イザヤール様おかえりなさい記念連作第三回。今日は2月12日ですがイザヤール様が帰ってきて一周年の翌日の2月13日の話です。ああややこしい。バレンタイン前日なのでチョコ作ってしかもなんだかすごいイチャイチャしてます。以前の人間一歳おめでとう話とバレンタイン話のちょうど間の出来事。バレンタインラクガキシチュエーションもちょっと入ってます。当サイトイザヤール様、鈍いんだかちょいワルなのかいまいちよくわかりません(笑)
もうすぐ、ミミにとっては、地上では二度めのバレンタインだ。もっと正確に言えば、そんな行事を楽しめる気持ちに戻れて二度めのバレンタイン。ミミは、切り分けたチョコブラウニーを蝋引きの薄紙で包んでリボンをかけた。これが最後の一つ、友チョコの準備も終わった。
「今日は、一日中チョコレート作りをしていたなあ・・・」
一人呟いて、ミミは楽しそうに微笑んだ。まずはリッカの宿屋のサービスチョコ作りのお手伝い。女性スタッフみんなで賑やかに作って、とても楽しかった。それから、大好きな友達、仲間たちへの感謝を込めて、チョコブラウニーを焼いた。そして、いよいよこれから・・・一番大切な人への、チョコレート作り。
極上品質なゴールデンカカオに、ナッツ代わりに入れる「いのちのきのみ」や「ちからのたね」その他エトセトラの材料をもう一度確認し、ミミは濃い紫の瞳を輝かせて調理を始めた。甘さは控えめに、目指すはスピリッツにも合う大人の男性向きチョコレートだ。
(イザヤール様、喜んでくれるかな・・・)
彼は優しいから、おそらくどんなチョコレートでも喜んでくれるだろうが、決して甘党ではない彼にも、できたらおいしいと感じてもらえる物を作りたいとミミは思っていた。風味ももちろんだが、口どけも極上にしたい。
チョコレートの口どけのことを考えていて、最近サンディがいたずらっぽい表情で囁いてくれたことを、ふと思い出してしまった。
『ねーねー知ってる?チョコの口で溶ける快感と、チューの快感って似てるんだって☆』
『ちゅ・・・ちゅう?』
『ネズミかよ!キスのことよキ・ス。ミミ、アンタ真っ赤になっちゃって、ホントウブいお子ちゃまよね~、カワイイ☆』
『・・・サンディの、いじわる・・・』
そんな会話を交わした後、やっぱり私って子供なんだとしょげたミミだったが・・・。
(私・・・チョコレートよりイザヤール様のキスの方が大好きだなあ・・・チョコレートだってもちろん好きだけれど・・・)
そんな子供っぽいと言われている自分が。ずっと想い続けた人と、昨日、初めてのキスをしてしまった・・・。その感触を思い出して、ミミは思わず指先で唇を押さえ、瞳を潤ませた。頬がみるみる薔薇色に染まる。
ようやく想いが通じ合ってからは、互いに触れ合ったり、抱きしめたり、明らかに恋情の気配をまとう愛撫が増えていた。そんなときイザヤールはいつも優しかった。が、それは、何か溢れそうな熱を堪え秘めていて、その熱にミミは魅せられ、また怯えた。彼女の怯えを感じ取ると彼は、それ以上追い詰めることはしなかった。
怯えてしまう自分は、サンディが言うところの『ウブい』子供なのだろう。そんな幼さで彼に焦れったい思いをさせているのではないかと、心配していた。だから・・・キスをされて、とても嬉しかった・・・。
物思いに耽っていて手がお留守になっていたことに気付き、ミミは慌てて作業に戻った。
チョコレート生地の調合もうまくいって、ミミはひと安心してにっこり笑った。スプーンですくってから指先に落として、味見と垂れ具合で濃度の確認をした。程よいほろ苦さと香ばしさが口中に広がる。
(イザヤール様、気に入ってくれるといいな・・・)
バットに流して種や木の実類を均等に入れ、冷やして固まったら綺麗にキューブ状に切り分ければ完成だ。バレンタインに間に合いそうでよかったと、ミミは再びにっこり笑った。さて、とボウルの中身をバットに流そうとしたとき、厨房の入り口から声がした。
「ミミ、頑張っているな」
思い浮かべていたその人、イザヤールが微笑んで立っている。酒場の手伝いが終わったついでに厨房に寄ってくれたようだ。
「イザヤール様・・・」
まるで想いが届いて来てくれたかのようなタイミングが嬉しくて、ミミの顔がみるみる淡い薔薇色に染まった。
「おっと、邪魔をしてはいけないな。ではまた後で」
そう言って入って来ずに立ち去ろうとするイザヤールにミミは駆け寄り、濃い紫の瞳を潤ませて見上げ、そっと彼の袖をつかんだ。行っちゃいや、思わず無言でねだってしまった。彼はその可愛い引き留めに唇をほころばせて、彼女に手を引かれるまま厨房に入った。
引き留めてしまってからミミは、作っているところを見せてしまっては、サプライズにならないことに気付いて慌てた。とりあえず急いで種や木の実類に清潔な布巾をかけて隠し、良心の咎めを覚えながら必死に嘘をついた。
「と、友チョコ作っているんです・・・。味見して頂いてもいいですか・・・」
そう言って顔を真っ赤にして溶けたチョコレートの入っているボウルを差し出すミミに、イザヤールは首を傾げた。今作っているのは友チョコ、か。・・・では、テーブルの上に載っているチョコブラウニーの包みの山は何なのだろうな。義理チョコというやつだろうか。
言われるままに彼はチョコレートをすくったスプーンを手に取った。やはりミミと同じようにスプーンの中身を指先に落として濃度と滑らかさのチェックをしてしまうのは、職人気質と言うべきか。元々ミミにチョコレート作りを教えてくれたのも彼なのだから、当然とも言える。
溶けたチョコレートをまとった指先を、濡れた舌がちらりと覗いて、素早く動いて舐め取った。彼のその様がとても艶かしくて、ミミは思わずみとれていた。
彼女の桜色の唇に血の気が上り、淡い薔薇色に変わっていく。味見をしているのを見て思わずつられて唇を舐めたのか、ほんの少し開き濡れて、艶やかに光っていた。美しい濃い紫の瞳もまた、その唇と同じくらい潤んで濡れている。
みとれられている方の筈の男は、彼女の変化に目敏く気付いて、唇の端をゆるりと上げた。彼の目もまた、艶かしい色と、そしてほんのかすかに獲物を捕らえる嗜虐の光を帯びていく。彼は、自分の指先にまたチョコレートを落として、ミミの方に差し出し、囁いた。
「ミミ、とても旨いぞ。ただ、女の子には、少々苦いかもな。・・・おまえも、味見してみるか?」
ミミは小さく息を吸い込んで、悩ましい笑みを浮かべるイザヤールの顔を見つめた。
「イザヤール様の、いじわる・・・」
呟きながらも、ふらふらと吸い寄せられるかのように顔を彼の指先に寄せ、小さくこくりと頷く。もう味見は済ませているのに、と考えることさえなく、大好きな指に、唇を近付ける。
と、そこへ。
「ミミ~、チョコできた?私も今から作・・・」
チェックインの申し込み客の入りが落ち着いて一段落したリッカが、厨房に入ってきた!・・・そして、今にもイザヤールの指を口に含みそうなミミの様子を見て、固まった。見られた方の二人も気まずそうに固まってしまった。
「あ・・・なんか、ゴメン・・・」
そう呟くと、リッカはぱたぱたと走って行ってしまった。
「こっちこそすまん、だな。厨房でこんなことをしてしまって・・・リッカに謝らなくては」
我に返ったイザヤールが、照れくさそうな顔で呟いた。ミミも真っ赤な顔でこくりと頷く。それでも、イザヤールの指先を、ちょっと名残惜しそうに見ていた。
そんなミミの視線に気付いていながらイザヤールは、指先を自分で素早く舐めてしまった。
「あっ・・・」
思わず悲しそうな、残念そうな声を上げたミミに、彼の唇が弧を描き、優しくも妖しい笑みになった。そのまま、唇を、彼女のそれに押し付ける。
「味は・・・わかったか?」
しばらくしてようやく離した唇で彼が囁いたとき、ミミは目をぼうっと潤ませて、こくこくと頷くことしかできなかった。
ようやく口がきけるようになるとミミは、ちょっと詰るように呟いた。
「イザヤール様、全然反省してないの・・・」
「ああ、悪かった」
おまえがあまりに可愛くてつい・・・と言われてしまうと、元々共犯であるミミもあまり怒れない。むしろちょっとしゅんとして呟いた。
「一緒にリッカに謝りに行ってくださいますか?」
「ああ、もちろん」
リッカに困らせたことを二人で謝った後、イザヤールは先に部屋に戻り、ミミは今度はリッカと厨房に戻って、再びチョコ作りにかかった。ふとリッカはミミの顔を見て、首を傾げて言った。
「あれ?ミミ、唇にチョコ付いてるよ?」
さっきのだ・・・!とまたみるみる真っ赤になるミミ。
「あ、つまみ食いしちゃって・・・」
しどろもどろになるミミを、つまみ食いでうろたえちゃうなんてミミは可愛いなあとリッカは思った。
口の中にはまだ、ほろ苦いけれど甘い甘いチョコレートの味が残っている。ミミはまた無意識に唇に指先を触れ、瞳を潤ませて微笑んだ。〈3・了、連作完結編に続く〉
もうすぐ、ミミにとっては、地上では二度めのバレンタインだ。もっと正確に言えば、そんな行事を楽しめる気持ちに戻れて二度めのバレンタイン。ミミは、切り分けたチョコブラウニーを蝋引きの薄紙で包んでリボンをかけた。これが最後の一つ、友チョコの準備も終わった。
「今日は、一日中チョコレート作りをしていたなあ・・・」
一人呟いて、ミミは楽しそうに微笑んだ。まずはリッカの宿屋のサービスチョコ作りのお手伝い。女性スタッフみんなで賑やかに作って、とても楽しかった。それから、大好きな友達、仲間たちへの感謝を込めて、チョコブラウニーを焼いた。そして、いよいよこれから・・・一番大切な人への、チョコレート作り。
極上品質なゴールデンカカオに、ナッツ代わりに入れる「いのちのきのみ」や「ちからのたね」その他エトセトラの材料をもう一度確認し、ミミは濃い紫の瞳を輝かせて調理を始めた。甘さは控えめに、目指すはスピリッツにも合う大人の男性向きチョコレートだ。
(イザヤール様、喜んでくれるかな・・・)
彼は優しいから、おそらくどんなチョコレートでも喜んでくれるだろうが、決して甘党ではない彼にも、できたらおいしいと感じてもらえる物を作りたいとミミは思っていた。風味ももちろんだが、口どけも極上にしたい。
チョコレートの口どけのことを考えていて、最近サンディがいたずらっぽい表情で囁いてくれたことを、ふと思い出してしまった。
『ねーねー知ってる?チョコの口で溶ける快感と、チューの快感って似てるんだって☆』
『ちゅ・・・ちゅう?』
『ネズミかよ!キスのことよキ・ス。ミミ、アンタ真っ赤になっちゃって、ホントウブいお子ちゃまよね~、カワイイ☆』
『・・・サンディの、いじわる・・・』
そんな会話を交わした後、やっぱり私って子供なんだとしょげたミミだったが・・・。
(私・・・チョコレートよりイザヤール様のキスの方が大好きだなあ・・・チョコレートだってもちろん好きだけれど・・・)
そんな子供っぽいと言われている自分が。ずっと想い続けた人と、昨日、初めてのキスをしてしまった・・・。その感触を思い出して、ミミは思わず指先で唇を押さえ、瞳を潤ませた。頬がみるみる薔薇色に染まる。
ようやく想いが通じ合ってからは、互いに触れ合ったり、抱きしめたり、明らかに恋情の気配をまとう愛撫が増えていた。そんなときイザヤールはいつも優しかった。が、それは、何か溢れそうな熱を堪え秘めていて、その熱にミミは魅せられ、また怯えた。彼女の怯えを感じ取ると彼は、それ以上追い詰めることはしなかった。
怯えてしまう自分は、サンディが言うところの『ウブい』子供なのだろう。そんな幼さで彼に焦れったい思いをさせているのではないかと、心配していた。だから・・・キスをされて、とても嬉しかった・・・。
物思いに耽っていて手がお留守になっていたことに気付き、ミミは慌てて作業に戻った。
チョコレート生地の調合もうまくいって、ミミはひと安心してにっこり笑った。スプーンですくってから指先に落として、味見と垂れ具合で濃度の確認をした。程よいほろ苦さと香ばしさが口中に広がる。
(イザヤール様、気に入ってくれるといいな・・・)
バットに流して種や木の実類を均等に入れ、冷やして固まったら綺麗にキューブ状に切り分ければ完成だ。バレンタインに間に合いそうでよかったと、ミミは再びにっこり笑った。さて、とボウルの中身をバットに流そうとしたとき、厨房の入り口から声がした。
「ミミ、頑張っているな」
思い浮かべていたその人、イザヤールが微笑んで立っている。酒場の手伝いが終わったついでに厨房に寄ってくれたようだ。
「イザヤール様・・・」
まるで想いが届いて来てくれたかのようなタイミングが嬉しくて、ミミの顔がみるみる淡い薔薇色に染まった。
「おっと、邪魔をしてはいけないな。ではまた後で」
そう言って入って来ずに立ち去ろうとするイザヤールにミミは駆け寄り、濃い紫の瞳を潤ませて見上げ、そっと彼の袖をつかんだ。行っちゃいや、思わず無言でねだってしまった。彼はその可愛い引き留めに唇をほころばせて、彼女に手を引かれるまま厨房に入った。
引き留めてしまってからミミは、作っているところを見せてしまっては、サプライズにならないことに気付いて慌てた。とりあえず急いで種や木の実類に清潔な布巾をかけて隠し、良心の咎めを覚えながら必死に嘘をついた。
「と、友チョコ作っているんです・・・。味見して頂いてもいいですか・・・」
そう言って顔を真っ赤にして溶けたチョコレートの入っているボウルを差し出すミミに、イザヤールは首を傾げた。今作っているのは友チョコ、か。・・・では、テーブルの上に載っているチョコブラウニーの包みの山は何なのだろうな。義理チョコというやつだろうか。
言われるままに彼はチョコレートをすくったスプーンを手に取った。やはりミミと同じようにスプーンの中身を指先に落として濃度と滑らかさのチェックをしてしまうのは、職人気質と言うべきか。元々ミミにチョコレート作りを教えてくれたのも彼なのだから、当然とも言える。
溶けたチョコレートをまとった指先を、濡れた舌がちらりと覗いて、素早く動いて舐め取った。彼のその様がとても艶かしくて、ミミは思わずみとれていた。
彼女の桜色の唇に血の気が上り、淡い薔薇色に変わっていく。味見をしているのを見て思わずつられて唇を舐めたのか、ほんの少し開き濡れて、艶やかに光っていた。美しい濃い紫の瞳もまた、その唇と同じくらい潤んで濡れている。
みとれられている方の筈の男は、彼女の変化に目敏く気付いて、唇の端をゆるりと上げた。彼の目もまた、艶かしい色と、そしてほんのかすかに獲物を捕らえる嗜虐の光を帯びていく。彼は、自分の指先にまたチョコレートを落として、ミミの方に差し出し、囁いた。
「ミミ、とても旨いぞ。ただ、女の子には、少々苦いかもな。・・・おまえも、味見してみるか?」
ミミは小さく息を吸い込んで、悩ましい笑みを浮かべるイザヤールの顔を見つめた。
「イザヤール様の、いじわる・・・」
呟きながらも、ふらふらと吸い寄せられるかのように顔を彼の指先に寄せ、小さくこくりと頷く。もう味見は済ませているのに、と考えることさえなく、大好きな指に、唇を近付ける。
と、そこへ。
「ミミ~、チョコできた?私も今から作・・・」
チェックインの申し込み客の入りが落ち着いて一段落したリッカが、厨房に入ってきた!・・・そして、今にもイザヤールの指を口に含みそうなミミの様子を見て、固まった。見られた方の二人も気まずそうに固まってしまった。
「あ・・・なんか、ゴメン・・・」
そう呟くと、リッカはぱたぱたと走って行ってしまった。
「こっちこそすまん、だな。厨房でこんなことをしてしまって・・・リッカに謝らなくては」
我に返ったイザヤールが、照れくさそうな顔で呟いた。ミミも真っ赤な顔でこくりと頷く。それでも、イザヤールの指先を、ちょっと名残惜しそうに見ていた。
そんなミミの視線に気付いていながらイザヤールは、指先を自分で素早く舐めてしまった。
「あっ・・・」
思わず悲しそうな、残念そうな声を上げたミミに、彼の唇が弧を描き、優しくも妖しい笑みになった。そのまま、唇を、彼女のそれに押し付ける。
「味は・・・わかったか?」
しばらくしてようやく離した唇で彼が囁いたとき、ミミは目をぼうっと潤ませて、こくこくと頷くことしかできなかった。
ようやく口がきけるようになるとミミは、ちょっと詰るように呟いた。
「イザヤール様、全然反省してないの・・・」
「ああ、悪かった」
おまえがあまりに可愛くてつい・・・と言われてしまうと、元々共犯であるミミもあまり怒れない。むしろちょっとしゅんとして呟いた。
「一緒にリッカに謝りに行ってくださいますか?」
「ああ、もちろん」
リッカに困らせたことを二人で謝った後、イザヤールは先に部屋に戻り、ミミは今度はリッカと厨房に戻って、再びチョコ作りにかかった。ふとリッカはミミの顔を見て、首を傾げて言った。
「あれ?ミミ、唇にチョコ付いてるよ?」
さっきのだ・・・!とまたみるみる真っ赤になるミミ。
「あ、つまみ食いしちゃって・・・」
しどろもどろになるミミを、つまみ食いでうろたえちゃうなんてミミは可愛いなあとリッカは思った。
口の中にはまだ、ほろ苦いけれど甘い甘いチョコレートの味が残っている。ミミはまた無意識に唇に指先を触れ、瞳を潤ませて微笑んだ。〈3・了、連作完結編に続く〉
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