しようとしても、

125,000円のうちの、約36,000円は個室代や食事代など保険適用外の費用。

ということで、高額療養費の対象となる、医療費の自己負担額は89,000円。

自分は恥ずかしながら、この歳でも最低基準の低所得者なので、

自己負担限度額も低いだろうから、申請すれば少し戻ってくるかな。

入院特約付けて、ちゃんと生命保険に入ってなきゃいけないなあと、つくづく思った。

 

痛いわぁ。

入院で余計に休んだぶん給与も減らされちゃうし・・・。

 

清算を終え病室に戻り、荷物をまとめて病棟を後にする。

お世話になった看護師さんらに挨拶でもと思ったが、ほとんど出払っていて、

担当してくれた人や、顔見知りになった人は一人もおらず、

残った看護師たちも、なんかモニタや書類とにらめっこしていたり、

せわしく何かの準備をしていたりして、挨拶するような雰囲気でもなく、

貴重品入れの鍵とテレビのリモコン類を返却し、

手首に巻かれていた氏名などが刻印されたバンドをようやく外してもらう。

「失礼します。」とひとことだけ言って、なんとなく寂しく病棟を後にした。

 

病院の駐車場に、数日間停めっぱなしだった車に乗り、そのまま近くのスーパーへ。

退院したついでに、ステーキ食うぞ!!

この数日間、お粥と素食ばっかだったし(売店で菓子パンやら買って食ってたけど)、

息子に借りた本のなかに、ステーキがしょっちゅう登場していたし、

もう無性にステーキが食べたくて仕方がなかった。

明日からすぐに仕事復帰だし、スタミナも付けんにゃ!

 

佐賀牛・・・一枚1,800円のステーキ肉が半額。

ううむ・・・霜降りは苦手なんだよな、でもレアで食うならこれくらいの方が・・・。

悩んでいたら、横から来たオバハンに、半額シールの付いた佐賀牛をとられた。

国産牛で、赤味が1,180円・・・。

うーん、スジが多いからレアには向かないなあ・・・。

うーん、どうしようかな。

カナダ牛が、980円。

赤み多いが脂身も多いな、脂身もレアだときついしな・・・。

 

肉売り場で深く悩んでいたけれど、

さっき病院で支払った125,000円を思い出し、ステーキは消えた。

代わりにどこかの高原の、ちょっと高いソーセージが半額になっていたのを購入。

それを旬のピーマンとナスで軽く炒めて食べた。

まあ、まだまだ左側でモノを噛めないから、ソーセージで正解だったさ。

 



23 コメント

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無事に終わって良かったですね^_^ (osaruno-koke)
2016-08-23 08:16:34
武さん、こんにちは^_^
歯根嚢胞、大変な病気だったのですね…
手術が無事終わって良かったです^_^
術後、お大事にして下さい…(u_u)

いろんな看護師さんがいたんですね。
加護ちゃん似の方は、まさに白衣の天使だし、
ンフフッ華奢坊主君面白い〜
すいません、笑ってしまいました…
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華奢坊主メガネくんも実はイケメン ()
2016-08-23 23:30:10
osaruno-kokeさん、こんばんは。
コメント&お気遣いありがとうございます。
 
歯根嚢胞って、あまり聞き慣れない病名ですし、
発症していても自覚症状があまりない病気らしく、
ただの口内炎とか歯槽膿漏と思って放置しているひとも大勢居るそうです。
早期発見だと普通の歯科で、抜糸や切開なんてせずに治療も可能らしく、
自分のように大がかりな手術になってしまう前に見つけて治療できれば、
さほど深刻な病気でもないようです。
 
退屈な入院生活。
入れ替わり立ち替わり接する
看護師さんやスタッフさんらを観察するのが楽しみのひとつでした。
記事には登場していませんが、
他にも個性豊かでいろんな看護師さんらが居ましたよ。
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歯根 (けい)
2016-08-24 08:25:01
武さん、おはようございます。

歯根嚢胞の手術、大変でしたね…
お大事にどうぞ。

手術も全身麻酔も経験ないので麻酔で落ちる?感覚って想像つかないです…
落ちたあと覚醒まで感覚的に一瞬だったりするのでしょうか。

自分も現在、根の治療で歯科に通院してるので
他人事には思えませんでした。
小さい頃からキチンとしてればよかったといつも後悔します…
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Unknown (れいな)
2016-08-24 11:45:43
いやーすごいボリュームで読みごたえありました。
また「長すぎます!」が出て分量を削ったんじゃないかと思うほどに。
想像していたよりも急激に発症・悪化していくのですね。
イメージ悪いですが原発に地震が来て海水が侵入し、一気にメルトダウンに陥ってしまう様な激症具合ですね。
お茶やおしぼりを持ってきてくれた方々は看護師ではなく、看護助手(ナースエイド)・病棟婦と呼ばれるジョブで有資格者とは違いますね。
前回の記事でも思いましたが、よく人の事を観察してらっしゃいますよね~
自分の事で精一杯で他人を観察する余裕など無い人が多い中で。

キリン生茶で思い出しましたが、以前書き置きメモに書かれていた通り、私も前の生茶の後味ほんのり甘いのが好きだったのに新しくなったやつはそこいらの緑茶と変わりない平凡な味になっちゃいましたよね。

夜中にカツカツと近づいてきて扉を開けて・・・
の下り、ブレックス准将みたいな目に遭うんじゃないかと思うから恐怖するんじゃないかと思いました。

私もけいさんと同じく全身麻酔の経験が無いので、吸気麻酔、静脈麻酔それぞれどんな感じで「落ちる」のかイメージできないのですが、
もしもめっぽう麻酔に耐性のある体質で、落ちきっていない状態で耳も聞こえる状態で始まったりしたら怖いなーとか考えちゃいます。
全身麻酔切れた後のなんとも言えない頭痛、やっぱり出ましたか。話するのもダルい、ゲーム?全然そんなのやる気しない。ってぐらい不快みたいですね。
そんなに持ち込んでも絶対食べきれないよ。
と冒頭で思ったら、案の定でした。
私も入院するなら多分お金かかっても個室希望かなー

前回のお話ですが、その通りです。
武さんとマリカで知り合ったのが2008の高2ですから、2016の今は大学卒後1年目になります。
すなわちもう学生ではなくその道のプロとして現場に立っている身分なんです。
技術とか知識などをレベルアップする事ももちろんですが、
「今日は体調悪くて沈んでたんだけど、センセの笑顔を見たら急に元気出てきたわ。」
みたいな事を言われると、医師冥利につきるなーなどと独りごちてしまいます。
そんなもん、クソの役にもたたんわ!
と上からは怒られそうですが。
でもこの武さんの記事を読んでいると、そういうの結構大事だとも思います。
病は気から。じゃないですが、前向きの「気」を持てない人はいくらこちらが最上の治療を施しても助からない。
「よーし、一緒に頑張ろうねー!」って意気投合できる患者はキツい抗ガン剤治療をも乗り越えて治癒して退院していかれる。
そんな印象を1年目に持ちました。
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Keiさんの方もお大事に ()
2016-08-25 00:42:44
>Keiさん
 
こんばんは、コメント&お気遣いありがとうございます。
 
麻酔ですが、時間的なものがよく判らないんです。
なんかスーッとしてきたなと思っていて、気付くと呼ばれていた・・・。
夢を見ていたわけでもなく、一瞬だったような気もするし、
すごく間があったようにも思えなくもないですし、
よく分からない不思議な感覚でした。
 
歯根の治療ってことは、歯周病かしら?
歯の側面などはゴリゴリと歯石を削りとれますが、
歯根にできた歯石は治療が難しく時間もかかるそうで、厄介ですね。
 
自分もきちんと歯磨きしていたつもりでしたが、
磨き方が悪かったりしてこうなってしまったようです。
もっと早い段階で歯周病治療をやって、
歯ブラシのみならず、フロスや歯間ブラシなんかも
ちゃんと使うべきだったと後悔しています。
返信する
もう少しで文字数オーバーでした ()
2016-08-25 01:10:56
>れいなさん
 
こんばんは、コメントありがとうございます。
 
れいなさんと交流始めて、もう8年も経つの!?
しかも、立派なお医者さんになられてるとは!
光陰矢の如し!
若い方がそうやって数年のうちに大きくなっていくのに、
自分ときたら・・・この20年ほど、まるで進歩も成長もなく、
なにやってんだろ・・・と自問自答に陥ります。
 
まあ、そんなことはおいといて、
お医者さんてプライベートな時間作れないくらい忙しいイメージですが、
そうでもないのですね、ドラクエやったろ、
こんなクソ長い記事も読んでもらう時間があるなんて。
 
麻酔の感覚は、Keiさんへの回答にあるように、
気付いたら呼ばれていたので、頭のなかで整合できないんだけど、
落ちてから意識が戻るのはすぐって感じですかね。
 
入院食はお粥オンリーだと思っていて、
その間、固形物は食べられないだろうと思って、
ゼリーやらなんやら。あの量を用意しました。
今、部屋の冷蔵庫に眠っています。
 
自分なんかが本職の方へ言うまでもないですが、
やっぱり医者や看護師さんらの患者への接し方は重要だと思います。
こちらは医者を信頼しなきゃ治療に前向きになれません。
実績や評判だけで医者を信頼する人も居ますが、
自分は自分のことを真剣に思ってくれていることが伝わって始めて信頼できます。
それが営業スマイルであったとしても、
忙しいなか、それを絶やさず、
どんな患者にもそう接することができていた、
この病院のスタッフさんらは素晴らしいなと思いました。
笑顔ひとつで不安や不満が払拭されていくのです。
 
ばね指の治療を途中で止めたのは、
その医師が信頼できなかったことが一番の要因でもありますからね。


返信する
Unknown (Unknown)
2017-03-27 10:22:24
ばか
返信する
参考になりました。 (すぎ)
2017-05-23 11:45:02
こんにちは。
私にも先日嚢胞が見つかり、現在入院の準備中です。
とても参考になりました。初めての入院と全身麻酔に不安を感じていますが、頑張れそうな気分になりました。

ありがとうございます。
返信する
気を楽に臨んでください ()
2017-05-23 22:07:02
すぎさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
こんなダラダラとした長文駄文を参考にしていただけただなんて、
申し訳なくなってしまいます。
 
自分と同じく歯根嚢胞手術をされるのですね、
しかも初めての全身麻酔と入院、その不安すごく解ります。
自分の場合は、患部の歯と歯茎が、かねてより煩わしかったこともあり、
抜歯と囊胞の切除術には前向きで、ある意味、腹をくくっていました。
 
術後二日ほど頭痛で辛かったですが、
患部の痛みもなく、抜糸後も順調に回復しました。
ちょっと後遺症が出てしまったものの、
歯が無くなったのにも、すっかり慣れました。
 
すぎさんも、無事に手術を終えて、
いち早く回復されることを願っております。
完治したら堅パンをおもいっきり噛みましょう!
返信する
初めましてw (愛音)
2017-07-21 16:01:21
歯根嚢胞+抜歯でオペを控えてる者です
歯根嚢胞からたどり着きました(((;°▽°))
通常抜歯も一般入院も手術も経験あるあたしですが……歯で入院にて恐ろしいですよねぇ

でもブログ面白かったですw
入院、オペあるあるもそうだし、感情や心の叫びがw予後はどうでしたか?色々お聞きしたい!
返信する

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