序
河野啓一さんは、旧制高校の時代があって、そこでの生活が俳句に影響を与えたに違いない。職場の第一線を引かれてからの多彩な生活は、若い頃に培った教養によるもので、医薬文献の翻訳、軽スポーツ、旅行、園芸、絵画、そして俳句などがある。
虞美人草風に揺らせて画布のなか
本句集には、画の俳句が多いが、その中でも、この句が優れていて、そこには詩がある。
蒲公英の種ふと浮び空の詩
大空のひろがり、その焦点に浮かぶ「蒲公英の種」、そのイメージに詩情があり、言葉のリズムにも音楽的な詩がある。中七の「種ふと浮び」は、二音二音三音のリズムで、その後の切れがいい。
ご夫妻揃っての絵画の生活は、日常にいいリズムを作っておられるのだが、そのリズムが崩れたときの句は、妻を詠んで一見穏やかな詩情がいい。
妻病みて山茶花の花咲きこぼれ
妻病みし初冬の日差しまぶしかり
家族を詠んだ句に佳句があって、これらは、日常の生活の中から生まれたもので、その俳句は、その日常と切り離すことが出来ない。
長男浩一家と生駒の観光農園
鍬音も高く甘藷を掘り当てぬ
戸外での家族の楽しい団欒があり、孫娘を詠んでは、
クロッカス摘みて持ちくる孫娘
の句がある。父の日にハイビスカスを贈られて
ハイビスカス真っ直ぐ我に向きて咲く
と詠む。家族との絆が確かなのである。
また、啓一さんの句には、趣味が園芸ということもあって、草花の句が多いが、家庭菜園を詠んだ句に
京野菜摘みしばかりの涼しさに
等の佳句がある。
啓一さんは、大阪大学大学院で生物学を専攻されたので、植物に詳しいのは、当然のことだが、それが学問に終ってしまわないで、詩となっているのが素晴らしい。それも生活の詩であって、そこには、現実があって、真実がある。
本句集にアメリカ留学時代の回想句
サンフランシスコ
茹で蟹を漁師波止場に購えり
があり、ウイーン旅行では、
ホイリゲのワインに酔いて風涼し
の句がある。ウイーンの森が見える郊外の酒場であろうか。「ホイリゲ」は、「今年の」というドイツ語で、ワインの新酒を飲ませるウイーンの酒場のことでもある。ウイーン体験のある者に懐旧の思いを抱かせてくれる。
啓一さんの句は、その海外生活の体験があって、広々としたところがある。句集第二句の
はるばると黄砂飛び来て吾が門に
は、中国大陸からの「黄砂」を詠んで、「吾が門に」という焦点が絞られ、その焦点からの広々とした自然を見ている。
河鹿鳴くせせらぎの水汲み帰る
本句集の代表句であって、ご両親の郷里である四国の渓流を詠んだ。故郷の自然がいい。広々とした自然の中の「せせらぎ」の音が聞こえてくる。その音は、深くから聞こえてくる。
句集の題名は、この句の「せせらぎ」から取ったもので、作者自身が選んだ。
平成二十年盛夏
高 橋 信 之
▼その他は、下記アドレスをクリックし、ご覧ください。
http://www.suien.org/0005/kusyu/seseragi.htm
▼読後感想などは、下記の<コメント>にお書きください。
河野啓一さんは、旧制高校の時代があって、そこでの生活が俳句に影響を与えたに違いない。職場の第一線を引かれてからの多彩な生活は、若い頃に培った教養によるもので、医薬文献の翻訳、軽スポーツ、旅行、園芸、絵画、そして俳句などがある。
虞美人草風に揺らせて画布のなか
本句集には、画の俳句が多いが、その中でも、この句が優れていて、そこには詩がある。
蒲公英の種ふと浮び空の詩
大空のひろがり、その焦点に浮かぶ「蒲公英の種」、そのイメージに詩情があり、言葉のリズムにも音楽的な詩がある。中七の「種ふと浮び」は、二音二音三音のリズムで、その後の切れがいい。
ご夫妻揃っての絵画の生活は、日常にいいリズムを作っておられるのだが、そのリズムが崩れたときの句は、妻を詠んで一見穏やかな詩情がいい。
妻病みて山茶花の花咲きこぼれ
妻病みし初冬の日差しまぶしかり
家族を詠んだ句に佳句があって、これらは、日常の生活の中から生まれたもので、その俳句は、その日常と切り離すことが出来ない。
長男浩一家と生駒の観光農園
鍬音も高く甘藷を掘り当てぬ
戸外での家族の楽しい団欒があり、孫娘を詠んでは、
クロッカス摘みて持ちくる孫娘
の句がある。父の日にハイビスカスを贈られて
ハイビスカス真っ直ぐ我に向きて咲く
と詠む。家族との絆が確かなのである。
また、啓一さんの句には、趣味が園芸ということもあって、草花の句が多いが、家庭菜園を詠んだ句に
京野菜摘みしばかりの涼しさに
等の佳句がある。
啓一さんは、大阪大学大学院で生物学を専攻されたので、植物に詳しいのは、当然のことだが、それが学問に終ってしまわないで、詩となっているのが素晴らしい。それも生活の詩であって、そこには、現実があって、真実がある。
本句集にアメリカ留学時代の回想句
サンフランシスコ
茹で蟹を漁師波止場に購えり
があり、ウイーン旅行では、
ホイリゲのワインに酔いて風涼し
の句がある。ウイーンの森が見える郊外の酒場であろうか。「ホイリゲ」は、「今年の」というドイツ語で、ワインの新酒を飲ませるウイーンの酒場のことでもある。ウイーン体験のある者に懐旧の思いを抱かせてくれる。
啓一さんの句は、その海外生活の体験があって、広々としたところがある。句集第二句の
はるばると黄砂飛び来て吾が門に
は、中国大陸からの「黄砂」を詠んで、「吾が門に」という焦点が絞られ、その焦点からの広々とした自然を見ている。
河鹿鳴くせせらぎの水汲み帰る
本句集の代表句であって、ご両親の郷里である四国の渓流を詠んだ。故郷の自然がいい。広々とした自然の中の「せせらぎ」の音が聞こえてくる。その音は、深くから聞こえてくる。
句集の題名は、この句の「せせらぎ」から取ったもので、作者自身が選んだ。
平成二十年盛夏
高 橋 信 之
▼その他は、下記アドレスをクリックし、ご覧ください。
http://www.suien.org/0005/kusyu/seseragi.htm
▼読後感想などは、下記の<コメント>にお書きください。
昨日、河野啓一様の句集「せせらぎ」を拝受いたしました。
早速、勉強させていただきます。
有難う御座いました。
ご恵送くださいました水煙俳句叢書第17巻「せせらぎ」河野啓一句集、第18巻「能笛」黒谷光子句集の2冊、拝受致しました。
感想は後日に。
御礼まで
黒谷光子様、河野啓一様の句集をお送り頂き有難うございました。昨日到着致しました。じっくり拝読させて頂き、今後の勉強にと存じます。
河野啓一様、句集「せせらぎ」のご上梓おめでとうございます。今後とも充分健康にはご留意され、益々のご健吟、ご指導のほどお願い申し上げます。
水煙俳句叢書第17巻「せせらぎ」河野啓一句集、第18巻「能笛」黒谷光子句集を拝受致しました。ゆっくり勉強させていただきます。ありがとうございました。
句集「せせらぎ」のご上梓おめでとうございます。ご両親の郷里四国の渓流の「せせらぎ」が題名との由、同じ四国に住む者として、とても
うれしく存じます。楽しみに拝読させていただきます。感想はのちほどご報告させていただき
ます。
一息に拝読いたしました。
好きな句
夕立去り芝耀きてウィンブルドン
雨がったらテニスの試合があるのだと読み手をわくわくした気分にさせる句ですね。
一息に拝読いたしました。
好きな句
夕立去り芝耀きてウィンブルドン
雨が上がったらテニスの試合があるのだと読み手をわくわくした気分にさせる句ですね。
句集「せせらぎ」の編集、発行に大変なご指導を戴きましたこと、改めて厚く御礼申し上げます。配布した友人や知人らから、
①装丁、デザインが抜群。②清涼の趣あり。③ウインのホイリゲを思い出して懐かしい。③よく頑張ってる、お互い愉しくやろう。などの所感が寄せられ、旧交を温めるよすがにもなりました。
小口泰興さま、矢野文彦さま、川名ますみさま、桑本英太郎さま、笠間順子さま、柳原美知子さま、上島祥子さまには早速お目通しを賜わり、誠に有り難うございました。今後とも宜しくご指導くださいますようお願い致します。
虞美人草風に揺らせて画布のなか
山葵田やきらきら青し水の音
鍬音も高く甘藷を堀り当てぬ
枯れ蓮の池に映りて碧き空
わかさぎの躍る氷湖や陽の光
クロッカス摘みて持ちくる孫娘
花菜摘み三つ葉摘みして妻笑顔
睡蓮の葉の三つ四つと伸び出し
河鹿鳴くせせらぎの水汲み帰る
キャンパスの芝生に栗鼠の見え隠れ
河野啓一様、このたびは句集ご出版おめでとうございます。これまで身に付けてこられた豊かな素養、また、確かな人生の歩みの中での様々なご経験の結集された句集と思います。一集に流れる、美しいせせらぎの水音のような清々しい季感、日々の生活から生まれる豊かな詩情に、深い感銘を受けました。特に、植物、自然へ向けられる目の優しさ、温かな家族愛にふれてのお句の数々に、心穏やかに澄む思いがいたしました。そして、何より、病を経ての日常を大切に生きる、明るく健やかな姿勢に、多くのことを学ばせていただきました。素晴らしい句集を読ませていただきありがとうございました。これからもますますのご健勝をお祈りいたします。