セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

まだ、知らない

2016年10月21日 01時02分25秒 | 本編前
天使界時代、女主→イザヤール様話で、今回イザヤール様の気持ちは弟子をすごく可愛がっている感はあるものの、明確には出ていません。DQ9って錬金素材がフィールドでキラキラしてくれる親切設計ですが、主人公は見習い天使の頃に地上の素材の知識を予め学習したからわかるんだろうな〜と脳内補完してみました。今回はまだまだこれから学習途上な感じのようですが、一人前に近付いてきた時の巣立ちに伴うある種の寂寥感話もいつか書いてみたいです。タイトルは苦し紛れ。どうもしっくり来ませんで困りました。ストライクなのが来たら変えるかも?

 ここは天使界、ウォルロの守護天使の私室。ただし夕方の今は部屋の主は地上に出かけていて留守で、彼の弟子の見習い天使が留守番を兼ねて一人静かに自習をしている。
 見習い天使ミミは、今日も地上の植物や鉱物等の種類と効能の勉強をしていた。師匠イザヤールが地上から時折持ってきてくれる薬草類や鉱石を標本にする作業は、勉強といえども、綺麗なものを眺めるのが好きな彼女にとっては楽しいものだった。余白に教わった効能や用途を書き込んで出来上がった標本を飽かずに眺めれば、知らず知らずのうちに楽しみながら地上の博物学が身に付くというわけだった。
 これまで標本にしたものは、もう効能も用途もすっかり頭に入っている。ミミの詰め込まれる知識量は守護天使志望にしても多すぎるくらいだと、イザヤールの厳しさを暗に非難する者も居たが、イザヤールは、一見無駄に見えようとも己の持つ知のほとんどを弟子に伝えることこそが師匠の大切な役目だという確固たる信念を持っていたし、ミミ本人も学ぶことを辛いと思ったことはなかった。未知のものに出会うのはわくわくしたし、イザヤールと過ごせる時間は彼女にとって密かな至福の時でもあったから。
(イザヤール様、今日もご無事で帰っていらっしゃるといいな・・・)
 標本を一通り見てしまうと、物思いに沈む隙が心に忍び込んでくる。そうして考えてしまうのは、やはり密かに想いを寄せている人のことだった。こうして恋慕う人のことを想う時間も幸せなものだが、片想いとわかっているだけに切なくもある。ミミは小さく吐息した。
 その想いに呼応したかのように出入口の扉が開いて、部屋の主が帰ってくると、ミミは慌てて表情を恋する少女から生真面目な弟子に懸命に戻して、それでも抑えきれない嬉しさを湛えた笑顔で、イザヤールを迎える。
「ミミ、今日もいい子にしていたようだな、偉いぞ」
 そう言って彼が優しく頭をなでてくれると、幸せな反面、胸はズキリと痛んだ。「いい子」の弟子、それ以上の距離には近付けないのだと、わかっているのに・・・ミミは潤んだ瞳をそっと目蓋の影に隠す。そしてそれでも、自分の髪をなでてくる大きな手の優しい感触とぬくもりに、改めて幸せを感じて微笑んだ。
 それから、土産だ、と手のひらに載せられた物を見て、彼女は驚きで目を丸くし、ますます愛らしい微笑みを浮かべた。それは、美しい真紅の、艶やかに光る小枝のようなものだった。
「綺麗・・・。こんな木が、あるのですか?」
「木の枝のように見えるが、それは海から採れるものだ。珊瑚の話は以前しただろう?これもその一種の、赤い珊瑚で、錬金で染色に使うこともできる」
 イザヤールはどうやら、弟子の学習効果というよりも、綺麗な物を眺めて喜ぶ弟子を見ることが嬉しいので、わざわざこれを手に入れてきたらしかった。
「地上には、まだまだ知らない物がたくさんあるんですね・・・」
「ああ、私も未だに日々新たに知ることだらけだ」
 そう言ってイザヤールは一瞬、未知の冒険に挑む少年のような顔で、笑った。その笑顔を見てミミは、ずっとこうしていられたらと思う一方で、いつか遠い未来、このいとおしいひとときを、懐かしく思う日が来るのだろうか、とふと思った。そのときも、イザヤール様が傍に居てくれたら、どんなにか幸せだろう・・・。
 その願いが一度は完全に打ち砕かれ、その後に奇跡が起きて叶うことを、ミミはまだ知らない。己の運命も、片想いと思っている恋の相手の気持ちも、世界の秘密も神の意思もまだ知らないまま、これから覚えることだらけの見習い天使は、濃い紫の瞳を赤い珊瑚に落として、その向こうのまだ見ぬ世界を思った。〈了〉
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