セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

木枯らしのかけら

2014年11月20日 00時51分15秒 | 本編前
前の記事の予告ホントにギリギリで焦った為酷かったですね、すみません~。のんびりし過ぎたー。さていよいよ木枯らしシーズンやってきそうということで、暖かくなりそうなお話が書いてみたくなりましたの、天使界時代両片想い話。手が触れちゃうだけでドキドキとはなんたるクラシカルなピュアさ加減(笑)いつものおかえりなさい光景、イザヤール様相変わらずニブイです。そして思っていたより案外ほのぼのした?話になりました。

 今夜も、見習い天使ミミは、もうすぐ帰るであろう師匠の為に、暖炉の火を興していた。天使界は世界樹の加護でほとんど常にと言っていいほど快適な状態に保たれていて、火が無くても構わないくらいだったが、木枯らしが舞い始めた地上から戻る守護天使には、暖炉の火とランプの灯りがとても心和ませるものになる。一日の務めを終えて戻った師匠イザヤールが、自室に戻ってくると、きりりとした顔をほんの少し和らげる。そんな表情を見る度にミミも、心が和み暖かくなるのだった。
 密かに想うひとの役にほんの少しだけれど立てている。そんな思いがミミを幸せな気持ちにしていたが、イザヤールは暖炉や灯りより、ミミが居てくれることそのものに心和ませているのだとは、気付いていなかった。彼女自身が彼にとって灯りであり、ぬくもりであるとは。
 ほう、と小さな吐息がミミの淡い薔薇色の唇から漏れると、炉の火が彼女の想いを映したようにゆらりと揺れた。イザヤール様に喜んでもらう為だけじゃない。一日の終わりに、一目でも逢いたいからという理由を隠して、こうして待っている自分はとても悪い子に違いないと、彼女の心はちくりと疼いた。何も知らない師匠イザヤールが、いい子だと褒めてくれる度に、その疼きは脆い心を震わせる。
 また再び、火が揺れた。だがそれは、吐息の為ではなく、部屋の入り口の扉が開いたからだった。ミミが顔を上げると、かすかに微笑んでいるものの、どこか疲れた様子のイザヤールが立っていた。
「ただいま、ミミ」
 疲れていると思ったのは、気のせいだろうかと、ミミはほんの少し眉を寄せて首を傾げた。そう思わせるほど一瞬で、弟子の姿を認めた途端に、イザヤールの顔から、疲労が拭い去られていたからだ。
 だが、気のせいではなかった。今日は、冷たい乾いた風と、人間たちが普段より格段に多く起こした厄介ごとが、さすがの彼も疲弊させていた。しかし、密かに愛しく想う弟子の顔を見て、待っていてくれたという嬉しさと、無事に帰還できた安堵で、疲労まで癒えた気がしたのだ。
 首を傾げていたミミに、イザヤールもまた、もの問いたげな顔になった。そんな師匠を見て、黙ってぼんやりしていたことにようやく気付いた彼女は、慌てて立ち上がっていくらかぎこちない声で応えた。
「おかえりなさい、イザヤール様・・・」
「どうした?私に何か、着いてるか?」
「い、いえ・・・」
 笑って尋ねるイザヤールに、首をふるふる振って答えるしかできないミミ。けれど。その答えは、半分は嘘だ。守護天使は、地上からの「何か」の気配をまとって、帰ってくるから・・・。
 彼の翼に、木枯らしの冷気のカケラが、残っている気がした。冷たく、澄んだ、痛いくらいに厳しい、匂いは無いけれどやはり一種の香りとでも呼びたい何か。そのひんやりとした空気が、ミミに地上の任務の苛酷さを伝える。それでもおまえに守護天使を目指す覚悟はあるのかと、問いかけられているかのようだ。イザヤールに、だけではない。まだよく知らない、地上という世界で待っている、全てのものに。
 とにかく、イザヤール様に早く寛いでもらおうと、ぱたぱたと温かい飲み物の仕度を始めたミミをかすかに微笑んで眺めながら、イザヤールは長椅子にゆっくりと腰を下ろした。彼女を眺めているだけで、心が解れていくのがわかる。やがて、彼女が木製のトレイに温かい飲み物入りのカップを載せて彼の傍に立つと、イザヤールはその微笑みのままミミを見上げた。
 ミミはその優しい微笑みに、どきりとして思わず頬を染めた。動揺しつつ何とか落とさないように小卓にトレイを置いて、手渡そうとカップを手に取る。けれど、震えそうで怖かった。脈拍がとくとくと、手に持つカップにまで伝わってしまいそうで、ほんの少しぎくしゃくと差し出す。
 少し不安定なミミの動きに、さてはミミのやわらかな手には熱すぎるのかと、イザヤールはカップの底に添えるようにして、急いで手を差し出した。その手は、はからずも彼女の手を包むように触れた。それで彼もまた、一瞬動揺して、受け取ったカップの中の飲み物がゆらりと揺れた。
 けれど、触れ合っていたのは、ほんの刹那の間だけ。手はするりと離れ、互いの脈拍も動揺も伝えることはなく、ミミはトレイに、イザヤールはカップに目を落とした。
「・・・ありがとう」
「いえ・・・」
 いつしか、彼が地上から僅かに引きずってきた木枯らしの気配は、跡形も無くなっていて。代わりにふわりとした暖かさが二人を包む。暖かさというには熱い想いを、互いに心の底に隠していたけれど。〈了〉
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