セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

成人の儀式

2015年01月17日 03時18分21秒 | クエスト184以降
丑三つどころかもうすぐ夜明けですが寝オチを何とか耐えましたの追加クエストもどき。金曜日が旧成人の日の翌日だったので、ドラクエでもお馴染みの成人の儀式の試練的な話にしようとしましたが、いまいち未消化気味。依頼人である父娘と、育てる立場であったイザヤール様と育てられる側だった女主の関係がちょっとオーバーラップしております。イザヤール様が思ったより干渉してこなかった(笑)です。

 今日ミミは、ルイーダの酒場に待機していた。酒場の女主人ルイーダに予め頼まれていたからだ。
 話は昨晩に遡る。ルイーダの酒場に何やら厳しいを通り越して悲愴に近い表情をした中年男性が訪れ、ルイーダに長いこと相談をしてから帰っていった。その後ミミは、ルイーダに呼ばれて協力を頼まれたのだ。
「今の方ね、かなりの由緒のある魔法使いの家柄の当主なんだそうよ」ルイーダは説明した。「明日、一人娘の成人の儀式があるから、可愛い娘の安心を守ってくれる頼もしい冒険者を手配しておいてほしいって頼まれたの。ミミ、行ってくれる?」
 もちろん、とミミは承諾したが、ある懸念を持ってルイーダに尋ねた。
「でもルイーダさん、そんなに娘さんを大切に思っている方なら、私の見た目で頼りないって思われちゃうんじゃ・・・?」
 ミミを知る人は彼女が最強クラス冒険者とよくわかっているが、知らない人からは冒険者だとさえなかなか信じてもらえないのである。本人にとっては大いに心外であるが。
「それは大丈夫よ。この人を見る目は負けない私が保証するんだし、それに、今回は近い年頃の女の子限定でパーティを組ませてくれるようにと、くれぐれも念を押されているの。悪い虫対策ですって」
 年頃の女の子ばかりのパーティではより悪い虫が寄ってきそうだけどね、と、ルイーダは苦笑した。
「そうなんだ。それでルイーダさん、私の他にも誰か一緒に行ってくれるの?」
 イベントは一通り終わったシーズンの筈だが、リッカの宿屋は急な団体客で混雑していて、リッカやロクサーヌ、それにルイーダ本人も冒険に出ることは少々難しそうだった。
「ええ、そのお嬢さんに、以前からの彼女お付きの女戦士とシスターがついてくるそうよ。それでも念のために最強クラス冒険者をご指名なんて、過保護よね。儀式自体は、水系の宝の地図の洞窟に行って、そこに隠してある短剣を取ってくるというものだから、さほど複雑なものではなさそうよ」
 そう、とミミは微笑んで頷いた。じゃあ明日よろしくね、とルイーダの声を後に、ミミは自室に引き上げたのだった。
 部屋に戻ってミミは、明日は一緒に冒険できないと、ちょっと寂しそうにイザヤールに告げた。
「そうか、それは残念だが、では旨い夕食でも用意して待っているとしよう」
 イザヤールはそう答えてウインクしたので、ミミは嬉しくなって、頑張って夕食までには帰って来ようと秘かに決意したのだった。
 そして夜が明けて、冒頭のルイーダの酒場で待機している状態に至るわけなのである。程なくして、ミミはルイーダに呼ばれた。カウンターの前には三人の女性が待っていた。高価そうなローブをまとった内気そうな少女を真ん中に、左側には頼もしそうな女戦士、右側には優しげなシスターが控えている。
 真ん中の少女は、パラディン装備に身を固めたミミをまじまじと見つめてから、ぎこちなくおじぎをし、ようやく口を開いた。
「ミミさんですね。今日はよろしくお願い致します」
 こちらこそとミミもおじぎを返し、女戦士とシスターにも挨拶をして、一同はさっそく出発した。ミミはクエスト「成人の儀式」を引き受けた!

 いってらっしゃいと、ルイーダがミミたちを見送って間もなく。ふいに昨日の中年男性、すなわち少女の父親が、酒場に姿を現した。実は陰から、ずっと娘たちの様子を見守っていたのである。本当に過保護ねえと内心呟いてから、ルイーダは彼に言った。
「ミミに任せておけば大丈夫ですよ。少しは信用して頂きたいわ」
「いや、もちろん、ルイーダさんの眼力や紹介してくれた方の力量を疑うわけではないが・・・」少女の父親は、そわそわしながら言った。「しかしやはり心配だ。・・・すまんルイーダさん、こっそりついていって見守ってやりたいんで、わしの護衛をしてくれる冒険者を一人、紹介してくれんか」
「ええっ?!そういうことなら前以て言ってくれないと・・・あらイザヤールさん、いいところに」
 急に言われて少々慌てたルイーダの視界に、買い出しに行こうと階段を降りてきたイザヤールがちょうど入ってきた。その辺の市場に行くつもりなので、軽装である。
「ん?ルイーダ、私に何か?」
「イザヤールさん、オフのつもりのところ申し訳ないんだけど、この方の護衛を頼まれてくれないかしら?」
 事情を聞いたイザヤールは、急遽の頼みに少し渋ったが、リッカに頼んで代わりにとびっきりおいしい夕食を用意しておくから、とルイーダに拝み倒された。そして、ミミなら大丈夫だろうが万が一の時に攻撃援護ができるとも考えて、引き受けることにした。ただし、装備をバトマス仕様に変える時間は要求したが。

 指定の水系の洞窟は、ミミにとってはさほど高レベルではなかったが、冒険慣れをしていない少女は、怯えたようにきょろきょろと辺りを見回していた。
「大丈夫ですか?」
 ミミが心配して尋ねると、少女は恥ずかしそうにうつむいて答えた。
「ごめんなさい・・・。わたし、呪文自体は得意なんですけど、実戦は初めてなんです。・・・最近魔物もおとなしいし、冒険なんかしないでお婿さんを迎えればいいなんて父は言っていたんですけど・・・。我が家に代々伝わる成人の証の儀式だけは、自分で参加してやり遂げなければならない決まりで、それで・・・心配した父が無理を言って、無関係なミミさんにまで、ご迷惑をおかけしてしまって」
 迷惑だなんてそんな、と、ミミは慌てて首をぶんぶんと横に振った。その必死な様子を見ておかしかったと見えて、少女は緊張がほぐれた顔で笑い、言った。
「ミミさんてすごい冒険者さんって伺っているのに、いい意味で普通の女の子みたいなんですね。よかった、初めてお会いした時、こんな綺麗な人と一緒に冒険するんだ、って思ってちょっと緊張していたんです」
「いえ、そんな・・・」
 思いがけないことを言われてミミは赤くなり、そんなあたふたする様子が可愛らしくて、少女はまた笑った。お嬢様のそんな楽しそうな様子を見て、お付きの二人も嬉しそうに微笑んだ。
 こうしてパーティ内は和やかな雰囲気となったが、間もなく一気に緊張が走った。キラークラブの群れに遭遇したのである。ミミは、表情を引き締めて、てきぱきと指示を下した。
「私が敵の攻撃を受け止めます!その間に剣と呪文で一掃してください!」
 ミミは「におうだち」をして敵の攻撃を一手に引き受け、女戦士には剣で攻撃を、魔法使いである少女には呪文攻撃を、シスターには攻撃補助と回復を頼み、的確な分担でキラークラブの群れはあっという間に蹴散らされた。
 初めての戦闘の緊張感が激しすぎたのか、少女は辺りが静かになるとぐったりと座り込んだ。ミミは彼女に疲労感を和らげる為に砂糖菓子を渡し、優しく言った。
「今の呪文、すごかったです。無理をしないで、少し休んでから先に進みましょう」
 少女はミミを見上げ、感謝の色を浮かべて微笑んだ。
 そんな彼女の顔を見て、ミミもまた、初めて実戦したときのことを思い出した。そのときは、師匠だったイザヤールが傍に居て、共に戦ってくれた。戦闘が終わった後に高揚と緊張が一気に解けて、脱力し座り込みそうになったあのときの感覚を、今でも覚えている。
 守護天使になるには、特に儀式や試験があったわけではなく、実力の安定を見て取った長老の意向で決まっていたし、ミミの場合守護天使としての初仕事を終えた直後にあのようなことになってしまい、それから無我夢中で旅をし、戦ってきたから、成人したとか一人前になったなどの、明確な自覚がないままここまで来てしまっていた。強くなったと自他共に認める今も、まだ完成されたとは思えていない。おそらく、生涯終わりのない強さの終着点を追い求め続けるのだろう。
 守護天使になったばかりの私を。あのとき、傍らで見ていたイザヤール様はどう思っていたのだろうと、ミミは少女の背中を優しくなでながら思った。ちゃんと一人前の守護天使に見えていただろうか。それとも、危なっかしい存在に見えていたのだろうか。

 キラークラブとの戦闘の様子を、物陰から見守っていた少女の父親は、戦闘が終わって我が娘が座り込んでしまったのを見て慌てて飛び出そうとしたが、イザヤールに止められた。穏やかな表情の彼に父親の気持ちも落ち着いて、小さく溜息をついて呟いた。
「どうも我ながら、いけませんな。成人の儀式は、親が手出しをすることはならぬという掟を、重々わかっているというのに・・・」
 そんな彼に、イザヤールはかすかに微笑んで言った。
「私はまだ誰かの父親になってはいないが、かつて庇護し育てねばならない存在を持っていたから、あなたの気持ちは少しわかる気がする」イザヤールは、慈しみと愛しさを浮かべてミミを見ていた。「だが、本来子というものは、自らの力で育っていくもので、大人になろうとする我が子に、親やそれに類する者ができることは、ほんの少しだと思う。見守ってやること、最後まで味方でいること、それだけだと」
 まだ守護天使になるには早すぎると思っていたミミは、守護天使となった一日目から務めを立派に果たし、イザヤールは己の見込み違いを嬉しく思ったものだ。そして彼女は自分の手を離れてから、更に著しく成長を遂げていた。それを知ることができた直後に、彼は一度命を落としたのだけれど。自分にできたことなど、ほとんど無いと言っていい。それでも、ミミは、まっすぐ、立派に育ってくれた。
「・・・きっと、あなたの娘さんも、大丈夫だ。父親に、どれほど愛されているか、ちゃんと知っているだろうから」
 イザヤールの言葉に、少女の父親が目を見開いたそのとき、彼は座り込んでいた自分の娘が、ゆっくりながらも立ち上がって、しっかりと歩き始めたのを見た。彼は頷き、イザヤールに告げた。
「イザヤール殿の言われる通りですな。・・・娘と、ミミ殿たちを信じて、わしは待っていてやることにしましょう。ルイーダの酒場で、ね。ひと足先に戻りましょう、イザヤール殿」
 イザヤールはまた微笑み、頷いた。そして、遠ざかっていくミミの背中に、私もおまえを信じて、当初の予定通り、リッカの宿で待つことにしよう、と、心の中で囁いた。

 その後ミミたちは順調に洞窟を進み、うみうしひめの突進をかわしたり、メタルキングを倒して一気にレベルアップしたりということを経て、とうとう一つの宝箱の前に到着した。それは、ダンジョン内にある他の宝箱とは明らかに違う形をしていた。
「これです、うちの家紋が刻まれています」
 少女は呟いて、ゆっくりと宝箱を開けた。中には、強力な短剣である「サラマンダー」が入っていた。やりましたねお嬢様、と、女戦士とシスターが歓声を上げる。少女は短剣を抱きしめ、ミミたちに言った。
「ミミさんや二人のおかげで、こんな私わたしでも、儀式を無事に終えることができました・・・。本当にありがとう。まだまだ立派な大人には程遠いけれど、近付けるように、頑張ってみます」
 早く父にこの短剣を見せたい、少女は輝く笑顔で言って、リレミトを唱えた。

 ミミたちは無事にルイーダの酒場に戻ってきて、少女の父親は大喜びで娘たちを出迎え、確かに一族に伝わる短剣であることを確かめ、ミミに報酬をくれた。
 その足でミミが厨房に行ってみると、イザヤールが市場で買ってきたらしい魚介を鮮やかにさばいていて、ミミが帰ってきたのを見て微笑み、ほんの少しいたずらっぽい顔をした。
 彼がそんな顔をした理由、彼も実は外出して、ダンジョンの途中まではついてきていたということを、ミミは知らない。不思議そうに首を傾げながら彼女は、ただいまを告げる為に、イザヤールに歩み寄っていった。〈了〉
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