天使界時代、子守話と見せかけて相変わらずの両片想い話(笑)30分ほどお待ちくださいとか言ってまたウソになりました、すみません。子守上手そうなイザヤール様と、小さな子にまで可愛がられてしまう属性のある女主のこの師弟、しばしば託児所扱いにされることもあるようで・・・。文中の見習い天使、こんな幼い見習い天使が居るか疑問ですが、まあいろんな師弟が居るということでお許しを。そして今回、互いの想いも知らないのに、何故かちょっとドキドキな展開もあったりしますwタイトルは相変わらず安直。
成り行きで、まだ幼い見習い天使を数時間預かることになった。その見習い天使の師匠直々に指名を受けてしまって、何故私なんだ、と、ウォルロ村の守護天使イザヤールは戸惑っていた。「アイツ、ああ見えて子守りうまいのよね」と、これは彼の『ケンカ友達』ラフェットの談。「強面のくせに案外幼子の扱いは馴れている」と定評があるのを、知らぬは本人ばかりなり、なのである。
まあ短時間のことであるし、ウォルロ村の巡回も今日は終わっていたからいいかと、イザヤールは内心呟いて、目の前の光景を微笑ましく眺めた。愛弟子ミミと、小さな天使が、肩を並べて押し花作りに励んでいる様は、なんとも可愛らしく楽しい。
「ピンクのお花で作っておししょーさまにあげゆのー。おししょーさまピンクが好きだから」
「そうなんだ。じゃあこっちのピンクの花もあげるね」
「ありがと。おししょーさま、喜んでくれゆかな?」
「うん、きっととっても喜んでくれると思うの」
ミミは心からそう答えてにっこり笑ったので、小さな天使も嬉しそうに笑ってミミを見上げた。
(幼くてもやはり女の子か、同性のミミの方が気が合うようだな)
これならしばらくミミに任せておいて大丈夫だろう。この見習い天使は師匠に似合わず素直ないい子なようでよかったと、預けた同僚が聞いたら怒りそうなことを思いつつ、イザヤールは安心して書き物机に着いて仕事を始めた。
彼はしばらく周囲の音も耳に入らないほど集中してペンを走らせていたが、またミミと小さな客人も静かにしていたが、とあるやり取りが聞こえた時は、ふと手を止めた。
「ミミの髪の毛つやつやキレイ。なでなでしてあげゆ」
押し花はあとはもう完成を待つばかりになったらしい。
「あ、ありがと・・・」
同じ見習い天使とはいえ、幼子に頭をなでなでされて、ミミは少し戸惑った顔をしていた。小さな子供の無邪気な手は、ミミの淡い薔薇色の頬にもなんのためらいもなく触れて、すべすべカワイイー、と弾んだ声を上げている。
幼子にまでカワイイと年上目線で言われて複雑そうなミミの表情に、イザヤールは思わず顔をほころばせかけてから、僅かに寂しげな吐息をした。己は師匠としてではなく男としての秘めた想い故に、あのように無垢に触れることは叶わない、そのことを改めて思い知らされて。それから眉を寄せて首を小さく振り、再び仕事に集中した。
書類が一段落した頃、ちょうどミミが小さな天使の為におやつを用意し、イザヤールの机にも、そっと飲み物を置いてくれた。まさに絶妙のタイミングだ。
「ありがとう、ミミ。せっかくだから、みんなでお茶の時間にするか」
イザヤールは微笑みながら言って、カップを持って、書き物机からミミたちの座っている方に移動した。
小さな天使の為に出されたおやつは、フルーツソースをかけたババロアだった。ミミの為にイザヤールが作ってくれたものだが、それをそっくり小さな客人に提供したのだ。
おいしいと満開の笑顔で食べる子供をミミは楽しく眺めていたが、イザヤールが小さな天使の口元に派手に付いた赤いフルーツソースを、ハンカチで優しく拭ってやるのを見て、僅かに羨望の眼差しになった。
「ありがとーございます、イザヤールさまー。イザヤールさま、おししょーさまのちゅぎのちゅぎにだいすきー」
無邪気に好意を伝えられることもまた羨ましくて、ミミは濃い紫の瞳を潤ませた。大好きと、伝えられたら。ただしミミの場合は、誰よりも、と。誰よりも、イザヤール様が大好きだと。愛しいと。ためらいなく伝えられたら。
ハンカチ越しとはいえ、彼のあたたかな手で口元に触れてもらえることさえ羨ましい。そんな羨ましがりな自分が悲しくなって、ミミの瞳がますます寂しげに潤む。ミミは口の周りに何かを付けたままでいる、などということはめったに無いし、たとえ付けてしまっていたとしても、イザヤールには「ミミ、何か付いているぞ」と言われるだけだろう。もしかしたらハンカチを差し出されるくらいはあるかもしれないが、とにかくああして優しく拭いてもらえることは無いだろう。当然だ。顔は子供っぽいとはいえ、もう子供ではないのだから。
でも、子供だったら。ミミは内心呟いて、切なさを湛えた瞳を、長い睫毛を伏せて隠した。子供だったら、ああして心を露に好きと言えて、イザヤール様にあんなふうに優しく世話を焼いてもらえるのかも。素直に甘えることが・・・できるのかも・・・。
もっと甘えていいのだと、ことあるごとに言ってくれる師イザヤール。けれど、心を開き緩ませ過ぎたら、想いが溢れることを堪えられる自信が無い。師にこんな禁じられた想いさえ抱いていなければ、素直に甘えられて、可愛げもあるだろうにと、ミミは申し訳無く思い、また悲しくなった。
「次の次?では、君の師匠の次に君が好きなのは、誰なんだ?」
イザヤールが小さな天使に尋ねる声で、ミミは我に返って、潤んだ目を瞬かせて涙のかけらを押し戻した。それでも、彼の柔らかな笑顔に、ときめきと胸の痛み両方を覚えた。
「おししょーさまのちゅぎに好きなのは、ミミー」
え?と、小さな天使の思いがけない言葉に、ミミは目を見開いた。
「だってミミカワイイしー、ミミのおやつくれたもん。だから好きー」
「そ、そうなんだ・・・」小さい子におやつあげるのは当然だし、そんな理由でいいのかなあ・・・。そう戸惑いつつも嬉しくて、ミミは花開くような微笑みを浮かべて言った。「嬉しいなあ、ありがとう」
ミミの微笑みに、今度はイザヤールが眩しさと胸の痛みを覚え、自制心の強い彼には珍しく、切なそうな影をちらりと瞳に宿した。ほんの一瞬だったが。・・・私も、ミミが好きだ。ただし、誰よりも。これを言葉にできる筈もなく、イザヤールは僅かな憂い顔を再びやわらかな微笑みに変えた。
ちょうど「おやつ時間」が終わった頃、預けた上級天使が思いがけず早く帰ってきて、小さな客人はホームシックもまるで起こさないうちにイザヤールの部屋から退散することとなった。
「帰りたくないですー、おししょーさまー」
そう言って頬をふくらませる小さな見習い天使を、その師匠は叱ったりなだめすかしたりし、結局またこの部屋に遊びに来ることを条件にようやく師弟共々帰って行った。その後ろ姿を見送りながら、イザヤールが微笑み呟いた。
「ミミ、あの子はすっかりおまえが気に入ったらしいな。おまえが世話をしてくれたおかげで無事に預かれた。偉かったぞ、ありがとう」
今度は小さな手ではなく、大きなあたたかい手が優しくミミの頭をなでた。彼女は頬を染めてうつむき、首をふるふると振った。それをイザヤールは、褒められて照れているのだと思った。
「いえ・・・イザヤール様優しかったし、おやつもおいしかったからだと思います・・・」
イザヤールに頭をなでられて幸せ過ぎて、やっとのことで呟いたミミの言葉に、彼はふとあることを思いついて言った。
「おやつ、か。そうだ、フルーツソースは残っているから、パンケーキでも焼くか」
今日の分のイザヤールの手作りおやつは諦めていたので、思いがけない幸運に、ミミは瞳を輝かせまた頬を染める。そんな彼女の嬉しそうな顔に彼もまた嬉しくなって、思わず再び彼女の頭をなでた。
「小さな子にあげて偉かったな。お腹空いたろう?」
こくん、と素直に頷いてしまってからミミは、これでは自分もまるで子供だと、少ししょげてうつむいた。・・・イザヤール様にとって、私は。あの子よりちょっとだけ大きな「子供」でしかないんだもの・・・。でも、いいの。子供だと思ってもらえているおかげで、こうして傍らに居られるから・・・。
それから焼いてもらったパンケーキは、とてもおいしかった。だが、心はかすかにほろ苦い。唇の上に鮮やかな赤のフルーツソースが濡れて光ったまま、ミミはフォークを持つ手を止めて、一瞬物思いに沈む。
イザヤールはその様を怪訝そうに見つめてから、フルーツソースの赤で一部を染めた薔薇色の唇に気付いて、小さく息を飲んだ。着いたままの単なる煮詰めた果汁の色の筈なのに、差しかけの紅のように妙に艶かしく、心を惑わす。
ハンカチではなく手が直接伸びて、硬いがあたたかい親指が、唇の上の鮮やかな赤を優しくすくい取った。
フルーツソースの着いた親指を口に含んでからようやくイザヤールは、衝動に任せてとんでもないことをしたことに気付いた。ミミは目を見開き、指で触れられた唇は、驚きで僅かに開いている。その柔らかな唇に触れた指が。今、己の唇に、含まれている・・・。このままでは、戻れなくなる。戻せなくなる。
「行儀の悪いことをしたな、すまない」
必死の思いで、ただの師弟に戻れる言葉を、吐いた。
ミミは、気まずそうなイザヤールの顔をちょっと首を傾げて見てから、彼女もまた、恥ずかしげに笑った。私が、ぼんやりしてて、子供みたいにソースを口に付けっぱなしにしてたから、イザヤール様は見かねて思わず拭いてくれたのだろうと、彼女は考えた。・・・ハンカチじゃなくて直接指で、拭いてもらっちゃった・・・。びっくりしたけれど、よその子より近しいと言われたみたいで、嬉しい・・・。イザヤール様にはなんでもないことでも、とっても嬉しい・・・。
そして、イザヤールのその表情を、師匠らしくない行儀の悪いことをした気まずさ故なのだと解釈して、そんなことないですという思いを込めて、ふるふると首を振った。相変わらず鼓動は跳ねて、頬は染まっていたけれど。
刹那の情動と引き換えに、共に居られる穏やかな時間を永久に逃してしまうところだったと、イザヤールは小さく息を吐いた。何も疑っていないミミの無垢な微笑みに罪悪感を覚えつつ、彼もまた微笑みを返す。彼女のその無垢な微笑みの底には、弟子としてではない想いが潜んでいることを、知らずに。
小さな天使へのささやかな羨望の思いは跡形も無く消えた。ミミは、先ほど触れられた自らの唇にそっと触れて、幸せそうにまた微笑んだ。〈了〉
成り行きで、まだ幼い見習い天使を数時間預かることになった。その見習い天使の師匠直々に指名を受けてしまって、何故私なんだ、と、ウォルロ村の守護天使イザヤールは戸惑っていた。「アイツ、ああ見えて子守りうまいのよね」と、これは彼の『ケンカ友達』ラフェットの談。「強面のくせに案外幼子の扱いは馴れている」と定評があるのを、知らぬは本人ばかりなり、なのである。
まあ短時間のことであるし、ウォルロ村の巡回も今日は終わっていたからいいかと、イザヤールは内心呟いて、目の前の光景を微笑ましく眺めた。愛弟子ミミと、小さな天使が、肩を並べて押し花作りに励んでいる様は、なんとも可愛らしく楽しい。
「ピンクのお花で作っておししょーさまにあげゆのー。おししょーさまピンクが好きだから」
「そうなんだ。じゃあこっちのピンクの花もあげるね」
「ありがと。おししょーさま、喜んでくれゆかな?」
「うん、きっととっても喜んでくれると思うの」
ミミは心からそう答えてにっこり笑ったので、小さな天使も嬉しそうに笑ってミミを見上げた。
(幼くてもやはり女の子か、同性のミミの方が気が合うようだな)
これならしばらくミミに任せておいて大丈夫だろう。この見習い天使は師匠に似合わず素直ないい子なようでよかったと、預けた同僚が聞いたら怒りそうなことを思いつつ、イザヤールは安心して書き物机に着いて仕事を始めた。
彼はしばらく周囲の音も耳に入らないほど集中してペンを走らせていたが、またミミと小さな客人も静かにしていたが、とあるやり取りが聞こえた時は、ふと手を止めた。
「ミミの髪の毛つやつやキレイ。なでなでしてあげゆ」
押し花はあとはもう完成を待つばかりになったらしい。
「あ、ありがと・・・」
同じ見習い天使とはいえ、幼子に頭をなでなでされて、ミミは少し戸惑った顔をしていた。小さな子供の無邪気な手は、ミミの淡い薔薇色の頬にもなんのためらいもなく触れて、すべすべカワイイー、と弾んだ声を上げている。
幼子にまでカワイイと年上目線で言われて複雑そうなミミの表情に、イザヤールは思わず顔をほころばせかけてから、僅かに寂しげな吐息をした。己は師匠としてではなく男としての秘めた想い故に、あのように無垢に触れることは叶わない、そのことを改めて思い知らされて。それから眉を寄せて首を小さく振り、再び仕事に集中した。
書類が一段落した頃、ちょうどミミが小さな天使の為におやつを用意し、イザヤールの机にも、そっと飲み物を置いてくれた。まさに絶妙のタイミングだ。
「ありがとう、ミミ。せっかくだから、みんなでお茶の時間にするか」
イザヤールは微笑みながら言って、カップを持って、書き物机からミミたちの座っている方に移動した。
小さな天使の為に出されたおやつは、フルーツソースをかけたババロアだった。ミミの為にイザヤールが作ってくれたものだが、それをそっくり小さな客人に提供したのだ。
おいしいと満開の笑顔で食べる子供をミミは楽しく眺めていたが、イザヤールが小さな天使の口元に派手に付いた赤いフルーツソースを、ハンカチで優しく拭ってやるのを見て、僅かに羨望の眼差しになった。
「ありがとーございます、イザヤールさまー。イザヤールさま、おししょーさまのちゅぎのちゅぎにだいすきー」
無邪気に好意を伝えられることもまた羨ましくて、ミミは濃い紫の瞳を潤ませた。大好きと、伝えられたら。ただしミミの場合は、誰よりも、と。誰よりも、イザヤール様が大好きだと。愛しいと。ためらいなく伝えられたら。
ハンカチ越しとはいえ、彼のあたたかな手で口元に触れてもらえることさえ羨ましい。そんな羨ましがりな自分が悲しくなって、ミミの瞳がますます寂しげに潤む。ミミは口の周りに何かを付けたままでいる、などということはめったに無いし、たとえ付けてしまっていたとしても、イザヤールには「ミミ、何か付いているぞ」と言われるだけだろう。もしかしたらハンカチを差し出されるくらいはあるかもしれないが、とにかくああして優しく拭いてもらえることは無いだろう。当然だ。顔は子供っぽいとはいえ、もう子供ではないのだから。
でも、子供だったら。ミミは内心呟いて、切なさを湛えた瞳を、長い睫毛を伏せて隠した。子供だったら、ああして心を露に好きと言えて、イザヤール様にあんなふうに優しく世話を焼いてもらえるのかも。素直に甘えることが・・・できるのかも・・・。
もっと甘えていいのだと、ことあるごとに言ってくれる師イザヤール。けれど、心を開き緩ませ過ぎたら、想いが溢れることを堪えられる自信が無い。師にこんな禁じられた想いさえ抱いていなければ、素直に甘えられて、可愛げもあるだろうにと、ミミは申し訳無く思い、また悲しくなった。
「次の次?では、君の師匠の次に君が好きなのは、誰なんだ?」
イザヤールが小さな天使に尋ねる声で、ミミは我に返って、潤んだ目を瞬かせて涙のかけらを押し戻した。それでも、彼の柔らかな笑顔に、ときめきと胸の痛み両方を覚えた。
「おししょーさまのちゅぎに好きなのは、ミミー」
え?と、小さな天使の思いがけない言葉に、ミミは目を見開いた。
「だってミミカワイイしー、ミミのおやつくれたもん。だから好きー」
「そ、そうなんだ・・・」小さい子におやつあげるのは当然だし、そんな理由でいいのかなあ・・・。そう戸惑いつつも嬉しくて、ミミは花開くような微笑みを浮かべて言った。「嬉しいなあ、ありがとう」
ミミの微笑みに、今度はイザヤールが眩しさと胸の痛みを覚え、自制心の強い彼には珍しく、切なそうな影をちらりと瞳に宿した。ほんの一瞬だったが。・・・私も、ミミが好きだ。ただし、誰よりも。これを言葉にできる筈もなく、イザヤールは僅かな憂い顔を再びやわらかな微笑みに変えた。
ちょうど「おやつ時間」が終わった頃、預けた上級天使が思いがけず早く帰ってきて、小さな客人はホームシックもまるで起こさないうちにイザヤールの部屋から退散することとなった。
「帰りたくないですー、おししょーさまー」
そう言って頬をふくらませる小さな見習い天使を、その師匠は叱ったりなだめすかしたりし、結局またこの部屋に遊びに来ることを条件にようやく師弟共々帰って行った。その後ろ姿を見送りながら、イザヤールが微笑み呟いた。
「ミミ、あの子はすっかりおまえが気に入ったらしいな。おまえが世話をしてくれたおかげで無事に預かれた。偉かったぞ、ありがとう」
今度は小さな手ではなく、大きなあたたかい手が優しくミミの頭をなでた。彼女は頬を染めてうつむき、首をふるふると振った。それをイザヤールは、褒められて照れているのだと思った。
「いえ・・・イザヤール様優しかったし、おやつもおいしかったからだと思います・・・」
イザヤールに頭をなでられて幸せ過ぎて、やっとのことで呟いたミミの言葉に、彼はふとあることを思いついて言った。
「おやつ、か。そうだ、フルーツソースは残っているから、パンケーキでも焼くか」
今日の分のイザヤールの手作りおやつは諦めていたので、思いがけない幸運に、ミミは瞳を輝かせまた頬を染める。そんな彼女の嬉しそうな顔に彼もまた嬉しくなって、思わず再び彼女の頭をなでた。
「小さな子にあげて偉かったな。お腹空いたろう?」
こくん、と素直に頷いてしまってからミミは、これでは自分もまるで子供だと、少ししょげてうつむいた。・・・イザヤール様にとって、私は。あの子よりちょっとだけ大きな「子供」でしかないんだもの・・・。でも、いいの。子供だと思ってもらえているおかげで、こうして傍らに居られるから・・・。
それから焼いてもらったパンケーキは、とてもおいしかった。だが、心はかすかにほろ苦い。唇の上に鮮やかな赤のフルーツソースが濡れて光ったまま、ミミはフォークを持つ手を止めて、一瞬物思いに沈む。
イザヤールはその様を怪訝そうに見つめてから、フルーツソースの赤で一部を染めた薔薇色の唇に気付いて、小さく息を飲んだ。着いたままの単なる煮詰めた果汁の色の筈なのに、差しかけの紅のように妙に艶かしく、心を惑わす。
ハンカチではなく手が直接伸びて、硬いがあたたかい親指が、唇の上の鮮やかな赤を優しくすくい取った。
フルーツソースの着いた親指を口に含んでからようやくイザヤールは、衝動に任せてとんでもないことをしたことに気付いた。ミミは目を見開き、指で触れられた唇は、驚きで僅かに開いている。その柔らかな唇に触れた指が。今、己の唇に、含まれている・・・。このままでは、戻れなくなる。戻せなくなる。
「行儀の悪いことをしたな、すまない」
必死の思いで、ただの師弟に戻れる言葉を、吐いた。
ミミは、気まずそうなイザヤールの顔をちょっと首を傾げて見てから、彼女もまた、恥ずかしげに笑った。私が、ぼんやりしてて、子供みたいにソースを口に付けっぱなしにしてたから、イザヤール様は見かねて思わず拭いてくれたのだろうと、彼女は考えた。・・・ハンカチじゃなくて直接指で、拭いてもらっちゃった・・・。びっくりしたけれど、よその子より近しいと言われたみたいで、嬉しい・・・。イザヤール様にはなんでもないことでも、とっても嬉しい・・・。
そして、イザヤールのその表情を、師匠らしくない行儀の悪いことをした気まずさ故なのだと解釈して、そんなことないですという思いを込めて、ふるふると首を振った。相変わらず鼓動は跳ねて、頬は染まっていたけれど。
刹那の情動と引き換えに、共に居られる穏やかな時間を永久に逃してしまうところだったと、イザヤールは小さく息を吐いた。何も疑っていないミミの無垢な微笑みに罪悪感を覚えつつ、彼もまた微笑みを返す。彼女のその無垢な微笑みの底には、弟子としてではない想いが潜んでいることを、知らずに。
小さな天使へのささやかな羨望の思いは跡形も無く消えた。ミミは、先ほど触れられた自らの唇にそっと触れて、幸せそうにまた微笑んだ。〈了〉
アップされた瞬間、飛びつくように読んでしまいましたw
私も思いつきました!(オイ)
というわけでマイパ話…ではなく、天使時代のお話だったということで、ナゾになっているアリアの天使時代をお話ししたいと思います。
その幼天使は、世界樹の前にいた。
本来、上級天使とその弟子、長老しか入ることが出来ないこの場所に、なぜこのような幼い天使が…。上級天使イザヤールは眉をひそめた。
彼はその幼天使の名を知っていた。人間で言えば5才ぐらいの姿。緑の髪に緑の瞳。
「…アリア」
アリア、と呼ばれた幼天使は、はっとした表情で振り向いた。
「あなたは…?」
「これで何回目だ、アリア」
「イザヤール様でしたか。光を頭皮が反射していたので、顔がよく見えませんでした」
こういうことをさらりと言う。幼い容姿に似合わぬ発言に、イザヤールは感心半分、呆れ半分で言った。
「ハゲではないからな。…君はそんなに世界樹が好きか。それはいいことだが、ここは神聖な場。君はまだ来ていけないところだ。帰ったほうが後の為だぞ」
「……」
アリアは黙り込んだ。
「君は同年代の中で、ずば抜けて優秀だ。わかるだろう?今自分がここにいることの罪も、私がこうして、怒鳴らずになだめている訳も」
「…イザヤール様」
「? なんだ?」
「私を、イザヤール様の、弟子にしてください!」
「はぁ!?」
イザヤールは彼女の瞳を覗きこんだ。
緑の瞳に、燃えるような光が宿っている。
「イザヤール様の弟子になれば、ここに来ることが出来ます!もちろん、ミミさんがいるのは承知の上です!修行は自分でやります!お願いします!」
イザヤールは、アリアの言葉の意味を飲み込むのに、数秒の時間を要した。
やがて、彼は言った。
「よかろう。ただし、名目上で師弟なのであって、私はミミに専念するつもりだ。質問なら受け付けよう。修行はお前の自由だ。よいか?」
「えぇ。ありがとうございます!」
あっさり許可されたことを驚きつつも、アリアは明るい声で礼を言った。
~数十年後~
「…イザヤール様、こんな話を聞いたのですが」
弟子の1日の修行&ウォルロの見回りを終え、弟子と話していたイザヤールは、ミミがそう切り出した話に興味を示した。
「幼い頃からとても優秀だった天使が、地上へ行ったきり、30年程戻ってきていないらしいですの」
「む…?」イザヤールは自身の師のこともあり、こういう話はつっかかるらしい。
「その天使、上級天使か?」
「いえ」ミミは伏し目がちに言った。「私より年下らしいです。確か名前は、アリアちゃんって」
イザヤールははっとした。
あれ以来、時々世界樹の前にいるのは見かけたが、質問にも来なかったし、声をかけられることもなかった。すっかり忘れてたな、とイザヤールは溜め息をついた。
「心配だな。明日ちょっと探してみるか」
「それがいいですね、イザヤール様」
その翌日。
ミミが星のオーラを捧げに行っている時、イザヤールはラフェットの書物部屋に来ていた。
「…というわけなのだが。何か載ってないか?ラフェット」
「なるほどね。…心配だわ、エルギオス様のこともあるし。そうね、アリアはちょうど30年前に人間界へ行って、そこから気配がないみたい。でも死んでいるわけじゃないみたいね」
「そ、そうか」イザヤールは安心したと同時に、ある予感が頭の中をかすめた。
エルギオス様とアリアは、同じ場所にいるのかもしれない、という予感が。
それはある意味当たっていた。こちらは地上のアリア。ガナン帝国の領土に降りていたのだった。
何かがある…。
アリアはガナン帝国城のバリアを見つめながら、そう確信していた。
そして、夜も更ける頃。
事件は起きた。
アリアはガナン帝国城からの謎の閃光により、意識を失い、どこかに飛ばされてしまったのだった。
~数日後~
アリア「(翼も光輪もなくしちゃった)」
アリア「(これからどうしようかな)」
?「おい、まさか君、アリアか?」
アリア「!?」
アリアは飛び起きた!
見ると、天使の姿があった。その青年天使に、アリアは見覚えがあった。
アリア「ベクセリアの守護天使!」
青年天使「お前も、あの光のせいで、翼をなくしたか」
アリア「…そうみたい」
青年天使「とりあえず、オムイ様に報告行くぞ。捕まれ!」
アリア「え?えぇっ!」
アリアの返事を待たずに、青年天使は空を切り裂きながら飛び立った。
だいたいこんな感じです。
ではでは、失礼しました~。
こんばんは☆お待たせ致しまして重ね重ね申し訳ございません!ありがたやもったいなや。
受験生の皆様ほんとお疲れさまです!どうしても夜型になっちゃいがちですよね~。
しかしたいへん僭越ながら、入試そのものは日中にある訳ですから、受験当日までにはなるべく昼型に戻すことをオススメ致しますです!でないと津久井みたいなアカン大人になる危険が・・・(涙)
そちらの女主さん、そういう経緯でいらしたのですか~!せっかくの壮大な設定でいらっしゃいますから、やはり当サイトイザ女主と絡むと逆に本当に勿体無いなあ・・・とつい思ってしまう津久井です。Aria様のイザヤール様にお会いしてみたいなあ、なんて。
「光を頭皮が反射・・・」で思わず笑ってしまいましたw女主さん、まだ幼いのにその冷静な発言、ナイスです~www
( =´∀`=)
そういえばうちのイザ女主も子守りは割りと上手くて、特に女主はお菓子を作ってあげたり、天使にしか解らない言葉で紡がれた子守唄を歌ってあげたりする為か、下級天使の小さな子供達の間では優しいお姉ちゃん的な存在になっているので、子供達の師匠達が誰に預けるか考える度に「女主のところがいいー!」と言われるほど懐かれてます。
(そして預けられる度に「うちは託児所ではないんだが…」と言いながらも子供達の遊び相手をしている女主を微笑ましく見ている師匠(笑))
こんばんは~☆小さな天使の舌足らず喋り、可愛かったですか、よかった~♪ありがとうございます!
こんなちびっこにもなでなでされる体たらくの当サイト女主ですので、ちゃんと「優しいお姉さん」と認識されていらっしゃるちい様のところの女主さんを見習わないと(笑)
天使だけの言葉の子守唄ってステキですね☆どんな美しく不思議な旋律なんだろうと妄想しちゃいます~。
そして託児所じゃないと言いつつ嬉しそうに女主さんを見守るイザヤール様wそれこそ可愛らしいwww(←失礼w)