セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

まぼろしのベール職人

2013年06月01日 00時03分10秒 | クエスト184以降
本日は時間ギリギリ過ぎてしまってすみませんの更新捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。もうすぐ6月なのでブライダルネタ?しかし当サイトバカップルのにあらず。シルクのベールはドラクエ5登場アイテム。職人の技が気になります。

 もうすぐブライダルシーズンがやってくる。ロクサーヌの店にとっては、高額商品が売れる書き入れ時である。今年も既に、何点ものウェディング衣装一式が売れていた。
 よってほくほく顔の筈のロクサーヌだったが、どういう訳か逆に憂い顔をしていた。まあ憂い顔とまではいかなくても、ヤドロク会に脅された芝居をした時のような、浮かない顔をしていたのである。基本笑顔の彼女にしてはなんとも珍しい。
「ロクサーヌさん、何か心配ごとがあるの?」
 気になってミミは尋ねた。もっともロクサーヌは、どんな困難があっても感情コントロールが完璧にできる、強固かつ柔軟な意志の持ち主である。この顔とて、頼みごとを円滑に承諾してもらう為のポーズである可能性は大いに高い。それがわかっていてもミミはロクサーヌのことが好きだったし、いずれにせよ彼女が何か困ったことを抱えているのは確かだった。
「ミミ様、ご心配おかけしてしまって申し訳ございません。ミミ様たちのおかげもございまして、このロクサーヌ、受注して入荷できない物はないと慢心しておりましたの。その鼻が、どうやらとうとうへし折られてしまいそうですわ」
「ロクサーヌさんが手に入れられないなんて・・・いったい何を注文されたの?」
「シルクのベールですの」ロクサーヌは説明を始めた。「でも、通常販売しているシルクのベールではなく、特別なシルクで作られた、特注品のシルクのベールですわ。これを作れる職人は世界に一人と言われています。ところが・・・その職人はもう先年亡くなってしまい、跡を継いだ職人のお弟子さんも、特別な方のシルクのベールの秘密の材料をご存知ないそうですの。だから作れないと断られましたわ」
「そうなんだ・・・。亡くなった職人さん、せめてレシピを残してくれればよかったのにね」
 ミミが同情して頷くと、ロクサーヌは小さく溜息をついた。彼女にしては本当に珍しい。
「全くですわ。今回ご注文くださったお客様は、火事でご両親の形見の特別なシルクのベールを失ったから、せめて同じように作られたベールで式を挙げたいと、特に強い思い入れですのよ。そんなご注文こそ叶えて差し上げたいのに、できないなんて。我ながら不甲斐ないですわ」
「ロクサーヌさん・・・」
「亡くなった職人の方の幽霊にでも、お尋ねできたらよろしいのですけれど」ロクサーヌは呟いて、自分の冗談に苦笑した。「こんな詮のないことを言うなんて、私らしくありませんわね?」
 しかしミミは笑わなかった。
「幽霊・・・そう、幽霊に聞ければいいの!確実ではないけれど、ロクサーヌさん、私、できるだけのことしてみるわ!」
 ミミが瞳を輝かせて立ち上がると、ロクサーヌは驚いて、しかし僅かに希望が湧いたのかいつもの笑顔が戻ってきた。
「お手伝いくださるの?ありがとうございます、ミミ様!やはり持つべきものは頼れるパーティリーダー友ですわ☆」
 ミミはクエスト「まぼろしのベール職人」を引き受けた!

 さっそくロクサーヌからベール職人の家の場所を尋ね、ミミはその家に向かった。跡継ぎの弟子はまだその家で暮らしていて、ベールも作っていたが、特別なシルクのベールを作ることはやはりできないようだった。
「親方が亡くなってから、自分でもあれこれ試したんだけどな」彼は悲しげに言った。「どんな最高級の絹を使っても、親方の作った特別なベールのあの風合いがどうしても出ないんだ。親方は、その秘密を文字通り墓場にまで持って行っちまった。・・・俺の力量じゃあ、一生かかっても親方を越えられないのかもな」
 ミミは、彼が作りかけている作業台の上のベールを見つめた。それらは、綺麗な物が好きなミミの目から見れば充分以上に、繊細で美しかった。
「そんな・・・。あなたの作るベールだってとっても綺麗なのに」
「ありがとう、お嬢さん。でもな、親方の作った特別なシルクのベールは、本当にもっと凄かったんだよ」
 それからミミは、彼に職人の墓の場所を聞いて、改めて夜にそこを訪ねることにした。

 一度リッカの宿屋に戻ると、天の箱舟のメンテナンスを手伝っていたイザヤールが自室に帰ってきていた。
「おかえり、ミミ」
「ただいま、イザヤール様。そして私からも、おかえりなさい♪箱舟の調子はどうだった?」
「どうやら順調らしいぞ。サンディが『これでアストルティアもイケるわ☆』と言っていたが、いったい何のことだ?」
「??さあ?・・・それはそうとイザヤール様、私、夜も出かけることになったの」
 ミミは、受注したクエストのことと、死んだベール職人に会うために、夜に改めて彼の墓場に行くつもりであることを話した。
「当然私も連れて行くよな?」囁いて、イザヤールはミミに腕をそっと回して引き寄せた。「夜は死者の霊だけでなく、魔の者もたくさんさ迷うからな。心配だ」
「イザヤール様、私、魔物相手なら大抵勝てるの、知ってるでしょ?」
 ミミが笑って答えると、イザヤールは僅かに憂いを浮かべた瞳で呟いた。
「モンスターだけが、魔の者ではないぞ。・・・夜は・・・生者を引き込むもので溢れている・・・」
 だから、強面で連れて行かれそうもない護衛が必要だろう?憂いから冗談めかした笑みに表情が変わって、イザヤールは更に強くミミを引き寄せた。
「イザヤール様、心配し過ぎ」
 ミミは微笑んだが、一緒に来てくれるのは嬉しかったので、頬を染めて抱きしめ返した。

 すっかり日も沈み、月と星の灯りだけが頼りの時間となると、ミミとイザヤールは改めて職人の墓に向かった。それは、彼の家からほど近い場所に建てられていた。
 だが、職人が幽霊として現れる保証はどこにもない。この世に思い残すことがなければ、留まる筈もないのだから。
「特別なベールの秘密の材料を教えたいと思って来てくれればいいけれど・・・」
 ミミが呟くと、イザヤールが何かに気付いてはっとし、彼女をかばうように前に出た。墓石の側にいつの間にか、厳つい顔の中老の男が立っている。それが人間ではなく元人間の幽霊であることに気付き、彼は思わず苦笑した。
「ミミ、どうやら目当ての人物に会えたようだぞ」
 イザヤールの言葉にミミが男の幽霊を見つめると、幽霊は寂しげな笑いを浮かべて言った。
「勘違いしないでくれ、天使様。わしはな、もう特別なベールは作ることは不可能だと伝えに、今夜だけ戻って来たのさ」
「?!どうして、私たちのことを・・・」
 ミミが目を見開くと、男の幽霊は答えた。
「わしは星ふぶきの夜の前に死んだからな。あんたたち天使のことは覚えているよ」
「そう・・・。どうして、もう作れないの?」
「そりゃ材料が無いからさ」
「材料?」
「特別なベールはね」職人の幽霊は、どこか遠い目をして言った。「空から落ちてきた、『天使の羽』を織り込むことで、独特の風合いと、そして天使の祝福の力を、人間の幸せを守護する力をも織り込んでいたんだよ。だがな、天使はもう居ない。天使だったあんたたちも、翼を持っていない。だから、二度と作ることはできないのさ」
「そんな・・・」
「錬金で作った羽では駄目なのか?」
 イザヤールが尋ねると、幽霊は悲しげに首を振った。
「確かに風合いはかなり近いものはできるだろうがね。やはり本物の天使が落とした、本物の羽には敵わないと思うよ。・・・作った羽には、人間を守りたいという思いまでは、宿らないからね」
「そう・・・ですか・・・。それでも、よかったら特別なベールの作り方を教えて頂けませんか?」
「それは構わないが、どうしてだい?」
 そこでミミは、母親の形見のベールを失い、同じようなベールで幸せへの一歩を踏み出したいと願う花嫁が居ることを話した。
「・・・そうか。その花嫁さんの母親のことなら、よく覚えているよ。彼女とその夫は、駆け落ち同然で家を飛び出したから、ほぼ無一文でな。でも夫は、懸命に働いて、せめてベールだけは最高に綺麗な物を着けさせてやりたいと、血の滲むようなお金を握りしめてやってきた。それにほだされて、だいぶ割引してやっちゃって、俺はしばらく晩酌抜きだったさあ」
 そう言って幽霊は笑った。笑うと別人のように温かく、人懐っこい顔になった。
「お願いします、その二人の娘さんの為にも、特別なベールの作り方を教えてください。必ずお弟子さんに伝えますから」
 ミミが頼み込むと、職人の幽霊は頷いた。
「よしよし、わしが直接弟子の夢枕に出て伝えてやるよ。あんたたちは、錬金のものでもいいから、天使の羽を何枚か手に入れてきておくれ」
「・・・もっといい物が手に入るかもしれない」
 イザヤールがほとんど聞こえないくらいの声で呟き、ミミはあ、そっかと手を叩き、二人は顔を見合わせてにっこり笑った。

 再び場面はリッカの宿屋となった。ただし、ミミとイザヤールはカマエルの前ではなく、ラヴィエルの前に立ち、拝み倒すように頼み込んでいた。
「お願いラヴィエルさん、本物の天使の羽の方がいいらしいの。お風呂の時に抜けたのでいいから、お願い」
「ラヴィエル、たまには天使らしく、人間の役に立ったらどうだ」と、これはイザヤール。
「お安いご用だが、イザヤールの言うことを聞くのは少し癪だな」ラヴィエルは腕を組んで顎を少し上げた。「イザヤールが丁寧な口調で頼んでくれたら考えてもいい」
「・・・。ミミとロクサーヌと親の形見を無くした花嫁の為に、羽を分けては頂けないか、ラヴィエル」
「・・・ま、いいだろう。後で焼肉おごってねお兄ちゃん」
「・・・だからその棒読みで『お兄ちゃん』はやめろ」
「お酒も付けてねお兄ちゃん☆」
「可愛いぶるのはもっとやめろ!」
 ともかくなんとか本物の天使の羽は手に入ったので、翌日ミミとイザヤールは職人の弟子の所を訪れると、彼はいきいきした顔で待っていた。
「やあ、お嬢さんか!昨晩親方が夢に出てきて、特別なベールの作り方を教えてくれたんだよ!夢には違いなくても、なるほどこのやり方ならうまくいくさ!それにお嬢さんが特別な材料を持って来てくれるって、親方は夢の中で言ってたけど・・・?」
 ミミが「天使の羽」を差し出すと、彼は大喜びでさっそく作業に取りかかった。

 ミミがロクサーヌに特別なベールが再現できそうなことを伝えると、彼女もまたとても喜んだ。
「さすがですわミミ様!本当にありがとうございます!」
 ロクサーヌはお礼に「白いシルクハット」をくれた!
「うふふ、いつか必要なミミ様のウェディングドレスとベールはきっと、イザヤール様とミミ様お二人でデザインされるでしょうし、私たちみんなで作らせて頂きますから、今日はとりあえずこちらをお礼にしておきますわ☆」
「あ・・・ありがと、ロクサーヌさん・・・」
 ミミは頬を染めてうつむき、イザヤールは照れくさそうな顔になり、それでも二人はそっと寄り添った。いつかなのか近いうちなのかはまだわからないけれど、必ずやって来るだろうその日を想うと心があたたかくなる。互いにそうだといいと視線を合わせて、大丈夫だと確認して、二人は優しく微笑みを交わした。〈了〉
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