更新するするサギになりつつある追加クエストもどき〜。たいそう遅くなりすみませんでしたー!またも海な話ですが、久々に?シリアス展開と相成った為か少々苦労しました。邪悪な水の精霊は東欧の民話等に出てくる水の主のイメージ。溺れた人間たちの魂をツボに閉じ込めている辺りが。そしてなんのこっちゃですが、エルギオス様も罪な男です(笑)更に津久井はクジラが絡むと物悲しい話になるのは何故か。
東セントシュタインの海水浴場は相変わらず盛況で、セントシュタイン城兵のパトロールの甲斐もあって、大きなトラブルも無く安全が保たれていた。そんな賑やかな海岸も楽しいが、ミミは静かにずっと海を眺め続けられる海岸も好きだった。
そんな海岸の一つナザムの海岸に赤いサンゴを拾いに来たミミは、暮れていく空と海をしばらく眺めていた。ドミール方向に沈む太陽は、手にしたサンゴに劣らず赤い。波が素足の踝に寄せては返す。一緒に来たイザヤールは、自分が拾ったより赤く美しいサンゴをミミの手のひらに載せてから、後ろからそっと腕を回して、彼女を愛しげに抱きしめた。
ミミは淡く頬を染めてから、微笑み、彼の体に自分の体をすっかり預けた。波に足元の砂を浚われるこそばゆく不安定な感覚も、この腕の中に居れば、全く気にならない。
だがしばらくして二人は、かすかな不穏な気配を感じて、緊張を走らせた。その気配は、誰かがからかいに来たとかなどのようななまやさしいものではなかったのだ。イザヤールはミミを抱き上げて素早く後退り、水から離れた。その直後に、ミミの足があった位置の波が渦巻き、蛇のようにとぐろを巻いた。しかし捕らえるべきミミの足が無かったせいか、その水の罠はほどけて波に戻った。
ミミはイザヤールの腕から飛び下り、イザヤールは愛用の剣を、ミミは水の魔物に有効な武器である扇を構えた。だが、海の中から何か現れる気配は無い。
「おやおや、残念、もう少しで海中に連れて行けたのに」
そう呟く声がして、二人がはっとその声がする岩場の方向を見ると、いつの間に現れたのか、人のような形の、だが明らかに人ではない何者かが岩の上に腰掛けていた。海藻とも髪ともつかない長く絡んだ暗緑色のものが頭から体を覆い、顔はほとんど見えない。ローブのような衣服は、濃い藍色の水がそのまま形になった如くうねり、時折あちこちがきらりと光るのだった。
「何者だ。何故ミミを連れて行こうとした」
イザヤールがミミをかばうように前に出ながら詰問すると、その何かは、沼から泡が出るような声で笑った。
「そんなに怖い顔をしなくていいよ。その娘の雰囲気が、昔見かけた天使にどこか似ていたから、私の家に招待したくなった、それだけさ」
それを聞いたミミとイザヤールは、はっとして顔を見合わせた。ナザムの天使と言えば、イザヤールの師エルギオスの可能性が高かったからだ。
「エルギオス様を、知っているのか」
「へえ、エルギオス、という名前だったのか。美しい、どこか儚さを持った、光そのもののような天使だったよ。金色の髪に真っ白な翼が眩しいくらいで、私は近寄ることすらできずに、海の中からそっと眺めていたものだ。だが、彼は、いつも森の泉の方ばかりを訪れて、私の居る海の方にはあまり来てくれなかったけどね。・・・それに彼は、強すぎたし」
やはり天使とは、エルギオスのことのようだ。強すぎた、という言葉に、イザヤールは不吉なものを嗅ぎ取った。エルギオスが強い天使でなかったら、海中に連れて行ってしまうつもりだったのだろうと察せられた。邪悪な水の精霊は、溺れさせた者の魂を、水底の自分たちの館に閉じ込めていると聞いたことがある。たとえ死なせなかったところで、気に入ってしまえば地上に返すことは無いだろう。
「私だって連れて行かれるつもりはないから」
ミミが濃い紫の瞳の陰影を増して、逆にイザヤールをかばうように一歩前に出ると、「何か」は、またくぐもった声で笑った。
「そんな可愛い顔をして、勇ましいね。君たちを溺れさせるのは簡単だけど、その勇ましさに免じて、賭けをしないかい。君たちが勝ったら手出しはしないし、いいものをあげるよ」
「魔のものと取引をするより、戦いを挑むと言ったら、どうする?」
イザヤールが再びミミをかばうように剣を構えて言うと、「何か」は、また笑った。
「やめておいた方がいい。一つには、私は巨大な津波を起こせるから、君たちだけでなく、近くの村まで巻き添えを食う。もう一つは、私が持っているものは、きっと君たちが欲しいものに違いないからさ」
巨大な津波はビュアールの攻撃で馴れていて、自分たちだけなら耐える自信は多少なりともあったが、津波を呪文や技で打ち消す努力を払っても、万が一ナザム村を巻き添えにする危険があるのはためらわれた。ミミとイザヤールは顔を見合わせてから小さく頷き合い、ミミは尋ねた。
「いいものって、何?」
「溺れた人間たちの魂さ。伏せたツボのひとつひとつに、大切にしまってあるよ。天使が不在になった三百年の間に集めた魂がね」
それを聞いたミミとイザヤールは、表情を引き締めた。それは、放っておくわけにはいかない。
「わかったわ。それで、私たちが賭けに勝つには、どうしたらいいの」
「とある洞窟に、ひときわ巨大なだいおうクジラが居て、赤い真珠を持っている。だいおうクジラを倒して真珠を手に入れられたら、君たちの勝ち、道中で倒れたり、だいおうクジラに負けてしまったら、君たちは私のものになって、溺れた人間たちの魂の仲間入りをする、そういうことだ。受けるか、やめるか?どうする?今、キメラのつばさでも使って逃げれば、うまくいけば君たちだけは助かるかもしれないよ。近くの村は全滅だろうがね」
事実上ナザム村を人質に取られているのと同じだった。おとなしくこのまま得体の知れない者について水中に行くか、賭けに応じるしか二人にとっての選択肢は無い。ミミとイザヤールはクエスト「解放への賭け」を引き受けた!
その「何か」は、指で一つの大きな岩を指した。すると、その岩に、ぽっかりと洞窟の入り口が開いた。
「だいおうクジラはその洞窟の奥に居る。せいぜい頑張るんだね」
迷っていても仕方ないので、ミミとイザヤールはためらいなく洞窟の中に入った。中の様子は、宝の地図の水タイプの洞窟とさほど変わらなかった。だいおうクジラ以外にも魔物も居て、ヘルダイバーやキラークラブなど、水系の魔物ばかりが襲いかかってきた。
それらを返り討ちにして一息つきながら歩き、ミミは呟いた。
「どうして、こんな賭けなのかな・・・」
「確かにそうだな」イザヤールも、腕組みをして考え込んだ。「あれがおそらく邪悪な水の精霊であることはほぼ間違いないだろうが、何故、だいおうクジラと戦わせるのだろうな?それに、問答無用で我々を溺れさせることもできただろうし。単なる気まぐれで片付けるには、少々疑問があるな。・・・まあ、真珠を持ち帰ればわかるだろう」
ミミは頷き、それから二人は、更に奥へ奥へと進んだ。辺りに色とりどりの美しいサンゴはあるが、どうやらこの洞窟内には、宝箱は無いらしい。宝探しに来たわけではないのでその点では気にならなかったが、要するに魔物が居ること以外は、全く天然の洞窟のようにも思われた。しかし、元から在ったのなら、今まで見つからなかった説明がつかない。そのことから、一種の旅の扉のようなものでナザムの浜辺とこの洞窟とを繋いだのだろうと推測された。
やがて、広く天井が高い空間に出た。おびただしい星明かりのような夜光虫の群れに照らされて、ひときわ大きなだいおうクジラが、ゆったりと宙に浮いていた。
星空をクジラが泳いでいるかのような幻想的な光景に、ミミとイザヤールはしばらく声も無く立ち尽くした。近寄っても襲いかかってこないので、攻撃をためらっていると、だいおうクジラは突然目を赤く光らせて、不意討ちしてきた!巨大な尾で二人とも振り払われ壁に叩きつけられ、ミミは思わず小さくうめき声を上げた。通常のだいおうクジラより遥かに攻撃力が高い。
ミミより守備力が高かったイザヤールは彼女より一瞬早く体勢を立て直して、ミミとだいおうクジラの間に立ち、テンションバーンを発動した。ミミもすぐに立ち上がって、「といきがえし」を使ってしゃくねつのほのおに備えた。
だいおうクジラは案の定しゃくねつのほのおを吐いてきて、ミミは炎を跳ね返し、イザヤールはテンションが上がった!ミミはすぐに彼に回復呪文をかけた。イザヤールは装備をヤリに替え、だいおうクジラの弱点である雷・爆発属性の技、ジゴスパークを放った!テンションが上がっていることで高ダメージを与えた。
次にミミは水系の魔物に有効な技、「波紋演舞」を舞い踊った!会心の一撃!弱ってきただいおうクジラは、再び尾でイザヤールを弾き飛ばそうとしたが、彼はダメージを負ったものの耐えて再びテンションを上げ、「一閃づき」を放った!会心の一撃!だいおうクジラは、スローモーションのように地面に崩れ落ち、口から何かを落とした。赤い真珠を手に入れた!
ミミは真珠を拾い上げた。真っ赤だというわけではなく、ほんのりと赤みがかっているという感じで、卵などを光に透かしたような感じに似ていた。しかも何故か、ほんの僅かだがぬくもりのようなものも感じた。イザヤールにも見せようと振り返ると、彼は青く光る壁を調べていて、言った。
「ミミ、ここに扉があるようだぞ」
二人は用心しつつ扉を開けた。すると、中にはずらりと伏せたツボが並んでいた。
「これって、まさか・・・」
ミミが呟きながらツボの一つを起こしてみると、中から白い小鳥が飛び出して、上へ上へと飛び、天井をすり抜けるようにして消えていった。他のツボを起こしてみても同様だった。
「そのまさか、だな」イザヤールも呟き、次々とツボを起こして中から白い小鳥を解放していった。「これは、きっと・・・。溺れた人間たちの魂だ・・・」
ツボはたくさんあったが、二人は全てのツボの中から白い小鳥を出し終えた。
ふと気が付くと、二人はまたナザムの浜辺に戻っていた。「何か」は、先ほどと同じように岩に座っていた。ミミが赤い真珠を差し出すと、それは静かに呟いた。
「賭けは君たちの勝ちだ。約束する、もう君たちにも、誰にも手出ししない。いや、もうできない」
「どういうこと?」
「この真珠は、私の心臓なんだ。誰かがそれに触れたら、私は泡になって消えることになっている。君たちの、勝ちだ・・・」
「どうしてこんな賭けを?私たちが勝てないと思ったの?」
ミミは言ったが、言いながらもそうではないとわかっていた。
「違うよ。君たちなら、賭けに勝ってくれると思ったから。こうして私の心臓を手に入れて、私を長い孤独の日々から、どんなに魂を集めても満たされなかった日々から、解放してくれると、思ったから・・・。本当は、あの天使に、そうしてもらいたかった・・・。でも、その前に天使は・・・あの光のような天使は、居なくなってしまったから・・・」
話している間にも、それは足元から水の泡となって、さらさらと海に溶けるように消えていく。
「でも・・・君に、君たちに、助けてもらえて、よかった・・・」
その声を最後に、「何か」は消えていた。
あれがだいおうクジラの化身だったのか、それともだいおうクジラに心臓を守らせて今まで生き延びてきた邪悪な水の精霊だったのかは、わからない。してきたことも、許せることではない。孤独を埋める為に人を水に引き込み溺れさせて、魂を閉じ込めるなどと。しかし、何者であったにせよ、その寂しさと、「光のような」天使への儚い想いが悲しくて、ミミは思わず涙をぽろりとこぼす。イザヤールは、黙ってそんな彼女の肩をそっと抱いた。
赤い真珠は、海に返した。真珠は、ゆっくりと波に運ばれ、消えていく。
「見ているしか、できなかったのだろうな・・・エルギオス様を。深海から日の光に焦がれるように、な」
やがて、イザヤールが呟いた。その言葉にミミは頷く。二人は長いこと、夜へと変わっていく海を見つめていた。〈了〉
東セントシュタインの海水浴場は相変わらず盛況で、セントシュタイン城兵のパトロールの甲斐もあって、大きなトラブルも無く安全が保たれていた。そんな賑やかな海岸も楽しいが、ミミは静かにずっと海を眺め続けられる海岸も好きだった。
そんな海岸の一つナザムの海岸に赤いサンゴを拾いに来たミミは、暮れていく空と海をしばらく眺めていた。ドミール方向に沈む太陽は、手にしたサンゴに劣らず赤い。波が素足の踝に寄せては返す。一緒に来たイザヤールは、自分が拾ったより赤く美しいサンゴをミミの手のひらに載せてから、後ろからそっと腕を回して、彼女を愛しげに抱きしめた。
ミミは淡く頬を染めてから、微笑み、彼の体に自分の体をすっかり預けた。波に足元の砂を浚われるこそばゆく不安定な感覚も、この腕の中に居れば、全く気にならない。
だがしばらくして二人は、かすかな不穏な気配を感じて、緊張を走らせた。その気配は、誰かがからかいに来たとかなどのようななまやさしいものではなかったのだ。イザヤールはミミを抱き上げて素早く後退り、水から離れた。その直後に、ミミの足があった位置の波が渦巻き、蛇のようにとぐろを巻いた。しかし捕らえるべきミミの足が無かったせいか、その水の罠はほどけて波に戻った。
ミミはイザヤールの腕から飛び下り、イザヤールは愛用の剣を、ミミは水の魔物に有効な武器である扇を構えた。だが、海の中から何か現れる気配は無い。
「おやおや、残念、もう少しで海中に連れて行けたのに」
そう呟く声がして、二人がはっとその声がする岩場の方向を見ると、いつの間に現れたのか、人のような形の、だが明らかに人ではない何者かが岩の上に腰掛けていた。海藻とも髪ともつかない長く絡んだ暗緑色のものが頭から体を覆い、顔はほとんど見えない。ローブのような衣服は、濃い藍色の水がそのまま形になった如くうねり、時折あちこちがきらりと光るのだった。
「何者だ。何故ミミを連れて行こうとした」
イザヤールがミミをかばうように前に出ながら詰問すると、その何かは、沼から泡が出るような声で笑った。
「そんなに怖い顔をしなくていいよ。その娘の雰囲気が、昔見かけた天使にどこか似ていたから、私の家に招待したくなった、それだけさ」
それを聞いたミミとイザヤールは、はっとして顔を見合わせた。ナザムの天使と言えば、イザヤールの師エルギオスの可能性が高かったからだ。
「エルギオス様を、知っているのか」
「へえ、エルギオス、という名前だったのか。美しい、どこか儚さを持った、光そのもののような天使だったよ。金色の髪に真っ白な翼が眩しいくらいで、私は近寄ることすらできずに、海の中からそっと眺めていたものだ。だが、彼は、いつも森の泉の方ばかりを訪れて、私の居る海の方にはあまり来てくれなかったけどね。・・・それに彼は、強すぎたし」
やはり天使とは、エルギオスのことのようだ。強すぎた、という言葉に、イザヤールは不吉なものを嗅ぎ取った。エルギオスが強い天使でなかったら、海中に連れて行ってしまうつもりだったのだろうと察せられた。邪悪な水の精霊は、溺れさせた者の魂を、水底の自分たちの館に閉じ込めていると聞いたことがある。たとえ死なせなかったところで、気に入ってしまえば地上に返すことは無いだろう。
「私だって連れて行かれるつもりはないから」
ミミが濃い紫の瞳の陰影を増して、逆にイザヤールをかばうように一歩前に出ると、「何か」は、またくぐもった声で笑った。
「そんな可愛い顔をして、勇ましいね。君たちを溺れさせるのは簡単だけど、その勇ましさに免じて、賭けをしないかい。君たちが勝ったら手出しはしないし、いいものをあげるよ」
「魔のものと取引をするより、戦いを挑むと言ったら、どうする?」
イザヤールが再びミミをかばうように剣を構えて言うと、「何か」は、また笑った。
「やめておいた方がいい。一つには、私は巨大な津波を起こせるから、君たちだけでなく、近くの村まで巻き添えを食う。もう一つは、私が持っているものは、きっと君たちが欲しいものに違いないからさ」
巨大な津波はビュアールの攻撃で馴れていて、自分たちだけなら耐える自信は多少なりともあったが、津波を呪文や技で打ち消す努力を払っても、万が一ナザム村を巻き添えにする危険があるのはためらわれた。ミミとイザヤールは顔を見合わせてから小さく頷き合い、ミミは尋ねた。
「いいものって、何?」
「溺れた人間たちの魂さ。伏せたツボのひとつひとつに、大切にしまってあるよ。天使が不在になった三百年の間に集めた魂がね」
それを聞いたミミとイザヤールは、表情を引き締めた。それは、放っておくわけにはいかない。
「わかったわ。それで、私たちが賭けに勝つには、どうしたらいいの」
「とある洞窟に、ひときわ巨大なだいおうクジラが居て、赤い真珠を持っている。だいおうクジラを倒して真珠を手に入れられたら、君たちの勝ち、道中で倒れたり、だいおうクジラに負けてしまったら、君たちは私のものになって、溺れた人間たちの魂の仲間入りをする、そういうことだ。受けるか、やめるか?どうする?今、キメラのつばさでも使って逃げれば、うまくいけば君たちだけは助かるかもしれないよ。近くの村は全滅だろうがね」
事実上ナザム村を人質に取られているのと同じだった。おとなしくこのまま得体の知れない者について水中に行くか、賭けに応じるしか二人にとっての選択肢は無い。ミミとイザヤールはクエスト「解放への賭け」を引き受けた!
その「何か」は、指で一つの大きな岩を指した。すると、その岩に、ぽっかりと洞窟の入り口が開いた。
「だいおうクジラはその洞窟の奥に居る。せいぜい頑張るんだね」
迷っていても仕方ないので、ミミとイザヤールはためらいなく洞窟の中に入った。中の様子は、宝の地図の水タイプの洞窟とさほど変わらなかった。だいおうクジラ以外にも魔物も居て、ヘルダイバーやキラークラブなど、水系の魔物ばかりが襲いかかってきた。
それらを返り討ちにして一息つきながら歩き、ミミは呟いた。
「どうして、こんな賭けなのかな・・・」
「確かにそうだな」イザヤールも、腕組みをして考え込んだ。「あれがおそらく邪悪な水の精霊であることはほぼ間違いないだろうが、何故、だいおうクジラと戦わせるのだろうな?それに、問答無用で我々を溺れさせることもできただろうし。単なる気まぐれで片付けるには、少々疑問があるな。・・・まあ、真珠を持ち帰ればわかるだろう」
ミミは頷き、それから二人は、更に奥へ奥へと進んだ。辺りに色とりどりの美しいサンゴはあるが、どうやらこの洞窟内には、宝箱は無いらしい。宝探しに来たわけではないのでその点では気にならなかったが、要するに魔物が居ること以外は、全く天然の洞窟のようにも思われた。しかし、元から在ったのなら、今まで見つからなかった説明がつかない。そのことから、一種の旅の扉のようなものでナザムの浜辺とこの洞窟とを繋いだのだろうと推測された。
やがて、広く天井が高い空間に出た。おびただしい星明かりのような夜光虫の群れに照らされて、ひときわ大きなだいおうクジラが、ゆったりと宙に浮いていた。
星空をクジラが泳いでいるかのような幻想的な光景に、ミミとイザヤールはしばらく声も無く立ち尽くした。近寄っても襲いかかってこないので、攻撃をためらっていると、だいおうクジラは突然目を赤く光らせて、不意討ちしてきた!巨大な尾で二人とも振り払われ壁に叩きつけられ、ミミは思わず小さくうめき声を上げた。通常のだいおうクジラより遥かに攻撃力が高い。
ミミより守備力が高かったイザヤールは彼女より一瞬早く体勢を立て直して、ミミとだいおうクジラの間に立ち、テンションバーンを発動した。ミミもすぐに立ち上がって、「といきがえし」を使ってしゃくねつのほのおに備えた。
だいおうクジラは案の定しゃくねつのほのおを吐いてきて、ミミは炎を跳ね返し、イザヤールはテンションが上がった!ミミはすぐに彼に回復呪文をかけた。イザヤールは装備をヤリに替え、だいおうクジラの弱点である雷・爆発属性の技、ジゴスパークを放った!テンションが上がっていることで高ダメージを与えた。
次にミミは水系の魔物に有効な技、「波紋演舞」を舞い踊った!会心の一撃!弱ってきただいおうクジラは、再び尾でイザヤールを弾き飛ばそうとしたが、彼はダメージを負ったものの耐えて再びテンションを上げ、「一閃づき」を放った!会心の一撃!だいおうクジラは、スローモーションのように地面に崩れ落ち、口から何かを落とした。赤い真珠を手に入れた!
ミミは真珠を拾い上げた。真っ赤だというわけではなく、ほんのりと赤みがかっているという感じで、卵などを光に透かしたような感じに似ていた。しかも何故か、ほんの僅かだがぬくもりのようなものも感じた。イザヤールにも見せようと振り返ると、彼は青く光る壁を調べていて、言った。
「ミミ、ここに扉があるようだぞ」
二人は用心しつつ扉を開けた。すると、中にはずらりと伏せたツボが並んでいた。
「これって、まさか・・・」
ミミが呟きながらツボの一つを起こしてみると、中から白い小鳥が飛び出して、上へ上へと飛び、天井をすり抜けるようにして消えていった。他のツボを起こしてみても同様だった。
「そのまさか、だな」イザヤールも呟き、次々とツボを起こして中から白い小鳥を解放していった。「これは、きっと・・・。溺れた人間たちの魂だ・・・」
ツボはたくさんあったが、二人は全てのツボの中から白い小鳥を出し終えた。
ふと気が付くと、二人はまたナザムの浜辺に戻っていた。「何か」は、先ほどと同じように岩に座っていた。ミミが赤い真珠を差し出すと、それは静かに呟いた。
「賭けは君たちの勝ちだ。約束する、もう君たちにも、誰にも手出ししない。いや、もうできない」
「どういうこと?」
「この真珠は、私の心臓なんだ。誰かがそれに触れたら、私は泡になって消えることになっている。君たちの、勝ちだ・・・」
「どうしてこんな賭けを?私たちが勝てないと思ったの?」
ミミは言ったが、言いながらもそうではないとわかっていた。
「違うよ。君たちなら、賭けに勝ってくれると思ったから。こうして私の心臓を手に入れて、私を長い孤独の日々から、どんなに魂を集めても満たされなかった日々から、解放してくれると、思ったから・・・。本当は、あの天使に、そうしてもらいたかった・・・。でも、その前に天使は・・・あの光のような天使は、居なくなってしまったから・・・」
話している間にも、それは足元から水の泡となって、さらさらと海に溶けるように消えていく。
「でも・・・君に、君たちに、助けてもらえて、よかった・・・」
その声を最後に、「何か」は消えていた。
あれがだいおうクジラの化身だったのか、それともだいおうクジラに心臓を守らせて今まで生き延びてきた邪悪な水の精霊だったのかは、わからない。してきたことも、許せることではない。孤独を埋める為に人を水に引き込み溺れさせて、魂を閉じ込めるなどと。しかし、何者であったにせよ、その寂しさと、「光のような」天使への儚い想いが悲しくて、ミミは思わず涙をぽろりとこぼす。イザヤールは、黙ってそんな彼女の肩をそっと抱いた。
赤い真珠は、海に返した。真珠は、ゆっくりと波に運ばれ、消えていく。
「見ているしか、できなかったのだろうな・・・エルギオス様を。深海から日の光に焦がれるように、な」
やがて、イザヤールが呟いた。その言葉にミミは頷く。二人は長いこと、夜へと変わっていく海を見つめていた。〈了〉
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