今年は星が見えなくて残念ですが、ギリギリ七夕中ということで、夢か現かはっきりしない幻想色の濃いめの七夕話です。
天の箱舟のサンディの部屋の扉をミミがノックすると、中に居る筈の彼女からの返事は無かった。中にある旅の扉からまた里帰りしているのかな、と思ったが、かき氷ができたら呼んでよねと言っていたサンディが留守にするとも思えない。
「サンディ?開けるよ?」
心配になったミミがそう言って扉を開けると、中は相変わらず星の海のような光景が広がっていたが、やはりサンディは居なかった。だが、ミミがきょろきょろ見回してサンディが居ないか確認している間に、いつの間にか目の前を無数のダイヤモンドのような星が大量に流れて通り過ぎ、いつしかミミの目の前は星の大河が横たわり、流れ続けていた。星の河は、向こう岸が見えないほど遠かった。
驚いて振り向くと、部屋の入り口の扉もいつの間にか消えている。旅の扉には飛び込んでいないのに何故、とミミは焦った。だが、ふいに近くでしくしくと泣く悲しげな声が聞こえてきたので、自分のことよりそちらにすぐに注意が移った。見ると、羽衣をまとった美しい娘が、星の大河の岸に座り込んで泣いていた。
「どうしたんですか?」
ミミが尋ねると、娘は涙に濡れた黒々とした瞳でミミを見上げて答えた。
「・・・今日は年に一度だけの、夫に会える日なのに、銀河が増星して、橋が渡れないのです。橋が使えない時に渡してくれる鳥も、翼を傷めて飛べないので、今年は夫に会えない・・・。今日を心の支えにしてきたのに・・・」
星の河だから増水ではなく増星らしいが、ミミはそんな細かいことより、娘が気の毒になり、何故こんなに星が流れているのだろうと訝しく思った。星は、役目を終えた天使だとミミは知っている。長い長い寿命の天使たちが、役目を終えて星になり、それがこんな無限に近い数になるには、どれだけの歳月が必要なのかを考えると、その想像しきれない膨大さにくらくらした。
するとそのとき、泣いていた娘は、ミミが手にしていたものを見て、小さく叫んだ。
「それは金色の舟を呼べる笛!お願いします、それで舟を呼んで、私を向こう岸へ、渡してくださいまし!」
ミミはいつの間にかアギロホイッスルを手にしていた。天の箱舟の中で、天の箱舟を呼んだらどうなるのかを考える間もなく、ミミはホイッスルを吹いた。
すると、いつものように箱舟の中ではなく、箱舟の屋根の上に立っていて、その屋根のちょうど真ん中で、娘と、その夫らしい若者が、手をしっかりと握り合い、見つめ合っていた。
よかった、二人は一年ぶりに会えたんだ、とミミは微笑んだところで、目が覚めた。
いつ抱きかかえられたのか、ミミはイザヤールの腕の中に居た。今のは夢だったのか、どこからが夢だったのかさえもはっきりしなかったけれども、そのぬくもりが幸せで、ミミは思わずまた夢の中のように微笑む。するとイザヤールもまた微笑んで、更に強く彼女を抱きしめた。
その力強さに、ミミは安堵と確信を覚える。彼はきっと、たとえ星の大河に隔てられても、それを越えて逢いに来てくれるに違いない、自分もきっと、星の河を泳いででも逢いにいく、と。〈了〉
天の箱舟のサンディの部屋の扉をミミがノックすると、中に居る筈の彼女からの返事は無かった。中にある旅の扉からまた里帰りしているのかな、と思ったが、かき氷ができたら呼んでよねと言っていたサンディが留守にするとも思えない。
「サンディ?開けるよ?」
心配になったミミがそう言って扉を開けると、中は相変わらず星の海のような光景が広がっていたが、やはりサンディは居なかった。だが、ミミがきょろきょろ見回してサンディが居ないか確認している間に、いつの間にか目の前を無数のダイヤモンドのような星が大量に流れて通り過ぎ、いつしかミミの目の前は星の大河が横たわり、流れ続けていた。星の河は、向こう岸が見えないほど遠かった。
驚いて振り向くと、部屋の入り口の扉もいつの間にか消えている。旅の扉には飛び込んでいないのに何故、とミミは焦った。だが、ふいに近くでしくしくと泣く悲しげな声が聞こえてきたので、自分のことよりそちらにすぐに注意が移った。見ると、羽衣をまとった美しい娘が、星の大河の岸に座り込んで泣いていた。
「どうしたんですか?」
ミミが尋ねると、娘は涙に濡れた黒々とした瞳でミミを見上げて答えた。
「・・・今日は年に一度だけの、夫に会える日なのに、銀河が増星して、橋が渡れないのです。橋が使えない時に渡してくれる鳥も、翼を傷めて飛べないので、今年は夫に会えない・・・。今日を心の支えにしてきたのに・・・」
星の河だから増水ではなく増星らしいが、ミミはそんな細かいことより、娘が気の毒になり、何故こんなに星が流れているのだろうと訝しく思った。星は、役目を終えた天使だとミミは知っている。長い長い寿命の天使たちが、役目を終えて星になり、それがこんな無限に近い数になるには、どれだけの歳月が必要なのかを考えると、その想像しきれない膨大さにくらくらした。
するとそのとき、泣いていた娘は、ミミが手にしていたものを見て、小さく叫んだ。
「それは金色の舟を呼べる笛!お願いします、それで舟を呼んで、私を向こう岸へ、渡してくださいまし!」
ミミはいつの間にかアギロホイッスルを手にしていた。天の箱舟の中で、天の箱舟を呼んだらどうなるのかを考える間もなく、ミミはホイッスルを吹いた。
すると、いつものように箱舟の中ではなく、箱舟の屋根の上に立っていて、その屋根のちょうど真ん中で、娘と、その夫らしい若者が、手をしっかりと握り合い、見つめ合っていた。
よかった、二人は一年ぶりに会えたんだ、とミミは微笑んだところで、目が覚めた。
いつ抱きかかえられたのか、ミミはイザヤールの腕の中に居た。今のは夢だったのか、どこからが夢だったのかさえもはっきりしなかったけれども、そのぬくもりが幸せで、ミミは思わずまた夢の中のように微笑む。するとイザヤールもまた微笑んで、更に強く彼女を抱きしめた。
その力強さに、ミミは安堵と確信を覚える。彼はきっと、たとえ星の大河に隔てられても、それを越えて逢いに来てくれるに違いない、自分もきっと、星の河を泳いででも逢いにいく、と。〈了〉
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