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SWAN日記 ~杜の小径~

おにいさまへ…/SS《あの晴れた青空》

おにいさまへ…/SS《あの晴れた青空》

〈2017年にヤプログにUPしたSSです〉

◇◇◇◇◇

私は御苑生奈々子。
薫の君からの電話でサン・ジュストさまが亡くなったとの知らせを聞いた。
自殺…?
何故…っ!

サン・ジュストさまとの事が走馬灯のように頭を駆け巡る。
出会いの日から、あの夜の告白。
プペちゃん…宮さまからもらったお人形が私に似ていると言っていた。
栄養剤と冷凍食品とお薬の生活を見ていられなくて、お菓子を作って持って行った事もある。澄んだ青空の下、学園の屋上で私の手作りお菓子を《美味しい》と食べてくれてーーー。
あの夜、わたしの家を訪れたサン・ジュストさまに誘われて公園に行った。
夏の風に吹かれながらブランコに乗って、プペちゃんをあなたにあげると言われた。
そして…あの告白。
実は宮さまも一の宮家の養女で、サン・ジュストさまの本当のお姉さまであること。
異母姉妹ではない…本当の姉妹であること。
でも、宮さまは知らないこと。
その事実を知ったら気位が高くソロリティが生きがいであった宮さまの心が壊れてしまうだろうから…伝える事は出来ないのだと。
私になら…とお話してくれた。
この事実を知っているのは宮さまのご両親と兄である一の宮貴さん。おにいさまの辺見武彦さん。
薫の君も知ってる…自分が言ったから、とお話してくれた。
『あなたにあえてよかった』
あれが最後の言葉になってしまったなんて…!
宮さまからいただいた大切なお人形をわたしに譲ると言われた時にどうして違和感を感じなかったのだろう。
サン・ジュストさまが大切なプペちゃんを手放すはずなどないのに…!

学園のソロリティ廃止署名運動の中、宮さまもショックを隠せない中で、サン・ジュストさまがお亡くなりになるなんてーーー。
あの日の告白は…。あの時、サン・ジュストさまは自ら命を絶つ覚悟をしていて…お人形を…?
涙が止まらない。
薫の君も酷くショックを受けて…。
あぁ、サン・ジュストさま、どうして…!

告別式は御身内だけで、密やかに進められた。
表だっての死因は事故となっているが、本当の理由を知っている薫の君と私も告別式に参列させてもらえた。
死に化粧は宮さまが施したのだという。
安らかで…凛とした美しいお顔。
そのお顔は宮さまと瓜二つで…驚いた。
告別式の帰りの道すがら、薫の君が言った。
「れいから…れいと宮さまの関係は聞いてる?」
「…はい」
「ふふ。れいはあなたを信用していたのね。宮さま…蕗子さんですら知らない事実なのに…」
「…薫の君…」
「お化粧したれい…宮さまに瓜二つでしょう?」
「…はい。本当の姉妹とはいえ、そっくりで驚きました」
「うん。そうだね。…だから…」
薫の君は空を見上げて息を吸い込んだ。
「だから…れいは普段から薄化粧すらしなかったの。いつも男装で通してた。宮さまのような服装で薄化粧でもすれば似すぎているでしょう?」
「………っ」
私はまた涙が溢れてきた。
それは…宮さまの為に…?
涙で声にならない。
薫の君も瞳を潤ませている。
「うん。…そう。宮さまの為にね。周囲は異母姉妹と思っているけれど、あれだけ似ていれば、良からぬことを詮索されそうだものね。宮さまはれいのことを毛嫌いしていた素振りだけど、心の何処かで異母姉妹の妹だと認めていたし、れいも宮さまを慕っていたのね」
「…はい…っ」
「真実って…時に残酷だとは思うけれど…知らないほうが幸せな時もある。宮さまも何時か真実を知ることがあるかもしれない。それを乗り越えるのは宮さま自身…私達は見守ることしか出来ないけれど…」
私は泣きながらしゃくりあげて大きく頷いた。
「あらあら。そんなに泣かないで?あなたを泣かせると天国のれいに怒られそうだ」
薫の君の言葉に私は泣き笑いを浮かべて小さく頷いたのだった。

その後、薫の君はおにいさま…武彦さんと結婚し、18歳の花嫁はおにいさまと共にドイツに飛び立った。
薫の君とおにいさまとの定期的な手紙のやりとりは嬉しかった。
薫の君はドイツでの生活、おにいさまのこと、定期的に検査のため大学病院に通院していることなどが綴られている。
どうか…どうか、薫の君の癌が再発しませんように。
おにいさまと薫の君が幸せでいられますように…私は薫の君に想いを馳せて祈るしかない。
私も日本でのことを綴る。
高校を卒業し、進学すること。
将来はパティシエになりたいこと。
マリ子さんも青蘭の短大に進学し、一の宮貴さんと結婚が決まっていること。
青蘭学園は中等部・高等部・短大・大学がある。
彼女のご両親は離婚してしまって進学を悩んでいたマリ子さんに青蘭の短大を勧めたのも貴さん。
貴さんはマリ子さんが高等部卒業と同時にプロポーズして短大卒業後に挙式をあげること。
マリ子さんが「結婚式には薫の君とダンナさまも呼ぶわ!貴さんと武彦さん、お友達ですもの!」と豪語していることも。

おにいさまと薫の君がドイツに行ってから4年の歳月が流れ、貴さんとマリ子さんの結婚披露宴。
宮さまと薫の君とおにいさまと…懐かしいお顔が揃った。
みんなお幸せそう。
薫の君もお元気そう。
癌の手術から5年が経過し、再発の心配も少なくなったそうだ。
宮さまは変わらずお美しい姿。
実は婚姻も決まったとのこと。婚約中の宮さま…だから一層お幸せそうに見えたのだろうか。
宮さまは青蘭の高等部を首席で卒業し、大学部に進学しても成績トップを維持していたと聞く。やっぱり宮さまは凄い!
嬉しいニュースばかりでステキ。
宮さまのお相手は貴さんとおにいさまの大学時代のお友達で、神宮さんという国立大学の助教授をしている方なのだそうだ。
貴さんとおにいさまのお友達ならば、良い方に違いない。
親しい人達が集まっての二次会の席で、宮さまが言った。
「もう入籍は済ませてあるの。区役所でわたくしの戸籍を見たわ」
真実を知ってもなお、凛とした美しさは昔と変わらずに…そっと宮さまは瞳を閉じた。
どれほどの衝撃だっただろう。
サン・ジュストさまの死から数年…。高等部時代の宮さまであったら耐えきれなかったかもしれない真実。
宮さまの言葉に、貴さんもおにいさまも…薫の君と私も宮さまを見つめた。
あぁ…宮さまは全てを知り、受けいれることができたのだ。
「皆さんは既に真実をご存知のようですわね。お相手の神宮さんもご存知のうえでプロポーズしてくださったの。両親にも事実を聞き、マリ子さんにもお話したわ。妹のれいも…いてくれれば良かったのだけれど…」
宮さまは悲しそうな笑みを浮かべた。
「…宮さま…」
マリ子さんの声に宮さまはクスリと笑い。
マリ子さんにとって宮さまは義姉になるわけなのだが、昔の癖が抜けずに《宮さま》と呼んでしまうことが多いらしい。
現在、ご実家の近くに新居を建てている最中だと宮さまはお話してくれた。
ご実家には貴さんとマリ子さんがいるし、今後も賑やかになりそうな予感。
サン・ジュストさまからいただいたお人形…プペちゃんはわたしが大切に持っている。
わたしがお人形を持っていて良いのだろうかと薫の君に聞いてみたけれど。
「れいはあなたに譲ったのよ。形見になってしまったけれどね。…だから、お人形は奈々子さんが持っていなさい。あのブレスレットはわたしが大切に持っているのよ」
宮さまがサン・ジュストさまに贈ったお人形と彫金のブレスレット…。
薫の君の言葉に宮さまも微笑んで頷いてくれた。
プペちゃん…大切にしよう。

わたし?
私は進学先で料理やパティシエの勉強をして、現在は洋菓子店で働いている。
新作のケーキができると宮さま達にお届けするのが恒例。
今日の披露宴でのケーキも私の務め先の洋菓子店で用意させていただいた。
今日初めて薫の君やおにいさまにも私のケーキを食べてもらい…美味しいと言ってもらえて嬉しかった。

実は、ひと月程前も新作のケーキを宮さまのお家に届けたら、貴さんとマリ子さんと宮さまと…もう一人、貴さんの大学の後輩の葉山さんという方がいた。
貴さんとおにいさまと神宮さんと葉山さん、みな同じサークルだったとのこと。
ご実家が洋菓子と喫茶店を経営していて、お菓子好きな方らしい。
現在は菓子メーカーにお勤めしていて、いずれはご実家のお店を継ぐらしい。
私のケーキを美味しいと笑顔で褒めてくださって、ドキリとした。
このドキドキは何だろう。
真っ赤になる私は皆んなに笑われてしまったけれど。
何度か葉山さんは私の勤め先の洋菓子店に足を運んでくださった。
私も葉山さんのお誘いで、ご実家の経営する喫茶店に数回お伺いした。
美味しいミルクティー。
美味しい季節のケーキ。
いろいろ洋菓子のお話もした。
先日もお誘いを受けて喫茶店にお伺いして、新作のケーキをご馳走になった。
ーーー美味しい!
ニコニコとケーキを頬張る私に葉山さんは言った。
「結婚を前提にお付き合いしていただけますか?」
そして…お付き合いを始めている現在。
いつか、おにいさまに嬉しいご報告ができる事を願っている。
学園時代、あの晴れた青空の下、私の手作りお菓子を褒めてくださった天国のサン・ジュストさまにもーーー。

◆おわり◆
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