オランダは風景画と並んで、風俗画の傑作を多く残している。
フェルメールもまた風俗画家として頂点を極めた画家である。
まばゆい光の点描の美しい作品は、観る人をひきつけてやまない。
今回の東京・上野の東京都美術館で開かれているフェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たちにも展示されている。
風俗画というのは、人々の談笑や家事など日常の点景を描写したもので、それほど大きな絵はない。
遅々として進まない人の列は、ようやく4枚目にたどり着いた。
なぜか列の人たちは、息を殺したようにすすむ。「ワイングラスを持つ娘」だ。
キラキラ光る朱のスカートをまとい、
絵を見る者に笑顔を向ける娘が圧倒的な存在感だ。
ワインを勧める男、部屋の隅には振られた男。
ワインと男女は、17世紀中葉期過ぎの、オランダの日常風景だという。
フェルメールの目指してきた風俗画としては、完成度の高い作品といわれている。
オランダではなぜ、風俗画が多く書かれたのか。
当時のヨーロッパでは、宗教的にはカソリックが主流で、
多くの教会、王侯貴族・富豪がスポンサーとなって、
神話・寓意を題材にした物語画が求められ、絵画市場を形成していた。
それに対し、オランダの宗教はプロスティタンティズムの宗教で、
聖像は否定されていた。
したがって物語画の需要は見込めない事情があった。
オランダでは、教会に飾るような大きな絵ではない、台所や市場で働く人々や書斎、室内での人々の日常を題材にした風俗画が多く描かれる様になった。
とくにデルフトのような地方都市では、一般家庭でも飾れる小さな絵が求められたのだろうと、小林教授はいう。
なお、このフェルメール鑑賞ブログを書くについては、昨年秋に国立新美術館で「牛乳を注ぐ女」を観たさい、幸運にもフェルメール研究の第一人者・小林頼子教授の講演を拝聴する機会に恵まれた。その後、氏の研究論考本を幾つか読ませていただき、そのメモを基にしていることを、お断りしておきます。