わー明け方!更新追加クエストもどき。北欧神話のヴァルハラとかドイツ?の死者が墓から出てきて生前の戦争を繰り返す伝説とかがモチーフ。死んでも戦い続くって天国というより罰ゲーム。イザ女主、戦い頑張った上に少々トリッキーな事します(笑)
澄みきったくらい静かな月夜だった。ミミとイザヤールは、セントシュタイン城からシュタイン湖に向かってゆっくりと歩いていた。互いの腕と手をゆるく絡め、他愛ないことをぽつりぽつりと語りながら歩む様は、目的地へ向かうというよりも、月の下のそぞろ歩きという風情だ。実際二人は、シュタイン湖に特に用事があるわけではなく、湖面に映る月が綺麗だろうと思って何となく夜の散歩を始めたのだ。
この辺りに棲息する魔物たちは、魔物とはいえいささか緊張感に欠ける。スライムベスは何が楽しいのか、はしゃぐように跳びはね、おおきづちは眠いのかこっくりこっくりと船を漕いでいる。みならいあくまは、メラの練習のついでに焼き芋を焼いていた。実に平和な光景だ。
ミミはおどりこのドレスを、イザヤールは普段着のシャツとズボンの上に飾りと胴衣を外したビロードのマントを羽織っていた。ミミの滑らかで華奢な肩やふっくらとした胸元が、白々とした月光を受けて玉のようにやわらかく光っている。
「今日のお月様の光、冷たい」
呟いて彼女は、腰に幾重にも巻いた帯の一つを解いて、肩に巻こうとした。だが、ミミがほどくより早く、イザヤールが自分のビロードのマントを脱いで、優しく彼女の肩をくるんだ。それではイザヤール様が寒いと、抗議と心配の目を彼に向けると、イザヤールは笑って囁いた。
「私は大丈夫だ、ほら」
絡めた指に力を入れれば、豊かな生命力の証であるぬくもりが、指を通して流れ込むようにミミに伝わる。それでもとミミは、ビロードのマントの裾を持って広げて、彼に腕を回すようにしてくるんだ。一枚のマントに二人が無理むりにくるまって、見た目は少々窮屈そうだ。やがてどちらとも無しに楽しげに笑い、イザヤールもミミをぎゅっと抱き寄せて、二人はそのまま一気にシュタイン湖まで走った。
駆け足ではなく笑いで息を弾ませ、乱れた呼吸を調えてから、まずは湖面のさざ波に無数に煌めく月光を、それから中空の月を見上げた。しばらくそうして黙って寄り添って月を眺めてから、ふと二人は、今宵は星を見ていないことに気が付いた。月の光が強すぎるからだろうか。それとも・・・。
ここでミミとイザヤールは、ふと何かの気配を感じて振り返った。見ると背後には、苦悩と憂いに満ちた表情をした、僧侶らしき男の亡霊が立っていた。
『月明かりつよく星明かり無き夜は、世界のどこかで狂える騎士たちの宴がある』亡霊は言った。『巡り遭いたくなければ、暖かく安全な屋根の下に、早く帰るが良い』
「宴?」
『その武を競い合うことが狂騎士たちの最高の娯楽であり恍惚の宴。彼らは、刃を交え鎧を砕き、骨を割り、崩れ果てさせては黄泉帰りの呪文を使って呪われた生を取り戻し、朝まで殺し合いを続ける。それを幾年月繰り返してきたことか・・・。これからも未来永劫続くかもしれぬ。生きる人間が直接害を被ることはないが、恐怖で狂った者もある。そうなりたくなければ、戻れ。教会に浄められた地に』
亡霊は諦めと悲しみの入り交じる顔で二人を見つめた。
「もしかするとあなたは」ミミは、強い意志を湛えて更に濃い紫になった瞳で亡霊を見つめ、言った。「何か助けてほしいことがあるから私たちに声をかけた、違いますか?」
その優しくも力強い眼差しに亡霊は虚を突かれたように暫し沈黙し、やがて、沈んだ声で呟いた。
『もしかしたら、そうなのかもしれぬ・・・。救いを、求める希望が、得られたら、どんなにか・・・』亡霊は、苦悩に満ちた目で、更に呟いた。『あの中に、私の息子が、居るのだ・・・生きている間も、そしてこうして死者となってからも、息子を取り戻すことは、叶わない・・・何故なら、私は、戦いに負けたから』
「戦い?」
『私は、勇猛な騎士だった息子に先立たれたしがない僧侶だ。やがて私は、無念の死を遂げた息子が、狂える死者の騎士の群れに取り込まれてしまったことを知った。僧侶として死者と話せる力を駆使して、彼らに息子を自由にしてくれるよう頼んだところ、狂騎士たちは、ある条件を出してきた。・・・奴らは言った、宴で、我らを全て打ち倒すことができたら、おまえの息子を自由にしてやろうと。私は神に仕える身でありながら刃を握り、そして・・・戦いに負けたのだ・・・。それどころか、そのときに力を貸してくれた戦士たちまでも・・・狂騎士たちの仲間に、してしまったのだ・・・。ロザリオの力で奴らの仲間になることは免れた私も、償う術も救う術も無く、狂騎士たちの後を追うように、こうして地上をさ迷い続けることしかできぬ・・・』
あまりに残酷な運命に、ミミとイザヤールは言葉もなく、静かに耳を傾けた。ただし二人の目には、既に決意の色が浮かんでいた。
「私たちが、取り返します、あなたの息子さんたちを」
「狂騎士の宴は、我々が今宵で終わりにしよう」
穏やかながらもミミとイザヤールが力強く告げると、僧侶の亡霊は、困惑と不安とかすかな希望とが入り交じった、複雑な表情になった。
『そなたたちまで、狂騎士の仲間にしたくない・・・。考え直せ。狂騎士たちの群れは手強く、しかも無数と思われるほどに居るのだ』
「大丈夫、覚悟はできています。そして、決して負けません」
ミミの濃い紫の瞳が、決意の色を浮かべて更に濃くなる。その力強い瞳を見た亡霊は、彼女の言葉を信じた。ミミとイザヤールは、クエスト「修羅の宴」を引き受けた!
ミミとイザヤールは、一度セントシュタインに戻り、装備を調えることにした。バトルマスターであるイザヤールはしんわのよろいなどの最強装備に身を固め、ミミは賢者に転職して、即死を防ぐセラフィムのローブをまとい、ゾンビ系モンスターに有効なにょらいのこんを武器に選んだ。
再び町の外に出ると、ミミは亡霊に、どうしたら狂騎士たちに会えるかを尋ねた。
『もしもそなたたちが今宵遭遇するのがさだめならば、世界中のどの荒野に居ようと、彼らは現れる筈。こちらから出向かなくとも、な。・・・見よ、あれを』
楽しそうだったスライムベスやおおきづち、死者など平気な筈のみならいあくまでさえも、急に慌てふためいて逃げていった。すると、地面のあちこちがぼこぼこと盛り上がり、セントシュタインの地には居ない筈の、たくさんのゾンビ系モンスターたちが次々と現れた!
その大部分はゾンビナイトだったが、かなりの数のナイトリッチも混ざっていた。彼らは武器を振り上げると、ミミたちに目もくれず、適当に二手に別れて、互いに戦い始めた。
ナイトリッチたちは、ゾンビナイトを容赦無く斬り捨てていく。無数の骨が地面に散らばり、刃のぶつかる音や、骨が砕ける音、腐乱した肉が地面に叩きつけられる不快な音が、平原に響く。ナイトリッチたちは味方のゾンビナイトには次々ザオラルをかけるから、この宴は朝が来なければ半永久的に続いてしまうのだろう。まさに阿鼻叫喚と言うに相応しい光景だ。だが、不思議なことに、こんな異常事態を、セントシュタインの民たちは何も気付いていないらしい。町や城から、偵察の兵士や冒険者が出てくる様子はなかった。
『これはいわば亡霊同士の戦いだから、偶然遇ってしまった者しか、知ることはないのだ』僧侶の亡霊はミミたちに告げた。『遭遇してしまった人間も、地面に伏して祈っておれば、危害を加えることはほとんど無い。・・・だが、戦いの邪魔をすれば、その限りではなくなる・・・。本当に、良いのか?』
引き返す最後の機会だと、僧侶の亡霊は無言で語っている。その目には、希望を無惨に打ち砕かれてきた者独特の諦めと、それでも救いを求めずにはいられない相反する苦しみがあった。ミミとイザヤールは迷い無く黙って頷き、殺し合いを続ける亡霊騎士の群れに、近付いていった。
生きている人間たちがわざわざ近付いて来たのを見て、死者の狂騎士たちは、一時刃を止めた。倒れ砕けていたゾンビの魔物たちも、ザオラルをかけられて瞬く間に起き上がっていく。
返してほしい死者たちがいるとミミたちが告げると、ナイトリッチのうちの一体が、カラカラと耳障りな笑い声を上げて答えた。
『我々の宴の、飛び入りの客という訳か。良かろう、夜明けまでに我々を全て倒したら、いくらでも自由にしてやる。・・・そんなことができるのなら、な。たとえ一人でも残っていれば無効、そして貴様らが倒れた時は・・・この永劫の宴の一員となってもらおうぞ』
言い終えるやいなや、死せる狂騎士たちは、いっせいに襲いかかってきた!
ミミはすかさず、ナイトリッチに有効なイオナズンを唱えた。高い魔力で威力を増したこの呪文は、ナイトリッチの得意の盾ガードも効かず彼らを吹き飛ばす。イザヤールは、光色の流星のようにゾンビナイトの群れに飛び込んでいき、反撃させる間もなく一刀で次々斬り捨てていった。
即死を狙って槍を突き立てようとするゾンビナイトたちに、ミミは呪文の詠唱をしながら棍を振り回し、間合いを空ける。一際強いナイトリッチと鍔迫り合いをしていたイザヤールは、急に力を抜いて身をかわし、そのまま背後から近寄ってきていた別のナイトリッチの胴と脚を、会心の一撃で切り離した。
イオナズンで減らす数は多くても、呆れるほど次々と死霊たちは文字通り地面から涌いてきていた。だが二人は焦らなかった。ミミは間合いを詰めて囲まれないよう、慎重に四方に目を配り、合間を見ては魔力と疲労の回復も怠らなかった。たとえ傷を負わなくても、疲労で動きが取れなくなってしまえば、夜明けまでに全てのこの魔物たちを倒すことは叶わなくなる。体力配分も必要だった。
やがてだいぶ魔物たちとだいぶ距離が取れるようになると、これまで魔力を消費しない剣技を使っていたイザヤールが、ギガスラッシュで一気に片を付け始めた。盾でかわすナイトリッチはいるものの、ミミのイオナズンとの合わせ技で、驚くほど急激に数は減っていく。
二人の猛攻で、ナイトリッチは全て倒れた。ザオラルが使えるナイトリッチが全て倒れてしまえば、もう崩れ倒れたゾンビナイトを蘇生させる者は居ない。こうして夜明けを待たずして、全ての狂騎士たちが、崩れた骨の山に変わった。
鎮まりかえった中、崩れ落ちた骨の中から、リーダー格のナイトリッチの声が聞こえた。
『見事だ・・・おかげで宴を更に楽しませてもらったぞ。さあ、返してほしい死者を言え』
骨の山は、いつの間にかおびただしい死者の魂の群れに変わっている。どうやらひとときだけ、元の人間の魂としての姿に戻ったらしい。このままにしておけば、夜明けが来れば彼らは姿を消し、またいつか地面から涌いて「宴」を始めてしまうのだろう。ミミは依頼人に息子や仲間たちを探してもらおうとせず、僧侶の亡霊を振り返って微笑み、イザヤールも、唇の端に不敵な笑みを浮かべた。そしてまずミミが言った。
「死者の全て。狂騎士となった全ての死者を返して」
「我々が勝ったのだから、いくらでも自由にしてやると言ったその言葉、守ってもらうぞ」そうイザヤールも言った。
それを聞いてナイトリッチの声は悔しそうに唸ったが、確かにそう言ったのだから、如何とも仕様がない。やがて、おびただしい数の魂たちが、空へと上っていった。
後には、依頼人である僧侶の亡霊と、その息子や仲間たちらしい亡霊が残っていた。
『ようやく呪縛から、終わりなき修羅の宴から解放された・・・ありがとう・・・』
『これでようやく息子たちと共に逝ける・・・そなたたちに神の祝福を・・・』
そんな言葉を残して、依頼人たちの魂も、天へと上っていった。
明け方のセントシュタインは、いつものように平和で静かで、先ほどまで無数の死霊が居た形跡の欠片も無い。ただ、ミミとイザヤールの足元には、「しんごんのじゅず」と「インフェルノソード」が落ちていて、それだけが、もう起こらないであろう奇妙な宴の、名残だった。〈了〉
澄みきったくらい静かな月夜だった。ミミとイザヤールは、セントシュタイン城からシュタイン湖に向かってゆっくりと歩いていた。互いの腕と手をゆるく絡め、他愛ないことをぽつりぽつりと語りながら歩む様は、目的地へ向かうというよりも、月の下のそぞろ歩きという風情だ。実際二人は、シュタイン湖に特に用事があるわけではなく、湖面に映る月が綺麗だろうと思って何となく夜の散歩を始めたのだ。
この辺りに棲息する魔物たちは、魔物とはいえいささか緊張感に欠ける。スライムベスは何が楽しいのか、はしゃぐように跳びはね、おおきづちは眠いのかこっくりこっくりと船を漕いでいる。みならいあくまは、メラの練習のついでに焼き芋を焼いていた。実に平和な光景だ。
ミミはおどりこのドレスを、イザヤールは普段着のシャツとズボンの上に飾りと胴衣を外したビロードのマントを羽織っていた。ミミの滑らかで華奢な肩やふっくらとした胸元が、白々とした月光を受けて玉のようにやわらかく光っている。
「今日のお月様の光、冷たい」
呟いて彼女は、腰に幾重にも巻いた帯の一つを解いて、肩に巻こうとした。だが、ミミがほどくより早く、イザヤールが自分のビロードのマントを脱いで、優しく彼女の肩をくるんだ。それではイザヤール様が寒いと、抗議と心配の目を彼に向けると、イザヤールは笑って囁いた。
「私は大丈夫だ、ほら」
絡めた指に力を入れれば、豊かな生命力の証であるぬくもりが、指を通して流れ込むようにミミに伝わる。それでもとミミは、ビロードのマントの裾を持って広げて、彼に腕を回すようにしてくるんだ。一枚のマントに二人が無理むりにくるまって、見た目は少々窮屈そうだ。やがてどちらとも無しに楽しげに笑い、イザヤールもミミをぎゅっと抱き寄せて、二人はそのまま一気にシュタイン湖まで走った。
駆け足ではなく笑いで息を弾ませ、乱れた呼吸を調えてから、まずは湖面のさざ波に無数に煌めく月光を、それから中空の月を見上げた。しばらくそうして黙って寄り添って月を眺めてから、ふと二人は、今宵は星を見ていないことに気が付いた。月の光が強すぎるからだろうか。それとも・・・。
ここでミミとイザヤールは、ふと何かの気配を感じて振り返った。見ると背後には、苦悩と憂いに満ちた表情をした、僧侶らしき男の亡霊が立っていた。
『月明かりつよく星明かり無き夜は、世界のどこかで狂える騎士たちの宴がある』亡霊は言った。『巡り遭いたくなければ、暖かく安全な屋根の下に、早く帰るが良い』
「宴?」
『その武を競い合うことが狂騎士たちの最高の娯楽であり恍惚の宴。彼らは、刃を交え鎧を砕き、骨を割り、崩れ果てさせては黄泉帰りの呪文を使って呪われた生を取り戻し、朝まで殺し合いを続ける。それを幾年月繰り返してきたことか・・・。これからも未来永劫続くかもしれぬ。生きる人間が直接害を被ることはないが、恐怖で狂った者もある。そうなりたくなければ、戻れ。教会に浄められた地に』
亡霊は諦めと悲しみの入り交じる顔で二人を見つめた。
「もしかするとあなたは」ミミは、強い意志を湛えて更に濃い紫になった瞳で亡霊を見つめ、言った。「何か助けてほしいことがあるから私たちに声をかけた、違いますか?」
その優しくも力強い眼差しに亡霊は虚を突かれたように暫し沈黙し、やがて、沈んだ声で呟いた。
『もしかしたら、そうなのかもしれぬ・・・。救いを、求める希望が、得られたら、どんなにか・・・』亡霊は、苦悩に満ちた目で、更に呟いた。『あの中に、私の息子が、居るのだ・・・生きている間も、そしてこうして死者となってからも、息子を取り戻すことは、叶わない・・・何故なら、私は、戦いに負けたから』
「戦い?」
『私は、勇猛な騎士だった息子に先立たれたしがない僧侶だ。やがて私は、無念の死を遂げた息子が、狂える死者の騎士の群れに取り込まれてしまったことを知った。僧侶として死者と話せる力を駆使して、彼らに息子を自由にしてくれるよう頼んだところ、狂騎士たちは、ある条件を出してきた。・・・奴らは言った、宴で、我らを全て打ち倒すことができたら、おまえの息子を自由にしてやろうと。私は神に仕える身でありながら刃を握り、そして・・・戦いに負けたのだ・・・。それどころか、そのときに力を貸してくれた戦士たちまでも・・・狂騎士たちの仲間に、してしまったのだ・・・。ロザリオの力で奴らの仲間になることは免れた私も、償う術も救う術も無く、狂騎士たちの後を追うように、こうして地上をさ迷い続けることしかできぬ・・・』
あまりに残酷な運命に、ミミとイザヤールは言葉もなく、静かに耳を傾けた。ただし二人の目には、既に決意の色が浮かんでいた。
「私たちが、取り返します、あなたの息子さんたちを」
「狂騎士の宴は、我々が今宵で終わりにしよう」
穏やかながらもミミとイザヤールが力強く告げると、僧侶の亡霊は、困惑と不安とかすかな希望とが入り交じった、複雑な表情になった。
『そなたたちまで、狂騎士の仲間にしたくない・・・。考え直せ。狂騎士たちの群れは手強く、しかも無数と思われるほどに居るのだ』
「大丈夫、覚悟はできています。そして、決して負けません」
ミミの濃い紫の瞳が、決意の色を浮かべて更に濃くなる。その力強い瞳を見た亡霊は、彼女の言葉を信じた。ミミとイザヤールは、クエスト「修羅の宴」を引き受けた!
ミミとイザヤールは、一度セントシュタインに戻り、装備を調えることにした。バトルマスターであるイザヤールはしんわのよろいなどの最強装備に身を固め、ミミは賢者に転職して、即死を防ぐセラフィムのローブをまとい、ゾンビ系モンスターに有効なにょらいのこんを武器に選んだ。
再び町の外に出ると、ミミは亡霊に、どうしたら狂騎士たちに会えるかを尋ねた。
『もしもそなたたちが今宵遭遇するのがさだめならば、世界中のどの荒野に居ようと、彼らは現れる筈。こちらから出向かなくとも、な。・・・見よ、あれを』
楽しそうだったスライムベスやおおきづち、死者など平気な筈のみならいあくまでさえも、急に慌てふためいて逃げていった。すると、地面のあちこちがぼこぼこと盛り上がり、セントシュタインの地には居ない筈の、たくさんのゾンビ系モンスターたちが次々と現れた!
その大部分はゾンビナイトだったが、かなりの数のナイトリッチも混ざっていた。彼らは武器を振り上げると、ミミたちに目もくれず、適当に二手に別れて、互いに戦い始めた。
ナイトリッチたちは、ゾンビナイトを容赦無く斬り捨てていく。無数の骨が地面に散らばり、刃のぶつかる音や、骨が砕ける音、腐乱した肉が地面に叩きつけられる不快な音が、平原に響く。ナイトリッチたちは味方のゾンビナイトには次々ザオラルをかけるから、この宴は朝が来なければ半永久的に続いてしまうのだろう。まさに阿鼻叫喚と言うに相応しい光景だ。だが、不思議なことに、こんな異常事態を、セントシュタインの民たちは何も気付いていないらしい。町や城から、偵察の兵士や冒険者が出てくる様子はなかった。
『これはいわば亡霊同士の戦いだから、偶然遇ってしまった者しか、知ることはないのだ』僧侶の亡霊はミミたちに告げた。『遭遇してしまった人間も、地面に伏して祈っておれば、危害を加えることはほとんど無い。・・・だが、戦いの邪魔をすれば、その限りではなくなる・・・。本当に、良いのか?』
引き返す最後の機会だと、僧侶の亡霊は無言で語っている。その目には、希望を無惨に打ち砕かれてきた者独特の諦めと、それでも救いを求めずにはいられない相反する苦しみがあった。ミミとイザヤールは迷い無く黙って頷き、殺し合いを続ける亡霊騎士の群れに、近付いていった。
生きている人間たちがわざわざ近付いて来たのを見て、死者の狂騎士たちは、一時刃を止めた。倒れ砕けていたゾンビの魔物たちも、ザオラルをかけられて瞬く間に起き上がっていく。
返してほしい死者たちがいるとミミたちが告げると、ナイトリッチのうちの一体が、カラカラと耳障りな笑い声を上げて答えた。
『我々の宴の、飛び入りの客という訳か。良かろう、夜明けまでに我々を全て倒したら、いくらでも自由にしてやる。・・・そんなことができるのなら、な。たとえ一人でも残っていれば無効、そして貴様らが倒れた時は・・・この永劫の宴の一員となってもらおうぞ』
言い終えるやいなや、死せる狂騎士たちは、いっせいに襲いかかってきた!
ミミはすかさず、ナイトリッチに有効なイオナズンを唱えた。高い魔力で威力を増したこの呪文は、ナイトリッチの得意の盾ガードも効かず彼らを吹き飛ばす。イザヤールは、光色の流星のようにゾンビナイトの群れに飛び込んでいき、反撃させる間もなく一刀で次々斬り捨てていった。
即死を狙って槍を突き立てようとするゾンビナイトたちに、ミミは呪文の詠唱をしながら棍を振り回し、間合いを空ける。一際強いナイトリッチと鍔迫り合いをしていたイザヤールは、急に力を抜いて身をかわし、そのまま背後から近寄ってきていた別のナイトリッチの胴と脚を、会心の一撃で切り離した。
イオナズンで減らす数は多くても、呆れるほど次々と死霊たちは文字通り地面から涌いてきていた。だが二人は焦らなかった。ミミは間合いを詰めて囲まれないよう、慎重に四方に目を配り、合間を見ては魔力と疲労の回復も怠らなかった。たとえ傷を負わなくても、疲労で動きが取れなくなってしまえば、夜明けまでに全てのこの魔物たちを倒すことは叶わなくなる。体力配分も必要だった。
やがてだいぶ魔物たちとだいぶ距離が取れるようになると、これまで魔力を消費しない剣技を使っていたイザヤールが、ギガスラッシュで一気に片を付け始めた。盾でかわすナイトリッチはいるものの、ミミのイオナズンとの合わせ技で、驚くほど急激に数は減っていく。
二人の猛攻で、ナイトリッチは全て倒れた。ザオラルが使えるナイトリッチが全て倒れてしまえば、もう崩れ倒れたゾンビナイトを蘇生させる者は居ない。こうして夜明けを待たずして、全ての狂騎士たちが、崩れた骨の山に変わった。
鎮まりかえった中、崩れ落ちた骨の中から、リーダー格のナイトリッチの声が聞こえた。
『見事だ・・・おかげで宴を更に楽しませてもらったぞ。さあ、返してほしい死者を言え』
骨の山は、いつの間にかおびただしい死者の魂の群れに変わっている。どうやらひとときだけ、元の人間の魂としての姿に戻ったらしい。このままにしておけば、夜明けが来れば彼らは姿を消し、またいつか地面から涌いて「宴」を始めてしまうのだろう。ミミは依頼人に息子や仲間たちを探してもらおうとせず、僧侶の亡霊を振り返って微笑み、イザヤールも、唇の端に不敵な笑みを浮かべた。そしてまずミミが言った。
「死者の全て。狂騎士となった全ての死者を返して」
「我々が勝ったのだから、いくらでも自由にしてやると言ったその言葉、守ってもらうぞ」そうイザヤールも言った。
それを聞いてナイトリッチの声は悔しそうに唸ったが、確かにそう言ったのだから、如何とも仕様がない。やがて、おびただしい数の魂たちが、空へと上っていった。
後には、依頼人である僧侶の亡霊と、その息子や仲間たちらしい亡霊が残っていた。
『ようやく呪縛から、終わりなき修羅の宴から解放された・・・ありがとう・・・』
『これでようやく息子たちと共に逝ける・・・そなたたちに神の祝福を・・・』
そんな言葉を残して、依頼人たちの魂も、天へと上っていった。
明け方のセントシュタインは、いつものように平和で静かで、先ほどまで無数の死霊が居た形跡の欠片も無い。ただ、ミミとイザヤールの足元には、「しんごんのじゅず」と「インフェルノソード」が落ちていて、それだけが、もう起こらないであろう奇妙な宴の、名残だった。〈了〉
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