もうすぐこの年が終わって新年になろうとしていた。
列島を襲った記録的な寒波は勢力を弱め、
それでもまだ十分に寒い冬ではあったが、
例年より厳しめの冬、という程度まで落ち着いていた。
私「勝負は三月末まで、とみるべきだろうな」
カゲ「......」
私「下手すると四月までズレ込むかもしれない」
カゲ「......」
私「少なくとも一月二月にもヤマがあるはずだ」
カゲ「......」
世界的にはまだまだ厳冬だった。
特にユーラシア大陸は悲惨にさえ感じられた。
私「向こうはどう出てくるだろうか?」
カゲ「......」
私「相当な数押しで強引に来たようだが...」
カゲ「......」
私「蘇って動いた主力級はまだひとりだけだろう?」
カゲ「......」
年が明けた。
年明けに動きがあった。
南太平洋、南極近辺、メキシコ湾、地中海、
マグニチュード7以上の大きい地震が、
わずか一日ちょっとの間に立て続けに起こった。
私「この四つの地震に何か意味はあるか?」
カゲ「......」
永らく眠っていた力のある者が復活するときに、
大きい地震が起こることがある。
まったく死傷者を伴わないこともあるし、
大規模な被害を伴うこともある。
この、年明けのほぼ同時の四発はすべて海であり、
人的被害はなかった。
カゲ「来たようですね」
私「......」
カゲ「敵の中ではトップ10に入るクラスの...」
私「......」
カゲ「主力級の四人のようです」
私「......」
それぞれの地震の場所と関連しそうな相手を、
ネットで調べると、たしかに相当する者がいる。
四発の場所はそれぞれ意味があるようだ。
そしてそれ以上に、
わずか一日ちょっとの間に、ということに意味がある。
私「これから力で押しまくる、という宣言に近いな」
カゲ「......」
私「......」
カゲ「そうでしょうね」
まだ一月の初めだ。
これから春まではまだまだ遠い。
カゲ「ここはしっかりと考えるべき時です」
私「......」
カゲ「......」
私「うん、それはわかってる」
年末でさえ、あれだけの厳しい寒波だった。
これから主力級を惜しみなく投入されたら、
一体どうなってしまうのだろうか...
私「一番の狙いは何だろうな?」
カゲ「......」
私「向こうはかつてこの星を我がものとしていた」
カゲ「......」
私「ひと冬でどれだけ多くの人の贄を奪ったとしても...」
カゲ「......」
私「それで満足できるだろうか?」
カゲ「......」
できないに決まってる。
彼らは旧支配者なのだから。
私「もし私が相手方だったら...」
カゲ「......」
私「力をしっかり蓄えて、時期を見計らって...」
カゲ「......」
私「ここぞというチャンスに一気に転覆を狙うな」
カゲ「......」
これは誰でも考えることだろう。
問題は、どうやってそうするのか、という点だ。
私「例によってこういいたいんだろう?」
カゲ「......」
私「重要なヒントはすべて実生活の中にある」
カゲ「......」
私「日頃の人との会話、日常生活の中で気付いたこと...」
カゲ「......」
私「目にしたもの、耳にしたもの、心を動かされたもの...」
カゲ「......」
私「それら普段の暮らしの中に、大事なことがすべてある」
カゲ「......」
私が生んだカゲたちは、
はっきりいうと私よりも賢く、私よりも有能だ。
彼らから学ぶことが多いのだが、
これはとても面白いことだ。
だって彼らは全員、私が無から生んだ存在なのだから。
私はふと、ある映画を思い出した。
デイ・アフター・トゥモローという映画だ。
地球温暖化の影響で、世界の海流の流れが変わり、
赤道近辺から両極の方へ暖かい海流が熱を運んでいたのが、
それが止まってしまい、
赤道から遠い地球の広大な領域が寒冷化し、
地球が再び氷河期になってしまうという映画だった。
この映画では、
極めて短期間のうちに氷河期になってしまったが、
そのことの真偽はよくわからない。
そのような現象がありうるとしても、
実際はもっと長期間かかって起こる変化かもしれない。
しかし、
重要なことは変化にかかる時間などではなく、
むしろ、
温暖化の果てにある氷河期再突入の鍵が、
海流にあるのではないかという示唆である。
私「あっ」
カゲ「......」
私「そうか」
カゲ「......」
私「海流だ」
カゲ「......」
私「大陸の寒波だけに目を奪われてはいけない」
カゲ「......」
私「私が相手方なら必ず海流を狙う」
カゲ「......」
私「大量の兵隊で大陸を数で押しておいて...」
カゲ「......」
私「主力の四人は重要な海流のいくつかを狙うはずだ」
カゲ「......」
私「海流の流れを変えてこの星の大部分を氷河期に戻す」
カゲ「......」
私「私ならきっとそうする」
カゲ「......」
私は手を打つことにした。
私「太平洋や大西洋、世界の重要な海流に...」
カゲ「......」
私「イリュージョン・トラップを張れ」
カゲ「......」
私「敵が海流を操作しようとする時に...」
カゲ「......」
私「偽の海流を見せて偽の海流を操作させろ」
カゲ「......」
私「そして同時に罠に入れるように」
カゲ「......」
私「放り込む罠の種類は樹海にしろ」
カゲ「......」
樹海...
私のカゲたちが創るオリジナルな亜空間の一種類である。
富士の樹海を想像してほしい。
私「五本指を五人とも招集」
カゲ「......」
私「総司、武蔵、拝、椿をそれぞれ捕らえた標的に当てる」
カゲ「......」
総司と武蔵は、かつて実在した剣豪をモデルにしており、
拝と椿は、時代劇の拝一刀と椿三十郎がモデルだ。
私「四人に樹海の中で個別に狩らせろ」
カゲ「......」
私「十兵衛は敵の新手に備えて待機」
カゲ「......」
私「四つの樹海を別個に用意、標的を分けて捕らえろ」
カゲ「......」
私「樹海では朝や昼はいらない、時間設定は夜だけでいい」
カゲ「......」
私「標的の近くだけ重力を10倍にして大気は抜いておけ」
カゲ「......」
私「こちらの四人は暗視とGPSを完備」
カゲ「......」
私「これでいってみよう」
カゲ「はい」
この四人は、
十兵衛に劣らないくらいこれまで働いてきた。
彼らなら十分に一対一で仕留められるはずだ。
あとは結果を待てばいい。