セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

ある雪の日

2013年12月18日 01時24分37秒 | 本編前
天使界時代、雪の日の師弟話です。お互い切ない想いを隠しつつ、のいつもパターンでございます。イザヤール様、そのうちエルマニオン雪原のみたいな雪スラだるまも作ってくれそうです。文中の「雪の絵遊び」は正確な名前を知りませんが、アメリカのちびっこの冬の遊びらしいです。気を付けないと雪の中の何かに頭ぶつけそうですが、一回はやってみたいもんです。南関東じゃあ夢のまた夢・・・。

 山間地方であるウォルロは、豪雪地帯ではないとはいえ、冬は雪への備えも必要となる。守護天使にとって雪は、なかなか厄介な代物でもあった。備えの煩雑さだけでなく、飛行中に吹雪に遭えば、翼が凍りつき落下の危険もあったからだ。
 ウォルロの守護天使イザヤールも、以前は雪をどちらかと言えば厄介なものと認識していた。師であるエルギオスに、初めて雪が降る中地上に連れて来てもらった感動は、何百年も経った今も決して忘れていなかったが、それでも守護天使として人間を守る義務感が優先されていて、長いこと雪を楽しむという感覚を忘れていた。
 そんな彼が、また雪を眺めるのを楽しむようになったのは、やはりと言うか皮肉にもと言うか、自らの弟子を持ってからだった。白くふわりと軽く冷たいものは、水の変化した物質で、次から次へと降り注ぐのだと、地上の気象現象の説明をした時に、弟子のミミは、美しい濃い紫の瞳を見開いて、その様を懸命に想像していた。
「雪は、羽が、たくさんたくさん落ちてくるような感じなのですか、イザヤール様?」
 ミミにそう言われて、確かに灰色の空から無数の羽が降り注ぐようだと彼は思い、頷いた。実際に見せてやりたいとしみじみ思った。それからは、雪の日に地上に行く度、たまにふと空を見上げ、降り注ぐ雪を眺めて純白の羽を思い、誰も踏み荒らさない雪のやわらかな白さと清浄さを、美しいと思った。
 それから何年も経って、ミミが地上の知識をいくらか付けた頃、彼女をようやく雪のウォルロ村に連れて行ってやることができた。ミミは空から無数に降る羽のような雪にみとれ、積もったやわらかな雪におずおずと足を入れ、イザヤールが自分の黒いアームカバーに落ちた雪の結晶を見せてやると、感激して瞳を輝かせた。
 彼女が思わずほうと溜息を吐くと、その熱で黒い布地に落ちた雪の結晶は、たちまち小さな水滴へと変わってしまう。その(彼女にとっては)うかつな行動を悔やんで、ミミがしょんぼりした顔になると、イザヤールは優しく笑って、また自分の腕に新しい雪の欠片を落として見せてやるのだった。
 もちろん、そんな遊びのような学習だけではない。積もった重さで潰れそうな小屋の屋根から雪を退かしながら、彼は弟子に説明した。
「我々にとっては美しいものでも、こうして生活に害を与えれば、人間にとって邪魔なものにもなる」
 ミミは真剣な顔で頷く。雨も、日照りも、どんなに美しくても、過剰になればそれは厭わしいものになるのだと、雪でひしゃげた板を見て実感できた。
「人間たちが、雪を美しいものだと思い続けられるよう、手助けできたらいいな・・・」
 思わず呟いてからミミは、まだ守護天使にも全然遠い見習い天使なのに、なんて生意気なことを言ってしまったのだろうと、真っ赤になってうつむいた。だが、そんな彼女の頭を彼は優しくなでて、微笑んで頷いた。
「その通りだ。その思い、守護天使になっても忘れるな」
「・・・はい」
 今度は嬉しくて涙がこぼれそうになって、ミミはうつむいたまま頷いた。
 それから、イザヤールが村を巡回するのを待つ間、ミミは村の子供たちが雪遊びをするのを楽しそうに眺めていた。雪合戦に雪だるま作り、そして雪の「絵」遊び。木の切り株からやわらかな雪に飛び込んで、自分たちの形を付けたのを、絵と読んでいるらしい。
 自分もちょっとやってみたくなってミミは、人目に付かない木陰の雪に、そっと仰向けに倒れてみた。そろそろと起き上がって見てみると、雪の中に小さな翼の着いた人の形がくっきり記された。これだけのことだが、とても楽しい。そして、新雪はとてもふわりとして優しい感触だった。
 ミミは、もう一度雪の中に仰向けに倒れ、今度はすぐ起き上がらず目蓋を閉じた。イザヤール様の翼に包まれたら、こんな感じなのかな・・・。でもきっと、彼の翼はもっとやわらかくて、とてもあたたかいのだろうと、幻のぬくもりに思いを馳せる。
 だがそれも一瞬で、急いで身を起こす。イザヤール様に見られたら、倒れたと心配されるか、子供っぽいことをすると呆れられるか、どちらかだろう。我に返ってしょんぼりした気分になり、服に着いた雪を払い、小さな翼を震わせて粉雪をはたき落とし、雪の上の小さな天使形を消そうと手で雪を掻いた。
「雪の絵遊びか、ミミ?」
 だがいつの間に来たのか、イザヤールが笑って、雪の上の可愛い形を眺めていた。ミミがまた真っ赤になると、イザヤールは雪に着いた天使形の傍に片膝を着き、名残惜しそうに形に手を滑らせた。
「とっておいてやりたいが・・・天使の形があると驚かれるだろう。すまないが、消すぞ」
「いえ、元々消すつもりで・・・と言うか、おとなしくお待ちしなくて申し訳ありませんっ・・・」
 真っ赤になってしどろもどろに言うミミが、可愛い。イザヤールは、雪をさらさらとすくっては落とし、ミミの雪に残した輪郭を優しくなでては消した。まるで愛撫するかのように。消えていく形に、僅かに彼の顔に憂いが浮かぶ。
 先ほど、白い雪に包まれて目を閉じていたミミを、捕まえ、抱き上げたかった。抱きしめたら、彼女は溶けてしまうのではないのかと思うほど、胸の中が熱かった。その熱を鎮めるように、静かに雪を均す。
 やがて、ミミの寝そべった場所がすっかり平らになると、イザヤールは呟いた。
「ちょうど雪も止んだから、そろそろ帰ろうか」
「あ、はい・・・」
 残念そうなミミに、イザヤールは囁いた。
「また連れて来よう。・・・今度は、私もこっそり雪だるまでも作ってみるか」
 やっぱりイザヤール様は、とっても優しい。嬉しい・・・。でも、子供っぽいと思われているようで、ちょっぴり悲しい・・・。ミミは、濃い紫の瞳を潤ませて、また睫毛を伏せた。〈了〉
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