セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

秋の薔薇

2018年10月24日 05時18分58秒 | 本編前
天使界時代両片想いイザ女主の、ほっぺたなでなで話。身も蓋も無い要約です(笑)先日アップのクエスト163以降カテゴリの「ギリギリかアウトか」とちょっと関連しています。というかまさに回想部分のシチュエーションですね。ほんと書いといてなんですが、これでお互いの気持ちに気付かないって嘘だろ状態・・・。皮肉にも師弟としての強い絆が逆に気付かない原因かもしれませんが。タイトルはまんまというか、秋の薔薇のちょっと寂しさとか切なさをイメージして頂けたら。

 今日も、守護天使としての仕事は地味なものばかりだったが、平和の証と思えばいいかと、ウォルロの守護天使イザヤールは思って、剣先で枯れた薔薇の枝をもう一本、鮮やかに切り落とした。忘れられていた庭の片隅の薔薇をもう一度綺麗に咲かせたい、そんな村人の願いを叶える為、手入れをしてやっているというわけだった。
 一輪だけ、秋の花を咲かせている枝があったが、それは開ききっていて、もう散る寸前だった。白い地にひと刷毛だけ淡い紅を掃いたような色合いは、弟子のミミが可憐にほんのり頬を染めた様を思い起こさせて、彼は手を止めてその花を見つめた。
 褒める度に、頬にかすかに血の気を昇らせて、少し恥ずかしそうに俯くミミ。長い睫毛がその美しい紫の瞳を覆い隠してしまうが、喜んでいることは、自然と綻んでいる唇や心弾む気配から知れた。そうすると、手を伸ばして、艶やかな髪の上に手を置き、頭をなでずにはいられなくなる。滑らかな髪を滑り降りる指先は、ほんの少しだけその淡く染まった頬に触れて、ミミのぬくもりを、繊細なやわらかさを伝えてきた。
 その度にここまでだと、これが、彼女の師匠としての己に許される、愛情表現の限度だと、引き剥がすようにして指先をミミの頬から離す。幾度そんなことを繰り返してきただろう。
 物思いに耽っていた僅かの間に、開ききった薔薇の花びらは、冷たい風を受けてはらはらと散り落ちていった。思わず伸ばした手のひらの上に、羽より僅かな重さを湛えて何枚か降り積もる。その滑らかな、一方で吸い付くようなしっとりとした感触が、更にミミの頬を思わせて、イザヤールは瞳に切ない色を浮かべた。やがて、そのまま手のひらを下に向け、花びらが地に落ちるのに委せた。

 天使界に戻ると、今日もミミは部屋で待っていてくれた。
「おかえりなさい、イザヤール様」
 かすかにはにかんだ、だが嬉しさを湛えた彼女の笑顔は、いつも彼の心を暖める。
「ただいま、ミミ」
 言葉と共に手は伸びて、頭を、頬を、なでていた。先ほどの薔薇よりも、もっと、ずっと、指先に心地よかった。
「わ、私、今日は褒めて頂けることなんか、何も・・・」
 戸惑い声のミミに、イザヤールはかすかな笑いを浮かべた声で囁く。それは、愛しい者へのいたわりと自嘲が入り交じった、甘さとかそけき苦味を帯びた、笑いで。
「おまえは、いつも、いい子だからな」
 それを聞いたミミは、しばらく髪や頬を滑る手のぬくもりに陶酔しながらも、睫毛の奥の濃い紫の瞳に悲しい色を浮かべる。・・・私、全然いい子じゃ、ないのに・・・。イザヤール様を、お師匠様としてでない好きになっちゃった、悪い子なのに・・・。せっかく褒めてくれているなでなでに、心臓がトクトクトクトクと暴れて、もっともっと触れてほしいと思ってしまう、悪い子なのに・・・。
 そんな彼女の想いも知らず、このまま離せなくなったら困ると、イザヤールはなでる手を止めて少しミミから離れた。手のひらに落ちた花びらを放すように、そっと。〈了〉
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