セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

泣き虫鳴き虫

2016年09月17日 08時37分16秒 | クエスト184以降
朝になっちゃいましたぜーはーな追加クエストもどき〜。残暑厳しいですが暦的に秋ということで秋の虫絡み?ネタにしてみました。タイトルはテンツクが虫系モンスターなのでなんとなくで。今回も平和&お約束満載です。

 ベクセリア地方は学問の町を有するというだけでなく、見事な紅葉や広大なススキの原も有名だ。ふわふわとした尾花がそよ風に揺れる様は、薄雲の海といった風情で、高台にあるベクセリアの町から見下ろした様はなかなか壮観だった。
 ミミとイザヤールは、今日はそんなススキの中を通って歩いていた。この辺りにある「みかわしそう」の採取に行くところなのである。ススキの茎の丈が伸びていて、ミミの方はときどきすっかり頭まで隠れてしまって、姿が見えなくなったりした。イザヤールは前を歩いて、ススキの鋭い葉がミミを傷付けたりしないように盾になっていたが、何度も振り返って彼女が居るのを確かめていた。
「はぐれたら困るな」
 やがて彼は、大真面目な顔でそう呟いて、立ち止まった。そして振り返り、ミミの手をそっと取った。二人ともれっきとした冒険者なのだから、もちろん互いの気配をちゃんと認識して歩いているので、はぐれる筈もないのだが。
「はい、困っちゃいます」
 ミミも大真面目な顔で答えて、あたたかく力強い手をそっと握り返した。こうして二人は、ススキの原の中を抜ける間、しっかりと手を握り合ったまま歩いた。もうすぐ普通の草むらに変わるという辺りまで来て、手をつないでいられるのももう終わりかと互いに名残惜しい気がして、歩みがほんの少し遅くなった。少しずつのろのろしてきた歩みは、ススキのとばりが終わる直前に、どちらともなく止まった。
 イザヤールはミミのやわらかく華奢な手を握りしめたまま、再び振り返った。空いた方の腕が、たちまち彼女の体を捉え、引き寄せた。
「私・・・捕まっちゃったの?」
 ミミが呟くと、イザヤールは唇の端にかすかな艶かしさを浮かべて、笑った。普段は心身共に清廉でストイックな気配を漂わせている彼がそのような表情を見せてくると、余計に甘く心が疼いてしまう。彼女は愛しいものを見るときの常の、濃い紫の瞳の陰影を更に濃くして、相手の熱を帯びた瞳を見つめた。
 その瞳に誘われたように、彼の顔がゆっくりと彼女の顔へと降りてくる。愛しい、愛しい・・・。言葉でない言葉でそれを伝える為のしぐさを今まさにしようとしたとき、二人はふとその動作を中断した。誰かの視線を感じたような気がしたのである。
 サンディの言うところの「アンタたちって、チューしよーとするとかなりの高確率でジャマが入るよね〜。マジ呪いだったりして!」という現象が起きたのかと、やれやれと辺りを見渡したが、辺りは丈の高いススキに囲まれて、安全な隠れ家のようにあらゆる視線を遮断していた。しかし、確かに何者かの視線、しかも羨望の視線を感じる。
「いいなあ〜、とっても仲良しそうで〜」
 そう言ってがさがさとススキをかき分けて現れたのは、一匹のテンツクだった。どうやら視線の正体は彼?だったらしい。敵意は感じられないが、相変わらずかなり強烈な羨望の視線で二人を見ている。
「ねえねえ、人間のオスもやっぱりダンスがうまいとモテるの?それとも、鳥や秋の虫みたいに、歌がうまいとモテるの?君はどっちがうまくてモテてるの?」テンツクはイザヤールに尋ねてきた。
「いや、特にモテているというわけではないと思うが・・・」
 イザヤールは戸惑いながらそう答えたが、彼がルイーダの酒場の女子冒険者の密かな人気を集めていることを充分知っているミミは、自覚の無い彼にちょっと複雑な思いだった。
「ウソだあ〜、こんなにカワイイ人間のメスをゲットできているんだもん、絶対どっちか上手いに決まってる〜!・・・ま、カワイイっていうのは人間としては、であって、テンツク属の麗しい下膨れや豊かな横長の口、愛らしい小さな目などの要素は全くないからボクの好みじゃないけどね〜」
 ミミはどうやらテンツク属の美の基準からは大いに外れているらしい。それはテンツク顔でないということで喜んでいいのか、それともけなされていることを悲しむべきかは置いておいて、ミミは真剣に答えた。
「確かにイザヤール様はダンスも歌もとっても上手だけれど、好きになったことにそういうのは関係なかったんだから・・・!」
 彼女の言葉に、テンツクはしかしじたばたして叫んだ。
「やっぱり両方上手いんじゃないかー!うわあーん!ボクはやっぱりもうダメだああー!」
 テンツクは倒れたススキの上に突っ伏して大泣きし始めた。誰かが嘆くことにも弱いミミは、たちまちおろおろし始め、なんとかなだめようとした。
「ねえ、急にどうしたの?そんなに泣かないで・・・」
 テンツクは号泣しながら途切れ途切れに訳を話し始めた。
「ボクは、これまで、ダンスが一番うまいってことでモテモテだったんだあ。だけど、もっとダンスがうまいヤツが現れたら、女の子たちは、みんなたちまちそっちに夢中になっちゃって・・・やっぱり生き物のオスはダンスか歌が上手くないとダメダメなんだあー!」
「他にも生き物の雄が雌を惹き付ける条件として、力が強いとか営巣能力があるとかもあると思うが」
 イザヤールが思わず博物学を教える際の師匠モードで口を挟むと、テンツクはますます嘆いた。
「じゃあもっとダメじゃないかー!ボクどっちも苦手だあ〜!わあああーん!」
「あ・・・なんか・・・すまん・・・」
 ミミとイザヤールは困って顔を見合わせ、しばらくテンツクが号泣するのをただ見守っているしかなかったが、やがてテンツクは涙をごしごしと拭って、むくりと起き上がってぶつぶつと言い始めた。
「そうだ、そうだよ、ダンスがダメなら、秋の虫みたいに歌で惹き付ければいいんだ・・・!それならボクもいけるかも・・・。歌だけじゃあインパクト低いから、伴奏つけて弾き語りで・・・」
 そしてテンツクは、急に二人の方に向き直り、両手を合わせて哀願してきた。
「ねえ、君たちは、『銀の竪琴』って知ってる?とってもイケてる音楽を奏でられる楽器なんだけど・・・。もちろん、本物を手に入れるのはたいへんだから、それっぽいものを作ってみようと思うんだ。それには銀と弦になる糸が必要だから・・・。お願い、『シルバートレイ』と『あまつゆのいと』を手に入れてきてくれない?ボクも君たちみたいに幸せになりたいよ〜。あやかりたいよ〜。だから〜、お願い〜!」
 ダンスがどうやら生活の中心らしいテンツクたちの中で弾き語りが上手くても、果たしてモテモテに直結するのか甚だ疑問だったが、また号泣されると困るのでミミは頼まれた物を用意することを決意した。ミミはクエスト「泣き虫鳴き虫」を引き受けた!

 あまつゆのいとは道具袋にストックがあったが、あいにくシルバートレイの方は装備や調度品として使っているものしかなかったので、ミミとイザヤールは宝の地図の洞窟に取りに行くことにした。
 宝の地図の洞窟の宝箱の中身は毎回違うが、入っている物のランクパターンは実は決まっている。だから二人は、シルバートレイが入っているかもしれない宝箱の予測をすることはできた。そこで、そうとおぼしき宝箱がある洞窟を片っ端からあたってみたが、残念ながらなかなか肝心のシルバートレイは出てこずに、同じランクの「きんのブレスレット」や「ばくだんいし」、「てっかめん」などばかりが見つかることが続いた。
「なかなか見つからないの・・・」
 テンツクが待ちわびていることを思って、ミミは溜息をついた。
「ロクサーヌの店でも入荷は来週になりそうだと言っていたしな。来週まで待つか?」
「でもそうしたら、あのテンツク君がまた号泣しちゃう」
「まあそうかもしれないが・・・」
 二人はそれからも引き続き辛抱強く探したが、やはりシルバートレイは見つからず、やたらに「天使のすず」ばかり出てきたのだった。
 さすがに辛抱強い二人も少し気持ちを切り換える時間が必要な気分になったので、洞窟の近くにあった町の酒場で、食事を摂ってひと休みすることにした。
 食事を待つ間、二人は地図を広げて次の洞窟を検討した。
「確かこの洞窟にもシルバートレイかもしれない宝箱があった気がするの」
「同じランクの宝箱の数も多そうだな」
 すると、給仕をしていたボーイが二人の会話を耳に挟んだらしく、立ち止まって言った。
「お二人さん、シルバートレイを探しているのかい?」
「ええ。何かお心当たりが?」
 するとボーイは二人の方に身を屈め、声をひそめて囁いた。
「いや、実はさ、うちのマスターが先日、バニーさんをたくさん雇うつもりでシルバートレイを大量購入したんだけど、マスターの奥さんにバレちゃってマスターめちゃめちゃ怒られてさ。バニーさんを雇うのは中止になって、シルバートレイがたくさん余っちまったというわけ。マスターに聞いてみたら?譲ってくれるかもしれないよ」
 耳寄りな情報を手に入れたので、ミミとイザヤールは食事を終えるとさっそく酒場の店主のところに交渉に行った。
「ほう、シルバートレイが必要だから譲ってほしいって?それは考えてもいいけど・・・」と、ここで店主は、ミミをでれでれした顔で見つめて、続いて言った。「こんな条件はどう?あんたがバニーさんとしてうちで働いてくれたら、お給料の他にシルバートレイをボーナスとして付けるっていうのは・・・」
 最後まで言い終わらないうちにイザヤールは立ち上がり、淡々としているだけに怖い例の口調をしかけたが、そうする前にいつの間に来ていたのか、店主の妻らしい女性が腕組みをして、目が笑ってない笑顔で夫に言った。
「あんた・・・!こないだあんなに叱ったのに、まだ懲りてないようだね・・・!しかもこんなに純朴そうなお嬢さんにまで声をかけるなんて!何考えてんだい!」
「わわわ、おまえ、居たのか!冗談、冗談だよ!お二人さん、シルバートレイは買値でお譲りします〜!」
 こうして二人はなんとか無事に?シルバートレイを手に入れ、テンツクの待つ場所に戻った。

 テンツクはシルバートレイとあまつゆのいとを受け取り喜んだ。
「ありがとう!ボク、銀の竪琴作って、秋の虫みたいに美しく歌ってモテモテになってみせるよ!」
 テンツクはお礼に「スキルのたね」をくれた!
 その後テンツクが竪琴と歌で無事にモテモテになったか心配だったミミとイザヤールだったが、銀の竪琴もどきは魔物を惹き付ける力があったらしく、無事にモテモテとなったという。〈了〉
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