追加クエストもどき後編。前回のあらすじ、体を封印された異世界のスライムであるエンゼルスライムの魂に会ったミミは、地上に散らばった羽集めを手伝うことになり・・・。飛ぶだけ話でなく、戦闘シーンもちゃんとあります(笑)
エンゼルスライムの見立て通り、かつてと同じミミよりずっと大きく強い翼を得たイザヤールは、風を切って大空に悠々と舞い上がった。
「ミミ、怖くはないか?」
ミミをしっかりと抱え濃い紫の瞳を見つめながら尋ねる彼に、ミミはその瞳を高揚で輝かせて首を横に振った。
「ううん、少しも!イザヤール様、もっと速く、思うままに飛んで!イザヤール様が、普段はどんなスピードで飛んでいたのか、見てみたいの!」
ミミとイザヤールは、天使だった頃師弟として何度も地上に共に行ったが、その度にイザヤールは、まだ小さな翼だった弟子に合わせた速度で飛んでくれたものだった。一人の時に彼はどんな風に飛んでいたのか。彼の切る風の抵抗を、流れ行く景色を、加速の際にかかる圧を、抱き上げられている今なら、同じように体感できる。
イザヤールは頷き、猛然と速度を上げた。大地と空と雲はただの緑と青と白にしか見えないほど速く流れ、人工の建造物は目に留まるや否や視界から次々消えてゆき、花と輝く川と雪が入り乱れ、何もかも風に溶け込んでいく。シュタイン湖はとっくに通り過ぎ、アルマの塔の傍を抜け、大海原に出たところでエンゼルスライムのストップがかかった。
『ちょっとちょっとちょっとぉ〜!またボクのこと忘れてたでしょー!ボクの羽ちゃんと集めてよー!ところで、今の塔のてっぺんの巣にも、ボクの羽有るみたいだよ』
そこでイザヤールは今度はゆっくりとアルマの塔まで引き返した。切って進んでいた風は今度は穏やかに二人を包み、降り注ぐ日の光は光の翼をよりいっそう輝かせ、先日豆の木の上から見たように、遥か先のナザム地方まで見えた。飛んでいるイザヤールの腕の上でこの景色を見られたという幸福感にミミは吐息し、彼にいっそう顔を寄せて微笑み、エンゼルスライムへ向けて囁いた。
「もう二度と、イザヤール様とこんなふうに飛べるなんて思わなかった・・・。ありがとう、エンゼルスライムさん」
『やだな〜、お礼なんて言われると照れちゃうよー。そんなに喜んでもらえて、ボク、体を封印されてちょっとよかったかもー』
こうしてしばらく空を楽しんでから、一同はアルマの塔のてっぺんのアルマトラの巣に着地した。アルマトラとその友人のスライムは空から現れたミミたちに仰天したが、事情を聞いて納得し、アルマトラはニヤリと笑って言った。
「まあおまえたちのことだからな。何が起こっても不思議はない」
スライムは、巣の中から羽を見つけてきてくれた。
「エンゼルスライムさんの羽ってこれ?ふわふわで、『天使のはね』そっくりだね!いいな〜、ボクもいつか飛べるように進化できるかな〜」
数百年は生きていてもスライムなままのスライムが果たして飛べるように進化できるかは疑問だが、スライムは「そうだ!進化できなくてもアルマトラの背中に乗せてもらえばいいんだ!」と自己完結で納得していた。
ミミたちはアルマトラたちに別れを告げると、今度こそ湖の小島の小屋の上に着陸した。すると、そこには本当に羽がひっかかっていて、マポレーナたちが集まって不思議そうに眺めていた。
ミミは羽を拾い上げ、大切にしまった。
「それで、次はどこ?」
ミミが尋ねると、エンゼルスライムはイザヤールの懐から出てきて、くるくる回りながら答えた。
「あのさー、さっきのスライムの言葉を聞いて思ったんだけど、ボクの羽って『天使のはね』と同じ成分なんだよね〜。一枚だけあっちこっちにあるのを集めるより、作った方が早いかもー」
それを早く言ってほしかったと言うべきところなのかもしれないが、久々に大空を自由に飛ぶという経験ができたミミとイザヤールに文句は無く、むしろもう大空巡りは終わりであることを残念に思った。そこで、ミミはエンゼルスライムに提案してみた。
「各地のスライム属のみんなに頼んでおいた分の回収はした方がいいんじゃない?」
「それもそうだねー。じゃあさっきのウォルロってところの高台に行ってくれる?羽を拾ったらそこに集合するように頼んでおいたんだ」
そこで今度はミミがイザヤールを抱き上げ(華奢なミミが大の男を軽々と抱え上げられることにエンゼルスライムは頭ではわかっていても驚き、イザヤールはほんの少し照れくさそうな複雑そうな顔をしていた)、ウォルロの高台まで飛んだ。
『ヴァルキリーが戦死した勇士たちを連れてくってこんな感じー?』とエンゼルスライム。
「や、やめて、不吉なこと言わないで・・・」動揺するミミ。
「心配するな、たとえ死んでもおまえ以外の女に連れ去られるようなヘマはしない」とイザヤール。
「心配するのそっち?!」
ウォルロの高台に着くと、ルーラやキメラのつばさを使ったのか、羽を持ったありとあらゆるスライム属で溢れて賑やかなことになっていた。エンゼルスライムはミミの懐から出ると、感激して叫んだ。
「みんなー、ありがとう!スライム属の絆万歳!」
「困ったときはお互い様である」スライムたちを代表してキングスライムが言った。「たとえ住む世界が違おうとも、我らスライム属はお互い助け合い共に栄えていこうぞ」
こうして羽がどっさりと集まると、エンゼルスライムは言った。
「さーて、次は・・・いよいよ、ボクの封印された体を取り戻さなきゃー。ボクを陥れた悪いヤツが、ものすごく足場が高くて狭い山のてっぺんに、ボクの体を封印したんだ。場所はわかってるんだけど、そいつがずっと見張ってるし、ボクは魂だけだから今までどうにもできなかったんだ」
そんな山のてっぺんでは、登れないし天の箱舟で着陸もできない。もう一度イザヤール様と飛べるとミミはわくわくしたが、エンゼルスライムの体を封印した悪いヤツがどんな強い魔物かも気になって、装備を普段愛用のおどりこのドレスから(寒いところを歩く時はそれにマントも羽織っていたが)セラフィムのローブに替えた。
イザヤールは再びミミを抱き上げ、エンゼルスライムの指示する方向に猛スピードで飛んだ。向かう先は、察するにガナン帝国城の北側の険しく高い山のようだ。そんな場所に居る悪いヤツとはどんな魔物だろうと、ミミは濃い紫の瞳を憂いでいっそう濃くした。
ガナン帝国城の北側の山は、高く切り立っていて、足場もほとんど無いくらいだった。そこの頂上に、真っ暗な石でできた棺桶がバリアのようなものに包まれて立っていて、その周りを、巨大な黒い鳥のようなものが飛び回っていた。
『あの棺桶の中にボクの体が封印されているんだ!』エンゼルスライムは叫んだ。『封印は、光のチカラをまとって、聖なる祈りを最後まで捧げることができれば解けるけど・・・そうする前に絶対にアイツが邪魔してくるから・・・』
「あれが、あなたを封印した悪いヤツなの?」
ミミは、棺桶の周りを飛び回る巨大な黒い鳥をまじまじと見つめて言った。それは、よくよく見ると、翼が黒色で巨大であるという点を除けば、キメラにそっくりだった。腹とくちばしは、暗い鋼色で、動くと時折冷たく光った。
巨大な黒いキメラは、飛んできたミミとイザヤールを見て言った。
「ふん、ぶりっこスライムのヤツめ、助っ人を呼んで来たか。だがムダだムダ!人間どもめ、おまえらの肉体もこの棺桶に放り込んでやる!」
「何故こんなことを?」ミミは尋ねた。「こんなことしたって、あなたにも何のいいこともないじゃない?」
「うるさいうるさーい!」巨大キメラは叫んだ。「コイツばっかり、ピンク色で翼真っ白でカワイイって、いっつもちやほやされやがってー!」
「単なる僻みか?!」イザヤールは呆れ、眼光を鋭くして言った。「そんな理由で異世界にまで来て人騒がせなことを?これは少し根性を叩き直す必要があるな!」
しかしミミを抱えている状態では、イザヤールは武器を使えない。そこで、ミミは言った。
「イザヤール様、私がライトフォースを使ったら、棺桶の前まで飛んで私を降ろして。あの黒いキメラが邪魔してきたら、呪文で何とか隙を作るから」
「よし、わかった。頼むぞ」
ミミは自分とイザヤールにライトフォースをかけ、イザヤールは棺桶に向かって急降下しようとしたが、巨大キメラが大きな火の玉を吐いてきたので、急いで身をかわした。ミミはオーラスキルの「スキャンダル」を使って巨大キメラの目をくらませてから、イザヤールの腕の上から棺桶の前に飛び降りて、聖なる祈りを唱え始めた。
ようやく目が見えるようになった巨大な黒いキメラは、ミミをつつこうと向かっていったが、イザヤールに阻まれた。
このキメラは巨大なだけでなく、攻撃力も守備力も高いらしく、イザヤールの剣もくちばしで受け止め、メタル系を攻撃するような鋭い音が響き渡った。剣とくちばしの激しい打ち合いは続いたが、巨大キメラは急に身を引くと、イザヤールに向かってドルマドンを唱えてきた!
バトルマスターであるイザヤールの体力はこの威力でもなんとか耐えられたが、この衝撃による一瞬の隙で、防戦一方となった。しかもドルマドンを受けたショックで合体していたエンゼルスライムが騒ぎ始めた。
『えーん痛いよう〜。闇の呪文嫌いー』
「しっかりしろ、痛いのはおまえじゃなくて憑依されている私だ、だから安心してしっかり飛んでくれ!」
聖なる祈りを唱え終えたミミは、この状況にはっと気付いて、急いでキラージャグリングを巨大キメラに向かって放った!光のチカラをまとった玉の威力に、巨大キメラが悲鳴を上げる。そこへイザヤールのギガブレイクが炸裂し、巨大キメラは真っ黒焦げになり(黒くてよくわからなかったが)、へろへろと落ちていった。
巨大な黒いキメラは、銀色に光るキメラのつばさを落としていった。それはミミの前に降ってきたので、ミミはそれを受け止めた。それと同時に、黒い棺桶が開いて、中からピンク色のスライムが転がり出てきた。ぴくりとも動かず、深く眠っているように見える。
イザヤールも棺桶の前に着地すると(足場が狭いのでミミと抱き合うように寄り添わないと立てなかった)、エンゼルスライムの魂はイザヤールの懐から出てきて、ピンク色のスライムの中に入った。そのとたんにそれは目を開け、光輪も現れた。
「ありがとう!ようやく体に戻れたよー!あとは、集めたボクの羽を、どうにか翼の形にできれば・・・」
エンゼルスライムがそう言いかけたとき、巨大な黒いキメラは、岩場をじりじりとよじ登ってきて、無念そうに呟いた。
「完敗だ・・・。オレはただ、おまえみたいになりたかっただけなんだ・・・」
「もしかしたら、なろうと思えばなれるんじゃない?キメラ属にも、ピンクと白の羽のスターキメラが居ることだし」
あまりにしょんぼりしているので少し気の毒に思ったミミが言うと、巨大な黒いキメラは一気に元気になった。
「そうか!そうだよな!よし、オレは修行して巨大スターキメラになる!エンゼルスライム、悪かったな、その銀色の翼とおまえの羽を錬金すれば、おまえの羽は元に戻るぜ!」
そして巨大な黒いキメラは、旅の扉を作り、その中に飛び込んで姿を消した。
セントシュタインにルーラで戻り、ミミはエンゼルスライムの羽と銀色の翼を錬金した。すると、「おわかれのつばさ」と似たような形のものができたので、喜びでぴょんぴょん跳ねているエンゼルスライム背中にくっつけてやった。翼が戻った!
「ありがとう!このままキミたちに憑依してここで暮らすのも悪くないけど、家族にも会いたいから、やっぱり帰るね。これお礼!」
ミミは「天使のわっか」をもらった!
「ボクが死んじゃって魂だけになったら、また来てキミたちを飛ばせてあげるね♪」
「そ、そんな日は来ない方がいいけれど・・・」
「まあ早くて千年後くらいかなあ」
じゃあ無理そうだとミミとイザヤールは楽しげに笑う。久々に自由に飛べたのは楽しかったけれど、飛べなくても充分楽しい日々だからと思いながら。〈了〉
エンゼルスライムの見立て通り、かつてと同じミミよりずっと大きく強い翼を得たイザヤールは、風を切って大空に悠々と舞い上がった。
「ミミ、怖くはないか?」
ミミをしっかりと抱え濃い紫の瞳を見つめながら尋ねる彼に、ミミはその瞳を高揚で輝かせて首を横に振った。
「ううん、少しも!イザヤール様、もっと速く、思うままに飛んで!イザヤール様が、普段はどんなスピードで飛んでいたのか、見てみたいの!」
ミミとイザヤールは、天使だった頃師弟として何度も地上に共に行ったが、その度にイザヤールは、まだ小さな翼だった弟子に合わせた速度で飛んでくれたものだった。一人の時に彼はどんな風に飛んでいたのか。彼の切る風の抵抗を、流れ行く景色を、加速の際にかかる圧を、抱き上げられている今なら、同じように体感できる。
イザヤールは頷き、猛然と速度を上げた。大地と空と雲はただの緑と青と白にしか見えないほど速く流れ、人工の建造物は目に留まるや否や視界から次々消えてゆき、花と輝く川と雪が入り乱れ、何もかも風に溶け込んでいく。シュタイン湖はとっくに通り過ぎ、アルマの塔の傍を抜け、大海原に出たところでエンゼルスライムのストップがかかった。
『ちょっとちょっとちょっとぉ〜!またボクのこと忘れてたでしょー!ボクの羽ちゃんと集めてよー!ところで、今の塔のてっぺんの巣にも、ボクの羽有るみたいだよ』
そこでイザヤールは今度はゆっくりとアルマの塔まで引き返した。切って進んでいた風は今度は穏やかに二人を包み、降り注ぐ日の光は光の翼をよりいっそう輝かせ、先日豆の木の上から見たように、遥か先のナザム地方まで見えた。飛んでいるイザヤールの腕の上でこの景色を見られたという幸福感にミミは吐息し、彼にいっそう顔を寄せて微笑み、エンゼルスライムへ向けて囁いた。
「もう二度と、イザヤール様とこんなふうに飛べるなんて思わなかった・・・。ありがとう、エンゼルスライムさん」
『やだな〜、お礼なんて言われると照れちゃうよー。そんなに喜んでもらえて、ボク、体を封印されてちょっとよかったかもー』
こうしてしばらく空を楽しんでから、一同はアルマの塔のてっぺんのアルマトラの巣に着地した。アルマトラとその友人のスライムは空から現れたミミたちに仰天したが、事情を聞いて納得し、アルマトラはニヤリと笑って言った。
「まあおまえたちのことだからな。何が起こっても不思議はない」
スライムは、巣の中から羽を見つけてきてくれた。
「エンゼルスライムさんの羽ってこれ?ふわふわで、『天使のはね』そっくりだね!いいな〜、ボクもいつか飛べるように進化できるかな〜」
数百年は生きていてもスライムなままのスライムが果たして飛べるように進化できるかは疑問だが、スライムは「そうだ!進化できなくてもアルマトラの背中に乗せてもらえばいいんだ!」と自己完結で納得していた。
ミミたちはアルマトラたちに別れを告げると、今度こそ湖の小島の小屋の上に着陸した。すると、そこには本当に羽がひっかかっていて、マポレーナたちが集まって不思議そうに眺めていた。
ミミは羽を拾い上げ、大切にしまった。
「それで、次はどこ?」
ミミが尋ねると、エンゼルスライムはイザヤールの懐から出てきて、くるくる回りながら答えた。
「あのさー、さっきのスライムの言葉を聞いて思ったんだけど、ボクの羽って『天使のはね』と同じ成分なんだよね〜。一枚だけあっちこっちにあるのを集めるより、作った方が早いかもー」
それを早く言ってほしかったと言うべきところなのかもしれないが、久々に大空を自由に飛ぶという経験ができたミミとイザヤールに文句は無く、むしろもう大空巡りは終わりであることを残念に思った。そこで、ミミはエンゼルスライムに提案してみた。
「各地のスライム属のみんなに頼んでおいた分の回収はした方がいいんじゃない?」
「それもそうだねー。じゃあさっきのウォルロってところの高台に行ってくれる?羽を拾ったらそこに集合するように頼んでおいたんだ」
そこで今度はミミがイザヤールを抱き上げ(華奢なミミが大の男を軽々と抱え上げられることにエンゼルスライムは頭ではわかっていても驚き、イザヤールはほんの少し照れくさそうな複雑そうな顔をしていた)、ウォルロの高台まで飛んだ。
『ヴァルキリーが戦死した勇士たちを連れてくってこんな感じー?』とエンゼルスライム。
「や、やめて、不吉なこと言わないで・・・」動揺するミミ。
「心配するな、たとえ死んでもおまえ以外の女に連れ去られるようなヘマはしない」とイザヤール。
「心配するのそっち?!」
ウォルロの高台に着くと、ルーラやキメラのつばさを使ったのか、羽を持ったありとあらゆるスライム属で溢れて賑やかなことになっていた。エンゼルスライムはミミの懐から出ると、感激して叫んだ。
「みんなー、ありがとう!スライム属の絆万歳!」
「困ったときはお互い様である」スライムたちを代表してキングスライムが言った。「たとえ住む世界が違おうとも、我らスライム属はお互い助け合い共に栄えていこうぞ」
こうして羽がどっさりと集まると、エンゼルスライムは言った。
「さーて、次は・・・いよいよ、ボクの封印された体を取り戻さなきゃー。ボクを陥れた悪いヤツが、ものすごく足場が高くて狭い山のてっぺんに、ボクの体を封印したんだ。場所はわかってるんだけど、そいつがずっと見張ってるし、ボクは魂だけだから今までどうにもできなかったんだ」
そんな山のてっぺんでは、登れないし天の箱舟で着陸もできない。もう一度イザヤール様と飛べるとミミはわくわくしたが、エンゼルスライムの体を封印した悪いヤツがどんな強い魔物かも気になって、装備を普段愛用のおどりこのドレスから(寒いところを歩く時はそれにマントも羽織っていたが)セラフィムのローブに替えた。
イザヤールは再びミミを抱き上げ、エンゼルスライムの指示する方向に猛スピードで飛んだ。向かう先は、察するにガナン帝国城の北側の険しく高い山のようだ。そんな場所に居る悪いヤツとはどんな魔物だろうと、ミミは濃い紫の瞳を憂いでいっそう濃くした。
ガナン帝国城の北側の山は、高く切り立っていて、足場もほとんど無いくらいだった。そこの頂上に、真っ暗な石でできた棺桶がバリアのようなものに包まれて立っていて、その周りを、巨大な黒い鳥のようなものが飛び回っていた。
『あの棺桶の中にボクの体が封印されているんだ!』エンゼルスライムは叫んだ。『封印は、光のチカラをまとって、聖なる祈りを最後まで捧げることができれば解けるけど・・・そうする前に絶対にアイツが邪魔してくるから・・・』
「あれが、あなたを封印した悪いヤツなの?」
ミミは、棺桶の周りを飛び回る巨大な黒い鳥をまじまじと見つめて言った。それは、よくよく見ると、翼が黒色で巨大であるという点を除けば、キメラにそっくりだった。腹とくちばしは、暗い鋼色で、動くと時折冷たく光った。
巨大な黒いキメラは、飛んできたミミとイザヤールを見て言った。
「ふん、ぶりっこスライムのヤツめ、助っ人を呼んで来たか。だがムダだムダ!人間どもめ、おまえらの肉体もこの棺桶に放り込んでやる!」
「何故こんなことを?」ミミは尋ねた。「こんなことしたって、あなたにも何のいいこともないじゃない?」
「うるさいうるさーい!」巨大キメラは叫んだ。「コイツばっかり、ピンク色で翼真っ白でカワイイって、いっつもちやほやされやがってー!」
「単なる僻みか?!」イザヤールは呆れ、眼光を鋭くして言った。「そんな理由で異世界にまで来て人騒がせなことを?これは少し根性を叩き直す必要があるな!」
しかしミミを抱えている状態では、イザヤールは武器を使えない。そこで、ミミは言った。
「イザヤール様、私がライトフォースを使ったら、棺桶の前まで飛んで私を降ろして。あの黒いキメラが邪魔してきたら、呪文で何とか隙を作るから」
「よし、わかった。頼むぞ」
ミミは自分とイザヤールにライトフォースをかけ、イザヤールは棺桶に向かって急降下しようとしたが、巨大キメラが大きな火の玉を吐いてきたので、急いで身をかわした。ミミはオーラスキルの「スキャンダル」を使って巨大キメラの目をくらませてから、イザヤールの腕の上から棺桶の前に飛び降りて、聖なる祈りを唱え始めた。
ようやく目が見えるようになった巨大な黒いキメラは、ミミをつつこうと向かっていったが、イザヤールに阻まれた。
このキメラは巨大なだけでなく、攻撃力も守備力も高いらしく、イザヤールの剣もくちばしで受け止め、メタル系を攻撃するような鋭い音が響き渡った。剣とくちばしの激しい打ち合いは続いたが、巨大キメラは急に身を引くと、イザヤールに向かってドルマドンを唱えてきた!
バトルマスターであるイザヤールの体力はこの威力でもなんとか耐えられたが、この衝撃による一瞬の隙で、防戦一方となった。しかもドルマドンを受けたショックで合体していたエンゼルスライムが騒ぎ始めた。
『えーん痛いよう〜。闇の呪文嫌いー』
「しっかりしろ、痛いのはおまえじゃなくて憑依されている私だ、だから安心してしっかり飛んでくれ!」
聖なる祈りを唱え終えたミミは、この状況にはっと気付いて、急いでキラージャグリングを巨大キメラに向かって放った!光のチカラをまとった玉の威力に、巨大キメラが悲鳴を上げる。そこへイザヤールのギガブレイクが炸裂し、巨大キメラは真っ黒焦げになり(黒くてよくわからなかったが)、へろへろと落ちていった。
巨大な黒いキメラは、銀色に光るキメラのつばさを落としていった。それはミミの前に降ってきたので、ミミはそれを受け止めた。それと同時に、黒い棺桶が開いて、中からピンク色のスライムが転がり出てきた。ぴくりとも動かず、深く眠っているように見える。
イザヤールも棺桶の前に着地すると(足場が狭いのでミミと抱き合うように寄り添わないと立てなかった)、エンゼルスライムの魂はイザヤールの懐から出てきて、ピンク色のスライムの中に入った。そのとたんにそれは目を開け、光輪も現れた。
「ありがとう!ようやく体に戻れたよー!あとは、集めたボクの羽を、どうにか翼の形にできれば・・・」
エンゼルスライムがそう言いかけたとき、巨大な黒いキメラは、岩場をじりじりとよじ登ってきて、無念そうに呟いた。
「完敗だ・・・。オレはただ、おまえみたいになりたかっただけなんだ・・・」
「もしかしたら、なろうと思えばなれるんじゃない?キメラ属にも、ピンクと白の羽のスターキメラが居ることだし」
あまりにしょんぼりしているので少し気の毒に思ったミミが言うと、巨大な黒いキメラは一気に元気になった。
「そうか!そうだよな!よし、オレは修行して巨大スターキメラになる!エンゼルスライム、悪かったな、その銀色の翼とおまえの羽を錬金すれば、おまえの羽は元に戻るぜ!」
そして巨大な黒いキメラは、旅の扉を作り、その中に飛び込んで姿を消した。
セントシュタインにルーラで戻り、ミミはエンゼルスライムの羽と銀色の翼を錬金した。すると、「おわかれのつばさ」と似たような形のものができたので、喜びでぴょんぴょん跳ねているエンゼルスライム背中にくっつけてやった。翼が戻った!
「ありがとう!このままキミたちに憑依してここで暮らすのも悪くないけど、家族にも会いたいから、やっぱり帰るね。これお礼!」
ミミは「天使のわっか」をもらった!
「ボクが死んじゃって魂だけになったら、また来てキミたちを飛ばせてあげるね♪」
「そ、そんな日は来ない方がいいけれど・・・」
「まあ早くて千年後くらいかなあ」
じゃあ無理そうだとミミとイザヤールは楽しげに笑う。久々に自由に飛べたのは楽しかったけれど、飛べなくても充分楽しい日々だからと思いながら。〈了〉
『お前みたいになりたかった』ってどっかで聞いたセリフだw
いつかビックスターキメラになれるのかしら?
ちなみにランドン山脈は10のオーガ族の大陸にあります。
9だと伝説の地という設定なんですよね。
すっかり忘れていましたw
雪で覆われていてスノーモンやイエティなど白くてもふもふな子がいます
あ!もちろん、ランドンクイナいますよw
シェルル「リリンは天使界に帰りたいって思う事ある?」
リリン「ないわよ。天使界って平和だけど刺激がなくて退屈だし」
ククール「閉鎖的な環境って窮屈だからなぁ…」
シェ「天使界ってどんな?
リリ「ときめきがなくてつまらない所」
クク「それじゃ、俺とときめこうか?
シェ「おいコラ、ククール」
リリ「面白そうね。うふふ
シェ「あ…あの〜リリンさん?」
サンディ「レレンは最初は帰りたがったけど人間界の料理が美味しいからという理由で帰りたいって騒がなくなったのヨw
いらっしゃいませこんにちは☆勝手にエンゼルスライムの思い出、モンスターズでふよふよ飛んでいるところはたいそう可愛いですが、エンゼルのくせに普通に攻撃してくるんですよね・・・。
自分で書いといてなんですがそもそもスターキメラになるにはにじくじゃくに生まれる必要がある可能性も・・・前途多難です黒キメラ。
キメラもシリーズ通して出番長いというのに、人気度ではおそらくスライムに完敗ですよね。嗚呼。
ランドン山脈にランドンクイナ居てよかった〜(笑)10だと逆に伝説の地ではない普通?の場所なんですね。白くてもふもふなモンスターばかりっていいなあ☆
スマートでオトナな会話な女主さんたちに翻弄される彼氏さん(笑)4コマ劇場とか見ていると、帰りたがる主人公の方が少数派かもですね。妹さんは地上のおいしいものでホームシック解消?でよかったよかった?