セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

暗紅の繭

2014年10月25日 04時10分35秒 | クエスト184以降
今週も明け方になってすみませんの追加クエストもどき。ドレスのお話のくせにちょっとグロホラー的?な描写もあり。虫が嫌いな方は特にご注意。何が正しいのか正義の正解なんてそれぞれの立場で最優先事項が変わってなかなかわかりませんけど、少なくとも人が一番大切にするのは人命だといいな、なんて。

 ハロウィンの需要の為か、市場にはいつもに増して不思議な衣装や装備品が出回っているらしい。ロクサーヌの仕入れに付き合って、ミミも行商人の品を眺めて楽しんでいた。お馴染みパンプキンヘッドやがいこつマスクに混じって、たまに見たことの無い奇妙なドレスや、怪しげなスーツがあったりする。
 そんな中、ひときわ人だかりの多い露店があった。なんのお店なんだろうとミミが覗いてみると、真っ赤な絹のドレスだけを扱う店で、しかも一着だけだった。ただし、その一着だけのドレスは、今まで見たことの無いくらい深く美しい紅だった。デザイン自体は簡素なイブニングドレス風だが、絹のとろりとした光沢といい、人目を引く妖しい魅力があった。
 ロクサーヌもミミの隣にやってきて、そのドレスを見て言った。
「まあ、素晴らしいドレスですわね!一見シンプルながら、王公貴族でもなかなか手に入れられない品ですわ」
 珍しいアイテムや装備品の目利きの達人ロクサーヌが言うのだから、間違いないのだろう。ミミは頷き、僅かに憂い顔になって呟いた。
「本当に美しいドレスね。でも・・・何だか怖いみたい・・・綺麗すぎて」
「あら、ミミ様もそう思いまして?・・・確かに、凄絶と言っていい美しさですわね」
「うん・・・」
 なんだろう、この不穏な感じ。ミミは思わず身震いした。売っているのは、抜け目なさそうだが愛想のいい丸顔の、妖気とは無縁そうな商人だが。
「ミミ様」ロクサーヌは声を潜めて囁いた。「お値段も怖すぎますわよ。ご覧くださいませ」
 言われて見てみると、十万ゴールドと値札に書いてあった。ロクサーヌが笑顔のまま大袈裟に身震いしてみせたので、ミミの緊張はほぐれ、彼女も笑顔になって囁いた。
「ほんと、怖いの。どんな人が買うんだろうね」
 二人は楽しそうに笑って、その場を後にした。

 それから数日後。ルイーダの酒場に、一人の若者がやってきた。
「あの、護衛を頼みたいんで、冒険者を紹介してほしいんですが」
 酒場の女主人ルイーダは、冒険素人らしいその若者を見つめてから尋ねた。
「どんな護衛なのかしら?」
「ちょっと山を探険するのに着いてきてほしいんですけど」
 山ねえ。簡単そうな依頼ではあるが、ルイーダは長年の勘で、この依頼はなんとなく一筋縄ではいかないような気がした。そこで、たまたま近くに居た(酒場のカウンター席の隅に座って仲良くグラスを傾けていた)ミミとイザヤールに聞いてみた。
「ミミ、イザヤールさん、お願いしてもいいかしら?」
 二人は顔を見合わせ、互いに急ぎのクエストが無いことを確認して頷いた。そして若者に、詳しい内容を話してもらうことにした。
「山にですね、赤い繭を探しに行くのを手伝ってもらいたいんです」若者は言った。
「赤い繭?」
「はい。お二人は、市場で赤い絹のドレスをご覧になりませんでした?あれの材料なんだそうです」
 ミミはこの前見たドレスのことだと頷き、ミミから話を聞いていたイザヤールも、なるほどと頷いた。
「あのドレス、糸を染めたわけじゃなくて、最初から赤い絹糸を織ったものなんですね」
 赤い繭なんてたいそう珍しいだろうから、高価だったわけなのとミミは納得した。
「そうらしいです。あの、お恥ずかしい話、実は僕、ドレスのことはどーでもよくて。カノジョにあんなステキなドレスが欲しいっておねだりされたんで、それで手に入れたくて。高すぎるんで露店の主人にどうにかならないか粘って聞いてみたら、自分は職人から預かって売るだけだから詳しくはわからないが、材料を持って行って安く作ってもらえる者もいるらしいって、しぶしぶ教えてくれたんです。それで職人のところに行ったら、材料の繭を取ってくれば作るって言ってくれて、その繭が取れる山の地図もくれて。それで、誰か旅慣れてる人に一緒に行ってもらおうって思ったんです」
 なるほどそういう訳かとミミとイザヤールは納得した。ミミたちはクエスト「暗紅の繭」を引き受けた!地図を広げて山の位置を確認し、翌朝出発することにした。

 翌日、ミミたちは赤い繭のあるという山に向かった。依頼人の若者は、見た目通り旅馴れていないようで、藪や獣道を歩くことにさえ苦労していた。体格の大きいイザヤールが先頭に立って道を切り開き、ミミは一番後ろを歩いて万が一の背後からの攻撃に備えた。
 悪路をかなり長い時間歩いて、ようやく地図の示す場所にたどり着いた。木々に囲まれた、ここだけ山にぽっかり空いた穴のように空が見える空き地で、足元の土は鉄分を含むのか赤茶けている。
「ここの筈なんですが・・・。いやー、やっぱり冒険者の方に着いてきてもらってよかったー。一人じゃとても来られませんでしたよ」
 呟いて、若者は地面にぺたりと腰を下ろした。
 それにしても、と、ミミは辺りを見回した。空き地には、蛾が繭を作れそうな場所は無さそうだ。おそらくここを囲む木立の中にあるのだろうと、木の一本に近付いてみた。すると、思った通り、枯れ葉を持つ枝先にぶら下がるように、繭がいくつかあった。
「もしかして、これ?」
 それらの繭は、確かに赤かった。だが、赤いだけではなく、異様と言っていいほど大きかった。
「ミミ、どうやら、この辺りの木にはどれも付いているようだぞ」
 別の木を調べていたイザヤールが言って、鋭い眼差しで辺りを見た。そして、頭上の木の枝ではなく、足元の木の根の方に視線を移した。
「イザヤール様、何を探しているの?」
 ミミが尋ねると、イザヤールは答えた。
「こんな繭を作るのは、どんな虫かと思ってな・・・」
 イザヤールが蛾の幼虫を探していると気付いて、ミミも探し始め、そして・・・。間もなく彼女は、探していたものを見つけたが、それで思わずイザヤールの腕をぎゅっとつかみ、緊迫した顔で囁いた。
「イザヤール様、あれを」
 ミミの視線を追って、イザヤールもはっと目を見開いた。
 一本の大木の根元に、とんでもない大きさの蛾の幼虫が、何体か集まっていた。だが、それらが噛み砕いていたのは、植物の葉ではなかった。ばりばりと砕ける乾いた音。
 噛み砕かれているのが人骨だと気付いて、ミミとイザヤールは慌てて駆け寄り、虫たちを追い払おうとした。だが、その芋虫たちは、生きた獲物が居ると気付くやいなや、いきなり襲いかかってきた!
 飛びかかってきたのをイザヤールは一太刀で斬り捨てたが、すぐに別のが飛びかかってきて、バトルマスターなので剥き出しの利き手の肩付近に噛みつかれた。噛みついた虫は、そのまま吸血を始めたので、彼はそれの尾をつかんで地面に叩きつけた。ミミは急いでイザヤールに回復魔法をかけて、それから二人は、人骨にたかっていた幼虫を全て倒した。
「イザヤール様、大丈夫?」
「ああ、おまえのベホイミのおかげで傷も残っていないし、血もほとんど吸われないで済んだ。だが・・・こういうことだったか・・・」
 人間を含むであろう他の動物を吸血し、血肉が無くなった後に尚も、骨を噛み砕いて髄で栄養を蓄えた幼虫が・・・赤い繭を作っていた・・・。そのとき、この光景に、地面に座り込んだまま腰を抜かしていた若者が、空を指差して叫んだ。
「あああ、あれを・・・!」
 空が暗くなり、無数の何かが急降下してきた。それは、普段見かけるものより数倍は大きいかと思われる、「ひとくいが」の群れだった!
 ミミとイザヤールは若者をかばうように立ち、ミミはバギクロスを唱え、イザヤールはギガスラッシュを放った。竜巻が雷撃を巻き上げるように上昇し、滞空していたひとくいがたちを一気に殲滅した!焼け焦げ、もしくは羽をもがれバラバラになって、ひとくいがたちは藪の中に散っていった。
 しかし、飛んでいたひとくいがを全て倒したと思ったら、今度は繭が次々割れて、中からひとくいがが続々と表れ、襲いかかってきた。数匹ずつで襲ってくるので、呪文を使っていてはMPがもたなくなる。イザヤールは装備をブーメランに変えて繭ごと次々叩き落とし、ミミは装備を短剣に変えて、イザヤールが仕留め損なったのをキラーブーンで倒していった。
 かなり長いことそんな戦闘が続いていたが、やがて辺りは静かになった。若者は、あまりの恐怖にがたがたと震えていながらも、ミミたちが勝利したのを見て、よろよろと立ち上がった。
「助かったあ・・・。ほんとにありがとうございます。一人で来ていたら、どうなっていたことか・・・」
 あちこちの木の枝からは、赤い繭の殻がだらりと下がっている。ドレスを作ったという職人は、このようなひとくいがが巣だった後の割れた繭を集めて絹糸を作ったのだろうか、それとも・・・?信じたくない恐ろしい可能性を確かめるべく、ミミたちは職人のところに向かうことにした。その前に、幼虫に噛まれていた骨を、手厚く葬った。

 職人は、町ではなく、人里離れた場所に簡素な小屋を建てて住んでいた。痩せた無表情な男だったが、ミミたちと一緒に若者が居るのを見て、一瞬だけだが困惑したような顔をした。
「・・・もしかして、僕が何で無事に帰ってきたんだろう、って思っていませんか?」
 若者が言うと、職人は肩をすくめて答えた。
「何のことですかな?」
「とぼけないでください。僕を、赤い繭を作る特別なひとくいがの餌にする為に、あの場所を教えてくれたのでしょう?この人たちが居てくれなかったら、僕は間違いなく死んでいた」
「とんだ言いがかりだ。そもそも、繭がひとくいがの物だとも知らなかった。私はただ、繭からドレスを作り上げただけだ。そんな濡れ衣を着せようと言うなら、帰ってくだされ」
 職人は呟いて背を向け、奥の部屋に引っ込もうと扉に手をかけた。ミミは割れた赤い繭の山をそこにあったテーブルに置いて、彼の背中に向かって言った。
「もしかしたら、これが赤いドレスの最後の材料になってしまうかもしれません」ミミの言葉を聞いて、職人は扉を半開きにしたところで手を止めた。「特別なひとくいがは、私たちがほとんど全滅させてしまったし、あの場所に人が近寄らないよう警告するつもりだから。・・・でも、人の血で赤くなった絹糸で作るドレスなんて、無くてもいいと私は思います」
 職人は何も答えなかった。だが、一瞬ぎりっと強く歯を噛み締めたのが、背後から見てもわかるくらいだった。それから彼は、奥の部屋に入り、思いきり乱暴に扉を閉めて、出てこなかった。
「なんてことを・・・!あの赤が、もう二度と出せないかもしれないなんて・・・!」
 奥の部屋から、職人のそんな呻くような叫び声が聞こえ、何かを激しく叩きつけるような音がし、張った糸が空気を震わせる気配がした。おそらく機織り機を激しく殴り付けた音だろう。ミミたちは、赤い繭をそのままにして、職人の家を出た。職人が、人々を故意にひとくいがの元へ送ったかどうかは、証拠は無い。だが、あの特別な赤い紅い絹を、人命などより求めていること、それだけはわかった。

 セントシュタインに戻ると、ドレスを売っていた露店商も姿を消していた。彼もひとくいがの餌の確保に一役買っていたのか、それとも単にドレスが売れたから去っていったのかは、わからなかった。
「ドレスは手に入んなかったけど、僕が命拾いしたと知ったらきっと、カノジョは喜んでくれると思いますよー。ありがとうございました!」
 若者はお礼にと、「あまつゆのいと」をくれた!
 帰っていく若者を見送りながら、ミミは呟いた。
「私・・・この世から、とても綺麗なものを一つ、消しちゃったのかな・・・でも」
 いくら綺麗なものの為でも。
「だとしても、人の血で素晴らしい赤になったドレスなど無くてもいいと、私も思うぞ」
 イザヤールは答え、それから二人は、あのドレスに劣らない美しい朱の夕日を眺めながら、帰路に就いた。〈了〉
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