30分遅れサギになっちゃってすみませんの追加クエストもどき。今回の話のベースは紛れもなくある日森の中でアレに出会っちゃうとある童謡です(笑)「ごうけつぐま」は、ドラクエ3に登場した巨大な熊の魔物ですが、文中の説明は半分は妄想でございます。でもウォルロにも居そうですよね、熊。グリズリーとか居てもおかしくないと思います。そして暴れ熊を守護天使が頑張って抑えたりしてくれるんだと思います。熊からも星のオーラもらってたりして(笑)
落葉樹の葉もだいぶ散り、ふゆしょうぐんもおおっぴらにうろうろし始めている。森でクルミを拾いながらミミは、そろそろ冬なんだなあと、葉の彩りがまばらになった枝を見上げた。厳しい寒さに耐える生き物たちには悪いけれど、冬も大好きだと彼女はかすかに顔をほころばせる。ぬくもりを分け合うことに、より幸せを感じるから。
小さなバスケットにクルミがいっぱいになったので、そろそろ帰ろうとミミは歩き始めた。積もった落ち葉が、足の下でかすかな音を立てる。その音とふわふわとした感触を楽しみ、思わずちょっと爪先立ってくるくる回ってしまった。子供っぽいことしちゃったなと恥ずかしくなって、誰かに見られなかったかと彼女はきょろきょろと辺りを見回した。そして、人の姿はなかったのでほっと息を吐いた。
だが。何かの気配はすることに気付いて、ミミは神経を張り詰めた。何か、ものすごく重量級な何かが、近寄って来る。この辺りにはそんなに重量級の魔物は居ない筈なのに。イザヤール様が守護天使だった頃に、手強そうな魔物はみんな蹴散らすかおとなしくさせてくれた筈なのに。
がさりと音を立てて、それは姿を表した。それは、見上げるほど巨大な、鋭い爪と牙を持った熊だった。なるほど、野生動物なら、居てもまあ不思議はないだろう。巨大な熊にも負ける気はしないミミだったが、悪意の無い動物をわざわざ傷付けるつもりもなかった。静かに、素早く退散するに限る。ミミは熊の方を見ながらそっと後退りをし、クルミ入りのバスケットを置いて、ある程度距離を取ったところで軽やかに走り始めた。
ところが、熊は後からついてきた。しかもなかなかの速度で。標的にされてしまったかと、ミミは走りながら考えた。おとなしく巨大熊さんの冬眠の栄養になるつもりはないので、眠らせるか、ちょっと可哀想だが気絶してもらうかだ。今は旅芸人なのでラリホーは使えない。ダーマのさとりで転職する暇も道具袋を探る暇もなさそうだ。ポケットにゆめみの花を入れておけばよかった、そうしたら熊さんに痛い思いさせなくていいのに、とミミは悔やんだ。でなければ、全速力で、逃げきるかだ。
だが、ここで呼び止める声がした。よくよく聞いていないと、吠える声と紛らわしいくらいな迫力の声だったが。
「待ってよー!ぐるる、待ってー!」
熊の言葉ではなくどうやら人の言葉のようだ。ということは、魔物か着ぐるみのどちらかだろう。ミミは身構え、用心しながら立ち止まり、尋ねた。
「私に何かご用?」
すると熊は、二本足で立って(まるで巨大岩のようだった)、前足の先に小さな何かをのせて差し出して言った。
「これ、落とし物、がう~」
がう~は意味のある言葉ではなく唸り声らしい。見ると、それは「白いかいがら」で作ったらしい小さなイヤリングだった。だが、それはミミの物ではなかった。今日の彼女の耳には、雫の形をしたアメジストのイヤリングがゆらゆら揺れていたからだ。とにかく、優しい熊さん(かどうかは怪しいが)らしいと安心して、ミミは申し訳なさそうに答えた。
「わあ・・・優しいのね。でもそのイヤリングは、私の物ではないの」
「そうなんだ?がるるる・・・」
巨大熊は唸ったが、怒りの為ではなく単なる癖らしい。それから熊は、今度はミミのクルミ入りバスケットを差し出した。
「こっちはあんたのだよね?がるる」
「あ・・・ありがとう・・・」
クルミを食べずに返してくれるなんて律義な熊さん、とミミは感心して、バスケットを受け取った。そして、干し果物を持っていたことを思い出して、お礼にと熊にあげた。
「ありがと、怖がらない優しい人間、嬉しい。ぐるる」
巨大熊は喜んで干し果物にかぶりつき、それらはあっという間に胃袋に消えて舌なめずりしたが、それから白いかいがらのイヤリングを困ったように見つめた。
「これ、どうしよう、がう」
「それなら、よかったら私が町に持って帰って、落とし主を探してみようか?大きな町だから、誰かが何か知っているかもしれないから」
ミミの申し出に、熊は喜んだ。
「ほんとに?助かる、ぐるる」
「ところで・・・」ミミはイヤリングを預かってから、先ほどから気になっていた疑問を尋ねた。「あなたはどうして、人間の言葉を話せるの?」
「がう?」巨大熊は、当たり前のように答えた。「何でって、ごうけつぐまだから」
ごうけつぐまなんて熊はミミは聞いたことがなかったが、帰って誰かに聞いてみようと思ってそれ以上の追及はやめた。ミミはクエスト「森のごうけつぐまさん」を引き受けた!
大きな町で聞いてみると言ったが、念のため近くのウォルロ村でも聞いてみたが、イヤリングの持ち主は居なかった。それでミミは、セントシュタインに戻って、リッカたちに事情を説明し、来客に心当たりを聞いてもらうことにした。そこへ、ベクセリアのルーフィンの所に行っていたイザヤールが帰ってきた。
ミミはイザヤールに駆け寄り、おかえりなさいの極上の微笑みをしてから、ごうけつぐまという熊を知らないか尋ねてみた。
「ごうけつぐま?そんな熊は、聞いたことは・・・いや待てよ、昔、ラフェットが修復していた絵巻物に、そんな熊の名前があったような。遥か東方の島国の火山洞窟に居る熊だとかなんとか。一説によると、長い歳月を経た熊が、魔物になったものだとか」
そこでミミが、ウォルロの山奥の森の中でごうけつぐまに会った経緯を話すと、イザヤールの顔がみるみる動揺と緊迫したものに変わって、慌ててミミの腕や顔を調べて叫んだ。
「巨大熊の魔物に遭遇しただと?!ミミ、怪我はなかったか、大丈夫だったか?!」
「だからイザヤール様、大丈夫だったってば・・・いい熊さんみたいだし」
「いくらいい熊と言っても、なあ・・・。ウォルロには確かに巨大な熊は度々出没したが、まさか魔物化したものが居たとは、迂闊だった・・・!」
心配されて申し訳ないのとくすぐったい気分とでミミが苦笑しているところへ、ロクサーヌから情報が寄せられた。
「ミミ様、今ちょうど、『白いかいがら』をお買い求めのお客様がいらっしゃいましたの!もしかしたら、お探しの方かもしれませんわ」
さっそくミミはロクサーヌの後についていって、その客に会わせてもらった。若い娘で、片方だけ白いかいがらでできたイヤリングをしていて、ミミがごうけつぐまから預かった物にそっくりだった。
「これ、もしかして、あなたのイヤリングですか?」
と、ミミがイヤリングを差し出すと、彼女は喜んで目を丸くした。
「まあ!確かに私のよ!ありがとう、どこで見つけてくれたの?」
そこでミミが、これは森で熊が見つけてくれたことを話すと、娘は驚いたり喜んだり困ったりと大忙しになった。
「あらまあ、おとぎ話みたい!ステキ~。でも困ったわ・・・」
「どうして?」
「だって、熊さんにイヤリングを拾ってもらったら、お礼に歌を歌うのが決まりでしょう?でもあたし、音痴で歌声が黒板引っ掻く音みたいって言われてるの~。どうしたらいいかしら~」
熊にお礼に歌うのが決まりだとは、ミミは初耳だったが、娘は本気で困っているらしかった。が、何か思いついたらしくやがて手をぽんと叩いた。
「そうだ、『さえずりのみつ』があれば歌はバッチリよ!ねえあなた、見つけてくれない?お礼はするから」
ミミが道具袋からさえずりのみつを出して渡すと、娘はお礼にと「まりょくのたね」をくれた!それから彼女は、熊にお礼がしたいので連れていってほしいと頼んだ。
「歌もいいけれど、果物とか蜂蜜の方が熊さん喜ぶんじゃないかと思うけれど・・・」
ミミは一応助言してみて、結局、歌の他に果物も持っていくことで話はまとまった。イザヤールも、どんな熊なのか見てみたいとのことで、一緒に来ることになった。
先ほどの森に行くと、ごうけつぐまはまだ居て、無事にイヤリングが持ち主に届いたことと、わざわざ本人がお礼に来てくれたことに喜んだ。
「それでね、あたし、お礼に歌を・・・」
と、イヤリングの持ち主がさえずりのみつを取り出すと、ごうけつぐまは目を輝かせて喜んだ。
「うがっ、それは『さえずりのみつ』!大好物だよがるるる、ありがとう!」
誤解を解く間もなくごうけつぐまがさえずりのみつを大喜びで取ったので、歌のお礼は無しになったが、まあ喜んでくれたので結果オーライとなった。娘は、もう一度ごうけつぐまとミミにお礼を言って帰っていった。
「イヤリングの持ち主を見つけてくれてありがとう、ぐるる」ごうけつぐまもまたミミにお礼を言った。「おかげで大好物もらったうがが。あんたにお礼しなきゃ、これあげる。キラキラキレイ」
ごうけつぐまは、「ヘビーメタル」をくれた!
「それ、イヤリングにどうかなあ、がう~」
どんな豪傑でもヘビーメタルをイヤリングにするのはムリだろうと、ミミとイザヤールは顔を見合わせてこっそり苦笑した。
「じゃあね、がるるる。これから、れんごくまちょうと腕相撲の真剣勝負しに行かなきゃ」
豪傑なのかどうなのかいまいちビミョーな言葉を残して、ごうけつぐまは去って行った。
「ごうけつぐまさんも、冬眠するのかなあ?」
小山のような後ろ姿を見送りながら、ミミは首を傾げた。
「さあな。・・・そうか、そろそろウォルロの動物たちも冬眠の時期か。冬の間も、ときどき山の中を見回ってやらないとな」
イザヤールの言葉に、ミミはにっこり笑って頷いた。それから彼女は、少しはにかみながら呟いた。
「すごく寒い朝は、私も冬眠したくなっちゃうこともあるの・・・」
「ああ、それはわかるな」
笑ってイザヤールが頷いた。
「え、イザヤール様も?」
「ああ。とってもいい抱き枕を腕に抱えていて、ベッドの中が暖かいと殊にな」
それを聞いてミミは顔を赤らめ、それから小さく呟いた。
「私も・・・」
生き物には厳しい冬が来るけれど。ウォルロの元守護天使二人は、今年もあたたかな冬を過ごせそうだ。〈了〉
落葉樹の葉もだいぶ散り、ふゆしょうぐんもおおっぴらにうろうろし始めている。森でクルミを拾いながらミミは、そろそろ冬なんだなあと、葉の彩りがまばらになった枝を見上げた。厳しい寒さに耐える生き物たちには悪いけれど、冬も大好きだと彼女はかすかに顔をほころばせる。ぬくもりを分け合うことに、より幸せを感じるから。
小さなバスケットにクルミがいっぱいになったので、そろそろ帰ろうとミミは歩き始めた。積もった落ち葉が、足の下でかすかな音を立てる。その音とふわふわとした感触を楽しみ、思わずちょっと爪先立ってくるくる回ってしまった。子供っぽいことしちゃったなと恥ずかしくなって、誰かに見られなかったかと彼女はきょろきょろと辺りを見回した。そして、人の姿はなかったのでほっと息を吐いた。
だが。何かの気配はすることに気付いて、ミミは神経を張り詰めた。何か、ものすごく重量級な何かが、近寄って来る。この辺りにはそんなに重量級の魔物は居ない筈なのに。イザヤール様が守護天使だった頃に、手強そうな魔物はみんな蹴散らすかおとなしくさせてくれた筈なのに。
がさりと音を立てて、それは姿を表した。それは、見上げるほど巨大な、鋭い爪と牙を持った熊だった。なるほど、野生動物なら、居てもまあ不思議はないだろう。巨大な熊にも負ける気はしないミミだったが、悪意の無い動物をわざわざ傷付けるつもりもなかった。静かに、素早く退散するに限る。ミミは熊の方を見ながらそっと後退りをし、クルミ入りのバスケットを置いて、ある程度距離を取ったところで軽やかに走り始めた。
ところが、熊は後からついてきた。しかもなかなかの速度で。標的にされてしまったかと、ミミは走りながら考えた。おとなしく巨大熊さんの冬眠の栄養になるつもりはないので、眠らせるか、ちょっと可哀想だが気絶してもらうかだ。今は旅芸人なのでラリホーは使えない。ダーマのさとりで転職する暇も道具袋を探る暇もなさそうだ。ポケットにゆめみの花を入れておけばよかった、そうしたら熊さんに痛い思いさせなくていいのに、とミミは悔やんだ。でなければ、全速力で、逃げきるかだ。
だが、ここで呼び止める声がした。よくよく聞いていないと、吠える声と紛らわしいくらいな迫力の声だったが。
「待ってよー!ぐるる、待ってー!」
熊の言葉ではなくどうやら人の言葉のようだ。ということは、魔物か着ぐるみのどちらかだろう。ミミは身構え、用心しながら立ち止まり、尋ねた。
「私に何かご用?」
すると熊は、二本足で立って(まるで巨大岩のようだった)、前足の先に小さな何かをのせて差し出して言った。
「これ、落とし物、がう~」
がう~は意味のある言葉ではなく唸り声らしい。見ると、それは「白いかいがら」で作ったらしい小さなイヤリングだった。だが、それはミミの物ではなかった。今日の彼女の耳には、雫の形をしたアメジストのイヤリングがゆらゆら揺れていたからだ。とにかく、優しい熊さん(かどうかは怪しいが)らしいと安心して、ミミは申し訳なさそうに答えた。
「わあ・・・優しいのね。でもそのイヤリングは、私の物ではないの」
「そうなんだ?がるるる・・・」
巨大熊は唸ったが、怒りの為ではなく単なる癖らしい。それから熊は、今度はミミのクルミ入りバスケットを差し出した。
「こっちはあんたのだよね?がるる」
「あ・・・ありがとう・・・」
クルミを食べずに返してくれるなんて律義な熊さん、とミミは感心して、バスケットを受け取った。そして、干し果物を持っていたことを思い出して、お礼にと熊にあげた。
「ありがと、怖がらない優しい人間、嬉しい。ぐるる」
巨大熊は喜んで干し果物にかぶりつき、それらはあっという間に胃袋に消えて舌なめずりしたが、それから白いかいがらのイヤリングを困ったように見つめた。
「これ、どうしよう、がう」
「それなら、よかったら私が町に持って帰って、落とし主を探してみようか?大きな町だから、誰かが何か知っているかもしれないから」
ミミの申し出に、熊は喜んだ。
「ほんとに?助かる、ぐるる」
「ところで・・・」ミミはイヤリングを預かってから、先ほどから気になっていた疑問を尋ねた。「あなたはどうして、人間の言葉を話せるの?」
「がう?」巨大熊は、当たり前のように答えた。「何でって、ごうけつぐまだから」
ごうけつぐまなんて熊はミミは聞いたことがなかったが、帰って誰かに聞いてみようと思ってそれ以上の追及はやめた。ミミはクエスト「森のごうけつぐまさん」を引き受けた!
大きな町で聞いてみると言ったが、念のため近くのウォルロ村でも聞いてみたが、イヤリングの持ち主は居なかった。それでミミは、セントシュタインに戻って、リッカたちに事情を説明し、来客に心当たりを聞いてもらうことにした。そこへ、ベクセリアのルーフィンの所に行っていたイザヤールが帰ってきた。
ミミはイザヤールに駆け寄り、おかえりなさいの極上の微笑みをしてから、ごうけつぐまという熊を知らないか尋ねてみた。
「ごうけつぐま?そんな熊は、聞いたことは・・・いや待てよ、昔、ラフェットが修復していた絵巻物に、そんな熊の名前があったような。遥か東方の島国の火山洞窟に居る熊だとかなんとか。一説によると、長い歳月を経た熊が、魔物になったものだとか」
そこでミミが、ウォルロの山奥の森の中でごうけつぐまに会った経緯を話すと、イザヤールの顔がみるみる動揺と緊迫したものに変わって、慌ててミミの腕や顔を調べて叫んだ。
「巨大熊の魔物に遭遇しただと?!ミミ、怪我はなかったか、大丈夫だったか?!」
「だからイザヤール様、大丈夫だったってば・・・いい熊さんみたいだし」
「いくらいい熊と言っても、なあ・・・。ウォルロには確かに巨大な熊は度々出没したが、まさか魔物化したものが居たとは、迂闊だった・・・!」
心配されて申し訳ないのとくすぐったい気分とでミミが苦笑しているところへ、ロクサーヌから情報が寄せられた。
「ミミ様、今ちょうど、『白いかいがら』をお買い求めのお客様がいらっしゃいましたの!もしかしたら、お探しの方かもしれませんわ」
さっそくミミはロクサーヌの後についていって、その客に会わせてもらった。若い娘で、片方だけ白いかいがらでできたイヤリングをしていて、ミミがごうけつぐまから預かった物にそっくりだった。
「これ、もしかして、あなたのイヤリングですか?」
と、ミミがイヤリングを差し出すと、彼女は喜んで目を丸くした。
「まあ!確かに私のよ!ありがとう、どこで見つけてくれたの?」
そこでミミが、これは森で熊が見つけてくれたことを話すと、娘は驚いたり喜んだり困ったりと大忙しになった。
「あらまあ、おとぎ話みたい!ステキ~。でも困ったわ・・・」
「どうして?」
「だって、熊さんにイヤリングを拾ってもらったら、お礼に歌を歌うのが決まりでしょう?でもあたし、音痴で歌声が黒板引っ掻く音みたいって言われてるの~。どうしたらいいかしら~」
熊にお礼に歌うのが決まりだとは、ミミは初耳だったが、娘は本気で困っているらしかった。が、何か思いついたらしくやがて手をぽんと叩いた。
「そうだ、『さえずりのみつ』があれば歌はバッチリよ!ねえあなた、見つけてくれない?お礼はするから」
ミミが道具袋からさえずりのみつを出して渡すと、娘はお礼にと「まりょくのたね」をくれた!それから彼女は、熊にお礼がしたいので連れていってほしいと頼んだ。
「歌もいいけれど、果物とか蜂蜜の方が熊さん喜ぶんじゃないかと思うけれど・・・」
ミミは一応助言してみて、結局、歌の他に果物も持っていくことで話はまとまった。イザヤールも、どんな熊なのか見てみたいとのことで、一緒に来ることになった。
先ほどの森に行くと、ごうけつぐまはまだ居て、無事にイヤリングが持ち主に届いたことと、わざわざ本人がお礼に来てくれたことに喜んだ。
「それでね、あたし、お礼に歌を・・・」
と、イヤリングの持ち主がさえずりのみつを取り出すと、ごうけつぐまは目を輝かせて喜んだ。
「うがっ、それは『さえずりのみつ』!大好物だよがるるる、ありがとう!」
誤解を解く間もなくごうけつぐまがさえずりのみつを大喜びで取ったので、歌のお礼は無しになったが、まあ喜んでくれたので結果オーライとなった。娘は、もう一度ごうけつぐまとミミにお礼を言って帰っていった。
「イヤリングの持ち主を見つけてくれてありがとう、ぐるる」ごうけつぐまもまたミミにお礼を言った。「おかげで大好物もらったうがが。あんたにお礼しなきゃ、これあげる。キラキラキレイ」
ごうけつぐまは、「ヘビーメタル」をくれた!
「それ、イヤリングにどうかなあ、がう~」
どんな豪傑でもヘビーメタルをイヤリングにするのはムリだろうと、ミミとイザヤールは顔を見合わせてこっそり苦笑した。
「じゃあね、がるるる。これから、れんごくまちょうと腕相撲の真剣勝負しに行かなきゃ」
豪傑なのかどうなのかいまいちビミョーな言葉を残して、ごうけつぐまは去って行った。
「ごうけつぐまさんも、冬眠するのかなあ?」
小山のような後ろ姿を見送りながら、ミミは首を傾げた。
「さあな。・・・そうか、そろそろウォルロの動物たちも冬眠の時期か。冬の間も、ときどき山の中を見回ってやらないとな」
イザヤールの言葉に、ミミはにっこり笑って頷いた。それから彼女は、少しはにかみながら呟いた。
「すごく寒い朝は、私も冬眠したくなっちゃうこともあるの・・・」
「ああ、それはわかるな」
笑ってイザヤールが頷いた。
「え、イザヤール様も?」
「ああ。とってもいい抱き枕を腕に抱えていて、ベッドの中が暖かいと殊にな」
それを聞いてミミは顔を赤らめ、それから小さく呟いた。
「私も・・・」
生き物には厳しい冬が来るけれど。ウォルロの元守護天使二人は、今年もあたたかな冬を過ごせそうだ。〈了〉
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