よろず戯言

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殿、利息でござる!

2016-05-22 15:58:48 | 映画

先日、映画を観に行った。

阿部サダヲ主演の時代ドラマ、“殿、利息でござる!”だ。

原作は磯田道史氏の小説、"無私の日本人"。

その中の一遍、"穀田屋十三郎"。

キャッチコピーは、"千両集めて、ビンボー脱出!庶民VSお上!

知恵と勇気と我慢の銭戦(ゼニバトル)が今、はじまる―"。

 

 

まずインパクトのあるチラシに見入った。

演技がくどくて大仰で、実はあまり好きじゃない、阿部サダヲ。

その彼が主演ってことで、スルーするつもりだったが、

ちょんまげ部分が銭になっている、あのチラシはスルーすることができなかった。

しかも、タイトルが"殿、利息でござる!"。

お金にまつわる、コメディタッチの時代劇なのかな?

当初そんなふうに思っていた。

 

 

ところが予告編が放送されはじめ、ストーリーのあらすじが明かされる。

貧しい宿場町を救うため、数人の村人たちが私財を投げ売り、身銭を投じ、

集めた金をお上に貸付け、利息を得ようと画策するという、トンデもない話。

しかもこれが史実にもとづく実話ときた。

それがコミカルタッチで画かれているようだった。

舞妓Haaaan!!!なくもんかつまらない主演映画を連続で観て、

以来、阿部サダヲ アレルギーになっていてのだが、ここらでよかろう。

そういうわけで、観に行くことに。

 

 

およそ250年ほど前、江戸中期の仙台藩(現在の宮城県)。

時の藩主、伊達重村は、

先代のときに起きた飢饉の影響で藩は財政難に陥っているにもかかわらず、

対抗意識を燃やす薩摩藩(現在の鹿児島県)の藩主にひけをとらない、

地位(ただの肩書)を得るために、幕府の重鎮達にせっせと献金を行っていた。

その金額は莫大なものであり、藩の財政は困窮を極める。

年貢を引き上げ、そのしわ寄せは多くの民を苦しめる。

 

 

仙台にほど近い、宿場町・吉岡宿。

出羽街道と奥州街道が交差する場所に位置する貧しい宿場町。

吉岡宿は"伝馬役"という、お上の荷物を隣の宿場から次の宿場へと運ぶ役を負っていた。

その役目には、馬も人手も必要。

ところが吉岡が仙台藩の直轄でないという理由から、

伝馬役にかかる費用も給金も一切支給されず、すべて宿場町の民の自己負担。

他の宿場町と比べ、利用者も少なく、賑わうどころか廃れていくばかり。

 

 

厳しい生活を強いられる村人たちは、田畑も家も捨てて夜逃げする。

そうして、さらに残った村人の負担が増し、

さらに村を捨てて行くものが増えて行く―。

その現状をどうにかできないかと、思い悩む男が居た。

穀田屋十三郎(阿部サダヲ)。

 

 

造り酒屋を営むこの男、貧しい村を救うために一大決心し、

立ち寄っていた代官に、直訴状を渡そうとする。

だが、百姓がそのような大それたことをすれば、首をはねられかねない。

直訴することを察した、同じく吉岡でお茶屋を営む、

菅原屋篤平治(瑛太)は、すんでのところでそれを阻止する。

 

 

京で茶師の資格を獲り、嫁さんをもらって戻って来たばかりの篤平治。

村の貧しい現状が相変わらずなのも解りつつ、

十三郎から吉岡をなんとかしたいという訴えを聞かされる。

必死な十三郎に対して、半ば出まかせで篤平治が出したアイデア。

「お上に銭を貸し、利息をいただく!」

お上から得た利息金を吉岡の皆に分配する。

利息の通り相場は年一割。

吉岡宿の皆を安泰させるのに必要な額はおよそ百両。

すなわちお上に貸す元本は、一千両(現在の貨幣価値でおよそ3億円)!

 

 

搾取される側から、取る側へ!

こうして二人の前代未聞,荒唐無稽な計画がスタート!

身銭を投じ、家財を売り払い、コツコツと銭を集める。

二人の計画を知って、同志も集まってくる。

味噌屋を営む十三郎の叔父の十兵衛(きたろう)や、

村の代表である、肝煎(きもいり)の遠藤幾右衛門(寺脇康文)、

それに儲け話だと勘違いして話に乗ってきた、両替屋の寿内(西村雅彦)らに、

さらには、40もの村を束ねる大肝煎の千坂仲内(千葉雄大)も加わる。

有志が増えたとはいえ、千両も集めるのは至難の業。

思うように銭が集まらず、計画は行き詰まりをみせる。

 

 

そんななか、吉岡一の大富豪でありながら、ケチでしみったれと噂される、

造り酒屋で金貸しの、浅野屋甚内(妻夫木聡)も計画に加わる。

甚内は千両に不足するぶんを簡単に出そうとする。

実は甚内は十三郎の実の弟。

兄でありながら、幼少の頃に養子に出された十三郎。

浅野屋と穀田屋、おなじ造り酒屋でありながら、その格の違い。

激しい劣等感を抱いていた十三郎は、甚内の計画参加に不快感をあらわにする。

 

 

 

はたして、目標の千両は集まるのか?

そしてそれを お上がすんなりと借りて、きちんと利息を払ってくれるのか?

人々が困窮する荒んだ吉岡を救うことができるのか?

十三郎や篤平治たちの奮闘は数年におよんだ――。

 

 

いや、すごい おもしろかった。

力のない貧しい人々が、強い想いを持って結託し、

権力を相手に荒唐無稽な計画を成し遂げたという逸話。

しかも実話っていうのだから凄い。

どうすることもできないと諦めず、どうにかしようと奮起する。

いつの時代も庶民の力は計り知れない。

 

 

それに引き換え、己の名誉のためだけに財政そっちのけ、

その日暮らしの庶民から、これでもかと詐取して苦しめる無能な藩主。

公金の私的流用疑惑で渦中まっただなかの半ハゲのおっさん。

会議名目でゴージャスなリゾートホテルで家族も同伴で宿泊し、

三つ星レストランでその贅沢な料理を堪能し、

資料名目でネットで美術日を落札するような、どこぞの首長も同じだな。

彼もまた、実は貧しい庶民あがりらしいが、

評論家になり政治家になり、その昇りゆく過程で庶民の心を忘れたのか?

 

 

実は今日までこの話は世間に出ていなかった。

それは当時、この計画をした村人たちの間で誓約を結んでいたから。

いくつかの条文のなかに、「子々孫々に至るまでこれを口外してはならない。」とあり、

当時、出資した者は名誉などを欲さず、名前を残すことはせず、

そしてそれを子孫にも口外しないよう厳しく守り続けていたから。

だが、当時の寺の住職がこの出来事を克明に記していたのが発見されて明るみになった。

そしてその中心人物であった穀田屋十三郎を、

磯田道史氏が"無私の日本人"として紹介したのだ。

 

 

阿部サダヲ、今回はくどい演技が抑えられていたように感じる。

役が役だけに、そうそうふざけたことはできないわな。

あの目で語る顔芸もあったけれど、今回は寺脇康文や西村雅彦もそれが多いので、

阿部サダヲだけが突出しているわけじゃないので、くどくない。

ベテラン俳優がそろうと、観ていて本当に楽しい。

 

 

竹内結子が煮炊き屋の女将として登場するが、これがすごくきれい。

気風の良い未亡人の女将役、十三郎や篤平治とのやり取りが、いちいち面白い。

あと、瑛太演じる、篤平治の新妻役を、すごく若くてかわいい子がやっていた。

どっかで見たことある顔だよな~って思っていたら、

こないだ観た、桜ノ雨で主演をやっていた子(山本舞香)だった。

時代劇、着物とかが似合うぞ、この子。

 

 

松田龍平は、気持ち悪くて怖かった。

ジヌよさらばで、お金恐怖症で金も財産も棄てて田舎に逃避する青年を演じた彼が、

殿のためとはいえ、民から金を絞るだけ絞る冷酷無比な萱場を演じていた。

堀部圭亮がすごいインパクト、顔が濃くて男前だからなおさら。

このひと本業なんだったっけ?て思うくらい。

確か勝俣州和とお笑いコンビみたいなの組んでたよな?

でもお笑い芸人じゃなかったよな?

作家だっけ?

 

 

派手さのない時代劇だが、貧しい庶民の知恵と根性、

そして日本人が本来持っていたであろう、無私の精神がコミカルに画かれている。

難しい名前の登場人物が次々にでてくるが、

個性的な俳優がそろっているので混乱することもなく、

最後までテンポよくて、だれることなく鑑賞できた。

時代劇というか、歴史ドラマが好きな方は必見。

有名な戦国武将とか偉人の話じゃあないけれど、すごく面白い。

阿部サダヲ嫌いの自分が楽しめたのだから、おすすめ。

 

新聞というか瓦版をイメージしたチラシ。

表は映画の宣伝、裏は宮城県の観光案内になっていた。

 

 

 



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