セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

火に入る虫7・連作完結編(クエスト名「狂った地図」後編)

2013年09月21日 23時09分39秒 | クエスト184以降
短期連載完結編。追加クエストもどきの後編も兼ねております。三回か四回くらいの予定があれ、おかしいな。しかもカテゴリまたぎというバックナンバーでは読みづらい形式にしてしまったので少々後悔。人も神もみんな、自分の運命も知らず火に飛び込んじゃう虫みたいなもんだよね~という大雑把な話なのやらどうなのやら(笑)ちょい長話にお付き合いありがとうございました♪これからも二人の物語は続きます。よろしくお願いします。


 通常、宝の地図の洞窟は、ボスは一体と決まっている。しかし、ここは・・・休む間も無く、次々襲いかかってくる。ミミがこまめに回復魔法を使うので、これまでのところ余裕と言ってもいいくらいだったが、前代未聞の出来事に、緊張感は否応なしに増していた。
 次に現れたブラッドナイトは、「いてつくはどう」を使ってくる分、いささか厄介だ。せっかく上げたテンションやかけたファイアフォースがかき消されることを繰り返し、ミミはせめて戦闘と戦闘の合間に転職できれば、炎系呪文を使える魔法使いに転職できるのにと唇を噛む。
 ブラッドナイトの次は、アトラスだった。泣き喚く声が、いつもにも増して、子供が・・・愛情に飢えた子供が、悲しい駄々をこねているように聞こえた。アトラスは攻撃力は異様に高いが、守備力を上げて光の力をまとえば、さほど強敵ではない。最強の装備であるイザヤールに至っては、ほとんどダメージを受けないくらいだったので、彼は盾の秘伝書で痛恨の一撃をかわしつつ、猛攻を続けた。
 アトラスの泣き声は、ミミに変種マタンゴの毒にかかっていた、この一週間のことを思い出させた。生地のままの感情を剥き出しにし、愛する者に我儘を言い、すがり、存分に甘えた。日頃は、存分にそれをすることを、どこかでためらっていたのに、特殊な毒に冒された神経は、普段辛抱強いミミから、我慢や忍耐を一切奪った。・・・でも・・・一番愛する人は、そんなミミを受け入れてくれた。自らも剥き出しな心で、愛してくれた。
 けれど、アトラスは。アトラスだけではない、バラバラになった創造神の闇のカケラは。人間への怒りと、その人間をかばって樹となった娘セレシアへの怒りを抱き、愛する娘にさえ裏切られたと、悲しみと果てしない孤独の影を、色濃く落としている・・・。神様も、完璧じゃないんだ・・・。不敬を承知で、ミミは思った。いやむしろ、完璧であろうと己の闇を封印した結果、神も世界も、何かが狂っていったのだろうか。
 神が人間を滅ぼそうとしたのは、人間が神への感謝を忘れたから・・・すなわち神への愛が無くなっていったことへの、悲しみと苛立ちがあったのかもしれない。だから自分たち天使は、神への間接的な感謝の証たる星のオーラを、集める使命を担ったのだろう。
 アトラスを倒すと、いつも酔っぱらっている魔獣、イボイノスが現れた。この魔獣もまた、今日は酔いながら泣いているように見えた。寂しくて悲しいから、それから逃避する為に酔わずにはいられない。その弱さも、哀しい。いつもは身をすくませる雄叫びも、慟哭に聞こえた。
 イボイノスが倒れると、いよいよアウルートが姿を現した。ここまでは、何とか順調に勝つことができた。しかし、必ず暴走する呪文攻撃と、絶妙なタイミングで使ってくる「いてつくはどう」を持つアウルートは、四人で戦う時でさえかなりの強敵だ。
 アウルートも、いつもと違う言葉を口にした。
「ハヌマーンの一部が風となり、地上に舞い散った・・・。ハヌマーンはケモノ、愚と本能の象徴・・・。ハヌマーンのカケラが世界中に飛び散れば、人間たちは互いに本能の赴くままにふるまい、自滅してくれたものを・・・。おまえたちが、邪魔をした・・・。
 だが、まあよい。おまえたちを我が邪眼の一部とし、我の闇の全てを、また地上に放ってやる!」
 言うやいなや、アウルートはいきなり暴走するバギクロスを放ってきた。ミミはアウルートの弱点の炎の力、ファイアフォースを二人にかけ、イザヤールは、呪文避けのミラーシールドではなく、敢えてテンションバーンを発動した。
「ミミ、回復を重点的に頼む」
 アウルートは、呪文耐性を下げてきてから、耐性の下がった相手に集中して呪文攻撃をしてくる習性がある。そのいやらしい攻撃方法を逆手に取り、イザヤールはテンションバーンを使った自分に呪文攻撃を集中させてテンションを上げ、一気に片を着けるつもりなのだ。ミミは静かに頷いた。
 地道な攻防を続け、あと一息というところで、アウルートは深い眠りに陥れる「あやしいひとみ」を発動してきた!何をもっても防げないそれに、ミミは深く眠ってしまった!ゆっくりと崩れ折れ、床に横たわる。
 イザヤールは瞬時に判断を迫られた。ミミを起こすか、それとも。そこへアウルートのドルモーアをくらい、かなりのダメージを受けたが、そこで必殺チャージが発動された。それならば。イザヤールは、多少の危険は承知で、テンションブーストを発動した!これで決められなければ、形勢は逆転されて一気に不利になる。
 しかし、それは杞憂だった。高速の彗星のようにイザヤールはアウルートに駆け寄り、はやぶさの剣改ではやぶさ斬りをして、瞬時に四回、アウルートを斬りつけ・・・絶叫を上げて、アウルートは倒れた。同時にミミの深い眠りも覚めた。
「ごめんなさい、イザヤール様」
「気にするな。次のレパルドで、最後だといいが」
 魔剣神レパルドは、物凄い殺気と共にたたずんでいた。彼もまた、常と異なる言葉を吐いた。
「偶然のいたずらで・・・我らは一ヶ所に集い、我らの闇の一部が、地上へと、出られた・・・。もうすぐ、封印が解け、世界は破滅と死で溢れることができた、・・・なのに。貴様らが、邪魔をした・・・!」
 やはりそうだったのかと、ミミとイザヤールはレパルドを見つめた。地上へと漏れた闇の気・・・主にハヌマーンに象徴される本能の欲望に加えて、死と破滅の気も混ざって、近くに居たマタンゴに取り憑いた。そのマタンゴが増殖し、今回の騒ぎとなったのだろう。
「何度でも邪魔する・・・。私たちが居る限り」
 ミミとイザヤールは、奇しくも偶然に声を揃えて同じことを言った。弱き身の人間として、時折闇に迷いかけたとしても。愛する者を守りたい、愛する者と共に生きたい、その想いを忘れなければ、地上の守り人としての使命も、果たしていける筈。
「ならば・・・去(い)ね!」
 レパルドは、普段にも増して苛烈に剣を振り回してきた。傷付き、斬り上げられ膝を着くことを繰り返しながらも、ミミとイザヤールは攻撃と回復を辛抱強く続けた。そして、二人がかりの氷の力をまとったはやぶさ斬りで、レパルドにとどめを差した。

 レパルドが倒れると、辺りは静寂に包まれた。普段の、宝の地図の洞窟でボスを倒した後のようだった。
「終わった・・・の?」
「ああ、きっと」
 二人ともあちこち傷だらけで、疲れきっていたが、顔を見合わせて微笑んだ。
「お疲れ~。さ、早くこんなトコ出よう」
 サンディが二人の頭をくしゃくしゃなでて、すぐにダンジョンの外にワープした。だが、出た途端に、穴の入り口が崩れて埋まってしまい、広げていた地図もたちまち朽ち果て、風に吹き散らされた。
「お宝、取り損ねちゃった」
 セリフとは裏腹にあまり残念そうではない口調で、ミミは笑って呟いた。
「まあそういうこともあるさ」
 イザヤールも笑って言って、ミミの頭をなでた。そこへ、依頼人であるシスターを含めたパーティの一行が、駆け寄ってきた。
「お二人とも、ご無事で!」
「あんたら、もしかして全ボスやっつけちゃったのか?!すげえな!」
 シスターは、ミミとイザヤールに改めて深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました、どなたの声かはわかりませんが、声の主の方も、きっと安堵していらっしゃることでしょう。・・・それにしても、あの声は、なんだったのかしら・・・」
「神様のお告げ、だったのかもしれませんよ」
 ミミがいたずらっぽく笑って言った。
「ええ?まさか、まだまだ未熟なシスターの、私なんかに」
 だが、心清く信心深い者には、声が届くこともあるかもしれない。神の、善なる思いの声が。
 洞穴も埋まってしまい、ミミたちが結局お宝ひとつ取ってこられなかったことを知って気の毒がった依頼人たちは、パーティ一同で相談した結果、黒竜丸から手に入れたという「カグツチのこて」をくれた!
「え、でも、こんなに貴重な物を」
 ミミが受け取るのをためらうと、リーダー格の戦士が、笑って押し付けるように渡した。
「アンタたちの方が使いこなせそうだしさ。俺たちは他にもけっこうたくさん、いいもの手に入れたから」
 ミミはお礼を言って受け取り、彼らが去るのを見送ってから、今度こそセントシュタインに向けてルーラを唱えた。

 セントシュタインの町の入り口から、リッカの宿屋までの道中、ミミはそわそわ落ち着かなかった。
「う~ん、駆け落ち帰りって、どんな顔してみんなに会えばいいのかなあ・・・」
「別に普通にしていればいいと思うが」
 そういうイザヤールの顔も、僅かに照れくさそうだ。一週間の恥ずかしげもない言動や行動を思い出していたのだろう。
「ねえサンディ、どうしたらいいの~」
「アタシに聞くなっつーの!」
 結局、心持ちおずおずと「ただいま・・・」とカウンターに向けて言うと、宿屋メンバーは全員、にっこり笑って「おかえりなさい」と言った。
「あの・・・みんな、ほんとごめんなさい」
「騒がせて悪かった」
 ミミとイザヤールが揃って頭を下げると、リッカたちは堪えきれないように吹き出した。
「まあちょっと心配はしたけど、変なマタンゴのせいだし、怒ってないよー」とリッカ。
「それに、駆け落ちって言ったって、結局あちこちで人助けしてたそうじゃない?ここまでウワサは届いたわよ~。ステキなカップル冒険者に助けられたって商人さんもうちに来たし」
「それって私たちとは限らな・・・」
「スキンヘッドの男前と、濃い紫の瞳の美少女の冒険者カップルなんて、そうそうたくさん居るかしら?駆け落ち先でも、ちゃんと人助けして偉いわ~」
 そう言ってルイーダは、ミミの頭をいい子いい子となでた。
「私たち、どちらかと言うと別の心配をしておりましたのよ」相変わらずの輝くような笑みで、ロクサーヌが爆弾発言をした。「ミミ様とイザヤール様、帰っていらっしゃるのが、お子様を二、三人引き連れての頃になってしまうんじゃないかって。何年もお二人にお会いできないなんて寂しすぎますから、一週間で帰ってきてくださってよかったですわ☆」
「・・・」
「・・・」
 ミミは赤くなってうつむき、イザヤールは気まずそうに天井を見上げた。ラヴィエルが、そんなイザヤールの視線の前にわざわざ滞空してニヤニヤ笑ったので、気まずそうな顔がますます渋面になる。
「で、どう?駆け落ち、楽しかった?」
 からかい口調が消えて、ルイーダが優しく尋ねると、ミミとイザヤールは照れくさそうながらも微笑んで、頷いた。
「うん、とっても」
「ああ、とても」最後の方は少々たいへんだったことは、省略したが。
 それはよかったとうんうんと頷く一同に、二人の心があたたかく和んだ。帰れる場所があるから、出かけられるんだ。ああ、みんな、大好き・・・。ミミは内心呟く。
 部屋に戻り、サンディも箱舟に帰っていくと、ミミはイザヤールの隣にちょこんと腰かけ、綺麗なグラデーションを描く瞳で、彼を見上げて囁いた。
「イザヤール様、またそのうち、駆け落ち・・・しよ?」
 子供っぽい言い方に笑われるかと思いきや、熱っぽく艶かしい瞳で見つめ返され、心地よくぞくんとするような声で囁き返される。
「私は、いつでもいいぞ。何なら今からでも」
「え、今から?・・・でも」
 今夜はベッドで眠りたいから明日からでいい?愛らしく尋ねるミミに、おねだりが巧くなったなと笑って、イザヤールは思いきり彼女を抱きしめた。

 今宵は炉の火も早々に消えたから。小さな虫も、誤った光に飛び込むことなく、月明かり眩しい外へと、静かに出ていった。〈了〉
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