サイレント

静かな夜の時間に

始末屋(3)

2006-11-16 19:25:45 | Weblog


「今の会話、聞いていたな」
何もない空間に私は話しかけた。

「今夜のうちに片を付ける」
さらに私は、姿の見えない誰かに声を掛けた。
師匠ではない、別の誰かに。

「最近の一連の子供殺しを全て洗え」
部下に対するような口調で、私は命令を発する。
信頼できる絶対的な部下とでもいえる存在。

「目星がついたら知らせろ」
ひとこと伝えるごとに、これまでの絆を思い出す。
どれだけ修羅場を共にくぐってきたことか。

「公開処刑にしよう、人目の多い所がいい」
処刑...響きがあまり優しくない。
しかし適当な言葉がほかに見あたらない。

「私はこれから車で新宿にいく、そこでやろう」
夜の新宿。車で訪れる夜の新宿。


いい忘れていた。
私は東京に住んでいる。一人暮らし。
近辺には、家族も親戚も友人も知人もいない。
私はいつもひとりだ。

夜の東京で私は、人目につかないように、
こっそりと単独行動を取っている。
夜の闇に溶け込むように、暗い深海を潜航するように、
誰ともつるまずに夜の時間を歩いている。

そうなのだ。
私は生身の人間とは誰ともつるまない。


「標的を捕捉したら知らせろ」
私は念を押した。

「もう捕捉してます」
私が話しかけていた相手である、私の「カゲ」が、
姿を見せないまま脳内に届く声で答えた。

私の部下であり相棒であり守護役である、
私の「カゲ」が。


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