Nueva York Life -Refuse Passive Interest-

某サイトのブログを使ってたのですが、ある事情で、こちらで再出発させてもらいます。

Cold Weather

2011-02-06 22:33:52 | 映画
数年前、どこかのサイトで『Quiet City』という映画の予告編を観て、不思議と興味を掻きたてられた。その予告編を観たときは既に、NYCでの上映は終わっていたので劇場で観ることはできなかった。予告編を観た限りでは、ブルックリンのコニー・アイランド付近を舞台にしていて、一風変わった男女の会話劇のようだった。街の風景の捉え方は、どこかテレンス・マリック風だったのだ。また何故かは解らないが、日本映画に近いものも感じられたのを憶えている。結局、この映画自体は、サンダンス・チャンネルか何かのケーブルTVで放送されていたのを観た。普通に観ると、かなり展開も遅く、たいしたことが起こるわけでもなく、退屈でもあった。主人公の二人の距離感も曖昧で、それもわざとなんだろうけども、ほとんど何も映画の中で起こらないので、煩わしかったりもしたのだ。それに比べると、この新作では、依然として、映画の中で起こる出来事は少ない。テレンス・マリックとの違いは、テレンス・マリックは詩的な映像を挟みつつスケールの大きなストーリーを語るのに対し、このアーロン・カッツは、特にストーリーを語るという意図を見せない。ごくごくパーソナルなレベルで、キャラクターの日常的な生活の雰囲気を出そうとすることにより意欲を感じさせる。この一種、独特な作風が、監督アーロン・カッツの、これからに期待を抱かせた。


この映画が個人的に興味を惹きつけられた要因の一つに、舞台がオレゴン州のポートランドであるところが挙げられる。去年から、アメリカで最も訪れたい都市の、かなり上位に、このオレゴン州ポートランドを挙げていて、予告編で、Multnomah滝が見えた瞬間に、「この映画は見る!」と心に決めたのだった。実は、ポートランドは全米でも屈指の美しい滝のメッカ。この映画の劇中で見ることができる滝は、残念ながら、このMultnomah滝のみ。でも、この映画を観て、ますます、ポートランドに恋焦がれるようになったのも事実。このアーロン・カッツは、地味ながらも、その舞台としている土地の良さをさりげなく映像で捉えるのに長けている

ストーリーはというと、シカゴでの学生生活を終え、帰ってきたダグは姉ゲイルの家で暮らすこととなる。製氷工場での仕事を得て働きはじめるのだが、シカゴで付き合っていたレイチェルがポートランドに仕事で訪れており、再会する。レイチェルは突然、滞在中に失踪するのだが、その真相を追う為、シャーロック・ホームズに憧れ、犯罪捜査を勉強していたダグは、レイチェル失踪について、捜査を始めるのだが・・。
アーロン・カッツの作風に関しては、『Pineapple Express』前のデイヴィッド・ゴードン・グリーンと共通するところが多くあるんじゃないかと思う。途中までなかなか、ストーリーらしいところを見せない。ただキャラクターの佇まいと何気ない会話を積み重ねていく。ほぼ、それだけで終わらせてしまったのが『Quiet City』だった。ところが、この映画では、ミステリー劇を入れ、この映画は面白く回転し始める。謎解きの段階に入ると、妙で変な主人公ダグと、仕事の同僚カルロス、そして姉ゲイルとの捜査が始まる。これも、あんまり本気じゃなく、終始、冗談半分だったりするのだ。謎解き、そのものを描くのではなく、その捜査するスリルを楽しむ、姉弟の様子が描かれていく

主人公ダグだが、あまり真面目に生きようという意欲がなく、何かが彼には欠けている。特に人との付き合いができないというわけでもないのだが、他人への気配りはできない。人に迷惑をかけることはないが、話して付き合ううちに、欠陥が見えてくる。悪い人じゃないのだ。姉ゲイルの方は、そんな弟を世話し、普通の生活を送ってはいる。この二人、全然、普通の姉弟には見えない。むしろ、友達やカップルのようでもある。そのあたりは、多分わざと、曖昧にしているのだが、この変なレイチェル失踪の捜査に、興味半分で付き合っていく。ここで特筆すべきなのが音楽。シャーロック・ホームズごっこをしているのに、秀逸な音楽が、その気にさせていく。

この映画で、より幅広い観客層へのアピールに成功したはずのアーロン・カッツ。次回作あたりは、この勢いで、もっと一般の作風に近い作品を発表するに違いない。独特のユーモアと街のさりげない、でも惹き込まれてしまう風景を挟むテクニックなど、彼ならではの何かを持った作家だと思う。ストレートじゃなく変化球的な探偵モノとして、興味のある人はぜひ。でも、日本で一般に劇場公開されることはないはず・・。


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