セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

彷徨

2013年10月31日 01時59分39秒 | 本編前
ハロウィン当日になってしまいましたのイザヤール様守護天使時代話。ハロウィン話には珍しくあまり陽気ではないタイプの話となりました。騎士たちの幽霊が闇の中隊列を組んで駈けるイメージが先に出て、そこからできた話です。イザヤール様とルディアノは全く接点が無さそうですが、こんな間接的な接点があるといいなという妄想の産物。女主今回セリフも無いですが、ばっちり師匠の癒しとなってます(笑)余談ですが今回寝ぼけて危うく完成間近で全消しするとこでしたあわわ。

 子供の背丈ほどある物から、手のひらに載る程度の物まで、大小様々なかぼちゃで作ったランタンが、村のあちこちを飾っている。子供たちが、思い思いの魔物の格好をして、各家々の戸口を巡り、手提げに菓子をもらい、笑いさざめく声が流れていた。
 今夜は魔の者たちが徘徊する日だから、か弱き幼子は彼らの扮装をして難を逃れようという意味合いがある行事なのだと、誰ともなく聞いたことがある。それは師匠エルギオスだったか、それとも書記係でそのような地上の知識に詳しいラフェットからだったのか、どういう訳かあまり記憶が無い。聞いた当時おそらくあまり関心がなかったのだろう。ウォルロ村の守護天使イザヤールは内心そう呟いて、苦笑とも微笑みともつかない笑顔の影を唇の端に浮かべた。
 しかし、守護天使となっている今、村中で和やかに行事を楽しむ様を見守っている気分は、なかなか悪くなかった。かぼちゃの色で更に暖かみを増したようなランタンの灯りの色。可愛らしい扮装で嬉しげに行列で歩く子供たち。素朴な手製の菓子をそんな子供たちの籠や袋に入れてやる大人たちは、慈愛の眼差しに満ちている。魔の者たちがさ迷う夜だというのに、ウォルロ村はとても平和だった。
 その平和を、行事を楽しむ喜びを、村人たちは守護天使に感謝して、今日も星のオーラがたくさん集まった。裁縫が苦手な者や構ってやれる親の無い子の為に仮装衣装を作ってやったり、小さな焼き菓子をたくさん守護天使像の傍に用意したのが、効を奏したようだ。手伝ってくれた弟子のミミに、この楽しそうな様子をきちんと教えなくてはな。それを聞いた時の彼女の様子を思い浮かべ、イザヤールは一見峻厳な目の光を心持ち和ませた。あの子はきっと、濃い紫の瞳を星よりも綺麗に輝かせ、頬を薔薇色に染めて顔をほころばせるだろう。
 早く帰ってその顔が見たかったが、今日は村が平和でも、もうひとつやることが残っていた。今夜の村の結界の一歩外では、本当に魑魅魍魎が普段より多めにうろついている。天使界に帰る前にもう一度村の周辺や街道を、巡回せねばなるまい。イザヤールは大きな力強い翼をふわりと広げ、地面を蹴って夕闇の中へと飛んでいった。

 日の光が完全にウォルロの地から去り、暗闇が訪れると、魔物たちは数と勢いを増す。しかし、任に就いてからのイザヤールの尽力で、この地の魔物たちは、さほど害も無く愛嬌のあるものばかりとなっていた。スライムたちは、楽しげな活気のある村の方を羨ましげに眺め、悪魔の一種である筈のモーモンたちは、遊びたいとズッキーニャにじゃれている。
 この様子なら大丈夫かと、イザヤールはかすかに笑って、そのまま天使界へと大きく羽ばたこうとしたそのとき。もう暗闇の筈の辺りを更に昏く影が覆い、スライムやモーモンたちが、怯えたように身を震わせて、次々と茂みに飛び込んで身を隠した。
 独特の冷気が、影の群れとも表現したい何かが、北の方角からゆるりと、海を越え山岳を越えて近付いてくることに気付いて、イザヤールは目を見開いた。意外だが、禍々しさは無い。だがそれは・・・その影の群れは、大いなる悲しみを湛えて、流れるように動いていた。
 やがてイザヤールの傍まで来たそれらは。何十という数の、騎士と彼らが乗る馬の形をした、影だった。影の姿をした、騎士の一団だった。
 さ迷える魂たちの大群。邪悪さは感じなかったが、イザヤールは眼光を鋭くしてそれらがやってくるのを見つめた。今宵はどの地でも、このようなたくさんの迷える魂が徘徊していることだろう。海の上でさえも、地上に永久に寄港を許されない幽霊船が、暗い波間を滑っているだろう。そんな魂たちを一人でも救う機会でもある夜。
 イザヤールは天使の力を発動させて、彼らを天へと導こうとしたが、影のひとつに遮られ哀願された。
『天使よ・・・我らをこのまま行かせてくれ』
「何故だ」
『我らの姫を探さねばならぬ・・・。魔女に囚われ、探しに行くことも叶わぬ我らの仲間の代わりに。・・・年に一度の今宵だけなのだ、我らがこうして、城の外に行けるのは。頼む・・・』
 騎士は、人間たちの中でも、殊に仲間や主との絆が強いと言われている。おそらく不毛であろう年に一度の捜索を、彼らが続けているのも、その友情の絆の為なのだろう。イザヤールは静かに頷いた。
「・・・わかった。とにかく、おまえたちの姫はおそらくここには居ない。他を当たるといい」
 影たちは一礼し、東の方へと去っていった。
『白百合の姫と黒薔薇の騎士が再び巡り逢うまで、我らは・・・』という言葉を残して。

 イザヤールは天使界に戻り今夜起きた出来事を長老オムイに報告すると、彼らは二百年以上前に謎の滅亡を遂げた王国、ルディアノの騎士たちではないかと告げられた。二百年以上前とはちょうどエルギオス様が行方不明になった頃だと、イザヤールは胸の苦味を感じながら内心呟いた。ならば、彼らの姫は、とっくに、もう・・・。
「結局、彼らの誰一人、救えませんでした」
 胸の苦味そのままに、沈んだ声で呟くイザヤールに、オムイは首を振って言った。
「時が満ちなければ救えぬこともある。それを忘れぬようにな」
 その言葉に、イザヤールは小さく頷き、一礼して自室に戻った。
 部屋に戻ると、弟子のミミが待ってくれていた。ラフェット辺りにかぶせられたのか、可愛らしいウィッチハットをちょこんとかぶっている。師の帰りを知るやいなや、愛らしい顔がぱっと明るくなり、花開くような笑顔になった。
 ルディアノの騎士たちが探す彼らの姫も、このように愛らしかったのだろうか。だからこそ、死して尚探すほど忠誠を誓っていたのだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、彼女の用意してくれた温かい飲み物を口に含むと、師匠の表情に切り換え、イザヤールは微笑んだ。〈了〉
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