セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

冥界への道〈中編〉

2018年11月18日 23時45分14秒 | クエスト184以降
結局前後編でも納まらなかった追加クエストもどき中編。前回のあらすじ、冥界に妻を取り戻しに行くという依頼人の頼みを引き受けたミミだったが、彼はミミを死んだ妻の身代わりに冥界に差し出し妻を取り戻すことが本当の目的だった。不思議な力を持つ冥界の王の鎌で魂を体から分離させられてしまったミミは、依頼人に知恵を付けた黒幕の「しにがみ」に、鎌の刃を受けてしまう・・・。重たいテーマですが、徐々に重さが取れていくストーリー展開ですので、安心してお読みください。

 しにがみは、ぐったりした魂の方のミミのマントのフード辺りを猫でも持つようにつかむと、袋に押し込もうとした。イザヤールはそうはさせないとしにがみに向かって斬りかかったので、しにがみは慌てて避けてミミを取り落としたが、その間に若者の魂が、ミミの魂を引きずって、旅の扉に飛び込んでしまった!
「ミミ!」
 イザヤールは叫んで、すぐに後を追おうとしたが、旅の扉は消えてしまった。そこで彼は、こそこそ逃げ出そうとしていたしにがみの頭上に剣を突き付け、メガンテを唱える直前のばくだん岩よりも恐ろしい圧を含む声で言った。
「今すぐ後を追わせろ」
「め、冥界の王様の鎌が無ければ、そんなこと・・・」
 しにがみが震えながら答えると、イザヤールは落ちていた鎌の柄を持って用心深く拾い上げ、言った。
「これをどう使えばミミの後を追えるのか言え」
「宝玉の部分で地面に円を描けば旅の扉が出てくる!その扉は冥界への道に繋がっていて、あいつらは今そこを歩いている筈だ!教えたから斬らないでくれー!大いなる星の力を宿した剣で本気で斬られたら、オレは永久に消滅しちゃうー!」
「安心しろ、おまえは情報源だからな」イザヤールは淡々と呟き、先ほどしにがみがミミの魂を入れようとした袋の口をしにがみに向けて、言った。「この中に入れ」
「え、無茶言うな、なんで・・・」
「ミミの居場所まで案内してもらうまで、逃げ出さないようにしないとな。・・・ぎんがのつるぎで斬られれば、おまえは剣の曇りにすらならず消滅するのだろう?窮屈な思いとどちらを選ぶ?」
 当然しにがみは消滅より窮屈な思いを選び、いそいそと袋に入った。これは魂を運ぶ特別な袋らしく、袋の口をぎゅっと縛ると、エレメント系の魔物など実体の無いものも出られなくなるらしい。
 それからイザヤールは、ミミの体を優しく抱き上げ、少し眉を寄せて座り込んでいるように見える若者の体とガラスの棺を見比べた。確信はできないが、だいたいの状況は推測できて、彼の顔の憂いが深くなった。そして若者の体も無造作に背負うと、ミミのポケットに入っているアギロホイッスルを吹いた。
 天の箱舟に入ると、サンディがのんきな顔でマニキュアを塗っていたが、厳しい表情をしたイザヤールがぐったりしたミミと、見知らぬ若者を連れているのを見て、仰天して飛び上がった。
「いったいどーしたのヨ?!ミミ?!あとソイツ誰よ!なんでフツーの人間が天の箱舟に入れたワケ?!」
「魂が抜けているからな。まあ死体みたいなものだ」
「死体?!何ソレ?!まさか、ミミも・・・?!」
「そうなる前に連れ戻しに行くんだ!とにかくミミを頼む!」
 そう言うとイザヤールは、サンディが聞き返す間もなくまた地上へと降りてしまった。
「えー!何がどーなってんの?!ミミー、しっかりしてよー!・・・テンチョー、テンチョー!どうしよー、ミミが起きないー!」
 イザヤールは先ほどの場所に戻り、鎌の宝玉で地面に円を描いた。すると、旅の扉が現れた!彼はためらわず飛び込もうとしたが、弾き返された。
「何故だ?旅の扉に入れる方法も言え」
 しにがみの入った袋を取り出し、イザヤールが淡々としているが有無を言わさぬ声で囁くと、しにがみは袋ごとぶるぶると震えながら答えた。
「その鎌の宝玉で叩けばあんたの肉体と魂は分離して、魂はその旅の扉に入れるんだ。だが、そんな命懸けなこと・・・」
 しにがみが言い終わる前に、イザヤールは自分の体を鎌の宝玉で叩き、抜け出た魂の方は、ためらい無く旅の扉に飛び込んだ。
「え、おーい!オレを袋から出してから行けよー!おーい!」

 一方ミミの方は、暗い洞窟のような一本道を、若者に手を引かれて下っていた。進みたくないのに、どうしても力が入らない。それでもミミは進みたくないという気持ちを強く持っている為か、予定より進みが遅いらしく、若者は苛立たしげに呟いた。
「鎌の刃での斬り方が甘かったようですね・・・。まだいくらか生命力が残っているようだ・・・。それとも、あなたの強い想いの為か」
「そうよ」ミミは、魂になっても変わらない、濃い紫の瞳に強い光を湛えて、答えた。「私は、このままおとなしく行くわけにはいかないの」
「無駄です。私の想いも、とても強いのだから」若者は、ミミの腕を強く引いた。「妻を取り戻す為なら何でも、どんなに心を壊すことでも、してみせる」
「でも、それでは、あなたの魂が死んでしまうわ」ミミは、悲しげに呟いた。「あなたの奥さんが愛していたであろう、優しいあなたの魂が、罪の意識で壊れ堕ちていっても、それでも奥さんは幸せに暮らせるの・・・?」
「・・・罪の意識など、持たねばいい。それだけのこと」
 若者は吐き捨てるように言って、構わず進もうとしたが、ミミはそれを阻んだ。冥界への道だからだろうか、魂の状態でも、辺りの壁や岩に触れることができて、しがみつくことができた。思うように動かない指を、腕を、足を、ぎざぎざの岩の窪みに引っかけて、気が遠くなりそうなのを堪えて、ミミは言った。
「地上に帰るの。私も、あなたも」
 それを聞いた若者は、呻くような声を漏らして、涙をぼろぼろと落とした。それでも慟哭しながらミミを引きずるようにして、坂道を下り続けた。やがて、遠くの方に広い空間が見え、水の気配がし、何かがちらほらと居るのが見えるようになってきた、そのとき。
 背後から、全力で駆け寄る音が聞こえ、若者は、力強い、熱いくらいの熱を持った大きな手で、肩をつかまれた。そう気付くやいなや腕を捻り上げられ、つかんでいたミミの腕を放してしまった。
「ミミは返してもらう」
 イザヤールはミミを抱き上げ、双眸に火のような光を湛えながら、若者を見つめた。ミミは彼の肩に額を押し当て、小さく吐息した。イザヤールも、ミミを抱える腕に力を込めた。彼の生命力が流れ込んできて、ミミの虚脱感がみるみる抜けていく。若者を睨みながらも、彼はミミに優しく「よく頑張ったな」と囁いた。
 若者も負けないくらいに怒りに燃えた目でイザヤールを見つめ返し、いきなりメラゾーマを放ってきた!イザヤールは辛くもミミを抱えたまま避けたが、辺りの岩壁が飛び散り、轟音を立てた。
「やけに騒がしいな。魂同士の喧嘩か?」
 声がして、先の方に居た何かが、集まってきた。近くで見ると、悪魔が鎌を持っている、というような姿で、どうやら冥界の番人というところらしい。彼らは、ミミたちを見て怪訝そうに首を傾げた。
「あれ?おまえたち、まだここへ来るのは早いだろ。何しに来た?」
「ここに来ている私の妻を取り戻しに来た!身代わりの魂も用意している!」
 若者が言うと、番人たちはますます不思議そうな顔になった。
「はあ?確かにここは、天国行きか地獄行きか決まる前に死者たちが来る場所だが、おまえの女房なんか来てないぞ」
「!・・・そんな・・・」
「『しにがみ』の連中が、まだ寿命が来ないのに魂抜いてどこかに隠してんじゃないか?あいつらの中には、たまにそんな悪さをする奴も居るからな」
「なんでそんなことを・・・?」
 ミミがイザヤールに抱き上げられたままのくたりとした体勢で首を傾げると、番人たちは答えた。
「巻き添えの悲劇を起こして、死者を増やす為だろうな。だがな、誤解があるようだが、冥界は確かに死者たちの国だが、一方で命を生み出す源でもある。地上の命ある者は、土から生まれ土に還っていくだろ。だから本来、決まりに無い命をやたらに奪ったりしないもんなんだ。魔王や邪悪なものが手出ししてこない限りはな。でもたまに、地上も全て死者の国にすることが究極の楽園と思い込むやつも居るのさ」
「そんな・・・じゃあ私は・・・」若者は、がくりと膝を着いた。「しにがみに騙されて、何の関係も無い人を、犠牲にしようとしていたのか・・・」
「とにかく、用が無いならとっとと帰った帰った」番人たちは言った。「ただでさえも我々は忙しいしな。今だって、王様の鎌が何者かに盗まれて、みんなで交代で探しているんだから」
 冥界の王の鎌?と、ミミたちが口を開く前に、番人たちの方も、ん?と首を傾げ、言った。
「・・・おまえたち、そういえばまだまだ寿命残っているのに、どうやってここまで来られた?冥界の王様の鎌でも無ければ、そんなこと・・・。!!まさか!おまえたちが、鎌を盗んだ奴らか?」
「え・・・私たちは・・・」
「王様の鎌を返せ!」
 番人たちが武器を構えてにじり寄ってきた。
「待て、話を聞け!」
 イザヤールの言葉も聞かず、番人たちは武器を振り上げてきた!
「どうやら話は通じないようだな」
 イザヤールは呟いて、自分で立てるようになったミミをそっと地面に下ろした。ミミも、まだふらつく足を踏み締めて身構えた。とりあえず戦意を喪失させて冷静になってもらうしかなさそうだ。
「お願い、あなたも力を貸して」
 ミミがまだ項垂れていた若者に声をかけると、彼は頷いて呪文を唱える構えをした。
 肉体の無い状態で戦うのはもちろん初めてだし、武器も盾も無いので、素手スキルや武器の必要の無いスキルを使うか、呪文を唱えるしかなくてかなり心許ない。そして、魂にダメージを受けたらどうなるかの予測も付かないのだった。
 番人Aはメラゾーマを唱えてきた!若者がやはりメラゾーマを唱えて相殺した!番人Bは鎌を振り回した!魂でも痛みは感じ、傷こそできなかったが怪我をしたようなHPが減った感覚を一同覚えた。イザヤールは岩石を放り投げた!番人たちにダメージを与えた!ミミはバックダンサーを呼んだ!不思議な竜巻が巻き起こる!番人たちにダメージ!
「・・・こんなところにも来てくれるんだ・・・」ミミは思わず呟いた。
 こんな調子で数ターン戦ったところで、番人たちは攻撃を止めた。
「よく考えたら、まず王様から盗む時に、ここに来なきゃいけないんだもんなー。人間じゃ無理だよなー。疑って悪かったよ」
 ようやく話を聞いてもらえそうなのでミミはほっとして、番人たちに言った。
「あの、その鎌のことなんだけど・・・」
 ミミは「しにがみ」がその鎌を持っていたことを説明し、イザヤールが付け加えた。
「私がここに来るときに使ったから、たぶん私の体の傍に落ちているだろうな」
「マジか?!じゃあ王様に報告してから、急いで取りに行かなきゃ!」
 番人たちは旅の扉を出現させてそこから出かけようとしたが、ミミたちを振り返って言った。
「おっと、ここに飛び込んでも冥界の王様の玉座の間に出るだけだぜ。人間には無用の場所だ。おまえたちは来た道を戻りな。ただし、絶対後ろを振り返っちゃいけないぞ」
 番人たちが行ってしまうと、若者は呟いた。
「じゃあ、もしかしたら・・・」
 彼は妻の名らしき言葉を叫び、顔を輝かせて全力で来た道を駆けていった。ミミとイザヤールは顔を見合わせて微笑み、イザヤールは再びミミを抱き上げて、走り出した。ミミはずっとイザヤールの横顔を見つめ、イザヤールはときどきミミの顔を覗き込んでは走ったので、後ろを振り返る必要は一度も無かった。〈続く〉
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