セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

おばけの森を抜けて

2015年08月01日 01時13分50秒 | クエスト184以降
30分更新サギになってしまって誠にすみません~の追加クエストもどき。幼い頃の怖い話や暗闇への膨大すぎなくらいの恐怖心が、情けなくもちょっぴり懐かしかったりというところからできた話。イザヤール様またすごいタイミングで登場と予めネタばらし(笑)

 今日はエラフィタ村に用事があったミミは、その用事も無事に済ませて村を出た。もう夕方になっていて、辺りは薄暗くなりかけていた。ルーラを唱えようとして彼女は、村の囲いのすぐ外で、小さな男の子がしくしくと泣いていることに気が付いた。
「どうしたの?」
 ミミが近寄って尋ねると、男の子はえぐえぐと嗚咽しながら答えた。
「ぼく、ママに叱られたんだ」彼がしゃくりあげるのと鼻をすするので言葉は聞き取るのがやっとだった。「それでお家に入れてもらえないんだ」
「どうして叱られたの?」
「ぼく、怖いお話聞いて人が怖がるところを見るのが大好きで、聞いたのも自分で作ったのもいろいろたくさん、友達に話したんだ。そしたら友達みんな、夜にトイレに行けなくなっちゃったり、怖い夢を見てうなされるようになっちゃって、友達のママたちがうちのママに文句を言ってきたんだ。それでママも怒っちゃって、ぼくに怖い話を聞くのも話すのも禁止って言って、ぼくはそれは絶対ヤダって言ったら、『じゃあ自分でもちょっとは怖い思いしなさい』って言って、家の外に出されちゃって。ぼくも頭きちゃったから、そのまま村の外まで出てきちゃったの」
「そう・・・」ミミは頷いて男の子の傍にしゃがんで、彼の頭をなでて言った。「でもね、村の外は危ないよ。暗くなってきたし、お母さんに謝って、許してもらったら?私も一緒に行ってあげる」
 すると、男の子の目から、またぶわっと涙が溢れ出した。
「許してもらえないよ。だって、ぼくがここに立ってたら、いきなりママが来て、『西の森の向こうにある沼地のどくけしそうを持ってくるまではお家に入れない』なんて言ったんだもの」
「そんな・・・」
 ミミは驚いた。確かにエラフィタのすぐ近く、西の小さな森を抜けた先には、どくけしそうの自生地があるが、それは毒の沼地の中にあって、小さな子供が行くにはなかなか危険な場所だった。いくらなんでもそんな酷いおしおきを言いつけるなんて。
「そんな危ないところ、行っちゃだめよ」ミミは眉をひそめて言った。「私がお母さんに言って、やめてもらうように言うから。お家がどこか、教えて」
 よそのご家庭のしつけに口出しをするつもりは無いが、危険が予想される場合は別だと、お節介を承知でミミが言うと、男の子は鼻をすすり上げて首を振った。
「でも今お家に帰ったら、怖いお話を永久禁止にされちゃう。それはやだよ。それに、ママ言ったんだ。沼地ではパパが待ってるから、パパと一緒に帰って来なさいって。だから、危なくはないんだけど・・・」
 そっか、一応安全対策はちゃんとしてるうえでのおしおきなんだ、とミミは納得した。親が待っているなら、子供でも行ける放牧場より近いくらいの場所だから、それほどの危険はないだろう。
「でも、ぼく・・・」男の子はぐすぐす泣きながら呟いた。「自分で話したオバケのお話思い出して怖くなっちゃって、暗い森の中通るのもイヤなんだ。遠回りするのもどんどん暗くなって怖いし」
 一種の自業自得とはいえ、ミミは男の子が可哀想になった。それで、申し出た。
「それじゃあ、あなたのお父さんが待ってるところまで、私がついていってあげる。一人じゃないなら、少しは怖くないでしょう?」
「ほんと?」男の子は、泣き濡れた顔のまま目を見開いた。「おねえちゃん一緒に行ってくれるの?ありがとう!」
 ミミはクエスト「おばけの森を抜けて」を引き受けた!

 おねえちゃんと一緒なら怖くないと男の子が言ったので、二人は森を抜けて行くことにした。だが、森に入ると男の子は、ぶるぶる震えだしてミミの手にしがみついた。
「ぼ、ぼくね、森の中のオバケのお話もしちゃったの。木の上からいきなり白い幽霊が降ってきて、連れてかれる話・・・うひゃあ、出たあー!」
 上から何かが降ってきて、男の子は絶叫した。それが被さってくる前に、ミミは扇の風圧でそれを払い落として、地面に落ちたのを確認して見てみた。するとそれは、白い幽霊ではなくて、ストライプのステテコパンツだった。
「大丈夫よ。きっと、洗濯物が飛ばされてきたのね」
 万が一誰かが拾いに来たときに見つけられるよう、切株の上に置いて重しを置いてやりながらミミが言うと、男の子はほ~と安堵の息をついてへたりこんだ。
 それから二人がまた歩き出すと、圧し殺したようなしかしどこか甲高い怪しい呻き声のようなものが、木の間に響いた。
「ひゃあー!地獄の魔獣の唸り声だー!」
 またもや男の子は絶叫したが、ミミは彼の頭をなでて答えた。
「よく聞いて。ふくろうの鳴き声よ。ほら、けっこう可愛いでしょ?」
「・・・ほんとだ・・・」
 恥ずかしそうにうつむいた男の子は、今度は地面を見て飛び上がった。
「おねえちゃーん!笑うしゃれこうべがー!」
 地面に丸く白っぽい物が転がっていた。ボールか何か・・・ではなく、それには顔があった!
 しかしミミは元守護天使で現在冒険者なので、頭蓋骨らしきものを見たら、怯えるより悼み弔う習性が芯から染み着いていた。本当に骨なら埋めてあげなきゃと、よくよく見ると、それは頭蓋骨ではなく、木の根元でうつぶせに眠っているかかしの魔物「かまっち」だった。丸く白っぽい頭の部分だけ灌木から飛び出していたので、薄闇の中では頭蓋骨に見えたのだろう。
 なんだ~、かまっちなの、と言いたいところだが、ミミにとってはたいしたことのない魔物でも、魔物は魔物なので、眠っているのをいいことにそっと離れることにした。
「しゃれこうべじゃないの、倒れてるかかしさんなの。静かに向こうへ行きましょうね」
 ミミは囁いて、男の子の背中を押してその場をそーっと離れた。この子の叫び声でかまっちが起きなくてよかったと安堵しながら。
 安全な距離まで離れてから、ミミはまた男の子と手をつないで、にっこり笑って言った。
「ほら、もうすぐ森を出られるわ。沼地まですぐそこよ。よくがんばったね、とっても偉いわ」
 褒められて、男の子は嬉しそうにえへへと笑ったが、また怖そうに後ろを振り返り、呟いた。
「でも・・・後ろから何か追いかけてくるような感じ・・・。気のせいってわかってても、何かがぼくのすぐ後ろを歩いてくるようなこの感じ、おねえちゃんはわかる?パパは、ぼくがオクビョウモノだからって、言うけど・・・」
 そう言われて、ミミは少し反省した。自分は職業柄、怖がっていてはやっていけないところがあるから、ついつい他者の恐怖感に鈍感になってはいないかと。非力で、ひとりぼっちで、辺りは暗くいつどこから何が来るかわからないような状況だったら、怖いと思う方が当然なのだ。
 そんな状態では、全てが敵に見えたり、子供だったら全てがお化けに見えたり感じられたりすることだろう。お化けが実在しようとしまいと、お化けだと思ったものを見たときの恐怖は、実際にお化けに会ったときの恐怖と全く変わらない。恐怖に本物も偽りもないのだ・・・。そんな気持ちを、忘れてはいけない。ミミは、真剣な眼差しで男の子をまっすぐ見て、言った。
「うん、その何かがすぐ後ろを来ているような感じ、とってもよくわかるの。・・・私も、小さくて、全然強くなくて、知らないところで迷子になったとき、よくそんな気持ちになったこと、思い出したわ・・・。あなたは、臆病者なんかじゃない、想像力が豊かで、敏感なの。それは、決して悪いことじゃないのよ」
 ミミの真剣な思いと言葉に、男の子は心動かされたようだった。嬉しそうに笑って、彼はミミを見上げ、呟いた。
「・・・ほんと?だったら嬉しいなあ・・・」
 ちょうどそのとき、木々の間から抜け出て、月光が二人を照らした。
「ほら見て、綺麗な真ん丸なお月さまよ」
「わあ、お月さまで明るいねえ、おねえちゃん」
 男の子がすっかり元気になったので、ミミも嬉しくなって、にっこり笑って、二人で弾むような軽い足取りで歩いた。

 そして間もなく、二人はどくけしそうのある沼地にたどり着いた。だが、その辺りには、人の気配はなく、静まり返っていた。
「お父さん、居ないね」
「あれえ?パパ、帰っちゃったのかなあ?」
 入れ違いになった可能性はあるが、それにしたって、小さな息子を待つなら、もう少し待っていたってよさそうなものだ。ミミと男の子は顔を見合わせて首を傾げた。
「とりあえず、どくけしそうは拾っておこうか」
 ミミは男の子を安全な草地に待たせておいて、沼地に踏み込んでどくけしそうを拾った。と、そのとき、男の子の驚いたような、嬉しそうな声が聞こえた。
「あれ、パパ、今来たの?」
 男の子のお父さん、来たんだ、よかったとミミが安心して振り返ると、月光に照らされて、男の子と、その父親らしい男性の姿が、よく見えた。なるほど、親子らしく確かに似ている。・・・だが、ミミは月光に照らされた彼らの影を見て、はっと目を見開いた。くっきり黒い影は、男の子のは普通のものだったが、男性の方は、人間のものとは全く違う、禍々しい悪魔の翼と、鋭い爪と、おぞましいくちばしを持っていた!
「その人はお父さんじゃないわ!逃げて!」
 ミミは叫んで、二人のところに駆け寄った。
「え?」
 男の子は振り返り、その拍子に「パパ」の影を見た。そして信じられないように瞬きしてから、気絶してしまった。
 ミミは、男の子をかばうように立ちはだかった。すると男性は、ミミを憎々しげに見つめ、言った。
「せっかく、その子供の恐怖を糧に、実体化できたというのに・・・。邪魔をするか!」
 ホラービーストが、正体を表した!
 ホラービーストは、人の恐怖心が具現化したものだと言われている魔物だ。おぞましい鳴き声でマヒさせられたら、熟練冒険者でもひとたまりもない。だが自分が負けてしまってはこの男の子も危ないのだ。ミミは、ひっさつのおうぎを構えた。
 痛恨の一撃は盾で防ぎ、おぞましい鳴き声も何度か耐えたが、男の子をかばうために冷気の攻撃を一身に受けて、かなりのダメージを被り、ミミは唇を噛みしめた。あともう少しで、倒せるのに、防御に手一杯で攻撃に踏み込めない。こんなとき、イザヤール様が居てくれたら。そう思ったとき。
 突然ホラービーストが、断末魔の声も残さず剣で斬られ真っ二つになり、消えた。その向こうに、立っていたのは。
「イザヤール様・・・!どうして?」
 ほんとに、本当に来てくれた。ミミは濃い紫の瞳を輝かせ、彼に駆け寄った。
「あんまり遅かったから、エラフィタまで迎えに来たら、遠くから怪しい鳴き声が聞こえたので、駆け付けてみた。まさかホラービーストの声で、おまえが戦っていたとはな」イザヤールは答えて、剣を持っていない方の腕で彼女を抱きしめた。「いいタイミングだったようでよかった」
 イザヤール様が居てくれるから、私はいろいろなものを怖がらないで安心していられるの・・・。自分もきゅうと抱きつきながら、ミミは安堵と愛しさの笑みを浮かべた。

 それから男の子を介抱し、ミミたちがエラフィタ村に戻ると、村では男の子を探して大騒ぎになっていた。母親は、自分が家の外に締め出したばかりにと半狂乱になっていた。そんなわけで無事に帰って大喜びで迎えられ、ミミとイザヤールは村中の感謝を受けた。男の子が村の外で会った母親はやはりホラービーストが化けた偽者で、森を通らせて恐怖心を増幅させたうえで餌食にしようとしたのだということがわかった。
「おねえちゃん、助けてくれてありがとう。・・・ぼく、怖いお話はやめないけど、ほどほどにするね。そして、おねえちゃんみたいに強くて優しくなる!」
 ミミは男の子からお礼にと「ちいさなメダル」をもらった!
 これならもう、この子は大丈夫。必要以上の恐怖に駈られないなら、ホラービーストの餌食になることもないだろう。確信して、ミミとイザヤールは顔を見合わせて、微笑んだ。〈了〉
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