怖いんだ。この作品を聴くのが怖いんだ。
聴いているとまるで自分で自分の気持ちをスライドに乗せて、顕微鏡で覗いている心地がするんだ。その気持ちを『ジオガディ』はえぐり出し、くしゃくしゃに丸め、投げ捨て、踏み潰す。そうして見える灰色の景色。
エレクトロニカの代名詞的存在であるボーズ・オブ・カナダ。彼らが02年に発表した2nd。それはリスナーの気持ちを手のひらで転がすようにもてあそび、目の前に差し出してくる。
やさしく白い線をひくように鳴るシンセが頭上で舞うM2。そのやわらかい音色を耳が吸い込んだその瞬間、僕は音に気持ちを許す。あけすけに。すると『ジオガディ』は、その気持ちのゆるみを待っていたかのよう、次の瞬間、僕を裏切る。
たちまち音は発作の表情をあらわにし、語尾を強めて怒鳴り散らす。とぎれとぎれのメロディー。びりびりと紙を裂くように鳴る電子音。夜のように冷たいストリングス。それらが迫り、狂気の心地を駆り立てる。狂気はつま先をつたわり、背中にじわと広がった。
「スリー、ナイン」「ナイン、ゼロ」「ナイン、ナイン」。その声が、うめき声のようにこだまするM4。ひたすら繰り返されるうめき声に血の気が引き、貧血を起こしたときのよう視野が狭くなっていく。そうして砂利を含んだ湿った土に、ボーズ・オブ・カナダは電子音を叩きつける。それはまるで自分が叩きつけられているようだ。
この作品を聴いていると、自分が音になり、ボーズ・オブ・カナダにもてあそばれている心地が浮かんでくる。そして『ジオガディ』という顕微鏡を通して聴こえてくるんだ。狂気、鬱、嫉妬。自分の嫌な気持ちが。それが怖いんだ。
音楽を、聴く。いわゆる「Listen」。だが音楽を聴く行為は、自分の気持ちが、どのように変化しているのか、それを感じるのと同義だ。もし、音楽を聴いて気持ちの変化がなかったら、つまり感動しなかったら、僕らは音楽を聴くことはなかっただろう。音楽とは気持ちの変化を映す鏡になりうる。その音楽の中でも特に『ジオガディ』はヴォーカルを外し、リズムを切り刻み、リスナーを暗闇に放り込む。その暗闇の中で何を感じたのか。気持ちがどのように変化したのか。それが聴こえてくる。
もし、自分の気持ちを覗きたくなったら、自分でも気付いていない本心を覗きたくなったら、この作品を手に取ってみるといい。「本当の自分」だとか「理想の自分」なんて胡散臭いものは見えてこない。ひっそりと奥に潜んでいる、どろどろとした気持ちをこの作品はあぶりだす。
聴いているとまるで自分で自分の気持ちをスライドに乗せて、顕微鏡で覗いている心地がするんだ。その気持ちを『ジオガディ』はえぐり出し、くしゃくしゃに丸め、投げ捨て、踏み潰す。そうして見える灰色の景色。
エレクトロニカの代名詞的存在であるボーズ・オブ・カナダ。彼らが02年に発表した2nd。それはリスナーの気持ちを手のひらで転がすようにもてあそび、目の前に差し出してくる。
やさしく白い線をひくように鳴るシンセが頭上で舞うM2。そのやわらかい音色を耳が吸い込んだその瞬間、僕は音に気持ちを許す。あけすけに。すると『ジオガディ』は、その気持ちのゆるみを待っていたかのよう、次の瞬間、僕を裏切る。
たちまち音は発作の表情をあらわにし、語尾を強めて怒鳴り散らす。とぎれとぎれのメロディー。びりびりと紙を裂くように鳴る電子音。夜のように冷たいストリングス。それらが迫り、狂気の心地を駆り立てる。狂気はつま先をつたわり、背中にじわと広がった。
「スリー、ナイン」「ナイン、ゼロ」「ナイン、ナイン」。その声が、うめき声のようにこだまするM4。ひたすら繰り返されるうめき声に血の気が引き、貧血を起こしたときのよう視野が狭くなっていく。そうして砂利を含んだ湿った土に、ボーズ・オブ・カナダは電子音を叩きつける。それはまるで自分が叩きつけられているようだ。
この作品を聴いていると、自分が音になり、ボーズ・オブ・カナダにもてあそばれている心地が浮かんでくる。そして『ジオガディ』という顕微鏡を通して聴こえてくるんだ。狂気、鬱、嫉妬。自分の嫌な気持ちが。それが怖いんだ。
音楽を、聴く。いわゆる「Listen」。だが音楽を聴く行為は、自分の気持ちが、どのように変化しているのか、それを感じるのと同義だ。もし、音楽を聴いて気持ちの変化がなかったら、つまり感動しなかったら、僕らは音楽を聴くことはなかっただろう。音楽とは気持ちの変化を映す鏡になりうる。その音楽の中でも特に『ジオガディ』はヴォーカルを外し、リズムを切り刻み、リスナーを暗闇に放り込む。その暗闇の中で何を感じたのか。気持ちがどのように変化したのか。それが聴こえてくる。
もし、自分の気持ちを覗きたくなったら、自分でも気付いていない本心を覗きたくなったら、この作品を手に取ってみるといい。「本当の自分」だとか「理想の自分」なんて胡散臭いものは見えてこない。ひっそりと奥に潜んでいる、どろどろとした気持ちをこの作品はあぶりだす。