シドニーの風

シドニー駐在サラリーマンの生活日記です。
心に映るよしなしごとをそこはかとなく書き綴ります…祖国への思いを風に載せて。

駐日アメリカ大使というポスト

2009-06-03 23:49:05 | あれこれ
 駐日アメリカ大使に、日本では無名の弁護士ジョン・ルース氏が指名され、俄かに話題になっています。戦後の駐日大使の多くは、知日派の学者や政界実力者や実力派外交官が占めてきた伝統があり、当初、ハーバード大学のジョゼフ・ナイ教授が下馬評にあがった時には、「ソフト・パワー」論の主唱者として著名である上に、民主党の外交ブレーンとして政策決定に深く関ってきた大物でもあり、日本重視の表れとして、日本としても大いに期待したものでした。ところが蓋を開けると、確かに国務省はナイ氏を推したそうですが、大統領自身がナイ氏との付き合いが深くないこともあり、ホワイトハウスの大統領周辺は、大統領選挙の資金集めで貢献が大きかったルース氏を推し、覆したと言われます。これが論功行賞人事と報道され、日本軽視の人選と受け止められて、失望感を隠せない人が一部に見られます。確かに気持ちは分からないではありませんが、日本軽視というのはやや言い過ぎのように思います。
 実際、先月27日に発表された12人の大使の内、日本、イギリス、フランス、デンマークの各大使に指名された4人は資金調達協力者だったようです。現在、アメリカ大使の3分の1は、大統領の資金調達協力者や友人などに与えられる政治任命ポストとまで言われており、それを踏襲した形です。これまで、日米関係が厳しい時代には、知日派の実力外交官や大物政治家が配されたのは事実ですが、最近は日米間に大きな懸案事項がないことから、日本も、イギリスやフランスやイタリアなどの西欧諸国と並んで、論功行賞人事を受け入れられるだけの安定的な同盟国になったと、前向きに評価する意見もあります。少なくともオバマ大統領にとって、日米関係は難しくなく、外交に素人の駐日大使でも問題はないと認識していることは確かでしょう。
 ただ単なる論功行賞ではなく、今回の人事は、ブッシュ前大統領の大リーグ球団の共同経営者で、ブッシュ氏の寝室にも電話出来る関係だったトーマス・シーファー前駐日大使のように、日米政治への造詣の深さよりも大統領との親密度を優先した人事として、「シーファー型」と評する声(米国務省)もあります。特に、ルース氏がオバマ大統領と同業の弁護士で、氏の能力やコミュニケーション・スタイルを熟知し深く信頼していると言われており、これから日米関係は実務重視の新たな段階に向かうというオバマ大統領自身の隠れたメッセージが込められているかも知れません。今日の日経新聞には、GMの破産法適用と絡めて、日本の技術に注目した興味深い人事だと分析する、ワシントン駐在の日本車メーカー関係者の声が紹介されていました。ルース氏を推した有力者の中にはクリントン政権時代に情報ハイウェイ構想を推進したゴア元副大統領も含まれているらしく、環境対応の自動車開発を含む環境事業版ハイウェイ構想があるとするならば、日本にも多くのハイテク人脈を持つルース氏が黒子として重要な役割を担うかも知れないという穿った見方ですが、日本軽視の表れなどと悲観するよりも先ず現実に目を向ける必要があるのかも知れません。
 いずれにしても、オバマ大統領に直接繋がる重要なポジションであることは間違いなく、日本としては、アメリカ政界においても地盤沈下しつつあると言われる日本を救い、ただの追従ではなく時に胸襟を開いて自らの立場を主張しタフに交渉しながら、これまで以上に強力で成熟した日米関係を築いていくことを祈ります。


最新の画像もっと見る