Nueva York Life -Refuse Passive Interest-

某サイトのブログを使ってたのですが、ある事情で、こちらで再出発させてもらいます。

『The Central Park Five』

2012-12-05 19:12:14 | 映画
80年代のNYC。最も危険とされていたのが、若い黒人たちだった。セントラル・パークで26歳の白人女性がジョギングの最中に、性的暴行などを受け、瀕死の重症を負う。警察が、その容疑者として逮捕したのが、5人の黒人高校生。少年たちは容疑を否認していたものの、長時間に渡る厳しい尋問の結果、虚偽の自白をしてしまう。

このドキュメンタリーが、まず語るのが、人種差別の激しい背景。白人女性を、黒人の少年たちが犯したということから、メディアはヒートアップし、この少年たちへのバッシングは凄まじいものとなり、死刑を求める声すら挙がる。その声の中には、大富豪であるドナルド・トランプも含まれ、彼はわざわざ新聞広告まで出して、彼らを死刑に処するべきだと、過激になっていた。残念ながら、この映画は、この件に関して、ドナルド・トランプからのコメントは得られていない。結局は、この少年たちは、無実なのだが、世間の騒ぎようは、完全に冷静を失い、NYC全体が彼らを怪物扱いとして、罰しなければいけないという恐ろしいまでの大衆扇動に流されていたことが分かる。

この事件が起きたところは、ちょうど、North Meadowの野球とソフトボールのグラウンドがある北側。NYRR主催のレースでは、4マイルと5マイルレースの時に使う近道ルートでもある。確かに、このあたりは普段は人通りが少ないし、殺風景な場所でもある。警察としては、初期の捜査で焦ってしまい、いったん誤った犯人を捕まえてしまったことに気づいたときは、元に戻れなくなってしまい、騒ぎが大きすぎて、そのまま突き進むしかなくなったようなのだ。でも、この事件の最大の被害者は、5人の少年たちである。高校生の彼らは、少年院で、それぞれ7年ほどの服役を命じられ、当然ながら出所後も、世間からの冷たい視線に晒され、苦悩の日々が続いた。おそらく、高校からの10年くらいは、彼らから奪い去られてしまった。いくら、無実の罪が晴らされたと言っても、彼らの貴重な青春時代は帰ってこない。この事件、もちろん警察は悪い。でも、その警察からの情報を必要以上にデフォルメして、報道したメディアも悪い。だって、警察に間違いをすんなり認めさせて、少年たちを救ってやれない環境を作ったのはメディアなのだから。そして、一番罪を感じていないかもしれないが、この間違った報道に踊らされた一般人も悪い。特に陪審員制度で、有罪か無罪を決定するのは一般人である陪審員。この陪審員の中には、事件の証拠不十分から無罪を主張した人もいた。でも、その人物は最終的に無罪を頑固に主張した為、外されたのだった。完全に、世論は、この5人を犯人と決め付けていた。誇張されている報道の中身を見抜けずに、過剰に反応した人たち。ドナルド・トランプも含めて、事件のことを追及しないで、簡単に死刑を主張したり、刑務所送りへとしたり、彼らを社会から追放したりする結果を生んだ大衆の罪も本来は、問われるはずなのだ。でも、これらのうち、誰も法で裁くことはできないし、被害者は、5人の少年たち。警察も、メディアも、大衆も、被害者に致命的な苦痛を与えたのにも関わらず、誰も罰せられることはない。何とも皮肉な世の中なのだ。不完全な根拠でもって、自己主張を崩さないという、ある一種、悪しきアメリカ文化の一面を、この悲劇は物語っている。


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