セントシュタイン三丁目

DQ9の二次創作(主にイザ女主小説)の、全くの個人的趣味なブログです。攻略の役には立ちません。悪しからずご了承ください。

そのシャツを縫えたなら

2024年02月13日 01時21分21秒 | クエスト163以降
ものすごく久々、日付変わってしまいましたが、イザヤール様おかえりなさい記念の短い話。シャツ云々はスカボローフェアの歌詞からなんとなく思いつきました。あの歌は伝言式で相手に直接言ってるわけではないですが。

 やわらかな陽射しが、針を運ぶ指先と、その上に垂れる艶やかな木の実色の髪を照らしている。最後のひと針を終えて、光の筋そのもののような銀糸をぷつりと切ると、ミミは満足そうに吐息をついて、膝の上の真新しいシャツをそっと撫でた。
 自ら紡いだ極上の白く細い亜麻糸で織った布を、あまつゆのいとで縫い合わせて仕上げたもので、ボタンは無く、襟の真ん中辺りに少し切れ込みが入っている。その切れ込みのすぐ下に、やはりあまつゆのいとで施した小さな刺繍が、光の加減で時折きらりと瞬いた。
「ふ~ん、できたんだ。相変わらず無駄なくらい職人技バクハツさせてるよね~」大きなクッションに寝転がって雑誌をめくっていたサンディが、感心と呆れが入り交じった顔で笑った。それから雑誌を放り出して起き上がり、ミミの手元のシャツを覗きこんだ。「これ翼モチーフ?カワイイじゃん。でもなんであまつゆのいとにしたワケ?ほとんど見えないしー」
「普段使いにしてほしいから、これでいいの」
 ミミは微笑んで呟くと、ゆっくりと丁寧に真っ白なシャツを畳んだ。
「翼モチーフかあ。如何にもイザヤールさんって感じするよね~。でもさあ、翼モチーフなら、せっかくだから、背中の方にでっかくどどーんと刺繍しちゃえばよかったのに。これじゃあちょうど心臓の位置ってゆーかさ~」
 そう言われて、ミミは少し照れくさそうに呟いた。
「そう、なんていうかその・・・翼が無くなっても、イザヤール様はイザヤール様で、心にはちゃんと翼を持ち続けてるっていうか・・・人間でいても天使でいても関係なくぶれない信念があって、変わったけど変わらないでいてくれてるところがすごいって伝えたいっていうか・・・なんかうまく言えないけれど・・・」
 照れとうまく言葉にできない困惑でみるみる頬を染めるミミ。それを面白そうに眺めながら、サンディは笑って肩をすくめた。
「ちっちゃいワンポイント刺繍オンリーでそれ伝えるのムズくない?でも、はいはい、わかったわよ。言いたいことはよーするに、イザヤールさんが超イケてるってことデショ」
「えっと・・・ちが・・・違わない・・・でもざっくりすぎるよサンディ・・・」
「違わないんならいーじゃん」
 濃い紫の瞳を潤ませ、頬を赤くしているミミを更に困らせようと、サンディは先ほど放り出した雑誌を拾い上げ、ネイル特集とは別の特集記事を、声に出して読み上げた。
「さすらいの吟遊詩人が歌う流行歌、『このシャツを縫えたなら君は僕のまことの恋人』の影響で今密かにブーム、シャツをプレゼントして逆プロポーズ!」
「えっ・・・そ、そうなの?!そういう意味になっちゃうの?」
 あたふたするミミを見て、遂にサンディは腹を抱えて笑いだした。
「ほら、貸したげるから、読んでみればー。マジ何が流行るかわかんないよねー」
 そう言われて、素直に雑誌の記事を熱心に読み始めたミミを眺めて、サンディの笑顔はからかいから、慈しみを帯びたものに変わった。ミミ、ほんとよかったね。世界の為にあんなに頑張ったんだもん、幸せになりまくって当然だからね。
 泣けそうになってきたのをごまかそうと窓の外を眺めて、サンディはまたからかい気味の笑顔に戻った。
「あっ、噂をすれば、帰ってきたみたいよ」
 それを聞いてミミは立ち上がり、扉に駆け寄った。やがて、廊下に耳慣れた足音が聞こえ、間もなく扉が開いた。陽光にも似た、光とぬくもりの気配。
「ただいま、ミミ」
 変わったけれど変わらない、変わらないけれど変わった、その微笑み。その変化も愛しいと思いながら、共に生きていくのだろう。その時間も、天使だった頃とは比べものにならないほど儚く、短いものでも。刹那は永遠になり、永遠が刹那になることもある。今を大切に生きて、明日を思う希望がある限り、二人の時は続いていく。
 ミミは、天使だった頃と同じように物静かに、だが顔は、溢れる想いを隠さずに、答えた。
「おかえりなさい、イザヤール様」〈了〉
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