セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

未来への宝物

2013年10月06日 00時08分23秒 | 本編前
時間ちょっとオーバー無念、すみません~。本編前、リッカの両親の話でクエスト123関連話でもあります。子を持つ親御さんである皆様に捧ぐ・・・なんて言うと大袈裟ですが///リッカの父親は晩婚なイメージです。ルイーダさんはこの頃、こんな風に友人でもある宿屋の夫婦の心配してたんだろなあ、とか、リッカは両親に大切にされてたんだろなあ、とか妄想膨らんでしまいました~。イザヤール様がちょっとだけ登場。リッカが父親共々村に帰ってきて健康になったのは、ウォルロの水や空気の他に、守護天使の助けもあったと思ってます☆

 セントシュタイン城下町には、とても居心地がいいと評判の、夫婦で経営する宿屋がある。宿屋に併設されている酒場は、冒険者の集合場所となっていていつも賑やかだ。宿屋の主夫婦の友達で、共同経営者でもあるこの酒場の若き女主人ルイーダは、かつて冒険者だった経験を生かして、旅人たちにアドバイスをしたり、相性のいいパーティ編成をしてやったりすることで、酒場に集まる冒険者たちの姉御的存在だ。
 ルイーダは、旅人たちが談笑する酒場兼宿屋のロビーをいくらか憂い顔で眺めた。繁盛するのは結構なことだが、これではリベルトはあまり家族に構ってあげられないわね、と心配していたのだ。
 宿屋の主人リベルトとその妻には、昨年ようやく待望の赤ん坊が生まれたが、元々病弱な妻は産後の肥立ちが思わしくなく、リッカと名付けられた可愛らしい女の子の赤ん坊も、母親に似たのか、とてもひ弱で、大人になるまで生きられないと密かに噂されていた。リベルトは妻子をとても愛していたが、宿屋の主としてここまで多忙では、家族との時間を持つこともままならなかった。
(少しは、スタッフに任せてもいいのに・・・)
 宿屋のスタッフは、人を見る眼力に定評のあるルイーダの目から見ても、優秀な人材揃いだった。リベルトもスタッフたちを信頼し厚待遇をしていたが、それでも自ら宿屋の雑事を率先して行うことが大切と考えていて、文字通り休む間はほとんど無いに等しい。
(しょうがないわね、ちょっと私がカウンター見ててあげて、無理にでも休ませないと)
 ルイーダは苦笑して、今もカウンターで観光客に懸命に案内している彼のところへ歩いていった。

 ルイーダのおかげで、リベルトは朝以来ようやく妻と娘の顔をゆっくり眺めることができた。娘のリッカはすやすやと眠っており、妻はソファーにゆったり腰かけて編物をしている。こんな光景を見ていると、心が和んで疲れなどどこかに行ってしまう気がする。
 彼は、これまでの人生ほとんどを宿屋経営に関連することに費やしてきたと言ってよかった。無我夢中で働いて、愛する者を妻に迎えられた頃には晩婚と言っていい歳になっていて、そしてリッカを授かったのも、結婚してからかなり経っていた。それだけに、彼は妻と娘を心から愛していた。家族の為にもいつかここを世界一の宿屋にしたい、そんな夢も密かに描いていた。
「何を編んでいるんだい」
 彼が尋ねると、妻は優しく微笑んだ。元々色白な顔が、最近殊に透き通るような感じを与える。そして咳き込むときだけ顔にかすかな朱が差す。それが痛々しくて、一日も早く健康な薔薇色になってほしいと夫は密かに願う。
「リッカのセーターよ」
 妻の答えに、リベルトは目をぱちくりさせた。もうすぐ仕上がりそうなそのセーターは、赤ん坊にはあまりに大きすぎたからだ。そんな夫の顔を見て、彼女は楽しそうに笑った。
「そのう・・・長く着られるようにしても、ちょっと大きすぎないかい?」
 遠慮がちに彼が言うと、妻は再び鈴を振るような声で笑った。
「これはね、リッカが一人前になったときの為のセーターよ・・・」笑顔が、だんだんと静かな微笑みに変わる。「編みながら思ったの・・・。五歳のリッカ、十歳のリッカ、そして、大人になったリッカを。一年一年、すくすくと育っていって、すてきな女性になるリッカをね。この子はきっと、世界一綺麗で優しい女性になるわ。・・・ううん、世界一でなくてもいい、元気で幸せでいてくれれば・・・私にとって、世界一の子よ」
「・・・私にとっても、そうだよ・・・リッカは今だって、世界一可愛いもの、なあ?」
 すやすや寝息を立てる赤子の頬を、父親の指がそっとなでた。宿屋業務につきものの、掃除や水仕事で荒れてはいるが、優しいあたたかさのその指で。妻の耳には決して入れまいとしていたが、リベルト自身は、リッカが十歳にもならないうちに死んでしまうかもしれないという噂を、嫌でも小耳に挟んでいた。そんな、そんなことはない。きっと天使様が、守ってくださる。自分たちにこんなに愛されている娘が・・・妻が病を押して無事成長したときの為のセーターを作ってやるくらい愛している娘を、神がお召しになる筈はない。
(守護天使様、どうか私の家族をお守りください)
 こんなとき彼が思い浮かべる守護天使の名は、ここセントシュタインの天使ではなく、何故か故郷ウォルロの守護天使のものだった。ずっとこの大都市で、この宿屋を世界一の宿屋にする為にここでずっと暮らしていくと、家族と共に暮らしていくと、決めた筈なのに。
(守護天使イザヤール様、どうか妻と娘と、独りウォルロに残る父を、お守りください)
「あなた、あなた?どうしたの?」
 妻の心配そうな声で、リベルトは我に返った。
「ああ、ごめんごめん、なんだい?」
「いいえ、何でもないの。あなた、疲れていない?私が手伝えないから、無理をさせてしまっているんじゃない?」
「そんなことはないよ。大丈夫、大丈夫。おまえは何も心配しないで、自分の体とリッカのことを考えてくれればいいんだよ。私は大丈夫さ、宿鬼と言われていた、親父の孟特訓を受けてたあの頃から考えれば、今はもう楽も楽、天国みたいなもんさ」
 リベルトの冗談めかした言葉に、妻は楽しそうに笑った。咳ではないことで彼女の頬に赤みが差すのを見て、彼は幸せな気分になった。
「でもあなた、無理はしないでね」
「大丈夫だよ。・・・おまえこそ、あんまり起きていたら体に障るよ。リッカは私が見てるから、ゆっくりおやすみ」
「ありがとう。でも、もうちょっときりのいいところまで編んでから・・・」
 あと少し、あと少しと言いながら、編み棒は止まらない。この様子だとセーターは早く仕上がりそうだと、リベルトは心配混じりの笑顔で見つめた。

 セントシュタインから遥か彼方、ここは天使界。セントシュタインの守護天使が、ウォルロの守護天使に声をかけた。
「イザヤール。私の守護する町の人間から伝言だ。守護天使イザヤール様、妻と娘と、独りウォルロに暮らす父をお守りください、って」
「何故私なんだ?・・・ああ、ウォルロ村の出身者ということか」
「そういうこと。ウォルロ出身で、今はセントシュタインで宿屋をやってる男の祈り。・・・おまえの代わりに精一杯見守るよ、いいな?」
「ああ、頼む」
「けどさ・・・」ここでセントシュタインの守護天使の顔が少し曇った。「あんなに祈ってくれてるけど・・・彼の妻は、もう・・・長くはない。我々でも、どうにもできない」
「・・・そうか」
 迎えに行かなくてはならない日はそう先ではなさそうだと、セントシュタインの守護天使は呟く。ウォルロに独りで住むその男の父親の顔を思い浮かべ、イザヤールは小さく嘆息した。

 それから一週間ほど後。セントシュタインの宿屋で、主の妻が、完成したセーターを傍らに、手紙を書いている。未来の娘への、手紙を。
『親愛なる娘リッカへ。貴女がすくすくと育っていく姿を想いながらこのセーターを編みました・・・』〈了〉
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