セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

帰らぬひとへ〈1〉

2019年02月11日 01時04分07秒 | 本編前
イザヤール様帰還記念話第一弾。エルギオス様がいなくなった後の弟子を取る前の頃なので、少し尖っているというかどことなく心閉ざしているイザヤール様です。「帰らぬひとへ」未だに帰らないひと、もう帰らないひと、天使界のみなさんはエルギオス様をもう帰らないひとと思っていたわけですが、この頃のイザヤール様が「未だに」帰らないと思っていたのは正しかったけど、それだけに切ないですね。

 地上を離れる頃にはもうすっかり夜も更けていた。ウォルロの守護天使イザヤールは、傷だらけの体に無造作に薬草を使ってから、天使界に戻るべく地面を蹴って飛び立った。
 今日彼は、この地の人間を長いこと苦しめていた恐ろしい魔物を死闘の末に倒し、人間たちの感謝の念である星のオーラをたくさん手に入れた。しかしそれを誇る思いも何も無く、彼の表情は感情をほとんど浮かべていなかった。
 天使界に戻ると、地上への出入口を管理する天使が驚きの声を上げた。
「どうしたの、その姿!早く治療に行きなさい!」
「大袈裟だ。もう傷口も塞いだ」
「無茶をして・・・。師匠の二の舞になるつもり?」
 口にしてしまってから彼女は、失言に気付いて顔色を変えたが、イザヤールの表情は少なくとも表面上は変わらなかった。そのまま彼は、長老の間へと向かった。
 長老オムイは、無造作な治療の為にまだあちこちに傷が残っているイザヤールの姿に少し眉を上げてから、回復魔法をかけてくれた。
「ほれ、いくら若いとはいえ、きちんと治療せんとトシを取った時に辛いぞ」
「お手数お掛け致しました」
 イザヤールは丁寧に頭を下げたが、自分の怪我のことなど頓着していないように見えた。そんな若き守護天使の姿に、オムイは密かに心を痛めた。
 イザヤールが無茶とも言えるくらいに務めに邁進するようになったのは、明らかに彼の師匠エルギオスが行方不明になり、もはや帰らないと思われるようになってからだった。オムイにはイザヤールの思いがよくわかっていた。任地の障害を全て取り除き平和な地にしたら、さっさと誰かに託して師匠を探しに行くつもりなのだと。その為には、無茶も厭わないくらいに己を顧みなくなっていることも。
「・・・後事を託したいなら、まずは弟子を取ってきちんと育てるのが順序じゃろう。焦りは禁物じゃぞ」
 陽気な声でオムイに言われて、イザヤールははっと目を見開いたが、何も答えずに一礼して世界樹の元へ向かった。だが、内心少し動揺していた。オムイに自分の考えを読まれていたからだ。
 行方不明の師を探しに行くには、守護天使としての務めを果たしてからでなければ自由は利かない。ウォルロの地の手強い魔物を全て駆逐し、村人を困らせる自然の猛威を取り除いたら、その務めの大部分は終わると思っていた。だが、弱き人間を守るという務めは、日々次々と手を貸さねばならないことが起こって、思うように捗らないことに少し苛立っていた。
 それでも、今宵は、人間では倒すことが難しい邪悪な魔物の最後の一匹を血祭りに上げた。これでウォルロは、当分の間は人間たちが安心して歩ける場所となるだろう。・・・しかしそれは天使にとっては僅かな時間だ。見守らなければすぐに魔物たちはまた侵入し、人間たちを脅かす。少なくともまだ今のまま投げ出すわけにはいかないことはわかっていた。
 世界樹に星のオーラを捧げてから、遥か遠くの空を見る。毎日のように繰り返すこの儀式の度に、彼は否応なしに居なくなった師のことを思い出す。ここで、意見を対立させたまま、去っていった師の小さくなる後ろ姿を見送ったのが最後だったから。
 対立と言っても、今思えば自分が一方的に噛みついていただけだと、イザヤールは淡い自嘲を浮かべた。穏やかな、やわらかい笑顔で、『それでも、私は人間を信じたい』と言ったエルギオス。納得しない弟子を叱るでも説得するでもなく、意見の相違をきちんと認めた上で、自分の思いを通して天使界を去った彼は、弟子を対等の立場として扱ってくれたのだと、今更ながらイザヤールは気付いた。
 ・・・自分も、弟子を持ったら、師の気持ちがいくらかでも理解できるようになるのだろうか。
「・・・少し、考えてみるかな・・・」
 イザヤールは呟いた。まだ当分先のことだろうと思いつつも。〈了〉
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