今回も超遅更新謝罪追加クエストもどき。相変わらず前フリ長タイトルと内容の差が甚だしです。
薔薇の美しい季節である。ミミも、セントシュタイン城の一般にも開放されている薔薇園をデートコースにしたり、期間限定で特別に薔薇の花を浮かべているグビアナの乙女の沐浴場に行ったり、ルディアノ城の一角にようやく薔薇を植えられるほど浄化された空間ができたことに喜んだりと、存分にこの季節の恵みを楽しんでいた。
そして今日ミミは、ふと目に留まった薔薇専門の花売りワゴンの前で、自室の一輪挿しに飾るものを吟味していた。散々楽しく迷ってから、小さいが美しい真紅の薔薇の蕾を選んだ。溢れそうな愛しい想いを秘めた心から血がひとしずく落ちたなら、こんな色だろう、そう思わせるような色だった。
(こんな色の花をイザヤール様の部屋に飾るだけで、想いが知られてしまうんじゃないかって、怖かったっけ・・・)
薔薇は愛を伝える花で、色にもそれぞれ意味があるんだって。親友がそう教えてくれてからミミは、薔薇を飾ることさえ物思いの対象になった。真紅の薔薇を飾ることさえためらわれて、淡い色合いの花を飾ることが多かった日々。そのときの切ない感覚は、今でもはっきり覚えている。でも、今は・・・。ミミはそれこそ花が開くような微笑みを浮かべた。
リッカの宿屋の自室に戻るとミミは、さっそく一輪挿しに真紅の薔薇の蕾を飾った。それからベッドの傍らのサイドボードに置いて、自分はベッドに腰かけた。そして濃い紫の瞳の陰影と煌めきを増してうっとりと本当に清らかな血の雫のような色と形状の蕾にみとれた。
「ただいま、ミミ。・・・おや、考えることは同じだったか」
そこへ、少し遅れてイザヤールが帰ってきた。手には無造作に、やはり真紅の薔薇を持っていた。ミミのと同じ色合いと種類と思われたが、こちらは蕾からほんの少し開いている。彼は楽しそうに笑った。
「ではこちらはおまえの髪飾りになってもらおうかな」
そう言って彼は自分の薔薇の茎を短くしようとした。おどりこのドレス姿のミミによく似合っただろうが、ミミは彼の手を自分の手でそっと包み込んでそれを制して、いっそう濃く煌めきを増した瞳でイザヤールを見上げた。
「ううん。嬉しいから・・・一緒に飾っておいてもいい?」
シンプルなガラスの一輪挿しには、華奢な薔薇の茎は二本程よく収まった。イザヤールの買った方の薔薇が花ひとつ分だけ丈が長くて、まるで恋人たちが寄り添っているかのように見えた。二人は花と同じように寄り添ってベッドに並んで腰掛け、見つめ合って微笑んだ。
だが、このような甘々激甘な境遇には幸せの象徴にしかなり得ない物も、人によっては悲喜劇の原因となるらしい。ミミは間もなくそれを知ることとなった。
真紅の薔薇を買った翌日、ミミが頼まれた買い物を済ませてセントシュタイン城下町を歩いていると、昨日の花売りワゴンの前で、店主と一人の若者が押し問答をしていた。
「なんでそんなにすぐ送っちゃうんだよ!」
「迅速配送がうちのモットーなんですよ!」
「親が勝手にしたことなんだよ!だいたい、送り先が辺境なんだから、今ならまだ呼び戻せるだろ!」
「もう配達人は出発しちゃってるんだから無茶ですよ!」
「あの・・・どうしたんですか?」
ミミが巻き込まれるのを承知でおずおずと声をかけてみると、二人は各々口々に訴えてきた。
「聞いてくださいよお客さん!この人、私が知らなかった事情に無茶を言ってくるんですよ!」
「だって、僕の人生がかかってるんだよ!」
「あの、落ち着いて訳を話してくれませんか・・・」
ミミが左右からステレオ状態に話を聞かされて苦労の末わかったのは次のような事情だった。先日、若者は親戚の知り合いの紹介で見合いをした。かなりの資産家の娘で、若者の親は気に入ったのだが、若者本人はさほど気乗りがしなかった。彼の家には少々変わったしきたりがあって、見合いの返答の諾否は、秘伝の製法で作らせた特別な鉢に植えた薔薇を送り、その色で伝えることになっていた。紅い薔薇が諾で、白い薔薇が否の意味を表す。
若者は断りたいと再三ごねていたのだが、今朝方、若者の両親がここの花売りワゴンに特別な鉢を持ち込み、勝手に紅い薔薇を先方に送らせてしまったのだという。それを知って若者は慌てて止めに来たのだが、時既に遅く店の配達人は鉢植えの紅い薔薇を持って出発してしまったという訳だった。
「それなら、届け先の町にキメラのつばさで先回りして待ってキャンセルしたらどうですか?」
ミミは提案してみたが、若者は暗い顔でかぶりを振った。
「それがダメなんだ。見合い相手の一家、最近カルバドの遊牧民のパオの豪華なやつで旅行をするのに凝っているそうで、町から遠い辺境をあちこち優雅に旅しているらしいんだよ。それではキメラのつばさで先回りはとても・・・」
「うちの配達人は、どんな場所にでも花を美しく元気に配達できるスキルに長けてましてね」ちょっと得意そうに店主が言った。
「自慢している場合かよ!何ちょっとドヤ顔してんだよ!」
また険悪な雰囲気になってきたので、ミミは慌てて二人の間に割って入って言った。
「あの、だいたいの場所の見当がついているなら、私、もしかしたら追いつけるか先回りできるかもしれません。配達の人に理由を話して薔薇を引き取ってきましょうか?」
「ほんとかい?!」若者は、地獄に仏のような顔で叫んだ。「そうしてくれるなら恩にきるよ!・・・僕は、君みたいな可憐な娘がタイプなんだ。親の決めた相手なんて勘弁してほしいよ全く・・・。ねえ、もしこの見合い話がうまく破談になったら、僕と付き合わない?」
後半のセリフに、ミミはワゴンにあった白い薔薇をさっと若者に渡して超即座に「ごめんなさい」と言った。若者はがっくりとうなだれたが、それはともかく、ミミはクエスト「薔薇返事を止めろ」を引き受けた!
薔薇のワゴンの店主によると、配達人は現在おそらくサンマロウからビタリ平原にかけての広大な範囲で届け先を探しているとのことだった。配達人がキメラのつばさを使ってサンマロウから出発していたとしても、配達先を探すのはなかなかの困難だろう。かといってのんびりしている猶予はあまり無さそうなので、さっそくミミはリッカの宿屋に戻って出発しようとすると、若者が白薔薇を見て何かを思いついたらしく言った。
「そうだ、ついでに白薔薇を持って行ってもらって、鉢の紅い薔薇と植え替えて、先方に届けてくれないかい?そうすればお断りも済んで一石二鳥だしさ」
「薔薇はとてもデリケートなんですよー。鉢ごと替えてくださいよ」店主がぼやいた。
「それはダメだ!うちの鉢で届けないと、正式の返答にならない!」
「しょーがないなあ・・・。じゃあお嬢さん、薔薇を植え替える時の注意や移動中の手入れ方法をこれから教えますから、大切に扱ってくださいね。うちのスコップもお貸しします」
ミミは見習い天使時代、庭園の手入れもしばしば手伝っていたので、薔薇の世話もお手のものだったが、それでもきちんと注意を聞いて、スコップ(いたずらもぐら印)と取り替え用の白薔薇を受け取った。そして、頼まれた買い物の品をルイーダに渡す為に一回リッカの宿屋に帰った。
装備を旅装仕様にする為にミミが自室に戻ると、リッカに頼まれて時計の修理をしていたイザヤールが、ミミの持っている白薔薇に目を留めて楽しげに言った。
「おかえり、ミミ。今日は白薔薇を買ってきたのか?」
「ううん、イザヤール様、これはね・・・」
ミミが訳を話すと、イザヤールは頷いて聞いていて、そして尋ねてきた。
「私も同行しても構わないか?どんな場所にでも花を元気に届けられるという技能の秘訣、私も聞いてみたいものだ」
「もちろん嬉しいけれど、イザヤール様、時計の修理はいいの?」
「ちょうど終わった」
「よかった♪さすがイザヤール様♪」
二人はさっそくルーラでサンマロウへ飛び、それから先は天の箱舟を使って、空からまずは依頼人の見合い相手一家の豪奢だというパオを探すことにした。配達人も、やみくもに探すのではなく、平原を見渡して何かを見つけてそちらの方向に向かって歩いていくだろうから、目標物を見つけた方が早いと考えたのだ。
今日は絶対オフと宣言していたのにもかかわらず箱舟内でヒマを持て余していたサンディが運転を引き受けてくれることになったので、ミミとイザヤールは箱舟の左右に分かれて窓から地上を見下ろした。もちろん普段通りに飛んでいては見えないしあっという間に他の大陸の上空に来てしまうので、サンディには超低空かつ超低速飛行を頼んだ。
「ふふふ、ミミ、アンタがいくら『運転免許』を持っているからって、箱舟のドライブテクはまだまだセンパイのアタシには敵わないわよね〜♪アタシの地上すれすれを走らせるスーパーテクニック、よ〜く見ときなさい!」
「うん、サンディ、お願いね」
というわけで、天の箱舟は今日はサンマロウの上をかなりの低空で飛んだのだが、サンディが「超イケてるドライブテク」を見せようとして、灯台のてっぺんすれすれを飛んで危うくぶつかりそうになり、サンディはアギロのお説教をくらうこととなってしまった。
それから気を取り直して捜索を続けると、ちょうどサンマロウ地方とビタリ平原の間くらいの橋付近に、この辺りには今まで見かけられなかったパオがいくつかあるのが上空からでも見えた。かなり派手なパオで、花畑と同じくらい鮮やかできらびやかだ。おそらくこれが配達人の目的地だろうから、サンマロウの町の方向に歩いていけばいずれ会えるだろうと考えて、ミミとイザヤールは地上に降りて歩いていくことにした。
「あれ?サンディ、一緒に来てくれるの?今日は絶対オフって言ってなかったっけ?」
「見損なってもらっちゃあ困るわよミミ!地上の守り人の冒険の記録をつける美少女妖精に、オフはないのヨ!」
「もしや箱舟に残っているとアギロに先ほどの説教の続きをされるのがイヤだから来たのではあるまいな?」
「ギクッ・・・!や、や〜ね〜イザヤールさん、どーしてそんなひねくれた見方しかできないワケ〜?」
というやりとりをしている間に、遠くの方に人影がぽつんと見えてきたので、もしかしたらとミミたちは急ぎ足になった。そしてその人影が、変わった鉢に植えてある紅い薔薇を持っていると判別できるところまで近付いて、やはりこの人が配達人だと判断できたが、とりあえずそれどころではなくなった。配達人は、ピンクモーモンの群に囲まれて、噛まれたり襲いかかられたりしていた!薔薇の鉢を守るのに必死で、反撃ができないらしい。
ミミたちが急いでピンクモーモンたちを追い払うと、紅い薔薇の鉢を抱えていた人物は顔を上げて、ミミたちに礼を言った。
「ありがとうございました。ピンクモーモンの奴らは、どうやらこの薔薇の紅さに血を連想して襲いかかってきたようです。これでも頑丈なんで命に別状は無いんですが、危うく配達が遅れるところでした」
涼しい瞳のなかなかの美男子なのだが、思いきり頭から流血しながら深々頭を下げてきたので、せっかくの顔も凄まじいことになって台無しである。ミミは慌ててベホイミをかけてやった。危うく白薔薇まで赤く染まるところだった。
やはりこの人物が紅い薔薇を依頼人の見合い相手に届ける配達人だと判明したので、ミミとイザヤールは訳を話して、紅い薔薇と白い薔薇を注意深く植え替えて、改めて届けてもらうことにした。だが見送っていると、配達人は、白薔薇を持っていても結局ピンクモーモンに襲われていた。色はどうやら関係無かったらしい。流血で白薔薇が紅く染まってしまえばまた話がややこしくなるので、ミミたちは結局パオまで護衛してやったのだった。
ミミたちはセントシュタインに戻って無事紅い薔薇と白薔薇を交換したことを依頼人に伝えて、お礼に「エルフの飲み薬」をもらったが、依頼人は改めてミミを口説いて玉砕していた。ちなみに、依頼人の見合い相手の方は配達人に一目惚れしてしまい、見合いを断られたことを一切気にしなかったという。〈了〉
薔薇の美しい季節である。ミミも、セントシュタイン城の一般にも開放されている薔薇園をデートコースにしたり、期間限定で特別に薔薇の花を浮かべているグビアナの乙女の沐浴場に行ったり、ルディアノ城の一角にようやく薔薇を植えられるほど浄化された空間ができたことに喜んだりと、存分にこの季節の恵みを楽しんでいた。
そして今日ミミは、ふと目に留まった薔薇専門の花売りワゴンの前で、自室の一輪挿しに飾るものを吟味していた。散々楽しく迷ってから、小さいが美しい真紅の薔薇の蕾を選んだ。溢れそうな愛しい想いを秘めた心から血がひとしずく落ちたなら、こんな色だろう、そう思わせるような色だった。
(こんな色の花をイザヤール様の部屋に飾るだけで、想いが知られてしまうんじゃないかって、怖かったっけ・・・)
薔薇は愛を伝える花で、色にもそれぞれ意味があるんだって。親友がそう教えてくれてからミミは、薔薇を飾ることさえ物思いの対象になった。真紅の薔薇を飾ることさえためらわれて、淡い色合いの花を飾ることが多かった日々。そのときの切ない感覚は、今でもはっきり覚えている。でも、今は・・・。ミミはそれこそ花が開くような微笑みを浮かべた。
リッカの宿屋の自室に戻るとミミは、さっそく一輪挿しに真紅の薔薇の蕾を飾った。それからベッドの傍らのサイドボードに置いて、自分はベッドに腰かけた。そして濃い紫の瞳の陰影と煌めきを増してうっとりと本当に清らかな血の雫のような色と形状の蕾にみとれた。
「ただいま、ミミ。・・・おや、考えることは同じだったか」
そこへ、少し遅れてイザヤールが帰ってきた。手には無造作に、やはり真紅の薔薇を持っていた。ミミのと同じ色合いと種類と思われたが、こちらは蕾からほんの少し開いている。彼は楽しそうに笑った。
「ではこちらはおまえの髪飾りになってもらおうかな」
そう言って彼は自分の薔薇の茎を短くしようとした。おどりこのドレス姿のミミによく似合っただろうが、ミミは彼の手を自分の手でそっと包み込んでそれを制して、いっそう濃く煌めきを増した瞳でイザヤールを見上げた。
「ううん。嬉しいから・・・一緒に飾っておいてもいい?」
シンプルなガラスの一輪挿しには、華奢な薔薇の茎は二本程よく収まった。イザヤールの買った方の薔薇が花ひとつ分だけ丈が長くて、まるで恋人たちが寄り添っているかのように見えた。二人は花と同じように寄り添ってベッドに並んで腰掛け、見つめ合って微笑んだ。
だが、このような甘々激甘な境遇には幸せの象徴にしかなり得ない物も、人によっては悲喜劇の原因となるらしい。ミミは間もなくそれを知ることとなった。
真紅の薔薇を買った翌日、ミミが頼まれた買い物を済ませてセントシュタイン城下町を歩いていると、昨日の花売りワゴンの前で、店主と一人の若者が押し問答をしていた。
「なんでそんなにすぐ送っちゃうんだよ!」
「迅速配送がうちのモットーなんですよ!」
「親が勝手にしたことなんだよ!だいたい、送り先が辺境なんだから、今ならまだ呼び戻せるだろ!」
「もう配達人は出発しちゃってるんだから無茶ですよ!」
「あの・・・どうしたんですか?」
ミミが巻き込まれるのを承知でおずおずと声をかけてみると、二人は各々口々に訴えてきた。
「聞いてくださいよお客さん!この人、私が知らなかった事情に無茶を言ってくるんですよ!」
「だって、僕の人生がかかってるんだよ!」
「あの、落ち着いて訳を話してくれませんか・・・」
ミミが左右からステレオ状態に話を聞かされて苦労の末わかったのは次のような事情だった。先日、若者は親戚の知り合いの紹介で見合いをした。かなりの資産家の娘で、若者の親は気に入ったのだが、若者本人はさほど気乗りがしなかった。彼の家には少々変わったしきたりがあって、見合いの返答の諾否は、秘伝の製法で作らせた特別な鉢に植えた薔薇を送り、その色で伝えることになっていた。紅い薔薇が諾で、白い薔薇が否の意味を表す。
若者は断りたいと再三ごねていたのだが、今朝方、若者の両親がここの花売りワゴンに特別な鉢を持ち込み、勝手に紅い薔薇を先方に送らせてしまったのだという。それを知って若者は慌てて止めに来たのだが、時既に遅く店の配達人は鉢植えの紅い薔薇を持って出発してしまったという訳だった。
「それなら、届け先の町にキメラのつばさで先回りして待ってキャンセルしたらどうですか?」
ミミは提案してみたが、若者は暗い顔でかぶりを振った。
「それがダメなんだ。見合い相手の一家、最近カルバドの遊牧民のパオの豪華なやつで旅行をするのに凝っているそうで、町から遠い辺境をあちこち優雅に旅しているらしいんだよ。それではキメラのつばさで先回りはとても・・・」
「うちの配達人は、どんな場所にでも花を美しく元気に配達できるスキルに長けてましてね」ちょっと得意そうに店主が言った。
「自慢している場合かよ!何ちょっとドヤ顔してんだよ!」
また険悪な雰囲気になってきたので、ミミは慌てて二人の間に割って入って言った。
「あの、だいたいの場所の見当がついているなら、私、もしかしたら追いつけるか先回りできるかもしれません。配達の人に理由を話して薔薇を引き取ってきましょうか?」
「ほんとかい?!」若者は、地獄に仏のような顔で叫んだ。「そうしてくれるなら恩にきるよ!・・・僕は、君みたいな可憐な娘がタイプなんだ。親の決めた相手なんて勘弁してほしいよ全く・・・。ねえ、もしこの見合い話がうまく破談になったら、僕と付き合わない?」
後半のセリフに、ミミはワゴンにあった白い薔薇をさっと若者に渡して超即座に「ごめんなさい」と言った。若者はがっくりとうなだれたが、それはともかく、ミミはクエスト「薔薇返事を止めろ」を引き受けた!
薔薇のワゴンの店主によると、配達人は現在おそらくサンマロウからビタリ平原にかけての広大な範囲で届け先を探しているとのことだった。配達人がキメラのつばさを使ってサンマロウから出発していたとしても、配達先を探すのはなかなかの困難だろう。かといってのんびりしている猶予はあまり無さそうなので、さっそくミミはリッカの宿屋に戻って出発しようとすると、若者が白薔薇を見て何かを思いついたらしく言った。
「そうだ、ついでに白薔薇を持って行ってもらって、鉢の紅い薔薇と植え替えて、先方に届けてくれないかい?そうすればお断りも済んで一石二鳥だしさ」
「薔薇はとてもデリケートなんですよー。鉢ごと替えてくださいよ」店主がぼやいた。
「それはダメだ!うちの鉢で届けないと、正式の返答にならない!」
「しょーがないなあ・・・。じゃあお嬢さん、薔薇を植え替える時の注意や移動中の手入れ方法をこれから教えますから、大切に扱ってくださいね。うちのスコップもお貸しします」
ミミは見習い天使時代、庭園の手入れもしばしば手伝っていたので、薔薇の世話もお手のものだったが、それでもきちんと注意を聞いて、スコップ(いたずらもぐら印)と取り替え用の白薔薇を受け取った。そして、頼まれた買い物の品をルイーダに渡す為に一回リッカの宿屋に帰った。
装備を旅装仕様にする為にミミが自室に戻ると、リッカに頼まれて時計の修理をしていたイザヤールが、ミミの持っている白薔薇に目を留めて楽しげに言った。
「おかえり、ミミ。今日は白薔薇を買ってきたのか?」
「ううん、イザヤール様、これはね・・・」
ミミが訳を話すと、イザヤールは頷いて聞いていて、そして尋ねてきた。
「私も同行しても構わないか?どんな場所にでも花を元気に届けられるという技能の秘訣、私も聞いてみたいものだ」
「もちろん嬉しいけれど、イザヤール様、時計の修理はいいの?」
「ちょうど終わった」
「よかった♪さすがイザヤール様♪」
二人はさっそくルーラでサンマロウへ飛び、それから先は天の箱舟を使って、空からまずは依頼人の見合い相手一家の豪奢だというパオを探すことにした。配達人も、やみくもに探すのではなく、平原を見渡して何かを見つけてそちらの方向に向かって歩いていくだろうから、目標物を見つけた方が早いと考えたのだ。
今日は絶対オフと宣言していたのにもかかわらず箱舟内でヒマを持て余していたサンディが運転を引き受けてくれることになったので、ミミとイザヤールは箱舟の左右に分かれて窓から地上を見下ろした。もちろん普段通りに飛んでいては見えないしあっという間に他の大陸の上空に来てしまうので、サンディには超低空かつ超低速飛行を頼んだ。
「ふふふ、ミミ、アンタがいくら『運転免許』を持っているからって、箱舟のドライブテクはまだまだセンパイのアタシには敵わないわよね〜♪アタシの地上すれすれを走らせるスーパーテクニック、よ〜く見ときなさい!」
「うん、サンディ、お願いね」
というわけで、天の箱舟は今日はサンマロウの上をかなりの低空で飛んだのだが、サンディが「超イケてるドライブテク」を見せようとして、灯台のてっぺんすれすれを飛んで危うくぶつかりそうになり、サンディはアギロのお説教をくらうこととなってしまった。
それから気を取り直して捜索を続けると、ちょうどサンマロウ地方とビタリ平原の間くらいの橋付近に、この辺りには今まで見かけられなかったパオがいくつかあるのが上空からでも見えた。かなり派手なパオで、花畑と同じくらい鮮やかできらびやかだ。おそらくこれが配達人の目的地だろうから、サンマロウの町の方向に歩いていけばいずれ会えるだろうと考えて、ミミとイザヤールは地上に降りて歩いていくことにした。
「あれ?サンディ、一緒に来てくれるの?今日は絶対オフって言ってなかったっけ?」
「見損なってもらっちゃあ困るわよミミ!地上の守り人の冒険の記録をつける美少女妖精に、オフはないのヨ!」
「もしや箱舟に残っているとアギロに先ほどの説教の続きをされるのがイヤだから来たのではあるまいな?」
「ギクッ・・・!や、や〜ね〜イザヤールさん、どーしてそんなひねくれた見方しかできないワケ〜?」
というやりとりをしている間に、遠くの方に人影がぽつんと見えてきたので、もしかしたらとミミたちは急ぎ足になった。そしてその人影が、変わった鉢に植えてある紅い薔薇を持っていると判別できるところまで近付いて、やはりこの人が配達人だと判断できたが、とりあえずそれどころではなくなった。配達人は、ピンクモーモンの群に囲まれて、噛まれたり襲いかかられたりしていた!薔薇の鉢を守るのに必死で、反撃ができないらしい。
ミミたちが急いでピンクモーモンたちを追い払うと、紅い薔薇の鉢を抱えていた人物は顔を上げて、ミミたちに礼を言った。
「ありがとうございました。ピンクモーモンの奴らは、どうやらこの薔薇の紅さに血を連想して襲いかかってきたようです。これでも頑丈なんで命に別状は無いんですが、危うく配達が遅れるところでした」
涼しい瞳のなかなかの美男子なのだが、思いきり頭から流血しながら深々頭を下げてきたので、せっかくの顔も凄まじいことになって台無しである。ミミは慌ててベホイミをかけてやった。危うく白薔薇まで赤く染まるところだった。
やはりこの人物が紅い薔薇を依頼人の見合い相手に届ける配達人だと判明したので、ミミとイザヤールは訳を話して、紅い薔薇と白い薔薇を注意深く植え替えて、改めて届けてもらうことにした。だが見送っていると、配達人は、白薔薇を持っていても結局ピンクモーモンに襲われていた。色はどうやら関係無かったらしい。流血で白薔薇が紅く染まってしまえばまた話がややこしくなるので、ミミたちは結局パオまで護衛してやったのだった。
ミミたちはセントシュタインに戻って無事紅い薔薇と白薔薇を交換したことを依頼人に伝えて、お礼に「エルフの飲み薬」をもらったが、依頼人は改めてミミを口説いて玉砕していた。ちなみに、依頼人の見合い相手の方は配達人に一目惚れしてしまい、見合いを断られたことを一切気にしなかったという。〈了〉
ピンクモーモンが薔薇に反応したのはひょっと蜜に?レアドロ、花の蜜でしたよね
ピンモー「薔薇の蜜は高貴な香と味がするモン♪よこすんだモン!」的な?
リリン「綺麗な薔薇、どうしたの?」
ククール「大通りの花屋で買ったんだ、リリンの為にな」
リリ「ちょうど部屋に飾る花が欲しいって思っていたの、ありがとう♪」
シェルル「本当、気障だよなぁ、薔薇なんて」
リリ「ククールは気が利くわね、それに比べて、どっかの誰かさんは」
シェ「視線が痛い」
サンディ「あんたもなんで買わないのヨ…その店の前通ったんでしょ」
シェ「荷物で両手が塞がっていて…」
サン「手ぐらい生やせ!そんなだからククールさんに良いとこ取られてイザやんに追いかけ回されるんでしょ!」
シェ「サンディ、僕をなんだと思ってるんだ」
イザやん「薔薇に肥料と間違えて闘魂エキスと武道エキスを掛けたらムキムキマッチョになったw」
リッカ「」
あ、喉が痛い時に炭酸飲料はダメですよ〜かえって回復が遅くなってしまいます
いらっしゃいませこんにちは☆ロマンちっくな儀式ネタの割に全然ロマンのカケラも無い話となりました。
個の幸せを取るか家の安定を取るか問題、正解はわかりませんが少なくともドラクエワールドでは全て「運命」で片付きそうな気がします。
はい、ピンクモーモン、まさにそんな感じっぽいです(笑)レアお宝確保だけでなく、もしかしたらマポレーナ化も狙っているのかも?
そういうとこですってば彼氏さん!(←失礼)荷物置いて戻るとか手段はいくらでもありますよう。
サンディの発想、足りなければ増やせって、まるでインド神話のよう・・・。さすが女神の妹w(違うって)
ムキムキの薔薇ってどんなのでしょう、ヘルバオム化とかしそうで怖いです。リッカ・・・。泣くのか師匠に会心の一撃五秒前なのか。
炭酸そりゃ喉に悪いですよね〜wちなみに焼酎でアルコール消毒酔はぐれ発想も悪(以下略)