一昨年の暮れに観た映画。
波留主演のドラマ、ホテルローヤル。
原作は桜木紫乃氏の同タイトルの自伝的短編小説集。
直木賞受賞作。
キャッチコピーは、“孤独を抱える人々は「非日常」を求め、扉を開く―”。
前の映画記事、“みをつくし料理帖”を観たとき、
映画館にあったチラシで、公開直前だったこの映画のことを知る。
眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性が印象的。
大好きな女優、波瑠さんだ。
その後ろにはノスタルジックなネオンの看板。
“ホテルロ~ヤル”と書かれており、明らかにラブホテルのものだと判る。
なんこれ!?
ラブホテルが舞台の映画!?
チラシをもっとよく見る。
安田顕や余貴美子,岡山天音など、他にも好きな俳優さんが多数。
なによりもラブホテルと波瑠さんが結びつかない。
これは面白そうだ!・・・と思い、
いつものことながら あらすじなんかチェックせず、公開されてすぐに観に行った。
釧路湿原をのぞむ場所にたたずむラブホテル、ホテルローヤル。
経営者のひとり娘、雅代(波瑠)が高校を卒業して戻ってきた。
大学受験に失敗し、他にアテがなく仕方なく実家へ戻ってきた。
絵が好きだった雅代は美大への進学を試みたが、夢叶わなかった。
失意のうちに、大嫌いだった家業のラブホテル経営を手伝うことに。
父、大吉(安田顕)はホテルローヤルの社長。
だが、パチンコ三昧で家にはほとんど戻らない。
パチンコで勝った際には、景品のお菓子を抱えて従業員に景気よく振る舞う。
母、るり子(夏川結衣)がホテル経営を切盛りしているものの、
酒屋の配達員の若い男とホテルの一室で密会しており、
両親の夫婦仲はすっかり冷めきっていた。
そんななか戻ってきた雅代。
るり子は当然のごとく、雅代に家業のホテル経営を継がせようとする。
雅代はそんな気はないけれど、働きもせずに実家に住まうわけにもいかない。
他に選択肢もなく、しぶしぶホテルの手伝いを始める。
雅代が幼い頃から知っている、ふたりの従業員、
ミコ(余貴美子)と和歌子(原扶貴子)、それと母親るり子とともに、
ホテルの仕事を始める。
客の訳アリ男女の色々を目の当たりにする。
激しい情事や、歳の差の関係、どろどろの関係。
雅代が見せつけられる人間模様は客だけにとどまらず。
ミコの自慢の息子がテレビのニュースで取り上げられる。
暴力団に与して逮捕されていた。
失意のうちに山中に迷い込んでしまうミコ。
足を痛めて以来、無職だったミコの夫はそれから奮起する。
母のるり子はとうとう酒の配達員と駆け落ちしてしまう。
残された父と自分。
これまでパチンコ三昧だった大吉が、浴槽を必死に磨いている。
その日から大吉も真面目にホテルの仕事をやるようになった。
だが、耐えられなくなった雅代は大吉に怒りをぶつける。
客室にいつも置かれている、高級ミカンを放り投げてホテルを飛び出す。
それを拾う大吉。
ミカンには“ロ~ヤル”と書かれたブランドシールが貼られていた。
るり子の駆け落ちで、家業を継がざるを得ない雅代。
改心して働き始めたとはいえ、大吉はもう歳で体調も芳しくない。
るり子がやってきたことを必死でやろうとする雅代。
そんななか、アダルトグッズの営業で来る、
営業マンの宮川(松山ケンイチ)にほのかな恋心を寄せる。
ホテルには今日もいろんな客が来る。
子育てと姑の世話で、ろくに夫婦の時間が取れなかった中年夫婦。
妻に裏切られた高校教師と、家族に捨てられた女子高生。
悲喜こもごもの人間模様を垣間見る雅代。
そして事件が起こる。
ホテルの一室での心中事件。
連日マスコミに囲まれる。
病に倒れる大吉。
雅代は廃業を決意する・・・。
面白かった。
冒頭は既に廃業したホテルに、無断で侵入するカップルのシーンから始まる。
時代を遡って、ドラマが語られていく。
雅代が働くシーン、母るり子が駆け落ちしてしまうシーン、
事件が起きて廃業を決めるシーン。
そして最後には、大吉とるり子の婚前。
大吉が釧路湿原でホテル経営を始めるシーンまで遡り、
それら全てを集約して、また現代に戻る。
雅代が少ない荷物を積んで、ホテルを後にする。
自室から見た釧路湿原を描いた思い出の絵も放置して、どこかへと去ってゆく。
それが印象的だった。
昭和後期から平成を描いたドラマとなるので、
自分が生まれ、これまでに過ごしてきた時期と一致する。
なのでどこかノスタルジックに感じたのかもしれない。
九州から遠く離れた北海道の釧路、かつラブホテルという限定的な環境なので、
当時の時代背景とかトレンドとか、はっきりと描写されているわけでもないけれど、
なんとなく懐かしさを感じてしまう。
波瑠さんはいい。
これまで連ドラのあさが来たや、
コーヒーが冷めないうちにや、オズランドでも良い演技だったけれど、
今回はがらりと雰囲気の異なる、おとなしめだけど芯が強く我の強い役どころ。
それがしっかり伝わってきて本当にいい女優さんだと思った。
終盤、シミーズ姿になってベッドに横たわり、
身を固くして、松山ケンイチにロストバージンをお願いするシーンは必見。
というか、シミーズって今着てる子居んの?
松山ケンイチは、ひょうひょうとした役どころ。
出番はそんなでもないが、アダルトグッズの営業マンということで、
バイブやピンクローターを手に、それをグリングリン起動させながら、
真面目に使用方法をレクチャーしていたりと、インパクトが強過ぎる。
雅代はそんな彼に恋心を抱くのだけど・・・そうなるかね?
何気にマスコミから雅代を助けたりと、それなりの行動はしていた。
安田顕はどんな役も面白い。
今回はロクでなしの父親役。
ロクでなしといっても、酒浸りで暴力ふるうとか女浸りとかゲスなものでなく、
家業そっちのけでパチンコ三昧という、その程度。
カミさんに愛想尽かされ、娘からも嫌われる情けない役。
でも、娘に対する愛情だけはしっかり持ち続けていたのが判る。
夏川結衣,余貴美子,原扶貴子のおばさん三人組も良かった。
夏川結衣は中盤前に退場してしまうので、あまり印象には残らないが、
脂の乗り切った中年女性の良い感じの色気をたっぷりと匂わせていた。
そりゃ10代にも見えるような、若いニイちゃんも誘惑して食われちゃうかもしれない。
余貴美子と原扶貴子は、おばちゃんやらせたらもはや名人芸。
二人とも存在感抜群で、安定感もあって、安心して見ていられる女優さんたち。
客として登場する面々も濃くて良かった。
中年夫婦として登場した、正名僕蔵と内田慈。
浴室で情事に至るのだが、濡れ場に似つかわしくないビジュアルの正名氏と、
細身できれいな内田さんとのラブシーン・・・滑稽にしか見えない。
それにしても、内田さん、極上のちっぱいだった。
貧乳&熟女好きにはたまらないかもしれない。
高校教師&女子生徒カップルとして登場した、岡山天音&伊藤沙莉。
岡山天音は、その個性的なルックスで大好きな若手俳優さん。
そういえばオズランドで波留さんと共演していた。
家庭に大きな悩みを抱えるワケあり教師を切々と演じていた。
気の弱い役をやらせたら見事にハマる。
そう考えたら、チェリーボーイズでのヤンキー役はレアだったかも。
対して伊藤沙莉は、一見、能天気な女子高生役。
実際は両親に捨てられ、将来の希望も何も持てない寂しい役柄。
CMやバラエティ番組ではよく姿を見るけれど、
女優としての彼女の演技を観たのは、米屋の娘を演じていた連ドラ、“ひよっこ”以来かも。
そういやつい最近、熱愛報道が出てたな。
相手は18歳も年上のおっさんだとか。
彼女の兄である、お笑いコンビ、オズワルド伊藤俊介が、
熱愛報道でショックを受けていたみたいだが、解らないでもない。
ラブホテルが舞台の映画ということで、PG12指定。
音声では喘ぎ声なんかも聞こえるものの、映像ではそこまででもない。
全裸シーンは冒頭の廃墟に侵入したカップルの女性くらいで、下半身も見えない。
浴室全裸はあったけれど、白濁泡だらけの入浴剤でしっかりと隠されている。
なのでそういうのを期待しているひとは拍子抜けするかも。
まあ、そんなひとはハナからポルノ映画を観た方が早いか。
ラブホテルといえば、近年めっきりと数が減ったように思う。
自分の若い頃は、都市部にも郊外にも、なんなら山間部の田舎であっても、
ラブホテルは点在していたものだけど、都市部を中心に激減したように思う。
少子化の影響か?
近年の若者の草食化が原因か?
はたまたホテルなんか行かずとも、所かまわず・・・って感じなのか?
都市部のものは、取り壊されたり、ビジネスホテルなどにリニューアルされたりしているが、
山間部のものは、まさしくこの映画に登場するホテルローヤルみたく、
不気味なのだが、どこか哀愁ただよう廃墟と化している。
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