セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

バイト代は限定ケーキ

2013年12月14日 03時33分25秒 | クエスト184以降
真夜中更新~捏造クエストシリーズこと追加クエストもどき。クリスマス関連話。この頃のハードめなクエストの反動なのか今回全く冒険していません(笑)

 クリスマスも間近、本来祈りと赦しの敬虔なる時期だが、ここセントシュタインでは、楽しいイベント感も伴う。元天使であるミミとイザヤールは、楽しんでしまうことについ少々罪悪感を覚えてしまうこともあるが、そんな二人をサンディは笑い飛ばした。
「おねーちゃんは人間たちが楽しんでお祝いするのを喜んでるみたいなんだよね~。安心してはしゃぎなよ」
 確かにセレシア様はそんな感じがすると、ミミは微笑ましく思い、確かにそうすれば人間たちの星のオーラはより増しそうだと、イザヤールは納得する。とはいえなんだかんだ言って毎年しっかり恋人同士のクリスマスを満喫している二人だったが、今年はサンディの言葉で更に素直に楽しめそうだ。
 そんなある日の、リッカやルイーダに頼まれた買い物帰りの城下町、ミミはとある菓子専門店の側を通りかかった。この店では通常のクリスマスケーキの他に、数量限定のスペシャルクリスマスケーキが販売されていた。その特別なケーキは、見た目の可愛らしさもおいしさも大評判だったが、あいにく今年の予約はもう締め切られていて、リッカたちが残念がっていたことをミミは思い出した。
 店の裏口を通りかかってミミは、菓子店の店員とミミより少し年下くらいの少年が、何やら言い争っている現場に遭遇した。
「なあ、頼むよ、雇ってくれよ!今日の宣伝担当のサンタガールが、風邪ひいちゃって来られなくなったんだろ?代わりに雇ってくれってば!」
「ダメダメ、うちの店長の趣味で、宣伝係りはサンタガールって決まってるの、男の子は帰った帰った」
「そんなこと言わないでさー!うちの小さな弟や妹たちが、スペシャルクリスマスケーキ食べたいって言ったから、食べさせてやりたいんだよー」
「じゃあ来年予約することだね、お客さんみんなちゃんと予約してるんだから」
 そう言うと、店員は裏口の扉を閉めてしまった。
「予約できる金があったら苦労しないっつーの!」
 少年は閉ざされた扉の前でじたばたしてからふと、思わず立ち止まって様子を見てしまっていたミミに視線を留めた。そして、いきなり深々と頭を下げた。
「お願いします!俺の代わりにサンタガールのバイトやってください!」
 セリフもまたいきなりで、ミミは目をぱちくりさせた。
「え?あ、あの、私・・・」
「おねーさんくらいカワイイなら、すぐ雇ってもらえるはずです!お願いします!」
「だ、だから、そんないきなり言われても・・・それに、サンタガールとこのお店のスペシャルクリスマスケーキと、どんな関係があるのですか?」
 戸惑うミミに少年は説明した。
「この店のスペシャルクリスマスケーキ、予約の他に、実はいくつか余分に作られるそうなんです。で、クリスマスまでの間、日替わりでビラ配りするサンタガールに、バイト代がわりにそのスペシャルクリスマスケーキの引換券をくれるんですよ。今日の担当のサンタガールが風邪でドタキャンしたって聞いて、それで交渉してみたんだけど、男はダメって言われちゃったんです」
「私より、あなたのお友達とかに頼んだ方がいいんじゃないですか?」
 ミミが言うと、少年はとんでもないと首を振った。
「だって、人気のケーキだし!引換券、俺にくれないに決まってます。・・・おねーさんは、人助けしてくれることで有名なミミさんでしょ?だったら、俺も助けてくれるかなって。お願いします、弟たちに一回食べさせてあげたいんです!たいしたことできないけどお礼もしますから!」
 お礼はともかく弟妹思いな少年に心打たれ、ミミは困った顔で首を傾げながら自信なさげに呟いた。
「あの・・・私を必ず雇ってもらえるとは限らないけれど、とりあえず、お店の人に聞いてみます・・・」
「ありがとうございます!お願いします!」
 ミミはクエスト「バイト代は限定ケーキ」を引き受けた!

 ミミがダメ元で菓子店の店員に交渉してみると、店長が呼ばれ、二つ返事で採用された。何故サンタガールでなければいけないのかとミミがおずおず尋ねてみると、まだ若い男性である菓子店の店長はきっぱりと言った。
「だってカワイイじゃあありませんかサンタガール!目の保養でっす!」
 こんなんですがパティシエとしての腕は確かですと、店員一同は申し訳なさそうにミミに囁く。サンタガールの衣装は貸してもらえるが、ミミは自分のサンタガールの服を持っていたので、リッカの宿屋に戻って着替えてくるついでに、ロビーでもビラ配りをしてくることにした。ちなみに配るそのチラシには、スペシャルクリスマスケーキ以外のケーキや菓子の宣伝が書かれている。
「スペシャルクリスマスケーキ以外もおいしいって知ってもらいたくて」菓子店の店長は胸を張る。趣味はともかく、自分の菓子に誇りを持っているのは間違いないようだ。
 ミミはサンタガール衣装に着替え、リッカの宿屋のロビーやルイーダの酒場に居た客たちにビラを配ってきてから菓子店に戻り、通りかかる人々にもせっせとチラシを渡した。店長は厨房からその様子をにこにこ見守りつつ張り切って菓子作りに励んでいる。励みがあると仕事がはかどるタイプのようだ。
 その頃、セントシュタイン城からの帰路に就いていたイザヤールは、一組の若いカップルが、楽しそうに喋りながら歩くのに行き合った。若いというよりむしろまだ子供と言っていいくらい顔に幼さが残る年代だが、懸命に背伸びして大人びて見せようとするのもまた、この年頃らしい。実はそのカップルの片割れは、ミミの依頼人だったのだが、イザヤールはまだそれを知る由もない。
「マジであのスペシャルクリスマスケーキゲットできるって、信じてくれよ~」
 少年の言葉に、女の子の方は、唇を尖らせて答えた。
「ウソなんていいから!もうあのケーキは予約いっぱいで、予約引換券ムリだったんでしょ?それに今月お小遣いピンチだって言ってたのに、どうやってスペシャルクリスマスケーキ買えるわけ?」
「だから、それは明日までのお楽しみだって!なあなあ、ケーキ引換券ゲットできたら、俺のことスゴイって言ってくれる?チューしてくれる?」
「え~?ま、ホントのホントにケーキゲットできたら、考えてあげてもいーわよ」
「マジで?!よっしゃー!」
 すれ違い様にこんな会話が聞こえて、語彙や発想の幼さが微笑ましくも呆れたくもなり、イザヤールは思わず苦笑した。自分にもあんな頃があったかと考えてみて、確かにあの年頃は、目的だけにがむしゃらであまり深く物事を考えない点で似ていたかもなと、クスリと笑った。彼の場合その目的は恋愛ではなく、師匠エルギオスに追いつくことばかりに関心が集中していたが。
 それから彼は、ミミなら、どんな凄いケーキか知らないが、たとえ口約束でもケーキやレアなアイテム等とキスを引き換えにはしないだろうなと思い、またかすかに唇の端を上げた。そんな駆け引きができそうもない彼女が愛おしい。まあもしそうしてきても、可愛く思うのだろうが。
 そんなことを考えながら歩いていたら、そのミミが菓子店の前でビラ配りをしていたので、しかもサンタガールの格好だったので、彼は少し驚いた。思っていたら応えるように会えた驚きと、何故ここにその格好でというのと、両方が入り交じった驚きだった。おそらく、いやほぼ間違いなく、誰かの代わりを引き受けたのだろう。微笑んで、イザヤールは可愛らしいサンタガールに歩み寄った。
「私にも一枚くれないか、お嬢さん」
 他人行儀な言葉と裏腹に、声と表情は愛しさで溢れている。ミミはイザヤール様、と口の中で呟いてからぽうと頬を染めてビラを差し出した。
「どうぞ・・・」
「ありがとう」
 だがもちろんビラを受け取った後もイザヤールは立ち去らず、ちょうど人通りも途切れたので、ミミは、幼い弟妹の為にこの店のスペシャルクリスマスケーキを必要としている依頼人のことと、それでここでビラ配りをしている経緯を話した。
 話を聞いてイザヤールは、宣伝の為と言うより趣味全開でミミを雇ったこの店の店長に少々お灸を据えたくなったが、厨房の奥に見えるその店長は、花や可愛いものを純粋に愛でる視線で、心底幸せそうなにこにこ顔だったので、その正直さと無邪気さに免じて許すことにした。赦しの季節でもあることだし。
「それにしても、ここのそのケーキの人気は凄いのだな。先ほどすれ違ったカップルも、話題にしていたぞ」
「そうなんですか。今年は依頼人の方にあげちゃうけれど、来年は、みんなで食べてみたいなあ♪」
「では気が早いが、来年は買ってみることにしようか」
 あまり立ち話も仕事に支障が出るだろうからと、イザヤールはひと足先に帰ろうとしたが、その時菓子店の店長が店から出てきて、ミミに言った。
「ありがとう、ご苦労さま。おかげでやる気がバリバリ出て、お菓子作りがとってもはかどったよ♪彼氏さんもちょうどお迎えに来たことだし、そろそろ日も沈んで寒くなるから、名残惜しいけど帰っていいよ。はい、これスペシャルクリスマスケーキの引換券!」
 ミミはスペシャルクリスマスケーキの引換券をもらった!
 それから店長は、イザヤールにだけ聞こえる声で囁いた。
「彼氏さんは幸せ者だね~こんな可愛いサンタガールさんが傍に居てくれて☆一年中クリスマス状態だね~」
 イザヤールは涼しい顔でその意見に同意し、二人は店を後にした。

 翌日、ミミは依頼人に引換券を渡しに指定の場所に向かった。その後一緒に昼食をしようと、イザヤールも一緒だった。
 待ち合わせ場所で依頼人を見て、イザヤールは眉を片方僅かにつり上げた。間違いなく昨日すれ違ったカップルの少年の方だったからだ。少年の方は、イザヤールに気付いていない。彼女とのお喋りに夢中で、通行人など気にも留めていなかったのだろう。
 ミミが引換券を渡すと、少年は小躍りして喜んだ。
「ありがとうございます!弟や妹たちがどんなに喜ぶか!はい、これお礼です!」
 ミミは「ハッピークラッカー」をもらった!
 帰ろうとする少年に、イザヤールは静かな声で尋ねた。
「君の妹は、君と同じ歳くらいに見えて、しかも君は妹にキスをねだったりするのかな?昨日の夕方前、一緒に歩いていたようだが」
 少年は思わず立ち止まった。顔がみるみる蒼ざめる。
「え・・・じゃあ夕べイザヤール様がお話ししてくれた若いカップルって、もしかしてあなたなんですか?」昨日帰宅後ミミは、少年がケーキと引き換えに恋人にキスをねだった話をイザヤールから聞いていた。では依頼人は同情を引くために弟妹の為と嘘をついたのかと悲しくなった。「彼女の為って正直に言ってくれてよかったのに・・・」
「ごめんなさい!」少年は泣きそうな顔で頭を下げた。「彼女とチューしたいからケーキ引換券欲しいですって正直に言ったら、いくら優しいミミさんでも引き受けてくれないと思って、ついっ」
「やっぱり、そういうことだったのねー」女の子の声がして、見るとやはりイザヤールが昨日見かけた女の子が立っていた。「あんたが引換券ゲットできるなんておかしいと思ったのよ。ウソついてもらうケーキなんてダメ!さ、引換券お返ししなさいっ」
「うん・・・」
 彼女の言葉に、少年はしょんぼりとミミに引換券を返した。
「これでもちろんチューもおあずけだから~」
「そ、そんなあ!」少年はがっくりとうなだれた。
 ミミはちょっと笑ってから、引換券を改めて女の子に渡した。
「彼もきっと頑張って考えたのよ、一緒にケーキを食べて許してあげてください」それから少年の方を振り返って、「でも、もう嘘をついて人に頼み事はしないでくださいね」
「は、はい!ホントにすみませんでした!」
 謝罪とお礼を言って帰っていくカップルを見送りながら、イザヤールが微笑んで呟いた。
「ミミ、相変わらず優しいな」
「赦しの季節だから」呟いてミミも微笑む。
「なるほど」
 二人で空を見上げると、いつの間にか雪が降り始めている。今年も楽しいクリスマスになりそうだ。〈了〉
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