セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

銀の手鏡

2013年10月26日 03時05分04秒 | クエスト184以降
今週も更新遅れてすみませんの捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。ハロウィンと言うと魔のものに関する行事ですので、ちょっとダークなお話を一つくらい書きたかったのですが、ダークどころかマイルドに守護天使らしい事をしている当サイトイザ女主(笑)天使亡き今、長いことさ迷える魂の解放も、地上の守り人の大切な役目のひとつかなと思っています。実は当初もっと怖い感じの話を考えてましたが(ポーみたいな)グロくなっちゃいそうなのでやめました~。

 ハロウィンも間近なある日、ミミとイザヤールはとある古屋敷の調査を、持ち主である若い貴族に依頼された。
「私の曾々祖父の別宅でしてね。・・・訳あって娘の一人を住まわせていたそうです。いい具合に古めかしいので、ハロウィンパーティーをするのにお誂え向きな雰囲気だと思って久々に使うことにしたんですが・・・その、ね、出るらしいんですよ」
「出る?」
「幽霊です。その娘のね。まあ実害は無いし、伝統ある屋敷の証明みたいなものですけれど、やはり気味が悪いですからね。確かめてみてくれませんか」
「どうしてその方はご家族と離れてお一人でこのお屋敷で暮らしていたのですか?」
「病気療養中だったらしいですが、詳しいことは私にもわかりません。肖像画で見ると、ものすごく綺麗な子だったらしい。鏡を眺めてばかりいたという話が残っています。それで・・・」
「それで?」
「病気でその美貌は台無しになり、曾々祖父は娘がそれを知らずに済むよう、屋敷中の鏡を処分したそうです」
「そうですか・・・」
 それではお願いしますねと言い残して貴族は引き上げた。
 そんな訳でミミとイザヤールは屋敷の中を調べ、夜は泊まり込みをすることになった。幽霊は、例外もあるが大概夜に出るものだからだ。
 屋敷の中の調度品は、手入れがされていないせいでもうほとんど使い物にならなかったが、かつては優美で贅沢な品々だったことを彷彿とさせた。パーティーに使われることに備えて邸内はある程度清掃されていたが、それでも歳月の重なった特有の匂いが、そこはかとなく漂う。
 二人は座ってもなんとか大丈夫そうな長椅子に腰かけた。見上げた高い天井から下がるシャンデリアは、蜘蛛の巣をまとって煤け、それが鈍い灰色のベールのように見えた。
「一人で暮らすには、広すぎるお屋敷だって思っちゃう」
 ミミが呟き、イザヤールはかすかに笑って頷いた。元々天使たちの生活は、快適だが質素なものだった。むしろ過剰に華美すぎる人間の生活が、理解し難く感じることもある。
「まあ使用人は居ただろうがな」
「でも、寂しかったかもね・・・」
 それから二人は再び邸内の調査を続け、魔物や他の生き物などが潜んでいないことも一応確認した。これで幽霊の噂は、人為的ないたずらや他の原因ではなさそうだということは判明した。つまり本物の可能性が高いわけだ。まあ幽霊の存在を確認したければ、この二人の場合は現れるのを待てば答えは完全に出るわけだが。そうしている間に日は暮れて、夜になった。
 調度品から、娘が主に使っていたらしいと推測した一室で、二人は待ってみることにした。すると程なく、部屋の扉が軋んで開き・・・なんと、パンプキンヘッドをかぶった姿の何者かが、現れた!

 てっきり美少女の幽霊が現れると思っていたので、この姿に遭遇するとは想定外だったミミとイザヤールは、さすがに驚いた。
「あなたは・・・」
 ミミがようやく口を開くと、それは可愛らしい声で話しかけてきた。
『お客様ね、いらっしゃい。私のお家にようこそ』
 やはり噂の幽霊らしい。だがこの姿はいったいとミミとイザヤールが首を傾げると、彼女はパンプキンヘッドの頭を垂れて言った。
『ああ、これ?もうすぐハロウィンでしょう?だからパパが買ってくれたの』
 ミミとイザヤールは顔を見合わせた。少女にとっては、時は死ぬ直前のままなのだろうか。
『でもね、鏡が無いの。私があんまり鏡ばかり見ていたから、パパが全部片付けちゃったの。仮装した姿を見られなくて、つまらないわ』
 少女の父親は、鏡を隠した理由を、そう説明したようだ。ではこの子は今もなお自分に何が起こったのか知らないのだと、ミミは痛ましい思いで見つめた。
『鏡が無いの』少女は再び言って、悲しげにパンプキンヘッドを振った。『せめて、お気に入りの銀の手鏡だけでも、あればいいのに。私、ずっと探しているのに、見つからないの』
 その手鏡を見つけられない為に、彼女は地上に縛られているのかもしれないと、ミミとイザヤールは小さく頷き合った。それなら。
「探すお手伝いしましょうか?」
 ミミが申し出ると、少女は胸の前で手を組み、ぴょんぴょん跳ねた。
『ほんとに?ありがとう!助かるわ』
 ミミはクエスト「銀の手鏡」を引き受けた!

 手鏡は、案外容易に見つかった。少女の父親の部屋らしい場所の、朽ちかけた書き物机の中に入っていた。隠し引き出しにしまわれていたのだろう。美しい花の模様が浮き彫りになっている筈のその鏡は、すっかり黒ずんで模様も見えず、何も映すことさえしなかったが。
 さっそくそれを少女の幽霊のところに持っていくと、彼女はパンプキンヘッドの頭をぶんぶん振った。
『これじゃないの。私のは、もっとぴかぴかしていて綺麗な、銀の鏡よ』
 少女にとっては時間が経っていなくても、物質は朽ちていくから、鏡が古びるのは仕方なかったが、違うと言われてミミは困ってしまった。それで少女は、たとえ目の前で見かけたとしても、自分の手鏡に気付かなかったのだろう。
「ミミ、『ミスリルこうせき』と『かがみ石』と『みがきずな』を使えばおそらく大丈夫だ。以前時代物の鏡をそれで修復したことがある。材料を揃えて出直そう」
 イザヤールの言葉にミミは安堵して頷いた。少女の幽霊にすぐに戻ると告げ、二人は一旦屋敷を出た。ミスリル鉱石とみがきずなは持っていたが、あいにくかがみ石は切らしていたので、採取してからリッカの宿屋に戻り、カマエルのところに向かった。
 カマエルに手鏡とミスリルその他を入れると、「カマエルはいつも通り「それでは錬金を始めさせて頂きます」と言った。違う物になってしまったらどうしようとミミはちょっとドキドキしたが、イザヤールとカマエルを信じてじっと待っていると、ピカピカになった銀の鏡が出てきたので、ほっと胸をなでおろした。
「ありがとう、イザヤール様、カマエル」
 それから急いで屋敷に戻ったが、かがみ石を探した分時間がかかってしまったので、既に夜が明けてしまい、少女の幽霊の姿は邸内のどこにもなかった。
 だが、邸内を探し歩いているうちに、地下の墓所らしい場所にやってきた。ここは別邸の為か、少女の物だろう、石棺がひとつだけ、部屋の中央に置かれていた。
 墓暴きをするつもりはなかったが、棺の蓋が少し開いていたので、ミミはイザヤールの手を思わず握りしめながら、おそるおそる中を覗き込んだ。そして、色褪せているとはいえ、パンプキンヘッドらしい物が見えたので、はっと目を見開いた。
 イザヤールが棺の蓋を大きくずらすと、そこにはパンプキンヘッドとドレスをまとった、幽霊とそっくり見た目の同じ遺骸が、横たわっていた。胸の上で組んでいる手も手袋で覆われているので、骨になっているかミイラ化しているのかは、さっぱりわからない。何故パンプキンヘッドをかぶせて埋葬したのかは不明だが、おそらく顔を隠してやりたかったのと、少女が生前気に入っていたからだろう。確認を終えると、二人は祈りを捧げてから蓋をきちんと閉めた。
 これで少女が埋葬時の姿で幽霊になったことはわかった。おそらく彼女には死んだ自覚が無いのでそんなことになったのだろう。二人は、少女の部屋に戻って、夜になるのを待つことにした。

 日が沈み、邸内が闇に包まれ、持参したランタンの明かりだけになると、やはり少女の幽霊は現れた。彼女は、ミミが持っている銀の手鏡を見て、弾んだ声を上げた。
『私の手鏡!ありがとう!』
 さっそくと彼女は、鏡を覗き込んだ。そこにはやはり、ドレスを着たパンプキンヘッドが映っている。彼女はかぼちゃ姿の自分にくすくす笑ってから、パンプキンヘッドを外そうとしたが、亡霊の身でそれが叶う筈もない。
『なんで、なんで?私、私の顔を見たかったのに。ようやく見られると思ったのに、どうして?ねえ、取って、これ、取ってよ!』
 ミミは、不憫さで濃い紫の瞳を潤ませながらも、静かに首を振った。
「それは、できないの」
 ミミの言葉に、少女の幽霊は泣きそうな声で尋ねた。
『どうして?』
「あなたは」ミミは静かな、だがきっぱりした声で告げた。「もう生きている人間ではないから」
『嘘・・・』
「嘘ではない」イザヤールも、静かに口を開いた。「私たちについてくれば、わかる」
 ミミとイザヤールは、少女を地下墓所まで連れていった。
『ここ・・・お墓みたいで怖かったから、近寄らなかった。ほんとにお墓だったのね・・・』
 少女は呟き、イザヤールが再び開けた棺の中を見て、そこに己が横たわっているのを見出だした。
『ね、これ、取って』
 少女は、棺の中のパンプキンヘッドを指差した。
 ミミはためらい、呟いた。
「あなたの知っているあなたの、綺麗な顔ではないと思う。見ない方がいいわ」
『でも、見たいの』少女の幽霊は、パンプキンヘッドの頭を振って、言った。『そして、これを取りたいの』
 ミミは頷いて、そっとそっと、どこも傷つけないよう優しく、棺の中の方のパンプキンヘッドを外した。少女の容貌を奪った病の痕が無いか心配したが、歳月はそれどころか、彼女の顔を雪のように真っ白な骸骨に変えていた。
『私・・・。ホントに死んでるんだ・・・』少女の幽霊は呟いた。それから、くすっと笑い声を立てて、言った。『私、骨も綺麗ね、そうでしょ?』
 ええとても、とミミが頷くと、少女の幽霊はまた笑い声を立てて、その途端に光が彼女を包み込んでいった。そして、幽霊の方の顔を覆っていたパンプキンヘッドが消えて、あどけなく美しい顔が、表れた。
『今度も、綺麗な顔に、生まれてこられるかしら・・・』
 ありがとう、その声を最後に、少女の幽霊は天へと昇っていった。ミミとイザヤールは、今や銀色に輝く手鏡を少女の亡骸の組んだ手に持たせてやり、棺の蓋を閉めた。

 夜が明けて、幽霊の件は片付いたのでもう安心していいと、屋敷の持ち主の貴族に伝えると、彼は安堵と残念さが入り交じった顔がした。それでも報酬の「ソーサリーリング」は惜しげなくくれた。
「それはそれは。まあ美少女の幽霊が居るのも悪くなかったような気もしますが・・・一回くらい見ておきたかったなあ」
 パンプキンヘッドをかぶった美少女の幽霊だった、ということは言わぬが花だろう。ミミとイザヤールは、顔を見合わせ、こっそり笑みを交わした。〈了〉
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