セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

苦い星空

2016年02月08日 23時59分23秒 | 本編前
イザヤール様おかえりなさい週間なのでイザヤール様主役話ちょいちょいやろうと思います~。天使界時代、弟子をとる前話。

 星の美しい宵だった。だから、澄みきった冬の空気は、いっそう冷たかった。ウォルロの守護天使イザヤールは、感覚も感情も殺したような顔で、体のあちこちにできた傷口に薬草を貼り、止血をした。
 彼はつい先ほどまで、魔物の群れとの死闘を繰り広げたばかりだった。セントシュタインから峠の道を通って戻ってきたウォルロの村の男数人を、魔物たちから守った。だから本来、彼の顔は務めを果たした充実感で晴れ晴れとしている筈だった。だが、イザヤールの表情は、淡々としているとはいえ、そんな明るさとは逆の、どこか憂いと苦味を帯びたものだった。
 それは、自分が怪我をした為ではなかった。守護天使には、これくらいの怪我も危険も当然のもので、むしろ馴れている。彼の心のざらつきの原因は、他にあった。
 その村人たちは、魔物の群れに襲われた際に、足を骨折した一人の男を置いて逃げた。まあそこまでは仕方ないだろう。非力な者なら、自分の身を守るだけでせいいっぱいだろうから。だが、逃げる際に彼らは、骨折している男のすがっていた杖をわざわざ奪って、彼が身動きできないようにしてから、逃げ出したのだ。イザヤールが助けに入らなかったら、その男は完全に魔物の餌食になっていただろう。
 イザヤールが魔物の群れを追い払うと、男は守護天使の加護で命拾いをしたことを知ったが、感謝の祈りを捧げた後に彼は、安堵と絶望の入り交じった声で呟いたのだった。
「・・・ああ、守護天使様!俺が生きて帰ったら、あいつらは、俺を見捨てていったあいつらと・・・俺は、どんな顔で会ったらいいんだ?」
 守護天使の姿や声は、人間に届くことはない。イザヤールの言葉も、この男に直接伝える術はなかった。イザヤールにできることは、男を背負って飛び、ウォルロ村に帰ってやることだけだった。結局、男は村に戻っても「守護天使様に助けられた」としか言わず、口をつぐんだままだった。見捨てた男たちは、守護天使に全て見られていたことを悟り、震え上がったが、やはり口をつぐんだままだった。守護天使に知られている以上、たとえ口封じをしても無駄だとわかっているから、彼らは自分たちの行為をずっと後悔して生きていくことになる・・・。
 人間たちは、自分たち天使と違って力も魂も弱い存在なのだ、だから自己保身の卑劣な行為も、浅はかさも、仕方のないことなのだ。それはわかっている。だが・・・。天使界に戻る前にイザヤールは、悲しいほど輝く星空を眺めて、呟かずにはいられなかった。
「エルギオス様、これがあなたが信じた、人間なのですか・・・?」
 呟いてから、彼ははっとした。星に話しかけるなど、それではまるで、エルギオス様がもう星になっていると思っているようなものではないか・・・。それは、あり得ない、エルギオス様にはきっと、きっと必ずまた会える・・・。再会したときに直接この疑問をぶつけるのだと、イザヤールは固く決意して、翼を広げて飛び立った。〈了〉
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