今週も丑三つ時更新すみませんの追加クエストもどき。モンスターズネタというわけでもありませんが、今回のテーマはモンスターマスターです。いずれミミやイザヤール様にも立派なモンスターマスター風な冒険もしてもらいたいところですが、今回は・・・。子供の頃ってヒーローに憧れて本当に変身してみたくなったりとかあると思うんですが、いい面しか見ませんよね子供の頃って(笑)
最近、セントシュタインの城下町の子供たちの間で、モンスターマスター、すなわち魔物使いの兄妹が主人公の物語が人気らしい。魔物使いは、仲間になったモンスターたちと力を合わせて戦う職業である。魔物と心を通い合わせ、数々の冒険を繰り広げる同年代の少年少女の物語が、子供たちの憧れをかきたて心をつかんだのだろう。
しかし、憧れると真似をしたくなる者が現れるのもまた必至だ。物語の登場人物風の格好をするのはまだ害はなかったが、家から燻製の肉の塊を持ち出してスライムベスに投げ与えて手懐けようとして親に叱られる子供がちらほら現れ始めた。中にはポンポコだぬきと仲良くなってしまった強者の子供までいた。その子供はこっそり自宅にポンポコだぬきの一家を連れ込んでしまい、彼らは街中で腹鼓とダンスを始めてしまって城下町は一時パニックとなり、結局ミミとイザヤールがポンポコだぬきたちをなんとか町の外へ連れ出したりした。
そんなある日。ミミは、城下町の一人の母親から相談を受けた。
「うちの子が、将来モンスターマスターになるって言い出して全く勉強しなくなっちゃったの。来年はエルシオン学院の受験だっていうのに、困ったわ~」
結局未来を決めるのは子供本人なのだろうが、本当にモンスターマスターになりたいなら、旅をする能力も必要だろうし、モンスターの巣窟に飛び込んだりする危険もあるから、戦闘能力も必要だろう。それならエルシオン学院で学んでからなった方がいいのではないかとミミも思った。
「でしょう、あなたもそう思うでしょう?でも、ちっとも言うこと聞かないのよ、モンスターたちにお菓子をあげたりしてちょっと仲良くなったからって、自分にはモンスターマスターの才能があるってうぬぼれちゃって。どうにかならないかしら。ねえミミさん、モンスターマスターも含めて、冒険者するのは甘くないんだってうちの子に教えてあげてくれない?ものすごくたいへんだって」
そう言われてミミは曖昧な笑みを浮かべた。確かに冒険者稼業は命懸けでたいへんだが、ミミにとってはとても楽しいものなのだ。夢見る子供に辛さや苦労をうまくアピールできるだろうか。と、ここで、母親自らが解決方法を思いついたらしく、ぱちんと手を叩いて言った。
「そうだわ!ねえミミさん、あなた、モンスターマスターのふりをして、うちの子に勝負を挑んでくれない?こてんぱんにされれば、うちの子も目が覚めてまた勉強に励んでくれると思うわ」
確かにミミもモンスターをパーティメンバーにできたら楽しいだろうと常日頃思っていたが、モンスターマスターのふりをしろと言われても困ってしまった。しかし子供の母親に懇願され押しきられ、とうとう承諾してしまった。ミミはクエスト「憧れモンスターマスター」を引き受けた!
とりあえず引き受けたものの、さてどうしようとミミは自室に戻ってきて考え込んだ。そして、せめて形から入ってみようかと伝説の魔物使いであるグランバニア王の装備を着てみた。いつもはイザヤールがときどき装備している装備品なので、彼女にはかなり大きめだ。やっぱりイザヤール様の方が似合うなあと、ミミは鏡をちらりと見てから溜息をついた。と、そこへ。
「ミミ~、スイーツ食べに行こ・・・って、なにグランバニア王のカッコしてんのよ?」
「あ、サンディ。実はね・・・」
ミミから事情を聞いてサンディはけらけらと笑った。
「アンタ今だってけっこうモンスターたちとなかよしだから、モンスターマスターみたいなもんじゃん~。知り合いの『いい』スライムとかにでも頼んでみたらー?」
「でも、もし本当にモンスター同士のバトルとかになったら可哀想だし・・・」
そんな会話をしているところに、ちょうどイザヤールも帰ってきた。
「ただいま、ミミ」
それから彼は、ミミのグランバニア装備にほんの少し驚いた顔をした。大きめのグランバニアローブとグランターバンを身に着けたミミは余計に華奢に見える。ミミが着るとずいぶん可愛いものだなと、彼は微笑んだ。その後、彼も事情を聞いて「とりあえず形から入った」と言われて楽しそうに笑った。
「そんなに笑っちゃ、いや・・・」
そう呟きながらも、イザヤールが楽しげなことが嬉しくて、ミミも恥ずかしそうながらも自らも笑い出している。そんな彼女の頬を優しく指先でなでてから、イザヤールは言った。
「よし、もちろん私も手伝おう。とりあえず、ウォルロの高台辺りに、スライム属でもスカウトに行こうか。キングスライム辺りを連れて行けば、その子供の連れているモンスターも戦わずに逃げ出すだろう」
「はい♪でも、ひと芝居に協力してくれるかなあ・・・」
「バイト代にゴールドの他に『超しもふりにく』でも付ければ行けそうだがどうだろう」
と、二人は今回モンスターを雇うことを真剣に検討し始めた。
「あ~あ、グレイナルさんが洞窟から出て来られればなあ・・・」
「ドミールならともかく、セントシュタインに現れたら城下町がパニックになりそうだがな」
まずはモンスターたちへのバイト代の一部の超しもふりにく作りから始めようかと二人が決めたそのとき。
「それよりもっとお手軽な方法あるじゃん、アンタたちのどっちかがモンスターに化ければいいのヨ☆」
そうサンディが提案してきた。
「え?それって、『スライムヘッド』に『スライムスーツ』着ろってこと?いくらなんでもスライムタワーとは思ってもらえないんじゃ・・・」
ミミが渋ると、サンディが叫んだ。
「違うっつーの!てきとーな甲冑とか借りて、さまよう鎧とかになればいいじゃんって話!」
「あ、そういうこと・・・」
確かに手持ちの鎧や兜にちょっと手を加えればさまようよろいやマジックアーマー辺りはできそうだ。細工はお手のものなイザヤールもいることだし。ミミはさっそく、装備袋の中の使えそうな物をあれこれ探し始めた。
それから数時間後。モンスターを後ろに引き連れた一人の少年が、セントシュタインの城下町から少しだけ離れたところを得意気に歩いていた。ミミに相談を持ちかけた例の母親の息子だ。ときどきポケットから砂糖菓子や骨付き肉を覗かせることで、現在スライムベスとおおきづちとウパソルジャーがくっついてきている。
と、ここで彼は、突然呼び止められた。
「そこのモンスターマスター、私と勝負よ!」
振り返ると、紫色のターバンにマントに白いローブを身にまとった、濃い紫の瞳をした可愛いおねえさんが、一匹の「さまようよろい」を連れて立っていた。この人は確か、城下町の宿屋に住んでいるミミって名前の冒険者のおねーさんだと少年は思った。日によって旅芸人の格好だったり魔法使いだったり戦士だったりしているのは見かけたことがあるが、モンスターマスターまでやっていたとは知らなかった。
プロの冒険者に勝負と言われて正直彼はちょっと焦ったが、ミミが連れているモンスターが一匹だけなので、いや待てよと考え直した。このおねーさんのモンスターと自分のモンスターが勝負して勝てたら、ママもモンスターマスターになるのを認めてくれるかもしれない。そうなればもう大嫌いな勉強をしなくていい。三対一なら行けそうだ。そこで彼は答えた。
「いいよー。でも、ボクのパーティ、けっこう強いからねー」
彼の連れているスライムベスもおおきづちもウパソルジャーも、なかなか好戦的な性格らしく、張り切っているようだった。勝てば骨付き肉がごほうびだということも関係しているようだが。三匹が身構え戦闘態勢に入ったのを見て、ミミは少々困ってごく小さな声で自分の連れている「さまようよろい」にこっそり囁いた。
(さまようよろいなら、この辺のモンスターなら逃げ出してくれると思ったのだけど・・・どうしよう、イザヤール様)
(仕方ない、ちょっと脅かすしかないな)
さまようよろいは、実はと言うか案の定と言うべきか、イザヤールの変装だった。本当はミミがモンスターの役をするつもりだったのが、リッカの宿屋の倉庫にあったさまようよろい風な形の甲冑のサイズが、ミミよりもイザヤールに合っていたのでこんな配役になったのである。
こうして試合は始まった。少年はモンスターたちに「ガンガンいこうぜ」の指示を出した。スライムベスの攻撃!ミス!さまようよろい(実際は違うのだが)にダメージを与えられない!おおきづちは力をためた!テンションが上がった!ウパソルジャーの攻撃!ミス!さまようよろいにダメージを与えられない!
テンションを上げたおおきづちが、さまようよろいに次のターンでダメージを与えられたかどうかは永久に不明になった。さまようよろいすなわちイザヤールが、モンスターたちや少年に当たらないよう気を付けながらギガスラッシュを放ち、その閃光と轟音で少年の連れていたモンスター三匹は全員、気絶してしまったからである。
のびてるモンスターたちを起こそうと慌てている少年に、ミミはわざときつい言葉を投げかけた。
「どう、わかった?モンスターマスターは、簡単になれるものじゃないの。あなたは、こうやって自分のモンスターたちが気絶したとき、守ってあげることができる?助けることができる?できないなら、モンスターマスターになるなんて諦めなさい」
少年はうつむいてしまって、少し厳しく言い過ぎたかなと、ミミは心配になった。だが、再び顔を上げた少年は、キラキラと瞳を輝かせていて・・・そして彼は叫んだ。
「おねーさん、かっこいいー!!やっぱりモンスターマスターってマジかっこいい!!ボク、もっと頑張っておねーさんみたいなモンスターマスターになるー!」
ミミにとってはまさかの、逆効果になってしまった。どうしよう、と内心動揺するミミ、落ち着け、とイザヤールは彼女に囁いたが、さまようよろいに扮したのに派手な技を見せたのは失敗だったかと彼もまた少々焦った。
しかし、気絶から覚めたスライムベスたちは、口々に言った。
「いくら骨付き肉やキャンディもらっても、こんなに危ないことやってらんねー!」
「海岸のパトロールがあるからもう帰るウパ~」
「怖かったよ~、もうお家帰るー」
こうして少年が止める間もなく、モンスターたちは帰ってしまった。モンスターマスターに何より必要なのは、仲間のモンスターたちとの信頼関係。少年は痛いほどその大原則を思い知り、しょんぼりと言った。
「やっぱり自分もイケてないと、かっこいいモンスターマスターにはなれないんだね・・・ボク、まずは自分磨きをすることにしたよ」
こうして少年も家に帰っていった。すると入れ違いに、物陰から見ていた少年の母親が現れて、ミミに言った。
「ありがとう、これでうちの子も勉強に専念してくれると思うわ!これお礼よ!」
ミミは、「ふしぎなきのみ」を三つもらった!
母親も帰っていくと、ミミはイザヤールの兜を脱がせて、彼の顔を優しく手で挟んで囁いた。
「イザヤール様、ありがとう。馴れない甲冑で動くのたいへんだったでしょう?私たちも急いで帰って、着替えましょう」
それから彼女はいくぶんためらってからイザヤールの頬に感謝を込めて優しくキスをしたので、ミミがもしモンスターマスターになったら、仲間たちみんながさぞかし守りたくなるのだろうなと、少し照れながらイザヤールは思ったのだった。
それから数日後。あの母親が、またミミに相談にやって来た。
「ミミさん、うちの子ったら、自分磨きの為にまずはスーパースターになるって言い出したのよー!また勉強しないわ、まったくどうしたらいいのかしら?」
今度はスーパースターのたいへんさをアピールしなければならないかもしれない。ちょっと困ったミミだった。〈了〉
最近、セントシュタインの城下町の子供たちの間で、モンスターマスター、すなわち魔物使いの兄妹が主人公の物語が人気らしい。魔物使いは、仲間になったモンスターたちと力を合わせて戦う職業である。魔物と心を通い合わせ、数々の冒険を繰り広げる同年代の少年少女の物語が、子供たちの憧れをかきたて心をつかんだのだろう。
しかし、憧れると真似をしたくなる者が現れるのもまた必至だ。物語の登場人物風の格好をするのはまだ害はなかったが、家から燻製の肉の塊を持ち出してスライムベスに投げ与えて手懐けようとして親に叱られる子供がちらほら現れ始めた。中にはポンポコだぬきと仲良くなってしまった強者の子供までいた。その子供はこっそり自宅にポンポコだぬきの一家を連れ込んでしまい、彼らは街中で腹鼓とダンスを始めてしまって城下町は一時パニックとなり、結局ミミとイザヤールがポンポコだぬきたちをなんとか町の外へ連れ出したりした。
そんなある日。ミミは、城下町の一人の母親から相談を受けた。
「うちの子が、将来モンスターマスターになるって言い出して全く勉強しなくなっちゃったの。来年はエルシオン学院の受験だっていうのに、困ったわ~」
結局未来を決めるのは子供本人なのだろうが、本当にモンスターマスターになりたいなら、旅をする能力も必要だろうし、モンスターの巣窟に飛び込んだりする危険もあるから、戦闘能力も必要だろう。それならエルシオン学院で学んでからなった方がいいのではないかとミミも思った。
「でしょう、あなたもそう思うでしょう?でも、ちっとも言うこと聞かないのよ、モンスターたちにお菓子をあげたりしてちょっと仲良くなったからって、自分にはモンスターマスターの才能があるってうぬぼれちゃって。どうにかならないかしら。ねえミミさん、モンスターマスターも含めて、冒険者するのは甘くないんだってうちの子に教えてあげてくれない?ものすごくたいへんだって」
そう言われてミミは曖昧な笑みを浮かべた。確かに冒険者稼業は命懸けでたいへんだが、ミミにとってはとても楽しいものなのだ。夢見る子供に辛さや苦労をうまくアピールできるだろうか。と、ここで、母親自らが解決方法を思いついたらしく、ぱちんと手を叩いて言った。
「そうだわ!ねえミミさん、あなた、モンスターマスターのふりをして、うちの子に勝負を挑んでくれない?こてんぱんにされれば、うちの子も目が覚めてまた勉強に励んでくれると思うわ」
確かにミミもモンスターをパーティメンバーにできたら楽しいだろうと常日頃思っていたが、モンスターマスターのふりをしろと言われても困ってしまった。しかし子供の母親に懇願され押しきられ、とうとう承諾してしまった。ミミはクエスト「憧れモンスターマスター」を引き受けた!
とりあえず引き受けたものの、さてどうしようとミミは自室に戻ってきて考え込んだ。そして、せめて形から入ってみようかと伝説の魔物使いであるグランバニア王の装備を着てみた。いつもはイザヤールがときどき装備している装備品なので、彼女にはかなり大きめだ。やっぱりイザヤール様の方が似合うなあと、ミミは鏡をちらりと見てから溜息をついた。と、そこへ。
「ミミ~、スイーツ食べに行こ・・・って、なにグランバニア王のカッコしてんのよ?」
「あ、サンディ。実はね・・・」
ミミから事情を聞いてサンディはけらけらと笑った。
「アンタ今だってけっこうモンスターたちとなかよしだから、モンスターマスターみたいなもんじゃん~。知り合いの『いい』スライムとかにでも頼んでみたらー?」
「でも、もし本当にモンスター同士のバトルとかになったら可哀想だし・・・」
そんな会話をしているところに、ちょうどイザヤールも帰ってきた。
「ただいま、ミミ」
それから彼は、ミミのグランバニア装備にほんの少し驚いた顔をした。大きめのグランバニアローブとグランターバンを身に着けたミミは余計に華奢に見える。ミミが着るとずいぶん可愛いものだなと、彼は微笑んだ。その後、彼も事情を聞いて「とりあえず形から入った」と言われて楽しそうに笑った。
「そんなに笑っちゃ、いや・・・」
そう呟きながらも、イザヤールが楽しげなことが嬉しくて、ミミも恥ずかしそうながらも自らも笑い出している。そんな彼女の頬を優しく指先でなでてから、イザヤールは言った。
「よし、もちろん私も手伝おう。とりあえず、ウォルロの高台辺りに、スライム属でもスカウトに行こうか。キングスライム辺りを連れて行けば、その子供の連れているモンスターも戦わずに逃げ出すだろう」
「はい♪でも、ひと芝居に協力してくれるかなあ・・・」
「バイト代にゴールドの他に『超しもふりにく』でも付ければ行けそうだがどうだろう」
と、二人は今回モンスターを雇うことを真剣に検討し始めた。
「あ~あ、グレイナルさんが洞窟から出て来られればなあ・・・」
「ドミールならともかく、セントシュタインに現れたら城下町がパニックになりそうだがな」
まずはモンスターたちへのバイト代の一部の超しもふりにく作りから始めようかと二人が決めたそのとき。
「それよりもっとお手軽な方法あるじゃん、アンタたちのどっちかがモンスターに化ければいいのヨ☆」
そうサンディが提案してきた。
「え?それって、『スライムヘッド』に『スライムスーツ』着ろってこと?いくらなんでもスライムタワーとは思ってもらえないんじゃ・・・」
ミミが渋ると、サンディが叫んだ。
「違うっつーの!てきとーな甲冑とか借りて、さまよう鎧とかになればいいじゃんって話!」
「あ、そういうこと・・・」
確かに手持ちの鎧や兜にちょっと手を加えればさまようよろいやマジックアーマー辺りはできそうだ。細工はお手のものなイザヤールもいることだし。ミミはさっそく、装備袋の中の使えそうな物をあれこれ探し始めた。
それから数時間後。モンスターを後ろに引き連れた一人の少年が、セントシュタインの城下町から少しだけ離れたところを得意気に歩いていた。ミミに相談を持ちかけた例の母親の息子だ。ときどきポケットから砂糖菓子や骨付き肉を覗かせることで、現在スライムベスとおおきづちとウパソルジャーがくっついてきている。
と、ここで彼は、突然呼び止められた。
「そこのモンスターマスター、私と勝負よ!」
振り返ると、紫色のターバンにマントに白いローブを身にまとった、濃い紫の瞳をした可愛いおねえさんが、一匹の「さまようよろい」を連れて立っていた。この人は確か、城下町の宿屋に住んでいるミミって名前の冒険者のおねーさんだと少年は思った。日によって旅芸人の格好だったり魔法使いだったり戦士だったりしているのは見かけたことがあるが、モンスターマスターまでやっていたとは知らなかった。
プロの冒険者に勝負と言われて正直彼はちょっと焦ったが、ミミが連れているモンスターが一匹だけなので、いや待てよと考え直した。このおねーさんのモンスターと自分のモンスターが勝負して勝てたら、ママもモンスターマスターになるのを認めてくれるかもしれない。そうなればもう大嫌いな勉強をしなくていい。三対一なら行けそうだ。そこで彼は答えた。
「いいよー。でも、ボクのパーティ、けっこう強いからねー」
彼の連れているスライムベスもおおきづちもウパソルジャーも、なかなか好戦的な性格らしく、張り切っているようだった。勝てば骨付き肉がごほうびだということも関係しているようだが。三匹が身構え戦闘態勢に入ったのを見て、ミミは少々困ってごく小さな声で自分の連れている「さまようよろい」にこっそり囁いた。
(さまようよろいなら、この辺のモンスターなら逃げ出してくれると思ったのだけど・・・どうしよう、イザヤール様)
(仕方ない、ちょっと脅かすしかないな)
さまようよろいは、実はと言うか案の定と言うべきか、イザヤールの変装だった。本当はミミがモンスターの役をするつもりだったのが、リッカの宿屋の倉庫にあったさまようよろい風な形の甲冑のサイズが、ミミよりもイザヤールに合っていたのでこんな配役になったのである。
こうして試合は始まった。少年はモンスターたちに「ガンガンいこうぜ」の指示を出した。スライムベスの攻撃!ミス!さまようよろい(実際は違うのだが)にダメージを与えられない!おおきづちは力をためた!テンションが上がった!ウパソルジャーの攻撃!ミス!さまようよろいにダメージを与えられない!
テンションを上げたおおきづちが、さまようよろいに次のターンでダメージを与えられたかどうかは永久に不明になった。さまようよろいすなわちイザヤールが、モンスターたちや少年に当たらないよう気を付けながらギガスラッシュを放ち、その閃光と轟音で少年の連れていたモンスター三匹は全員、気絶してしまったからである。
のびてるモンスターたちを起こそうと慌てている少年に、ミミはわざときつい言葉を投げかけた。
「どう、わかった?モンスターマスターは、簡単になれるものじゃないの。あなたは、こうやって自分のモンスターたちが気絶したとき、守ってあげることができる?助けることができる?できないなら、モンスターマスターになるなんて諦めなさい」
少年はうつむいてしまって、少し厳しく言い過ぎたかなと、ミミは心配になった。だが、再び顔を上げた少年は、キラキラと瞳を輝かせていて・・・そして彼は叫んだ。
「おねーさん、かっこいいー!!やっぱりモンスターマスターってマジかっこいい!!ボク、もっと頑張っておねーさんみたいなモンスターマスターになるー!」
ミミにとってはまさかの、逆効果になってしまった。どうしよう、と内心動揺するミミ、落ち着け、とイザヤールは彼女に囁いたが、さまようよろいに扮したのに派手な技を見せたのは失敗だったかと彼もまた少々焦った。
しかし、気絶から覚めたスライムベスたちは、口々に言った。
「いくら骨付き肉やキャンディもらっても、こんなに危ないことやってらんねー!」
「海岸のパトロールがあるからもう帰るウパ~」
「怖かったよ~、もうお家帰るー」
こうして少年が止める間もなく、モンスターたちは帰ってしまった。モンスターマスターに何より必要なのは、仲間のモンスターたちとの信頼関係。少年は痛いほどその大原則を思い知り、しょんぼりと言った。
「やっぱり自分もイケてないと、かっこいいモンスターマスターにはなれないんだね・・・ボク、まずは自分磨きをすることにしたよ」
こうして少年も家に帰っていった。すると入れ違いに、物陰から見ていた少年の母親が現れて、ミミに言った。
「ありがとう、これでうちの子も勉強に専念してくれると思うわ!これお礼よ!」
ミミは、「ふしぎなきのみ」を三つもらった!
母親も帰っていくと、ミミはイザヤールの兜を脱がせて、彼の顔を優しく手で挟んで囁いた。
「イザヤール様、ありがとう。馴れない甲冑で動くのたいへんだったでしょう?私たちも急いで帰って、着替えましょう」
それから彼女はいくぶんためらってからイザヤールの頬に感謝を込めて優しくキスをしたので、ミミがもしモンスターマスターになったら、仲間たちみんながさぞかし守りたくなるのだろうなと、少し照れながらイザヤールは思ったのだった。
それから数日後。あの母親が、またミミに相談にやって来た。
「ミミさん、うちの子ったら、自分磨きの為にまずはスーパースターになるって言い出したのよー!また勉強しないわ、まったくどうしたらいいのかしら?」
今度はスーパースターのたいへんさをアピールしなければならないかもしれない。ちょっと困ったミミだった。〈了〉
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