セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

淡雪

2015年07月14日 23時59分52秒 | 本編前
天使界時代、暑いので冷たいもの食べて頭キーンとなる話(笑)

 エルマニオン地方の守護天使が、雪をいっぱい詰めた袋を、土産だ、と言ってくれた。天使界は地上と違って年中快適な気候だったが、それでも厳しい特訓を終えた後などの冷たい氷菓は、殊に見習い天使たちの大きな楽しみだった。弟子のミミが喜ぶだろうと、ウォルロの守護天使イザヤールは、ありがたく受け取った。
 急いで自室に戻って袋を開けると、外側は溶けないようにがちがちに凍らせて固くしてあったので、ちょうど碗二杯分くらいの雪だけがふんわりと柔らかだった。ミミの分を器に盛り、レモンを絞って蜂蜜をかけると、イザヤールは中庭で熱心に素振りをしていた弟子を呼んだ。
「ミミ、休憩だ。・・・溶けないうちに、来なさい」
 なんだろうとミミは急いで部屋に入ってきて、器に盛られた雪を見て濃い紫の大きな瞳をより大きく見開いた。その瞳が嬉しそうに輝くのを見てイザヤールも微笑んだ。
 レモンの爽やかな香りが漂い、蜂蜜は白い雪を背景に金色にとろりと光っている。ミミは、器を前にしばらくうっとりとみとれた。
「早く食べなさい。溶けてしまうぞ」
 ふっと笑ってイザヤールが言うと、ミミは慌ててスプーンを手に持ったが、まだ食べずに心配そうに尋ねた。
「あの・・・イザヤール様の分は?」
「私は、こっちの方がいい」
 イザヤールは、固く凍った部分の方を軽く砕いてグラスに詰め、琥珀色の酒を注いでいたずらっぽく笑った。
 イザヤール様ってやっぱり大人だなあ・・・と、憧れの眼差しで見てからようやくミミは、「いただきます」を言って食べ始めた。口の中で、甘酸っぱい雪は淡くすぐに溶け、全身をすうっと清涼感が駆けめぐっていく。
 その味と感触をじっくり味わい、ゆっくり食べていた彼女だが、器の中でみるみる溶けていくことに気付き、焦ってせっせと口に運び出した。喉が一気に冷えていく。
「あっ・・・」
 ミミが小さく声を上げた。一気に食べた為、頭がキーンと痛くなったのだ。人一倍痛みが怖くて苦手な彼女は、スプーンを握りしめたまま硬直してしまった。
「頭が痛くなったか?」
 心配そうな、だがかすかにおかしそうな表情で、イザヤールはグラスを置いて、弟子の顔を見つめた。そんな眼差しが眩しくて、そして恥ずかしくて、ミミは目を伏せた。雪を使って粋にお酒を飲み、しかもだらしなく酔ったりしない、大人な師に比べて、冷たいものを食べて頭を痛くする自分が、余計にひどく子供っぽく思えた。・・・こんなに近くに居るのに、なんて遠いんだろう・・・。
 ミミの切ない顔に、そんなに痛いかとイザヤールは心配になって、笑顔を完全にひっこめて優しく頭をなでて言った。
「その痛みは、本当は痛みではないぞ。咽頭を急激に冷やしたことで、そこに集まっている神経が混乱を起こして、痛みと認識してしまっているだけだから。どこも悪いわけじゃない、大丈夫だからな」
 安心させようと懸命に言ってくれる言葉が嬉しくて、ミミはこくりと頷いた。
「もう、痛くないです、イザヤール様」
「そうか、よかった」
 でも、心は痛いの・・・。早く、大人になりたい・・・。ミミは内心呟き、ますます目を伏せ、器に溶けた雪を、見つめた。〈了〉
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