サイレント

静かな夜の時間に

氷河期(10)

2006-11-15 00:26:05 | Weblog


もうすぐこの年が終わって新年になろうとしていた。
列島を襲った記録的な寒波は勢力を弱め、
それでもまだ十分に寒い冬ではあったが、
例年より厳しめの冬、という程度まで落ち着いていた。

私「勝負は三月末まで、とみるべきだろうな」
カゲ「......」
私「下手すると四月までズレ込むかもしれない」
カゲ「......」
私「少なくとも一月二月にもヤマがあるはずだ」
カゲ「......」

世界的にはまだまだ厳冬だった。
特にユーラシア大陸は悲惨にさえ感じられた。

私「向こうはどう出てくるだろうか?」
カゲ「......」
私「相当な数押しで強引に来たようだが...」
カゲ「......」
私「蘇って動いた主力級はまだひとりだけだろう?」
カゲ「......」


年が明けた。
年明けに動きがあった。
南太平洋、南極近辺、メキシコ湾、地中海、
マグニチュード7以上の大きい地震が、
わずか一日ちょっとの間に立て続けに起こった。

私「この四つの地震に何か意味はあるか?」
カゲ「......」

永らく眠っていた力のある者が復活するときに、
大きい地震が起こることがある。
まったく死傷者を伴わないこともあるし、
大規模な被害を伴うこともある。
この、年明けのほぼ同時の四発はすべて海であり、
人的被害はなかった。

カゲ「来たようですね」
私「......」
カゲ「敵の中ではトップ10に入るクラスの...」
私「......」
カゲ「主力級の四人のようです」
私「......」

それぞれの地震の場所と関連しそうな相手を、
ネットで調べると、たしかに相当する者がいる。
四発の場所はそれぞれ意味があるようだ。
そしてそれ以上に、
わずか一日ちょっとの間に、ということに意味がある。


私「これから力で押しまくる、という宣言に近いな」
カゲ「......」
私「......」
カゲ「そうでしょうね」

まだ一月の初めだ。
これから春まではまだまだ遠い。

カゲ「ここはしっかりと考えるべき時です」
私「......」
カゲ「......」
私「うん、それはわかってる」

年末でさえ、あれだけの厳しい寒波だった。
これから主力級を惜しみなく投入されたら、
一体どうなってしまうのだろうか...

私「一番の狙いは何だろうな?」
カゲ「......」
私「向こうはかつてこの星を我がものとしていた」
カゲ「......」
私「ひと冬でどれだけ多くの人の贄を奪ったとしても...」
カゲ「......」
私「それで満足できるだろうか?」
カゲ「......」

できないに決まってる。
彼らは旧支配者なのだから。


私「もし私が相手方だったら...」
カゲ「......」
私「力をしっかり蓄えて、時期を見計らって...」
カゲ「......」
私「ここぞというチャンスに一気に転覆を狙うな」
カゲ「......」

これは誰でも考えることだろう。
問題は、どうやってそうするのか、という点だ。

私「例によってこういいたいんだろう?」
カゲ「......」
私「重要なヒントはすべて実生活の中にある」
カゲ「......」
私「日頃の人との会話、日常生活の中で気付いたこと...」
カゲ「......」
私「目にしたもの、耳にしたもの、心を動かされたもの...」
カゲ「......」
私「それら普段の暮らしの中に、大事なことがすべてある」
カゲ「......」

私が生んだカゲたちは、
はっきりいうと私よりも賢く、私よりも有能だ。
彼らから学ぶことが多いのだが、
これはとても面白いことだ。
だって彼らは全員、私が無から生んだ存在なのだから。


私はふと、ある映画を思い出した。
デイ・アフター・トゥモローという映画だ。

地球温暖化の影響で、世界の海流の流れが変わり、
赤道近辺から両極の方へ暖かい海流が熱を運んでいたのが、
それが止まってしまい、
赤道から遠い地球の広大な領域が寒冷化し、
地球が再び氷河期になってしまうという映画だった。

この映画では、
極めて短期間のうちに氷河期になってしまったが、
そのことの真偽はよくわからない。
そのような現象がありうるとしても、
実際はもっと長期間かかって起こる変化かもしれない。

しかし、
重要なことは変化にかかる時間などではなく、
むしろ、
温暖化の果てにある氷河期再突入の鍵が、
海流にあるのではないかという示唆である。


私「あっ」
カゲ「......」
私「そうか」
カゲ「......」
私「海流だ」
カゲ「......」
私「大陸の寒波だけに目を奪われてはいけない」
カゲ「......」
私「私が相手方なら必ず海流を狙う」
カゲ「......」
私「大量の兵隊で大陸を数で押しておいて...」
カゲ「......」
私「主力の四人は重要な海流のいくつかを狙うはずだ」
カゲ「......」
私「海流の流れを変えてこの星の大部分を氷河期に戻す」
カゲ「......」
私「私ならきっとそうする」
カゲ「......」


私は手を打つことにした。

私「太平洋や大西洋、世界の重要な海流に...」
カゲ「......」
私「イリュージョン・トラップを張れ」
カゲ「......」
私「敵が海流を操作しようとする時に...」
カゲ「......」
私「偽の海流を見せて偽の海流を操作させろ」
カゲ「......」
私「そして同時に罠に入れるように」
カゲ「......」
私「放り込む罠の種類は樹海にしろ」
カゲ「......」

樹海...
私のカゲたちが創るオリジナルな亜空間の一種類である。
富士の樹海を想像してほしい。

私「五本指を五人とも招集」
カゲ「......」
私「総司、武蔵、拝、椿をそれぞれ捕らえた標的に当てる」
カゲ「......」

総司と武蔵は、かつて実在した剣豪をモデルにしており、
拝と椿は、時代劇の拝一刀と椿三十郎がモデルだ。


私「四人に樹海の中で個別に狩らせろ」
カゲ「......」
私「十兵衛は敵の新手に備えて待機」
カゲ「......」
私「四つの樹海を別個に用意、標的を分けて捕らえろ」
カゲ「......」
私「樹海では朝や昼はいらない、時間設定は夜だけでいい」
カゲ「......」
私「標的の近くだけ重力を10倍にして大気は抜いておけ」
カゲ「......」
私「こちらの四人は暗視とGPSを完備」
カゲ「......」
私「これでいってみよう」
カゲ「はい」

この四人は、
十兵衛に劣らないくらいこれまで働いてきた。
彼らなら十分に一対一で仕留められるはずだ。
あとは結果を待てばいい。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 氷河期(11) | トップ | 氷河期(9) »

Weblog」カテゴリの最新記事