セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

夏休みの終わりのお約束

2013年08月30日 23時08分57秒 | クエスト184以降
今週は間に合いました捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。この時期の風物詩?夏休みの宿題話です。津久井は夏休みの宿題をギリギリまでやらない子供でした。よって大人になって締切ギリギリまで原稿にひいひい言う大人になりました(汗)しかし関東でも最近は9月からじゃない学校もあるそうですね。何か残念。

 夏休み最終日。それは、計画性のない子供が泣きを見る時間との戦いの日である。セントシュタインの一角でも、そんな子供たちが終わらない宿題に苦戦を強いられていた。
 そんな子供を、「だから早くやれって言ったでしょう!」と、母親が金切り声で叱るのもまた、夏休みの締めくくりの風物詩である。我が子の性質を考えれば「宿題やってるの?」と声をかける程度では、やるわけがないと、親も毎年の常で学習しそうなものだが、何故か同じことになる。よって親も毎年、宿題スピード仕上げの大騒ぎに否応なしに巻き込まれるという訳だ。
 しかし、同じ夏休みの宿題仕上げでも、少々様子が違う家庭が二件、一見やや高級風な住宅街にあった。
「だから自由研究は早めにやっておきなさいとママが言ったでしょ!そんなことじゃエルシオン学院に入れませんよ!お隣の子に笑われてもいいの?」
 この母親、宿題をやらないことよりもそれで有名校に進学できないことや、笑い者になることの方が気になるらしい。息子は、毎度聞き飽きたセリフに唇を尖らせた。その隣の子と、昨日まで散々一緒に遊んでいたのである。たまに思い出したように、「おまえ宿題やった?」「まだー。まだ全然余裕だよなー」「うん」そんな会話を交わしていたのだ。アイツだってやってないから、笑われるわけないのになあ。彼はぷうと頬を膨らませ、絵日記の続きに取りかかった。
『・・・今日は、セントシュタインの海水浴場に行きました・・・』
 それを目ざとく見つけた母親、声高に訂正した。
「セントシュタインの、じゃないでしょ!サンマロウの、にしなさい!」
「えー、だってサンマロウ行ってないじゃん」
「国外旅行に一度も行ってないってわかったら、恥ずかしいでしょ!ご近所の奥さんたちに笑われちゃうわ、いいから書いときなさい!」
 嘘をつく方がよっぽど恥ずかしいのになあ。息子は思った。だいたいママ、いつもはウソついちゃいけません、って言ってるクセに。ママは、ちょっと無理してここに引っ越してきてから、前よりキイキイ怒るようになっちゃった。確かに便利になったけど、ご近所で集まるパーティーや家を維持する使用人に払う給料のことやボクのエルシオン学院に入学する学費貯金やらなんかで、ママはいつもカリカリしている。パパも商売で忙しいって、あんまり帰ってこない。
 ここに来てよかったことは、隣のアイツと親友になれたことくらいだ。まあそれはスゴイことだから、いいけど。でも、うちのママとアイツのママは張り合っていて、親同士は仲が悪い。あんな子と遊んじゃいけません、と言われるので、最近は誰と遊ぶか言わないことにしている。
 宿題は、自由研究を残してなんとか終わった。だが、今からできる自由研究なんてなさげだし、もう諦めようと思った彼だったが、母親はそれを許さなかった。
「なんですって、自由研究?じゃあママちょっと誰かに頼んでくるから、待ってなさい!」
 そう言って母親はさっさと出かけてしまった。その頃、隣家でもまさしくほぼ同じ会話がなされていたとは、この親子は知る由もなかった。

 まだ暑いけれどもうすっかり秋の空なのね。リッカの宿屋の入り口で、ふと空を見上げて一瞬物思いにふけっていたミミは、商人の妻風の女性に声をかけられた。
「あのう、あなたが凄腕冒険者と評判のミミさん?ちょっとお願いがございますの」
 ミミは、凄腕かはともかく、確かに自分がミミという冒険者であることを認めた。
「私にできることでしたら」
 そうミミが答えると、女性は少々耳障りな甲高い声で言った。
「やってもらわなければ困りますの!息子の夏休みの宿題にご協力頂きたいの!」
「え?宿題・・・?」
 ミミがあっけにとられていると、女性は更に早口になってまくし立てた。
「ひと足違いで、お隣がやはり凄腕冒険者に宿題の手伝いを依頼したそうですの!対抗できるのはアナタしかいらっしゃいませんわ!隣が虫系モンスターのスタンプ採集を自由研究にするなら、うちは植物系モンスター採集でいきますわよ!」
「え?え?」
 ミミは一瞬混乱したが、どうやら子供の夏休みの宿題で親同士が張り合っていること、そしてミミの方は植物系モンスターをどうこうするのを頼まれそうなことは、何とか理解した。
「植物系モンスターの落とす葉っぱや、笠のかけらを集めてきてほしいんですの」女性は説明した。「もみじこぞうの葉っぱのかけらや、マタンゴの笠のかけらなどみたいなのをね。虫系モンスターの魚拓ならぬ虫拓なんかより、実物のかけらを集めた方が宿題としては上等な筈ですのよ!」
 宿題に上等も下等もあるのか、ミミは甚だ疑問だった。それに・・・。
「あの、差し出がましいようですけれど、宿題ってお子さん本人がやるべきものじゃないでしょうか」
 ミミが静かながらもきっぱりと言うと、女性は苛立たしげに首を振った。
「そんなことわかってますわよ!でも間に合わないんですから、仕方ないじゃあありませんか!宿題忘れでエルシオン学院に行けなくなったら、息子の将来台無しですよ!そんなの絶対許せません!」
「間に合わないって・・・宿題の期限はいつなんですか?」
「学校は明日からなんですの!」
「明日っ?!」
 そこまで放っておいた子供の自業自得な気もするが、いっぱいいっぱいになってすっかり冷静さを欠いてしまっている母親がちょっと気の毒になって、ミミは手伝うことを決意した。
「わかりました。ただし、私は素材集めだけで、レポートはお子さんにさせてくださいね」
 ミミはクエスト「夏休みの最終日のお約束」を引き受けた!

 それから遡ること少し前。セントシュタイン城の図書室に借りていた資料を返しに来たイザヤールは、城を出たところで、わかりやすいにわか成金風の格好の女性に声をかけられた。
「ちょっとそこの方、もしかして凄腕冒険者のイザヤールさんとかいう方じゃあございません?」
 凄腕かはともかく、確かにイザヤールであることを彼は認めた。
「お願いがございますのよ。もちろんお礼はたんまり致しますわ」
「礼よりも、用件による」
 淡々と答えるイザヤール。女性はそれに構わず、用件を告げた。
「虫系モンスターのスタンプを集めてきてほしいんでございますのよ。・・・今日中に!」
「スタンプ?今日中?!」
 無茶な願いに、イザヤールは驚き呆れた。魚拓ならぬ虫系モンスター拓を集めてこいと言うわけか。・・・今日中に。
「無茶なのはわかっていますのよ。でも集めてこないとうちの息子が、自分でダンジョンに潜るなんて言うんですもの。可愛い坊やにもしものことがあったら、あたくし生きていけないわ~!」
 ここで女性は、マスカラが流れるほどさめざめと泣き出したが、イザヤールはそんなことよりも子供がダンジョンに潜ろうとしていることが心配になり、しぶしぶこの頼みを引き受けた。
 するとそこへ、女性の知り合いが通りかかったらしく、彼女は勝ち誇ったように声をかけた。
「あ~らお隣の奥様。うちの坊やの宿題は何とか間に合いそうですわ~。超一流冒険者のイザヤールさんに、たった今お手伝いをお願いしましたからね」
 どうやら知人は、彼女の隣家の者らしい。派手な商人の妻風なこちらの女性は、ひきつった笑みで答えた。
「あら~、うちだって、超々一流の冒険者にお願いしますわよ。・・・では急ぎますのでごめんあそばせ」
 そう言うやいなや商人の妻風の女性は転がるように走って行ってしまい、その後彼女は急いでミミのところにクエスト依頼に行ったという訳だった。
 宿題かとイザヤールはまた呆れたが、引き受けた以上やるしかないと肩をすくめた。そういえば、守護天使時代も、夏の終わり頃、ウォルロ村の子供たちに、よく宿題の助けを求められていた。子供というものはいつの時代も変わらないなと、彼は苦笑したのだった。

 ミミとイザヤールは、準備をしようと部屋で合流したところで、互いに隣同士の子供の宿題を引き受けたことを知った。それなら一緒に力を合わせて片付けた方が早いと、ルーラと箱舟と宝の地図を駆使して、なるべく短時間で全てのモンスターに会える最短ルートを計算した。
「・・・それにしても、どうでもいい話だが、虫系モンスターは実際のところ本当の昆虫は少ないよな」
 世界地図でルートを考えながら、ぽつりと呟くイザヤール。
「そういえばそうね。蜘蛛だって昆虫じゃないし。・・・ねえイザヤール様、それはともかく、子供がデスタランチュラやウドラーの虫拓や葉っぱを持っていったら、手伝ってもらったってバレバレだよね・・・」
 ミミは心配そうに答えたが、バレて叱られればいい薬だろうと、イザヤールはにやりと笑った。
 植物系モンスターは宝の地図の洞窟にはほとんど棲息していない。まずは地上のルーラで回りやすい場所から攻めて、二人は順調に葉っぱや虫拓を集めた(テンツクはインクだらけの顔で泣きべそをかいた)。それから宝の地図の洞窟に入った。ボーンスパイダとラストテンツクは幸い同じ洞窟に居たが、デスタランチュラは別なので、また改めて別の高レベルの地図の洞窟に入り、ステルスを駆使して何とか短時間で虫拓を確保したのだった。

 夜にはなったが子供が眠くなるにはまだ猶予がある時間に、ミミとイザヤールは戻ってこられた。だが、二人が依頼人たちの家に向かうと、息子たちが帰ってこないと、それぞれの母親二人が大騒ぎしていた。
「自由研究は、超一流冒険者に頼んだから安心してって言ったのに・・・どこへ行っちゃったのかしら・・・」
「まさか、お宅のバカ息子がどこかに連れてったんじゃあないんでしょうね!」
「なんですって!だいたい、バカ息子はそっちのでしょ!うちの可愛い坊やを巻き添えにして!」
 今にも掴み合いになりそうな様子に堪りかね、ミミとイザヤールが止めようとしたところへ、絶妙なタイミングな事が起こった。
「悪いけどボクたち、冒険者さんたちに探してもらった物は使わないよ」
 子供たち二人の声がして、母親たちはいっせいに叫んだ。
「どこ行ってたの!しかもそんな子と一緒に!」
 しかし子供たちは、母親たちに構わずに、誇らしげに二人で一緒に持っていた物を掲げた。それは、一本の「ゆめみの花」で、羽化したばかりの蝶が一匹止まっていて羽を少しずつ広げていた。
「ボクたちが一緒に見つけたんだ。これをボクたちの自由研究にするよ。ママや先生に叱られたって」
「この蝶は、ゆめみの花の蜜で生きていて、葉っぱに卵を生むんだ。ちゃんと調べたんだ」
 そう言って子供たちは、お互いに顔を見合わせ、にっこり笑った。ミミとイザヤールも微笑み、彼らに言った。
「私も、あなたたちが自分で見つけた物の方がずっとすてきだと思うわ」
「自分たちで頑張って、偉いぞ」
 褒められて子供たちは、照れくさそうに、しかし嬉しげに笑った。母親たちは恥ずかしそうな顔になり、お互いぼそぼそと呟いた。
「・・・お宅の息子さん、なかなかいい息子さんですわね」
「お宅の坊っちゃんこそ、けっこういい子じゃありませんか」
 そして二人は、ミミとイザヤールに、手間をかけたお詫びとお礼だと、それぞれ「ひかりのドレス」と「ロイヤルバッジ」をくれた!
 帰り道、ミミは嬉しくて微笑みながら呟いた。
「あの子たちのお母さんたちも、これをきっかけにそれぞれ仲良くなるといいな」
「そうだな。・・・子は、親の思惑を越え、親より成長していることもあるものなのだな」
 イザヤールは答え、微笑みを返し、二人は楽しい気分でリッカの宿屋に帰った。

 その夜、依頼人の子供たちはそれぞれ、夏休みの最後の日記に、こう書いた。
『親友と一緒に、自由研究を探して見つけることができました。夏休みの最後に、最高の思い出ができました』〈了〉
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