セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

火に入る虫1

2013年09月15日 23時51分21秒 | クエスト163以降
こっそりひっそりサイト三周年イブらしいので、三周年企画の短期連載を始めさせて頂きます。ストーリーはだいたい決まっていますがまだ未完の為、三回か四回くらいの連載になるかな?なあやふや予定ですみません。今回普段互いにどこか未だ遠慮気味のイザ女主に事件が・・・。そしてストーリー始めの方何てことないのに何故かそこはかとなくコンマ一ミリエロスなよーな・・・。相変わらずこんな感じなサイトですが、お付き合いくださっている心優しい皆様に改めて大感謝です♪

 夏の終わりを名残惜しむかのように、セントシュタインの期間限定で行われている夜市は、今宵も賑わいを見せている。屋台のランプに引き寄せられる虫たちは、真夏のような貪欲さはなくどこか儚い。虫は、太陽を目印にする為に光に集まってしまうと言う。せめてランプではなくて、月や星を目指せば炎に焼かれることもないのにと、ミミは悲しげに長い睫毛を瞬かせる。
 そんな彼女の感情の動きを敏感に察知してか、隣を歩いているイザヤールが、そっと彼女の手をあたたかな手で包み込み、たったひとこと呟いた。
「はぐれるといけないからな」
 微笑む顔は照れも無く、ごく自然なものだ。だが、一見無骨な手に込められた優しく繊細な握り方が、言葉以外の雄弁さで彼の感情を伝えている。
 ああ、イザヤール様、好き、大好き・・・。ミミは自ら指をそっと彼の指に絡め、微笑みを返して彼の顔を見つめた。その濃い紫の瞳は、愛しさも露に濃いグラデーションを描いている。
 でも。限りないほど愛しく想っていることをありのままに伝えたい一方で、その重さを知られたら彼の負担にならないかと、未だにどこか躊躇もしてしまう。イザヤール様は、日だまりのようなミミが好きなのであって、激しい熱を湛えるミミはどうなんだろう。それを知るのがちょっと怖い・・・。
 イザヤール様は、そんなミミも好きだと言ってくれているのに。なかなか見せられないのは、彼を信じきれていないということになってしまうのだろうか。・・・違う。信じきれていないのは、イザヤール様ではなくて、自分。想いを溢れさせすぎたら感情を制御できる自信が無いから。守り人の務めや、友達も大切に思っているミミでちゃんといられるのか、信じきれていないから・・・。
 少しうなだれたミミは、イザヤールの案ずるような声で我に返った。
「どうしたミミ、疲れたか?」
 慌ててミミは頭を上げ、ふるふると首を振って、違うとしぐさで表した。そして、絡めた指を無意識に彼の指にどこか艶かしく滑らせた。
「違うの・・・」
 そう呟いて唇に浮かべた微笑は夢見るようで、みとれるほど綺麗だった。イザヤールは思わず息を飲み、ゆっくりとなでるように動く、繋いだミミの指の感触に酔いしれた。無意識にしてくるから、堪らない・・・。彼は内心呟いた。恥ずかしげにたどたどしく、口頭で愛を伝えるだけでなく、ミミは。見つめる美しい瞳から、こうして触れたところから、とにかく全身を使って言葉無き声で想いを伝えてくれている・・・。
 自惚れだと言われようと、彼女のその想いを、愛されているということを、イザヤールはかけらも疑っていなかった。ただその一方で、ミミは友達や務めのことを恋人と同じくらい大切に思っていることも、わかっていた。そもそも比べられるようなものではないのだから。それでいい。理性は充分それを理解していて、そしてイザヤールは、人一倍理性的な男だった。
 ・・・それでも。ごくたまに、己以外の何もかも忘れさせて、ずっと独り占めしたいと。誰も知らない場所に、このタカラモノを隠しておきたいと、子供じみた感情が、胸底を食むことがある。この微笑みを、潤んで陰影を描く瞳を、清楚なのに艶かしい肢体を、愛しい彼女の何もかも、自分だけの秘密にしたいと、浅ましく叫ぶ獣がこっそりと身を潜めている。
 人生の温かな幸福とは真逆の、破滅の匂いの悦楽。ミミをそんなところに堕とすつもりは絶対に無いし、人間にはパンや住処等の散文的な物も不可欠だとよくわかっている。だから、自分だけしか知らないミミの表情、可愛い切ない声、露のような汗と混じる花のような芳香、やわらかさとあたたかさ、どんな繊細な菓子よりも飢えを誘い満たす甘いカラダ、五感全てに己しか知らないミミを宛がい、その獣をなだめている。
 包み込んだあたたかい手が、心持ち熱を帯び、ほんの少し力が込められた。その熱に、ミミは小さく息を呑み、瞳を潤ませる。
 ずっと、イザヤールのあたたかい手が好きだった。もちろん今も大好きだ。そして、人間として共に生きるようになってから、彼の手が熱くなることも・・・彼の熱い手も愛しいと、体ごと知った。髪を、頬を、首筋を、ミミの全身の何もかも、愛しげに優しく、時には翻弄するように触れる手は、彼の与える熱だけでなく、彼女の中の熱も呼び覚ます。
 絡めた指を沿わすようにミミも更にきゅうと手を握ると、優しい、だがやはりどこか熱を帯びたイザヤールの声が、囁いた。その吐息が、クリーム色にほんのり薔薇色を掃いた可愛らしい耳たぶをかすかにくすぐって、ミミはふるりと身を震わせる。
「そろそろ、帰るか?」
「はい・・・でも、みんなへのお土産、買ってからでもいいですか」
 こんなときでも、宿屋カウンターで忙しく働いているであろう仲間たちのことをちゃんと考えるミミは、優しくて可愛い。・・・だが、絡める指は、早く二人きりになりたいと告げているくせに。ほんのかすかに、イザヤールは苦笑した。その思いやりと律義さも彼女の長所だが、たまには自分の欲求や望みを優先させても良いものを・・・。けれどもそんなところも、愛しい。
 それにイザヤール自身、己の感情や欲求よりも、他者や務めを優先するところがあるので、あまり人のことを言えなかった。これは守護天使のサガなのか、それとも似た者同士の二人と言うべきなのか。だから、彼は笑って頷いた。
「もちろん」
 ただし、おあずけの褒美はちゃんと頂くからな・・・と内心呟く。
 結局、皆の為に買った薄荷味の砂糖菓子以外は何も買わずに、二人は手を繋いだまま夜市を後にした。

 それから数日後。ルイーダの酒場の冒険者たちの間に、変種のマタンゴが大量発生したという情報が流れた。通常のマタンゴはいずれ目覚める睡眠攻撃をするだけだが、このマタンゴは精神の異常を引き起こす作用のある胞子を撒き散らし、それは超ばんのうぐすりさえ効かないと言う。
 そして厄介なのは、このマタンゴたちは直接攻撃だと分裂してしまうことだった。そして進化を繰り返し、最近ではなんと呪文攻撃でも置き土産に胞子を撒き散らしてから倒れると言う。炎魔法には弾け散り、氷魔法では凍りついたまましぶとく胞子はその毒気を保ち解凍を待ち、風魔法ではもちろんそのまま胞子を好き放題に飛ばす。
「で、その厄介な胞子の引き起こす作用とは具体的に何だ?」
 イザヤールが、ルイーダに尋ねた。彼女は冒険者たちから次々話を聞いていて、この件の情報に一番通じていたからだ。
「一種の幻覚作用、とでも言うのかしらね?その胞子を浴びてしまった人は、例えようもない高揚感と全能感に満たされ、普段抑圧している禁忌を全て感じなくなってしまって、欲望のままに行動してしまうんだそうよ。ダイエット中の子がスイーツを山のように食べてしまったとか、お堅いので有名だった僧侶君がブーメランパンツで街中を闊歩した、とかが今のところ報告されているわ」
「・・・案外平和だな」
 ルイーダの話を聞いて、イザヤールはちょっと失笑した。酔っぱらいの酷いのだという程度に思えたのだ。
「笑い事じゃないかもよ」そう言いながらもやはり顔は笑っていたルイーダが、急に真剣な表情になった。「今のところの被害者は、たぶん元々素直ないい子たちだから、その程度で済んだのよ。もしも嗜血癖や盗癖、果ては殺人願望を日頃圧し殺して暮らしている人が抑圧を失って欲望を解放してしまったら、どんな恐ろしいことになるか・・・」
 彼女の言葉に、イザヤールもまた厳しい表情になった。元守護天使ゆえに嫌というほど知っていた、ほんの僅かだが、恐ろしく歪んだ性癖を隠して、平凡な暮らしに甘んじている人間が確実に存在することを。彼らを常人に辛うじて留めているのは、良心ではなく、神罰・刑罰・社会的制裁などの恐怖によるものでしかない。生い立ちや生活環境の複雑な融合で、そのようにしか生きられない哀れな迷える魂。そんな彼らに手を差し伸べ、心に光を灯すのも、守護天使の大切な役割だった・・・。
 そんな残虐な嗜癖を満たす為に、傭兵や冒険者の道を選ぶ者も少なくない。ルイーダの眼力があるおかげで、この酒場はそんな者たちの溜まり場になることを免れているのだ。もしも、そのような冒険者たちがそのマタンゴ退治に行って、胞子を浴びて抑圧を払ってしまったら・・・。確かに、笑い事ではない。
「これは、早く何とかしないといけないな」
 イザヤールは、眉をしかめて呟いた。
「あなたとミミにそのマタンゴ退治を任せれば、安心だわ。万が一胞子を浴びても、他人に迷惑になるような性癖はなさそうだし」
 またちょっとくだけた表情になって、ルイーダは笑った。
「そう思いたいが、ミミはともかく私はわからないぞ?己の心の奥の闇など、日頃そうそう自覚できるものではない」
 イザヤールの表情は相変わらず硬かった。完璧で誰よりも美しい心を持っていた、師匠エルギオスも。そして、偉大なる神すらも・・・。己の闇に呑まれ、持て余したのだから・・・。
「でも、ミミは絶対大丈夫そうな気がしない?これは、たくさんの冒険者を見てきた私の勘。あなたも大丈夫よ、イザヤールさん。私の眼力を信じてくれるならね」
 ルイーダの言葉に、イザヤールは鋭くしていた眼光を和らげた。
「それは、誉め言葉と受け取っていいのかな」
「もちろんよ。私の見たところ、リッカもロクサーヌもレナも大丈夫そうね。・・・ただし、自分のことは、確かに自分じゃ確信できないわ。イザヤールさんの言うところの己の心の奥の闇、ってヤツはね」
 ルイーダは複雑な笑みを浮かべて肩をすくめ、それからふと尋ねた。
「あら、そういえばお昼から見かけてないけど、ミミは?」
「ああ、ベクセリアのルーフィンのところに行っている」
「ベクセリア?!それって、マタンゴの棲息地よね!確か変種のマタンゴの目撃場所は、西ベクセリアよ!大丈夫かしら?」
 ルイーダは心配そうに柳眉をひそめ、イザヤールははっと目を見開いた。だが、すぐに大丈夫だと己に言い聞かせた。ミミは町に用事があるときはルーラか箱舟で直接移動する。ルーフィンは町から出ることはほとんど無いし、東ベクセリアではその変種のマタンゴは発生していない筈だ。それにミミもそのマタンゴのことは聞いていて、用心している。とても用心深い子なのだから。何も起こる筈はない。大丈夫だ・・・。
 大丈夫だといくら内心呟いても、何故か胸を過る不安は消えない。イザヤールは立ち上がり、キメラの翼を握りしめた。

 イザヤールとルイーダがカウンターで変種のマタンゴの話をしていた頃。ミミは、西ベクセリア地方の森を歩いていた。ルーフィンに授業に使う教材を渡して、さてそろそろ帰ろうとしたところ、ベクセリアの町の住人の一人が、うるわしキノコを取りに行ったまま帰らないので少々騒ぎになった。家族が心配しておろおろしていたので、見過ごせなかったミミは、うるわしキノコの採取場所に様子を見に行くことを引き受けたのだ。
 おかしなマタンゴのことは聞いているので、ミミは町を出るとすぐに聖水を振り撒き、更に影のターバンでしっかり鼻と口を被って出発した。滞りなくその場所に着くと、幸い捜索対象の本人は無事だった。
「いや~、たくさん生えててつい採るのに夢中になっちゃって。すみませんねえ、お詫びに町に帰ったら家で夕食ご馳走しますよ。さあ帰りましょう」
 彼はそう言ってキメラの翼を出して放り投げようとしたそのとき、ミミの聖水の効果が切れ、その途端・・・二人はマタンゴの大群に囲まれた!〈続く〉
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