今週はギリギリ間に合いましたの追加クエストもどき。今年はキノコが豊作なそうですねということでキノコネタをしてみました。うるうるうるわしキノコはもちろん実在しませんが、あれば劇的効果で引っ張りだこ?無理にぴちぴちにならんでもいいような気もしますが。文中の変種のマタンゴ云々は、昨年のサイト開設記念の「火に入る虫」をご参照くださいませ~。
キノコ狩りシーズンがやってきた。その為なのかどうかは不明だが、セントシュタイン地方のげんこつダケや西ベクセリアのうるわしキノコもいつもより豊富に生えていた。錬金でよく使うので、これらのキノコは市場でもなかなかの人気だ。
ミミはこの頃よろず屋に頼まれて、げんこつダケとうるわしキノコを集めにしばしば出かけていた。今日もまずはセントシュタインの町からさほど遠くない採取地にやってきて、名前の通りげんこつの形に似ているゴロンとしたキノコを注意深くバスケットに入れた。
「ねーねー、前から思ってたんだケドさ、げんこつダケやうるわしキノコって食べられるワケ?」
ちょっとヒマだからとついてきたサンディが、バスケットの中を覗きながら尋ねた。
「げんこつダケは、食用でもあるけれど、うるわしキノコはどうだったかな・・・。そのまま食べるとお腹痛くすると思うな・・・。ほら、ウォルロのマッシュさんが作ったキノコの詰め合わせお弁当」
ミミが答えると、サンディは思い出してぽんと手を叩いた。
「あー!げんこつダケとうるわしキノコをそのまま詰めた『愛情キノコ弁当』!アレはダメダメだよねー、あのコのパパ、お腹痛くしてたもんね~。てゆーかさ、お腹痛くする時点でがっつり毒キノコじゃね?」
「加熱しないことでのお腹痛いかもしれないから、それはなんとも言えないけれど・・・」
ミミの場合、げんこつダケやうるわしキノコは、見つけたらすぐに錬金して他のアイテムに変えてしまうし、野営をしている際も、他においしい食用キノコはたくさん見つかるので、貴重な錬金材料のこれらをわざわざ食べる必然性も感じなかった。
「キノコの見分け方もね、見習い天使だった頃、イザヤール様が教えてくれたの」
ミミが微笑んで呟くと、サンディは目を丸くした。
「マジで?!雑学知識ハンパないんですケド!」
「ウォルロ村は山の地方だから、キノコがけっこう多いの。特に秋は、毒キノコを間違って食べて守護天使に助けを求める人が続出で、ウォルロでは絶対必要な知識だからって」
「へ~。・・・でもぶっちゃけ、毒キノコだろーがなんだろーが、どくけしそうと一緒に煮込めばオッケーじゃね?」
「だってそれじゃおいしくないんじゃない?」
「あ、そっか~。・・・ところで、今日はそのイザヤールさんは?」
「イザヤール様は、ベクセリアの町にキノコ図鑑を届けに行っているの。ベクセリアも、キノコ狩りする人多いんだって。後でうるわしキノコの採取場で待ち合わせなの♪」
「キノコ狩りデートぉ~?」
「で・・・デートじゃないもの、お仕事だもの・・・」
「あーハイハイ」
げんこつダケを集め終わると、ミミはさっそくアギロホイッスルを吹いて、天の箱舟で待ち合わせ場所まで移動した。
少し早すぎたので、ベクセリアの町から徒歩でここまで来なくてはならないイザヤールは、まだ来ていなかった。今頃、丈の高い黄金色のススキをかき分けるようにして、移動しているだろう。待つ間ミミと、そして「デートじゃないならアタシお邪魔虫じゃないよね~」とちょっぴりイジワルを言ってついてきたサンディは、うるわしキノコをせっせと集めた。
「ありがとう、サンディ。これくらい集めれば、今日届ける分はいいかな。そうしたら今日のお仕事はおしまい☆」
「安心してイザヤールさんとデートできるよね~」
「もうっ、サンディったら・・・!」
頬を赤くしてミミはうつむき、キノコ採取に夢中になっているようなふりをしたが、本当にこの後、愛しい彼とゆっくり過ごせるかもと思うと、濃い紫の瞳は潤んで輝きを増した。サンディはそんな様を見て黙ってニヤニヤし、イザヤールさんが来たら帰ってあげようか、それとももうちょいイジワルしてわざとついていこうかなと考えていた。
そんなふうにしばらく黙々とうるわしキノコを集めていると、誰かが近付いてきた。イザヤールの気配ではなかったので、誰だろうとミミは顔を上げた。見ると、痩せた老婆が、杖をつきつきゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
老婆はミミの前で歩みを止めて、ミミの愛しい人を想い潤んだ瞳と、薔薇色のいきいきした頬と、しっとりと艶つやした唇をしげしげと眺め、羨ましげに言った。
「あんれまあ、なんてカワイイ子じゃろう。やはり若さは潤いじゃのう、ぴちぴちしておる」
ミミは照れてまた顔を赤らめ、老婆に挨拶をした。老婆はにこにこ挨拶を返してから、うるわしキノコの生えている枯木を見つめ、ちょっとがっかりした様子で呟いた。
「ああ、今日も生えておらんかったか、うるうるうるわしキノコ」
「うるうるうるわしキノコ?」
ミミが首を傾げると、老婆は説明した。
「ごくごくたま~に、そうじゃのう、十年に一度くらいの確率かの、ものすごく瑞々しくて大きな『うるわしキノコ』の変種の、うるうるうるわしキノコという物が生えることがあるんじゃよ。それでパックをすれば、ワシのような干からびたばーさんも、お嬢ちゃんのようなぴちぴちギャル時代の潤いを取り戻せるんじゃよ」
「へえ・・・凄いんですね~」
十年に一度くらいの確率では、まだ地上に来て数年のミミが見たことがないのも無理もない。今のところ使う必要は感じないが、どんな物かは見てみたいなと彼女は思った。
「うるうるうるわしキノコは、巨大なマタンゴがたま~に落とすこともあるんじゃが、危なくて年寄りには取りに行けんでなあ」
そう言って老婆は溜息をついた。
「巨大なマタンゴなんているんですか?」
「そうじゃよ。隠れていて、めったに現れないがの。だがヤツは、キノコだけに湿気大好きじゃから、『水のはごろも』を着て、『レイニーロッド』を持って森をうろうろすれば、出てくるかもしれんのう」
巨大なマタンゴと聞いて、ミミはほんの少しためらった。以前やはりこの辺りで、変種のマタンゴにイザヤール共々たいへんな目に遭ったことを思い出したのである。・・・まあたいへんな目というより、結果的には濃密に甘い一週間となったのだが。
しかし巨大とはいえマタンゴには勝てるだろう。そう考えて、ミミは申し出た。
「私、これでも一応冒険者なんです。水のはごろもとレイニーロッドも持っていますから、よかったら巨大マタンゴのうるうるうるわしキノコ、探してきます」
「まあなんて優しい嬢ちゃんじゃろう。だがのう、いくらお嬢ちゃんが冒険者でも、一人で巨大マタンゴを探すなんて危ない目に遭わせるわけにはいかんよう」
老婆は心配そうに止めたが、ミミはにっこり笑って言った。
「一人じゃないんです。たぶん彼が、手伝ってくれると思います」
老婆がミミの目線の先を追うと、ベクセリアの町方向から、程よく逞しい体躯の剃髪の青年が歩いてくるのが見えた。それはもちろんイザヤールで、彼はミミとサンディに気付いて手を振ってから、老婆にも軽く会釈した。
「おやおや、またずいぶんと強そうなカレシさんじゃのう。ではお願いしちゃうかのう」
ミミはクエスト「うるうるうるわしキノコ」を引き受けた!
やってきたイザヤールに事情を説明すると、彼もまた快く引き受けて、巨大なマタンゴとうるうるうるわしキノコの捜索に加わった。森へ入ると、サンディがさっそくイザヤールをからかった。
「仕事中毒のミミがまたクエスト引き受けちゃって、デートが延期になって、イザヤールさん、がっかりしてナイ?」
するとイザヤールは、悠然と微笑んで、さらりと答えた。
「いいや。ミミに、後で帰って二人きりになったら、たっぷり埋め合わせをすると約束してもらった」
「埋め合わせの内容が、よい子には言えなさげでちょっとコワイんですケド・・・」
ミミは水のはごろもを羽織って、レイニーロッドを目立たせるように持って先頭を歩いていて、二人の会話を聞いていなかったが、前方に何かを見つけて、立ち止まった。
「どうした?」
「イザヤール様、あれ・・・」
ミミの指差す方をイザヤールも見ると、巨木と見えていたものはなんと、とてつもなく大きなマタンゴだった!ミミの装備につられて現れたようだ。
二人が身構えると、巨大マタンゴは、さっそく甘い息を吐いてきた!二人は左右に散って息をかわし、イザヤールは近くの木の枝を踏み台にして高くジャンプして、巨大マタンゴを笠から真っ二つに斬った!
しかし斬られたマタンゴは、巨大な二匹のマタンゴに分裂してしまった。
「通常攻撃は効かないか・・・」
軽く舌打ちするイザヤール、そこでミミがバギクロスを使うと、二匹の巨大マタンゴはよろめき怯んだが、ゴロゴロ転がって辺りの木ごと二人を押し潰そうとしてきた。
それもかわしてイザヤールはギガブレイクを放った!電撃は巨大マタンゴたちを黒焦げにし、そこへミミがバックダンサー呼びによる竜巻をぶつけると、巨大マタンゴたちはバラバラと崩れ落ちて、たくさんの普通サイズのマタンゴたちとなり、慌てて逃げていった。
「キングスライムみたいに合体してたんだ・・・」
逃げていくマタンゴたちを見ながら、ミミはちょっと驚いて呟いた。だが、一体だけ逃げていかないで地面に倒れたままのマタンゴが居た。マタンゴにしては胴が細いなと思って近寄ってみてみると、それはマタンゴではなく、マタンゴくらいの大きさのキノコだった。
念のため丈夫な麻の軍手に変えてそのキノコを持ち上げてみると、笠から滴り落ちんばかりに、襞のあちこちに露のような水滴の粒が光っている。そして軸は、水でもなく油でもない、ちょうど化粧水みたいな感触でしっとりしていた。ミミは「うるうるうるわしキノコ」を手に入れた!
「思っていたより早く片付きそうだな」
笑って呟くイザヤール。
「イザヤール様が手伝ってくれたおかげなの。ありがとう!」
輝くような笑顔で答えるミミ。
「おデートできるじゃ~ん、よかったね~」
サンディはまた茶化したが、「姉」とスイーツを食べる約束をしていたことを急に思い出して、早く帰れることになりそうでホントによかったと思ったのだった。
老婆は、ミミたちがもう戻って、しかも頼んだ物を持って戻ってきたことに驚き、喜んだ。
「おお、これはまさしくうるうるうるわしキノコ!お嬢ちゃんにお兄さんや、本当にありがとうね。お礼と言っちゃなんだが、ワシの若い頃使っていた装備品をあげるよ」
老婆はお礼にと、「バタフライマスク」と「ピンヒール」をくれた!受け取ってちょっと困惑したミミとイザヤールをよそに、老婆はうるうるうるわしキノコを持って、帰っていった。
「お婆さん、もしかして昔社交界のバラだったのかな・・・?」
「それでうるうるうるわしキノコであの頃の美貌もう一度って感じだったりして~」
「女心というやつか?」
しかし間もなく三人はとりあえずクエストのことは忘れて、ミミとイザヤールはサンディ言うところの「おデート」に行くことにし、サンディはスイーツで頭をいっぱいにして帰ったのだった。
それから数日後。ミミとイザヤールがベクセリアを訪れてみると、宿屋の簡易なバーカウンターで、新入りだという色っぽいバニーガールが働いていた。初めて会う筈なのだが、バニーガールは何故か二人にいたずらっぽくウインクし、小声で囁いた。
「この前はありがとね、お嬢ちゃん、お兄さん、バタフライマスクは気に入ったかい?おかげでまた現役に戻れたよ」
えええー!まさか?!ミミとイザヤールは驚愕したが、本当にうるうるうるわしキノコの力なのか、単に老婆に話を聞いたバニーガールにからかわれたのか、真相は今のところ藪の中なのであった。〈了〉
キノコ狩りシーズンがやってきた。その為なのかどうかは不明だが、セントシュタイン地方のげんこつダケや西ベクセリアのうるわしキノコもいつもより豊富に生えていた。錬金でよく使うので、これらのキノコは市場でもなかなかの人気だ。
ミミはこの頃よろず屋に頼まれて、げんこつダケとうるわしキノコを集めにしばしば出かけていた。今日もまずはセントシュタインの町からさほど遠くない採取地にやってきて、名前の通りげんこつの形に似ているゴロンとしたキノコを注意深くバスケットに入れた。
「ねーねー、前から思ってたんだケドさ、げんこつダケやうるわしキノコって食べられるワケ?」
ちょっとヒマだからとついてきたサンディが、バスケットの中を覗きながら尋ねた。
「げんこつダケは、食用でもあるけれど、うるわしキノコはどうだったかな・・・。そのまま食べるとお腹痛くすると思うな・・・。ほら、ウォルロのマッシュさんが作ったキノコの詰め合わせお弁当」
ミミが答えると、サンディは思い出してぽんと手を叩いた。
「あー!げんこつダケとうるわしキノコをそのまま詰めた『愛情キノコ弁当』!アレはダメダメだよねー、あのコのパパ、お腹痛くしてたもんね~。てゆーかさ、お腹痛くする時点でがっつり毒キノコじゃね?」
「加熱しないことでのお腹痛いかもしれないから、それはなんとも言えないけれど・・・」
ミミの場合、げんこつダケやうるわしキノコは、見つけたらすぐに錬金して他のアイテムに変えてしまうし、野営をしている際も、他においしい食用キノコはたくさん見つかるので、貴重な錬金材料のこれらをわざわざ食べる必然性も感じなかった。
「キノコの見分け方もね、見習い天使だった頃、イザヤール様が教えてくれたの」
ミミが微笑んで呟くと、サンディは目を丸くした。
「マジで?!雑学知識ハンパないんですケド!」
「ウォルロ村は山の地方だから、キノコがけっこう多いの。特に秋は、毒キノコを間違って食べて守護天使に助けを求める人が続出で、ウォルロでは絶対必要な知識だからって」
「へ~。・・・でもぶっちゃけ、毒キノコだろーがなんだろーが、どくけしそうと一緒に煮込めばオッケーじゃね?」
「だってそれじゃおいしくないんじゃない?」
「あ、そっか~。・・・ところで、今日はそのイザヤールさんは?」
「イザヤール様は、ベクセリアの町にキノコ図鑑を届けに行っているの。ベクセリアも、キノコ狩りする人多いんだって。後でうるわしキノコの採取場で待ち合わせなの♪」
「キノコ狩りデートぉ~?」
「で・・・デートじゃないもの、お仕事だもの・・・」
「あーハイハイ」
げんこつダケを集め終わると、ミミはさっそくアギロホイッスルを吹いて、天の箱舟で待ち合わせ場所まで移動した。
少し早すぎたので、ベクセリアの町から徒歩でここまで来なくてはならないイザヤールは、まだ来ていなかった。今頃、丈の高い黄金色のススキをかき分けるようにして、移動しているだろう。待つ間ミミと、そして「デートじゃないならアタシお邪魔虫じゃないよね~」とちょっぴりイジワルを言ってついてきたサンディは、うるわしキノコをせっせと集めた。
「ありがとう、サンディ。これくらい集めれば、今日届ける分はいいかな。そうしたら今日のお仕事はおしまい☆」
「安心してイザヤールさんとデートできるよね~」
「もうっ、サンディったら・・・!」
頬を赤くしてミミはうつむき、キノコ採取に夢中になっているようなふりをしたが、本当にこの後、愛しい彼とゆっくり過ごせるかもと思うと、濃い紫の瞳は潤んで輝きを増した。サンディはそんな様を見て黙ってニヤニヤし、イザヤールさんが来たら帰ってあげようか、それとももうちょいイジワルしてわざとついていこうかなと考えていた。
そんなふうにしばらく黙々とうるわしキノコを集めていると、誰かが近付いてきた。イザヤールの気配ではなかったので、誰だろうとミミは顔を上げた。見ると、痩せた老婆が、杖をつきつきゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
老婆はミミの前で歩みを止めて、ミミの愛しい人を想い潤んだ瞳と、薔薇色のいきいきした頬と、しっとりと艶つやした唇をしげしげと眺め、羨ましげに言った。
「あんれまあ、なんてカワイイ子じゃろう。やはり若さは潤いじゃのう、ぴちぴちしておる」
ミミは照れてまた顔を赤らめ、老婆に挨拶をした。老婆はにこにこ挨拶を返してから、うるわしキノコの生えている枯木を見つめ、ちょっとがっかりした様子で呟いた。
「ああ、今日も生えておらんかったか、うるうるうるわしキノコ」
「うるうるうるわしキノコ?」
ミミが首を傾げると、老婆は説明した。
「ごくごくたま~に、そうじゃのう、十年に一度くらいの確率かの、ものすごく瑞々しくて大きな『うるわしキノコ』の変種の、うるうるうるわしキノコという物が生えることがあるんじゃよ。それでパックをすれば、ワシのような干からびたばーさんも、お嬢ちゃんのようなぴちぴちギャル時代の潤いを取り戻せるんじゃよ」
「へえ・・・凄いんですね~」
十年に一度くらいの確率では、まだ地上に来て数年のミミが見たことがないのも無理もない。今のところ使う必要は感じないが、どんな物かは見てみたいなと彼女は思った。
「うるうるうるわしキノコは、巨大なマタンゴがたま~に落とすこともあるんじゃが、危なくて年寄りには取りに行けんでなあ」
そう言って老婆は溜息をついた。
「巨大なマタンゴなんているんですか?」
「そうじゃよ。隠れていて、めったに現れないがの。だがヤツは、キノコだけに湿気大好きじゃから、『水のはごろも』を着て、『レイニーロッド』を持って森をうろうろすれば、出てくるかもしれんのう」
巨大なマタンゴと聞いて、ミミはほんの少しためらった。以前やはりこの辺りで、変種のマタンゴにイザヤール共々たいへんな目に遭ったことを思い出したのである。・・・まあたいへんな目というより、結果的には濃密に甘い一週間となったのだが。
しかし巨大とはいえマタンゴには勝てるだろう。そう考えて、ミミは申し出た。
「私、これでも一応冒険者なんです。水のはごろもとレイニーロッドも持っていますから、よかったら巨大マタンゴのうるうるうるわしキノコ、探してきます」
「まあなんて優しい嬢ちゃんじゃろう。だがのう、いくらお嬢ちゃんが冒険者でも、一人で巨大マタンゴを探すなんて危ない目に遭わせるわけにはいかんよう」
老婆は心配そうに止めたが、ミミはにっこり笑って言った。
「一人じゃないんです。たぶん彼が、手伝ってくれると思います」
老婆がミミの目線の先を追うと、ベクセリアの町方向から、程よく逞しい体躯の剃髪の青年が歩いてくるのが見えた。それはもちろんイザヤールで、彼はミミとサンディに気付いて手を振ってから、老婆にも軽く会釈した。
「おやおや、またずいぶんと強そうなカレシさんじゃのう。ではお願いしちゃうかのう」
ミミはクエスト「うるうるうるわしキノコ」を引き受けた!
やってきたイザヤールに事情を説明すると、彼もまた快く引き受けて、巨大なマタンゴとうるうるうるわしキノコの捜索に加わった。森へ入ると、サンディがさっそくイザヤールをからかった。
「仕事中毒のミミがまたクエスト引き受けちゃって、デートが延期になって、イザヤールさん、がっかりしてナイ?」
するとイザヤールは、悠然と微笑んで、さらりと答えた。
「いいや。ミミに、後で帰って二人きりになったら、たっぷり埋め合わせをすると約束してもらった」
「埋め合わせの内容が、よい子には言えなさげでちょっとコワイんですケド・・・」
ミミは水のはごろもを羽織って、レイニーロッドを目立たせるように持って先頭を歩いていて、二人の会話を聞いていなかったが、前方に何かを見つけて、立ち止まった。
「どうした?」
「イザヤール様、あれ・・・」
ミミの指差す方をイザヤールも見ると、巨木と見えていたものはなんと、とてつもなく大きなマタンゴだった!ミミの装備につられて現れたようだ。
二人が身構えると、巨大マタンゴは、さっそく甘い息を吐いてきた!二人は左右に散って息をかわし、イザヤールは近くの木の枝を踏み台にして高くジャンプして、巨大マタンゴを笠から真っ二つに斬った!
しかし斬られたマタンゴは、巨大な二匹のマタンゴに分裂してしまった。
「通常攻撃は効かないか・・・」
軽く舌打ちするイザヤール、そこでミミがバギクロスを使うと、二匹の巨大マタンゴはよろめき怯んだが、ゴロゴロ転がって辺りの木ごと二人を押し潰そうとしてきた。
それもかわしてイザヤールはギガブレイクを放った!電撃は巨大マタンゴたちを黒焦げにし、そこへミミがバックダンサー呼びによる竜巻をぶつけると、巨大マタンゴたちはバラバラと崩れ落ちて、たくさんの普通サイズのマタンゴたちとなり、慌てて逃げていった。
「キングスライムみたいに合体してたんだ・・・」
逃げていくマタンゴたちを見ながら、ミミはちょっと驚いて呟いた。だが、一体だけ逃げていかないで地面に倒れたままのマタンゴが居た。マタンゴにしては胴が細いなと思って近寄ってみてみると、それはマタンゴではなく、マタンゴくらいの大きさのキノコだった。
念のため丈夫な麻の軍手に変えてそのキノコを持ち上げてみると、笠から滴り落ちんばかりに、襞のあちこちに露のような水滴の粒が光っている。そして軸は、水でもなく油でもない、ちょうど化粧水みたいな感触でしっとりしていた。ミミは「うるうるうるわしキノコ」を手に入れた!
「思っていたより早く片付きそうだな」
笑って呟くイザヤール。
「イザヤール様が手伝ってくれたおかげなの。ありがとう!」
輝くような笑顔で答えるミミ。
「おデートできるじゃ~ん、よかったね~」
サンディはまた茶化したが、「姉」とスイーツを食べる約束をしていたことを急に思い出して、早く帰れることになりそうでホントによかったと思ったのだった。
老婆は、ミミたちがもう戻って、しかも頼んだ物を持って戻ってきたことに驚き、喜んだ。
「おお、これはまさしくうるうるうるわしキノコ!お嬢ちゃんにお兄さんや、本当にありがとうね。お礼と言っちゃなんだが、ワシの若い頃使っていた装備品をあげるよ」
老婆はお礼にと、「バタフライマスク」と「ピンヒール」をくれた!受け取ってちょっと困惑したミミとイザヤールをよそに、老婆はうるうるうるわしキノコを持って、帰っていった。
「お婆さん、もしかして昔社交界のバラだったのかな・・・?」
「それでうるうるうるわしキノコであの頃の美貌もう一度って感じだったりして~」
「女心というやつか?」
しかし間もなく三人はとりあえずクエストのことは忘れて、ミミとイザヤールはサンディ言うところの「おデート」に行くことにし、サンディはスイーツで頭をいっぱいにして帰ったのだった。
それから数日後。ミミとイザヤールがベクセリアを訪れてみると、宿屋の簡易なバーカウンターで、新入りだという色っぽいバニーガールが働いていた。初めて会う筈なのだが、バニーガールは何故か二人にいたずらっぽくウインクし、小声で囁いた。
「この前はありがとね、お嬢ちゃん、お兄さん、バタフライマスクは気に入ったかい?おかげでまた現役に戻れたよ」
えええー!まさか?!ミミとイザヤールは驚愕したが、本当にうるうるうるわしキノコの力なのか、単に老婆に話を聞いたバニーガールにからかわれたのか、真相は今のところ藪の中なのであった。〈了〉
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます