11月のシメというわけでもないですが天使界師弟時代イザ女主話。お師匠様の一方的一人相撲かと思いきや、実は両片想い話だったりします。脆く綺麗なものを手にしたときの心境というか、危うい心の振れっぷりも書いてて楽しいです。
森の中で、翼の折れた小鳥を見つけた。飛翔中に何らかの事故に遭ったのか、天敵と戦って負傷したのかは、わからない。かすかに震えていることで、ようやくまだ生きていると知れた。
イザヤールは、小鳥の傍らに片膝を着き、そっと拾い上げた。小鳥は、黒く濡れたつぶらな瞳で、彼を見つめた。逃げる力も無いのか、それともイザヤールが守護天使で危害を加えることはないとわかっているのか、掌の上で、おとなしくしていた。
ふわりとした茶色の羽毛に包まれた体は驚くほど軽く、手の上に暖かな空気が座っているかのように感じられた。指でそっと翼の羽をかき分け、負傷の度合いを確認すると、小鳥は小さな嘴を開けてぴい、と鳴いた。素朴な笛のような、可愛い声だった。
間違いなく痛いのだろう。だが、折れ曲がったまま回復魔法をかければ、そのまま固まって飛べなくなってしまう畏れがあるのだ。助ける以上半端なことはしない主義であるイザヤールは、弱々しい甲高い鳴き声を聞きながら、なるべく優しくもかなり容赦なくてきぱきと翼の骨を整え、それから回避魔法ホイミをかけてやった。
ふいに苦痛が取れた小鳥は、文字通り露のように光る綺麗な目でイザヤールを見つめてから、ぱたぱたと翼を動かした。だが、飛んで行かなかった。まだどこか悪いのかと心配になるくらいに、彼の掌の上でのんびりと佇んでいる。その全幅の信頼は、彼の心をあたためると同時に、かすかな苦痛を与えた。
このまま、きゅうと拳を閉じてしまえば、一瞬で命を失ってしまうであろうくらい、脆く、小さな鳥。それは、自分に頬や髪を愛撫されても、信頼しきって嬉しそうに無垢な微笑みを浮かべる弟子を思わせた。
もっと、もっと触れたい、何もかも、心の全てさえも、喰い尽くしてしまいたい・・・。心の最奥に押し込んでいる師匠にあるまじき心。弟子の信頼と尊敬の微笑みは、そんな想いを鎮めることも挑発することもできる、両刃の剣だった。その信頼に応えたい、応えねばならない。・・・だが、そんなに信頼するなと・・・自分とて一人の男なのだと、彼女に知らしめてもやりたくなるのだ。
小鳥は、それから小さくさえずり、礼のつもりか、イザヤールの指に甘えるように小さな頭をすり寄せた。そして、飛んでいった。
イザヤールは小鳥が無事空高く舞うのを確認してから、天使界に戻った。
いつもの報告と儀式を済ませイザヤールが自室に戻ると、弟子のミミが、いつものように待ってくれていた。
「おかえりなさい、イザヤール様」
暖炉の用意をしていたらしい彼女は、律義に立ち上がってきちんと挨拶をしてから、また暖炉の傍らに座って薪をくべ始めた。
「ただいま、ミミ」
心和ませて、イザヤールも暖炉の前に無造作に座り、ミミの頭を大人が子供にするようになでた。嬉しそうにミミの頬が緩むのが可愛い。だが、彼女の長い睫毛は伏せられていて、その奥の瞳にどんな色が浮かんでいるかは、見えない。
突然、ぱちっとくべた薪の一つがはぜて、小さな火花が暖炉の外に飛んできた。イザヤールは、ミミに火傷をさせまいと、彼女を抱きかかえるようにして庇った。彼女の頭をとっさに覆った右腕の肩近くに、かすかな痛みが走る。小さな火のかけらが焼いたのだろう。
だが、そんなことなどすぐに忘れた。腕の中に、ミミがいる・・・。鎖骨の辺りに彼女の額が押し付けられ、細い指は彼の上着の胸元を縋るように握っている。華奢な骨格だがふんわりとやわらかく、あたたかい体は、もっと力を入れたら折れてしまうかと思われて、先ほどの小鳥の感触を思わせた。
ミミは、固まったように動かなかった。驚きなのか、怯えなのか、それとも小鳥のように安心しきっているのか。とにかく、微動だにしなかった。何故、逃げたり、はね除けたりしない・・・。勝手な言い分だとわかっていたが、イザヤールは思わずにいられなかった。それで、引き剥がす思いで自らそっと腕を解いた。
「すまない、驚かせたな。おまえは火傷はしなかったか?大丈夫か?」
彼が尋ねると、ミミはうつむき加減のままこくり、と頷いた。
「はい、大丈夫、です・・・」頬が薔薇色に染まっている。だが、その色が一気に蒼白になり、ミミは顔をばっと上げて、イザヤールの腕を調べて叫んだ。「でも、イザヤール様が!」
ごめんなさいとみるみる涙目になり、ミミは急いで薬草を持ってきて、彼の火傷に丁寧に貼った。
「ありがとう、だがこれくらいの火傷、何もしなくてもすぐに治る」
イザヤールがそう言ってまた彼女の頭をなでると、ミミは安心したように涙目のまま微笑んだ。
そして彼女は背を向けて、いそいそとお茶の用意を始めたから、彼は気付くことはなかった。ミミの頬が再び薔薇色に染まっていること、濃い紫の瞳が潤んでいること、彼女の心臓が、それこそ小鳥のように速く跳ねて、震えていることに。もっとずっと腕の中に居たかった、そう願っていたことに。〈了〉
森の中で、翼の折れた小鳥を見つけた。飛翔中に何らかの事故に遭ったのか、天敵と戦って負傷したのかは、わからない。かすかに震えていることで、ようやくまだ生きていると知れた。
イザヤールは、小鳥の傍らに片膝を着き、そっと拾い上げた。小鳥は、黒く濡れたつぶらな瞳で、彼を見つめた。逃げる力も無いのか、それともイザヤールが守護天使で危害を加えることはないとわかっているのか、掌の上で、おとなしくしていた。
ふわりとした茶色の羽毛に包まれた体は驚くほど軽く、手の上に暖かな空気が座っているかのように感じられた。指でそっと翼の羽をかき分け、負傷の度合いを確認すると、小鳥は小さな嘴を開けてぴい、と鳴いた。素朴な笛のような、可愛い声だった。
間違いなく痛いのだろう。だが、折れ曲がったまま回復魔法をかければ、そのまま固まって飛べなくなってしまう畏れがあるのだ。助ける以上半端なことはしない主義であるイザヤールは、弱々しい甲高い鳴き声を聞きながら、なるべく優しくもかなり容赦なくてきぱきと翼の骨を整え、それから回避魔法ホイミをかけてやった。
ふいに苦痛が取れた小鳥は、文字通り露のように光る綺麗な目でイザヤールを見つめてから、ぱたぱたと翼を動かした。だが、飛んで行かなかった。まだどこか悪いのかと心配になるくらいに、彼の掌の上でのんびりと佇んでいる。その全幅の信頼は、彼の心をあたためると同時に、かすかな苦痛を与えた。
このまま、きゅうと拳を閉じてしまえば、一瞬で命を失ってしまうであろうくらい、脆く、小さな鳥。それは、自分に頬や髪を愛撫されても、信頼しきって嬉しそうに無垢な微笑みを浮かべる弟子を思わせた。
もっと、もっと触れたい、何もかも、心の全てさえも、喰い尽くしてしまいたい・・・。心の最奥に押し込んでいる師匠にあるまじき心。弟子の信頼と尊敬の微笑みは、そんな想いを鎮めることも挑発することもできる、両刃の剣だった。その信頼に応えたい、応えねばならない。・・・だが、そんなに信頼するなと・・・自分とて一人の男なのだと、彼女に知らしめてもやりたくなるのだ。
小鳥は、それから小さくさえずり、礼のつもりか、イザヤールの指に甘えるように小さな頭をすり寄せた。そして、飛んでいった。
イザヤールは小鳥が無事空高く舞うのを確認してから、天使界に戻った。
いつもの報告と儀式を済ませイザヤールが自室に戻ると、弟子のミミが、いつものように待ってくれていた。
「おかえりなさい、イザヤール様」
暖炉の用意をしていたらしい彼女は、律義に立ち上がってきちんと挨拶をしてから、また暖炉の傍らに座って薪をくべ始めた。
「ただいま、ミミ」
心和ませて、イザヤールも暖炉の前に無造作に座り、ミミの頭を大人が子供にするようになでた。嬉しそうにミミの頬が緩むのが可愛い。だが、彼女の長い睫毛は伏せられていて、その奥の瞳にどんな色が浮かんでいるかは、見えない。
突然、ぱちっとくべた薪の一つがはぜて、小さな火花が暖炉の外に飛んできた。イザヤールは、ミミに火傷をさせまいと、彼女を抱きかかえるようにして庇った。彼女の頭をとっさに覆った右腕の肩近くに、かすかな痛みが走る。小さな火のかけらが焼いたのだろう。
だが、そんなことなどすぐに忘れた。腕の中に、ミミがいる・・・。鎖骨の辺りに彼女の額が押し付けられ、細い指は彼の上着の胸元を縋るように握っている。華奢な骨格だがふんわりとやわらかく、あたたかい体は、もっと力を入れたら折れてしまうかと思われて、先ほどの小鳥の感触を思わせた。
ミミは、固まったように動かなかった。驚きなのか、怯えなのか、それとも小鳥のように安心しきっているのか。とにかく、微動だにしなかった。何故、逃げたり、はね除けたりしない・・・。勝手な言い分だとわかっていたが、イザヤールは思わずにいられなかった。それで、引き剥がす思いで自らそっと腕を解いた。
「すまない、驚かせたな。おまえは火傷はしなかったか?大丈夫か?」
彼が尋ねると、ミミはうつむき加減のままこくり、と頷いた。
「はい、大丈夫、です・・・」頬が薔薇色に染まっている。だが、その色が一気に蒼白になり、ミミは顔をばっと上げて、イザヤールの腕を調べて叫んだ。「でも、イザヤール様が!」
ごめんなさいとみるみる涙目になり、ミミは急いで薬草を持ってきて、彼の火傷に丁寧に貼った。
「ありがとう、だがこれくらいの火傷、何もしなくてもすぐに治る」
イザヤールがそう言ってまた彼女の頭をなでると、ミミは安心したように涙目のまま微笑んだ。
そして彼女は背を向けて、いそいそとお茶の用意を始めたから、彼は気付くことはなかった。ミミの頬が再び薔薇色に染まっていること、濃い紫の瞳が潤んでいること、彼女の心臓が、それこそ小鳥のように速く跳ねて、震えていることに。もっとずっと腕の中に居たかった、そう願っていたことに。〈了〉
そしてミミちゃんがイザヤール様を想っているということを知っている立場なので余計に……!
ミミちゃんを襲ってしまいたいSっ気イザヤール様も大好きです!
いらっしゃいませこんばんは~☆実は両想いなのに葛藤しているイザヤール様&女主というシチュエーションも好きなので、ニヤニヤして頂けて嬉しいです♪ありがとうございます!
おお、ちょっとSっ気イザヤール様も大好きとおっしゃって頂けてよかった~!当サイトイザヤール様、かなり辛抱強いですが少なくとも草食系ではなさそうです(笑)