爆睡で遅くなりましたがようやく書けました~の追加クエストもどき。今回もゆる~いクエストですが、こういう話も書いてて楽しかったです♪春と冬が続くこの頃の陽気と、バレバレですがアレって球根っぽいよね・・・ということからできたネタ。文中に出てくるピンクの花は、シクラメンをイメージ。球根が豚さんの好物だから豚のパンとか豚のまんじゅうとか呼ばれているとは、花のイメージとかけ離れてるような。
今年は、ふゆしょうぐんと春の妖精たちは一進一退の攻防を繰り返しているらしく、セントシュタインやウォルロは春めいたり雪になったりと季節の変わり目らしい陽気が続いている。この攻防が長引けば、今年もまたミミは、春の妖精たちにふゆしょうぐん撃退の手伝いを頼まれるかもしれなかった。
それはともかく今日は春の妖精が優勢らしく、セントシュタイン地方はなかなか心地よい天気で、冒険者ミミとイザヤールは、いつもにも増してはりきって出かけることにした。今日は錬金材料を集める予定だ。素材集めで世界中を天の箱舟やルーラを使って回るので、その中に含まれるグビアナやエルマニオン地方はあまり春らしさや天候は関係無いが、それでも出発地の天気が良いのは爽やかな気分で出かけられるので好ましい。
仕事というよりは少々ハイキングデート気分で楽しそうに出発しようとする二人に、リッカはいつもの明るい笑顔でいってらっしゃいを言ってから、ふと思い出して呼び止めた。
「そうだ、ミミ、イザヤールさん、今日は錬金の素材集めに行くんだよね?もしも『まだらくもいと』も集める予定があるんなら、ついでにウォルロで、春の花の球根も採取してきてくれると、嬉しいな。宿屋の周りに植えたいの」
まだらくもいとは、錬金でよく使う素材で、ウォルロ村の近くでも取れるのである。二人は快く引き受け、リッカは改めて元気な笑顔でいってらっしゃいを言ってくれた。ミミはクエスト「ウォルロの球根をお願い」を引き受けた!
せっかくの上天気もあるので、ミミとイザヤールははウォルロ方面へ歩いて向かうことにした。ウォルロで球根を集めてから、ルーラで他の地に一気に飛んでも充分用は足りる。途中で少し街道を離れてげんこつダケもちゃんと採取してから、二人は峠の道を抜けてウォルロ地方に入った。
山に囲まれたウォルロ地方は、高原で夏も比較的涼しく、冬も平地のセントシュタイン地方よりやや雪が多いが、今日はこちらも晴れて暖かな陽気だった。雪の中でも咲く早春の花が、陽光の中で楽しげに揺れている。
早春の花たちも個体差があってまだ芽を出したばかりの物も多くあって、二人はそんな状態の球根を様々な早春の花の中から集め、袋にいれた。根元に付いている土は、なるべくそのまま落とさないようにしておく。土は、新緑の気配の香りがして、ミミは思わず微笑んだ。
「ミミ、楽しそうだな」
自分も楽しそうに、球根を傷付けないよう器用に移植用のスコップを使いながらイザヤールが言った。ちなみにこのスコップは、いたずらもぐら印の逸品である。
「この時期の、天使界の庭園を思い出したの。こんないい香りがしたなあ、って」
「ああ、おまえは、庭園の手入れもよく手伝っていたな」
そして、ミミは、とイザヤールは心の中で呟いた。そんな庭園の手伝いの礼でもらった花を、私の部屋に飾ってくれた。花ももちろんだが、花を飾って嬉しそうに微笑むミミを眺めるのが、とても大きな喜びだった・・・。今もあの頃と変わらない、いやもっと美しくなった微笑みで傍に居てくれる。
イザヤールの更に優しくなった笑顔の意味を悟って、ミミの笑顔も更に幸せそうに輝く。土を掘る手を止めて、二人は見つめ合った。土が着いているのも構わずそっと手は重なり握り合い、ふわり、と優しくやわらかく唇も重なる。そして、再び微笑んで見つめ合った。
後ほど二人は、今日は珍しく、少なくともキスの前の邪魔は入らなかったと思い返すことになるのだが、そのときは、とにかく驚き、緊張が走った。見つめ合っている二人に、かぼそいが悲痛な声が届いたのだ。
「たすけてえええ・・・」
弱々しいがはっきり聞こえて、それは叫びというよりはむしろ衰弱した者が上げるような声だった。行き倒れ寸前の旅人かと、二人は慌てて周囲の気配に神経を集中して、声の主を探した。
「たすけてえ・・・。だれかあ・・・」
声はするのだが、いっこうにその声の主は見つからない。誰かが倒れていれば気付かぬ筈が無いと二人が不審に思っていると、声は衝撃的なことを告げた。
「土の中にいるんだよう・・・」
ミミとイザヤールはぎょっとして足元に視線を移した。目を凝らしてよくよく見ると、一本だけぷるぷると震えている細い茎のピンクの花があった。二人は慌てて駆け寄り、地面に向かって呼びかけてみた。
「もしかして、この辺りに居るの?」
「我々の声がどの方向から聞こえるか、教えてくれ。真上か?それとも、離れているのか?」
「キミたちの声が、真上から聞こえるよう・・・」
それでは、やはりまさかと、二人はぷるぷる震える花の周囲の地面を、猛然と手で掘り始めた。スコップ等で掘っては、傷を負わせると瞬時に判断したのである。出てくるのは生き埋めにされた人間か、はたまた哀れな屍が魔物化した姿かと、ミミとイザヤールは覚悟していたが、それは案外浅く埋まっていて、答えはすぐに出た。
地中から出てきたのは、一匹のスライムだった。そして先ほどぷるぷる震えていた花は、スライムのツノの先端から生えていた。
スライムだったのはともかく、花が生えている珍妙な姿に二人が絶句している間に、スライムはプハーと大きく息を吐いて、ぴょいんと跳ねた。跳ねても花が落ちない。スライムは体をぷるぷると振って土を落としてから、ぴょんぴょん跳ねながらお礼を言った。
「ありがとう!充分な隙間はあったけど、気分的にもうちょっとで窒息しちゃうとこだったよ!」
「いったい何があったんだ?」
イザヤールが尋ねると、スライムは左右にリズミカルに体を揺らしながら答えた。その度にピンクの花も左右に首を振って、ミミは思わず小さく「可愛いかも・・・」と呟いた。
「ボク、寒いのがすごく苦手で、栗鼠や熊を見習って、冬は冬眠してみようって思ったんだ。それでゴハンをもりもり食べて、まん丸になって、盛り土に横穴掘って入口塞いで、冬の間ずーっと眠っていたんだ。
でもあったかくなって目が覚めて、出ようとしたら動けなくなっててさあ。どうやら眠っている間に盛り土が陥没しちゃって、身動きできなくなっちゃってたみたい。このままじゃ死んじゃうよ~って焦ってたら、誰かが来た気配がしたから助けを呼んで、そしたらキミたちが助けてくれたってワケ」
「そ・・・それはたいへんだったの・・・」
「ああ・・・。災難だったな・・・」
ミミとイザヤールは慰めの言葉をかけつつも、スライムのツノの上で揺れる花が気になって仕方なかった。その二人の視線に気付いて、スライムが言った。
「なあに?ボクの顔に何か着いてる?あっ、泥だらけかあ~。水浴び行かなくっちゃ」
「いえ、あの・・・泥じゃなくて・・・」
「え?じゃあ何なの?」
口で説明するより見せた方が早いと、ミミは小さな手鏡を出してスライムに見せた。それでスライムも、ツノの上の花に気付いた。
「わ、埋まってる間に頭の上で咲いちゃったんだ~」そう言ってスライムはツノを振って花を払い落とそうとしたが、花は落ちる気配が無い。「あ、あれ?取れない・・・。ねえ、取ってくれる?」
そこでミミは優しく花の茎と葉をつかんで取ろうとしたが、ちょっと引いただけでスライムが悲鳴を上げた。
「いたたた!痛いよう!」
自分の痛みだけでなく他者が痛そうなのも大の苦手なミミは、慌てて引っ張るのをやめた。
「この花・・・。あなたから、しっかり生えているみたいなの・・・」
「えええ、そんなー!」
「普通のスライムから花が?そんなバカな・・・」
イザヤールは呟いて注意深く花とスライムを調べた。そして、花が本当にスライムのツノからしっかり生えているのを確認して、スライムに対してさらっと恐ろしいことを言った。「信じられないが、本当に生えているようだ・・・。私が引っこ抜けば、抜けないこともないが、君の体も粉砕する可能性もあるな。どうする?一か八か、抜いてみるか?」
それを聞いたスライムは、白目をむいて気絶しかけた。これは抜くのは無理そうだ。
「で、でも、このままでもいいんじゃない?可愛いし。スライムたちの間では、おしゃれ花を着けるのも、流行っているんでしょう?」
慌ててミミがフォローしたが、スライムは大きく頭を(全身になるが)振った。
「イヤだよー!だってボク、オスだもんー!」
「男の人だって、花を飾るでしょう?ほら、スーツの襟のところとか」
「ボクスーツ着ないし!・・・想像してみてよ、例えばこのおにいさんの頭からピンクの花が生えていたら、キミどう思う?ボクにとってそんな姿なんだからね!」
「え・・・」
ミミは固まり、イザヤールは身震いした。
「そ、それは確かにイヤ過ぎるな・・・」
「わかった?だからボク、もう仲間たちの前に出られないよー!一生独り寂しく暮らすなんてイヤだあー!」
えーんえーんと大泣きするスライムを眺めながらミミは困り果て、イザヤールは腕組みした。そして、彼は呟いた。
「それにしても・・・ツノの上でたまたま生えたとかならともかく、こうツノの中からしっかり生えているというのが解せないな・・・。まるで、君が球根そのものになったかのようだ・・・」
イザヤールの言葉に、スライムは反応した。
「そういえば!」
「何か心当たりがあるのか?」
「ボク、冬眠前に、この花の球根食べまくったかもー。けっこうおいしくて、ついつい食べ過ぎたかもー。丸呑みしたのもあったかなあ」
それを聞いてミミとイザヤールは、スライムの頭に生えているピンクの花の球根は、地方によっては「豚のパン」と呼ばれているくらい動物たちが好んで食べることを思い出した。これで原因の想像はついたが、果たしてどうしたものか。
しばらく考えて、ミミは提案した。
「ねえ、とりあえず、生えている花と茎と葉を切ってみない?そうすれば目立たないでしょ?」
「そうだな」イザヤールも賛成した。「それに、葉を落とせば植物は栄養を摂れないから、自然に枯れるかもしれないぞ」
「ホント?じゃあ早く切って、お願いだよ!」
ミミは果物ナイフで注意深くスライムに生えている花や茎や葉を切り落とし、イザヤールはその切口に「ねばねばゼリー」を塗ってやった。こうすれば、万が一茎がまた伸びようとしても、伸びることはない。残った球根は枯れて排出されるだろう。
スライムはもう一度手鏡を覗き込み、喜んだ。
「ありがとうー!これでコドクな生活をしなくて済むよ~」
そしてスライムはぴょんぴょん跳ねて近くの大石の下を掘り、その下から取り出した物をくれた。
「これ、ボクの宝物!可愛いでしょ?」
ミミは「ピンクパール」をもらった!
スライムは仲間たちの居る方へ駆けていき、ミミとイザヤールはやれやれと笑みを交わして、まだらくもいとの採集に向かった。
だがその道中。今度は花畑の下から、声がした。
「たすけてえええ・・・。落とし穴にはまって、そのまま寝ちゃったら頭の上に花が生えまくっちゃったよ~!」
慌てて掘り出してみると、花畑の下に埋まっていたのは、なんと冠の無いキングスライムだった!今度はキングスライムを助け、お礼にスライムのかんむりをもらって、結局その日は球根とまだらくもいとだけ持ってセントシュタインに帰ったのだった。
リッカは様々な花の球根を見てとても喜んだ。
「ありがとう、ミミ、イザヤールさん!お腹空いたでしょ、さ、早く食堂に行って!」
リッカはおいしい夕食と、デザートとお礼を兼ねて「ごうかなチョコ」を出してくれた。予定通りでなくても、こんな日もいいな。ミミはチョコをイザヤールと分け合って食べながら(彼はたくさんは食べないので)思った。〈了〉
今年は、ふゆしょうぐんと春の妖精たちは一進一退の攻防を繰り返しているらしく、セントシュタインやウォルロは春めいたり雪になったりと季節の変わり目らしい陽気が続いている。この攻防が長引けば、今年もまたミミは、春の妖精たちにふゆしょうぐん撃退の手伝いを頼まれるかもしれなかった。
それはともかく今日は春の妖精が優勢らしく、セントシュタイン地方はなかなか心地よい天気で、冒険者ミミとイザヤールは、いつもにも増してはりきって出かけることにした。今日は錬金材料を集める予定だ。素材集めで世界中を天の箱舟やルーラを使って回るので、その中に含まれるグビアナやエルマニオン地方はあまり春らしさや天候は関係無いが、それでも出発地の天気が良いのは爽やかな気分で出かけられるので好ましい。
仕事というよりは少々ハイキングデート気分で楽しそうに出発しようとする二人に、リッカはいつもの明るい笑顔でいってらっしゃいを言ってから、ふと思い出して呼び止めた。
「そうだ、ミミ、イザヤールさん、今日は錬金の素材集めに行くんだよね?もしも『まだらくもいと』も集める予定があるんなら、ついでにウォルロで、春の花の球根も採取してきてくれると、嬉しいな。宿屋の周りに植えたいの」
まだらくもいとは、錬金でよく使う素材で、ウォルロ村の近くでも取れるのである。二人は快く引き受け、リッカは改めて元気な笑顔でいってらっしゃいを言ってくれた。ミミはクエスト「ウォルロの球根をお願い」を引き受けた!
せっかくの上天気もあるので、ミミとイザヤールははウォルロ方面へ歩いて向かうことにした。ウォルロで球根を集めてから、ルーラで他の地に一気に飛んでも充分用は足りる。途中で少し街道を離れてげんこつダケもちゃんと採取してから、二人は峠の道を抜けてウォルロ地方に入った。
山に囲まれたウォルロ地方は、高原で夏も比較的涼しく、冬も平地のセントシュタイン地方よりやや雪が多いが、今日はこちらも晴れて暖かな陽気だった。雪の中でも咲く早春の花が、陽光の中で楽しげに揺れている。
早春の花たちも個体差があってまだ芽を出したばかりの物も多くあって、二人はそんな状態の球根を様々な早春の花の中から集め、袋にいれた。根元に付いている土は、なるべくそのまま落とさないようにしておく。土は、新緑の気配の香りがして、ミミは思わず微笑んだ。
「ミミ、楽しそうだな」
自分も楽しそうに、球根を傷付けないよう器用に移植用のスコップを使いながらイザヤールが言った。ちなみにこのスコップは、いたずらもぐら印の逸品である。
「この時期の、天使界の庭園を思い出したの。こんないい香りがしたなあ、って」
「ああ、おまえは、庭園の手入れもよく手伝っていたな」
そして、ミミは、とイザヤールは心の中で呟いた。そんな庭園の手伝いの礼でもらった花を、私の部屋に飾ってくれた。花ももちろんだが、花を飾って嬉しそうに微笑むミミを眺めるのが、とても大きな喜びだった・・・。今もあの頃と変わらない、いやもっと美しくなった微笑みで傍に居てくれる。
イザヤールの更に優しくなった笑顔の意味を悟って、ミミの笑顔も更に幸せそうに輝く。土を掘る手を止めて、二人は見つめ合った。土が着いているのも構わずそっと手は重なり握り合い、ふわり、と優しくやわらかく唇も重なる。そして、再び微笑んで見つめ合った。
後ほど二人は、今日は珍しく、少なくともキスの前の邪魔は入らなかったと思い返すことになるのだが、そのときは、とにかく驚き、緊張が走った。見つめ合っている二人に、かぼそいが悲痛な声が届いたのだ。
「たすけてえええ・・・」
弱々しいがはっきり聞こえて、それは叫びというよりはむしろ衰弱した者が上げるような声だった。行き倒れ寸前の旅人かと、二人は慌てて周囲の気配に神経を集中して、声の主を探した。
「たすけてえ・・・。だれかあ・・・」
声はするのだが、いっこうにその声の主は見つからない。誰かが倒れていれば気付かぬ筈が無いと二人が不審に思っていると、声は衝撃的なことを告げた。
「土の中にいるんだよう・・・」
ミミとイザヤールはぎょっとして足元に視線を移した。目を凝らしてよくよく見ると、一本だけぷるぷると震えている細い茎のピンクの花があった。二人は慌てて駆け寄り、地面に向かって呼びかけてみた。
「もしかして、この辺りに居るの?」
「我々の声がどの方向から聞こえるか、教えてくれ。真上か?それとも、離れているのか?」
「キミたちの声が、真上から聞こえるよう・・・」
それでは、やはりまさかと、二人はぷるぷる震える花の周囲の地面を、猛然と手で掘り始めた。スコップ等で掘っては、傷を負わせると瞬時に判断したのである。出てくるのは生き埋めにされた人間か、はたまた哀れな屍が魔物化した姿かと、ミミとイザヤールは覚悟していたが、それは案外浅く埋まっていて、答えはすぐに出た。
地中から出てきたのは、一匹のスライムだった。そして先ほどぷるぷる震えていた花は、スライムのツノの先端から生えていた。
スライムだったのはともかく、花が生えている珍妙な姿に二人が絶句している間に、スライムはプハーと大きく息を吐いて、ぴょいんと跳ねた。跳ねても花が落ちない。スライムは体をぷるぷると振って土を落としてから、ぴょんぴょん跳ねながらお礼を言った。
「ありがとう!充分な隙間はあったけど、気分的にもうちょっとで窒息しちゃうとこだったよ!」
「いったい何があったんだ?」
イザヤールが尋ねると、スライムは左右にリズミカルに体を揺らしながら答えた。その度にピンクの花も左右に首を振って、ミミは思わず小さく「可愛いかも・・・」と呟いた。
「ボク、寒いのがすごく苦手で、栗鼠や熊を見習って、冬は冬眠してみようって思ったんだ。それでゴハンをもりもり食べて、まん丸になって、盛り土に横穴掘って入口塞いで、冬の間ずーっと眠っていたんだ。
でもあったかくなって目が覚めて、出ようとしたら動けなくなっててさあ。どうやら眠っている間に盛り土が陥没しちゃって、身動きできなくなっちゃってたみたい。このままじゃ死んじゃうよ~って焦ってたら、誰かが来た気配がしたから助けを呼んで、そしたらキミたちが助けてくれたってワケ」
「そ・・・それはたいへんだったの・・・」
「ああ・・・。災難だったな・・・」
ミミとイザヤールは慰めの言葉をかけつつも、スライムのツノの上で揺れる花が気になって仕方なかった。その二人の視線に気付いて、スライムが言った。
「なあに?ボクの顔に何か着いてる?あっ、泥だらけかあ~。水浴び行かなくっちゃ」
「いえ、あの・・・泥じゃなくて・・・」
「え?じゃあ何なの?」
口で説明するより見せた方が早いと、ミミは小さな手鏡を出してスライムに見せた。それでスライムも、ツノの上の花に気付いた。
「わ、埋まってる間に頭の上で咲いちゃったんだ~」そう言ってスライムはツノを振って花を払い落とそうとしたが、花は落ちる気配が無い。「あ、あれ?取れない・・・。ねえ、取ってくれる?」
そこでミミは優しく花の茎と葉をつかんで取ろうとしたが、ちょっと引いただけでスライムが悲鳴を上げた。
「いたたた!痛いよう!」
自分の痛みだけでなく他者が痛そうなのも大の苦手なミミは、慌てて引っ張るのをやめた。
「この花・・・。あなたから、しっかり生えているみたいなの・・・」
「えええ、そんなー!」
「普通のスライムから花が?そんなバカな・・・」
イザヤールは呟いて注意深く花とスライムを調べた。そして、花が本当にスライムのツノからしっかり生えているのを確認して、スライムに対してさらっと恐ろしいことを言った。「信じられないが、本当に生えているようだ・・・。私が引っこ抜けば、抜けないこともないが、君の体も粉砕する可能性もあるな。どうする?一か八か、抜いてみるか?」
それを聞いたスライムは、白目をむいて気絶しかけた。これは抜くのは無理そうだ。
「で、でも、このままでもいいんじゃない?可愛いし。スライムたちの間では、おしゃれ花を着けるのも、流行っているんでしょう?」
慌ててミミがフォローしたが、スライムは大きく頭を(全身になるが)振った。
「イヤだよー!だってボク、オスだもんー!」
「男の人だって、花を飾るでしょう?ほら、スーツの襟のところとか」
「ボクスーツ着ないし!・・・想像してみてよ、例えばこのおにいさんの頭からピンクの花が生えていたら、キミどう思う?ボクにとってそんな姿なんだからね!」
「え・・・」
ミミは固まり、イザヤールは身震いした。
「そ、それは確かにイヤ過ぎるな・・・」
「わかった?だからボク、もう仲間たちの前に出られないよー!一生独り寂しく暮らすなんてイヤだあー!」
えーんえーんと大泣きするスライムを眺めながらミミは困り果て、イザヤールは腕組みした。そして、彼は呟いた。
「それにしても・・・ツノの上でたまたま生えたとかならともかく、こうツノの中からしっかり生えているというのが解せないな・・・。まるで、君が球根そのものになったかのようだ・・・」
イザヤールの言葉に、スライムは反応した。
「そういえば!」
「何か心当たりがあるのか?」
「ボク、冬眠前に、この花の球根食べまくったかもー。けっこうおいしくて、ついつい食べ過ぎたかもー。丸呑みしたのもあったかなあ」
それを聞いてミミとイザヤールは、スライムの頭に生えているピンクの花の球根は、地方によっては「豚のパン」と呼ばれているくらい動物たちが好んで食べることを思い出した。これで原因の想像はついたが、果たしてどうしたものか。
しばらく考えて、ミミは提案した。
「ねえ、とりあえず、生えている花と茎と葉を切ってみない?そうすれば目立たないでしょ?」
「そうだな」イザヤールも賛成した。「それに、葉を落とせば植物は栄養を摂れないから、自然に枯れるかもしれないぞ」
「ホント?じゃあ早く切って、お願いだよ!」
ミミは果物ナイフで注意深くスライムに生えている花や茎や葉を切り落とし、イザヤールはその切口に「ねばねばゼリー」を塗ってやった。こうすれば、万が一茎がまた伸びようとしても、伸びることはない。残った球根は枯れて排出されるだろう。
スライムはもう一度手鏡を覗き込み、喜んだ。
「ありがとうー!これでコドクな生活をしなくて済むよ~」
そしてスライムはぴょんぴょん跳ねて近くの大石の下を掘り、その下から取り出した物をくれた。
「これ、ボクの宝物!可愛いでしょ?」
ミミは「ピンクパール」をもらった!
スライムは仲間たちの居る方へ駆けていき、ミミとイザヤールはやれやれと笑みを交わして、まだらくもいとの採集に向かった。
だがその道中。今度は花畑の下から、声がした。
「たすけてえええ・・・。落とし穴にはまって、そのまま寝ちゃったら頭の上に花が生えまくっちゃったよ~!」
慌てて掘り出してみると、花畑の下に埋まっていたのは、なんと冠の無いキングスライムだった!今度はキングスライムを助け、お礼にスライムのかんむりをもらって、結局その日は球根とまだらくもいとだけ持ってセントシュタインに帰ったのだった。
リッカは様々な花の球根を見てとても喜んだ。
「ありがとう、ミミ、イザヤールさん!お腹空いたでしょ、さ、早く食堂に行って!」
リッカはおいしい夕食と、デザートとお礼を兼ねて「ごうかなチョコ」を出してくれた。予定通りでなくても、こんな日もいいな。ミミはチョコをイザヤールと分け合って食べながら(彼はたくさんは食べないので)思った。〈了〉
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