セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

小さなランタン

2016年06月26日 23時28分04秒 | クエスト163以降
今年も実物を見てもいないんですが、また書きたくなりました蛍とイザ女主のお話。わざわざ捕まえないで釣り鐘形の花に入ってくれるなんて絶対無いと思うのでやりませんが、ちょっと憧れます蛍のランタン。

 山奥であるウォルロ村にも、夏の気配が迫っていた。水辺を光の子のように舞う蛍も、その気配の一つだった。そんな折ミミは、村の子供の一人から、野の花を一本もらった。可愛い釣り鐘のような花が幾つかついた、ほたるぶくろと呼ばれるものだった。この思いがけない可憐な土産にミミは思わず顔をほころばせ、みんなに見せたら、殊にリッカは故郷の花にどんなに喜ぶだろうと想像して更に楽しくなった。
 夏至の直後の日はまだまだ長いとはいえ、そろそろ夜の闇がやってくる。急いで帰ろうとミミがルーラを唱えようとしたそのとき、川辺にふわりと一筋、光が流れた。それは一匹の蛍で、何故か自ら、ミミが持つほたるぶくろの花の一つに潜り込んでしまった。
 蛍さん、自分から捕らえられちゃダメと、ミミは少し焦って優しく花を振ったが、蛍は出ていく気配もない。花の中で光る様は、まさしく妖精のランタンそのものな風情だ。それはとても綺麗で楽しい光景なのだが、このまま遠くセントシュタインまで連れ帰るわけにもいかないと、ミミは釣り鐘状の花の中にそっと指を差し入れて、蛍を逃がそうとしたが、蛍はますます花の奥深く潜り、指先が触れても逃げなかった。
 つまんで出そうとすれば、せっかくもらった花を傷めてしまうし・・・とミミは悩んだ末、蛍が自然に花から出ていくまで、ルーラは諦めて歩いて行くことにした。川沿いに歩いていけば、仲間の蛍もたくさん飛んでいることだし、そのうち出てくれるだろう。
 新月と日中からの曇り空が重なったのか、今宵は月も星も無い昏い夜となった。だが、ほたるぶくろの中で光る蛍の清らかな光が魔を払ってくれているようで、旅馴れている分を差し引いても、ミミは少しも怖さや寂しさを感じなかった。いつしかかなりの道のりを蛍の灯りを頼りに歩いていて、峠の道の手前の泉の近くまで来ていた。
 すると、水面に浮かんでいる蓮の花の中から、淡く光が漏れているのが見えた。ここにも蛍が、とミミが思うやいなや、ミミのほたるぶくろに入っていた蛍はたちまち飛び出して、蓮の花の中の蛍と一緒になった。
「・・・あなた、もしかして、この子のところに来る為に?」
 と、ミミが蛍に話しかけていると、近くの木陰から、驚いたような声が聞こえた。
「ミミ?どうしてここに?」
「イザヤール様?」
 木陰から現れたのはやはりイザヤールだった。互いに驚きと嬉しさが入り交じった顔で見つめ合ってから、幻ではないと確認してそっと抱き合う。ミミは、どうしても逃げてくれない蛍の為にここまで来たことを話し、イザヤールは、リッカの宿屋に宿泊した子供に頼まれて、ここまで蛍を放しに来たのだと説明した。
「蛍はすぐに死ぬと知ったその子供が、可哀想だから蛍の家に帰してあげてほしいと言ってな。この辺で捕まえたそうなのでここまで放しに来て、帰ろうと歩き始めたら、おまえの声が聞こえて驚いたという訳だ」
 蛍たちに、導かれたような、奇妙な偶然・・・。この蛍たちは、わざわざこの泉まで来なくても他にもたくさん仲間が居ただろうに、何故ここまで来たのだろうと、二人は寄り添うことで一つの光になっている二匹の蛍を見つめた。そこまで、互いを求め合っていたのだろうか。・・・長いこと互いへの想いを抱いてきた、自分たちのように。
 何もなかったら、いつものようにリッカの宿屋の中でただいま、おかえりを言っていたであろう時間に、こうして外で、蛍の淡い光に照らされて寄り添っている・・・。それが、自分たちにはよく起こる単なる偶然であろうと思われるのに、とても不思議なことに思えた。
「イザヤール様、蛍たち、嬉しそうに見えるの、気のせい・・・?」
「いや、きっと喜んでいると思うぞ」
「・・・一週間の命だものね、好きなひとと・・・できるだけ長く一緒に、居たいよね」
「一週間の命、か。・・・蛍にとっては、短くはないかもしれないな」
「そう・・・そうだと、いいな」
 人間から見れば儚い蛍の命。けれど、その人間の命とて、天使から見れば蛍の命にも等しいほど短く、儚いことに変わりは無い。未だに天使の力と感覚の名残を持ちながら、人間として生きること、人間としての寿命を与えられた自分たちは、残された時の短さに戸惑い、怯えるかもしれない。でも、もしも、蛍が自分たちのの時間を短いと思っていないのなら・・・そんな蛍のようになりたい、思いたいと、ミミは願った。
「大丈夫、きっと、なれるさ」ミミのその思いを聞いたイザヤールは、微笑んで囁いた。「時の長さは、一定ではなく、相対的なものなのだから。・・・昔は、時は全てのものに等しく同じだと、思っていた。だが・・・刹那を永遠に感じることも、千年を一瞬に感じることもあると・・・どう生きたかで『時』は変わると、地上に来てから、わかってきたような気がする・・・」
 ミミは胸がいっぱいになって、言葉で同意を示す代わりに、彼をぎゅっと抱きしめて、いつもより更に深い陰影を描く濃い紫の瞳で、愛する者の瞳を見つめた。それから二人は、しばらく花の上で光る蛍に祝福を籠めた眼差しを落として、その場を後にした。
 ミミの手にしたほたるぶくろは今は空であったけれど、いつの間にか雲が晴れたのか、小さなランタンの代わりに、星明かりが二人の帰り道を、照らしてくれた。〈了〉
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2 コメント

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蛍の導き (神々麗夜)
2016-06-27 23:27:01
実物のホタル、中学生の時の自然教室以来見てないです。
ホタルに限らず、虫って卵を産んだら死んでしまう種類結構居ますよね、子を残す事が生命掛け。
だからこそ生命って神秘的で美しいんでしょうね。
そういえばその自然教室の時、男子が折角、綺麗に咲いていたホタルぶくろをちぎって先生に叱られてました…(当たり前だ!)

前回のコメでシェルル君を完膚無きまでに叩きのめしたククールさんを誰も止めなかったのは『冒険者同士の喧嘩はセントシュタインでは日常茶飯事だからもう慣れた』との事です。最早名物らしいです。
ルイーダ「私も良くミロと手合わせしたわ」
リッカ「ルイーダさんの青春エピソードですね。あ、シェルル君、吹っ飛ばされた」
ロクサーヌ「という訳で今回のセントシュタイン名物冒険者同士の戦いの勝者はククールさんですわ」
客A「あの兄ちゃんに賭けて正解だったぜ」
客B「あちゃー、逆転ならずか。むこうの兄ちゃんすごく遠く迄飛んでったなぁ」

DQH2のククール強化は本当に良かったです…はい。お気に入りキャラなのでw
強化前は彼でマルチに参加しようとすると蹴られていたらしいですが強化後は人気者になりましたwバイキルト(本編とは違い一回で全体に掛けられます)で、仲間の攻撃力あげられ尚且つ自身も恩恵を受けられるのは彼だけです(他のバイキ使用者はいずれも呪文タイプなので使用者本人に意味がない)
未だに火力をハッサン並にしろと言う人がいますが遠距離で一方的に攻撃が出来、会心率もそこそこ高く、回避しやすいのに流石にそれはやり過ぎかと

トルネコ「私達と彼でマルチ来るな最弱トリオでしたのに…」
ガボ「ククール…最強クラスになっちゃったぞ…泣」
しかしガボは強化されたら早すぎたツンデレことマリベルが怖そうですwなんとなくw
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たいへん失礼しました! (津久井大海)
2016-07-07 00:17:56
神々麗夜様

いらっしゃいませこんばんは☆コメント機能不具合が未だ改善していないらしく、お返事がとても遅くなってしまいましてたいへん失礼致しました!当ブログの管理会社様、メンテナンスの度に不具合発生するらしいです怖い・・・。改善問い合わせ改めてしてみますね!

ククールさんヒーローズ2において強くなってめでたしめでたしですね☆セントシュタインのパーティメンバーやルイーダの酒場に於いては災難ですが・・・と思いきや!名物になってるんかーい!しかも賭けまで発生して、私設格闘場状態ではないですか(笑)宿屋メンバーの皆様の「いつものことっぷり」リアクションステキです。

そうか、ククールさんパワーアップして足手まといキャラから一気に文字通りモテキャラに・・・。トルネコさん不憫〜。キャラのパワーバランスって難しいですね。
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